さあ、登庁の時間です。空、曇ってるな。天気予報でこれから雨って言ってたから傘持ってこう。
「行って来まーす」 「行ってらっしゃいませ」 なんか変な感じ。ガッコー行ってた頃みたい。あ、前園のオジサンだ。喪服来てどうしたんだろ? 「こんにちは」 「やあ、レイカちゃん」 「あのー」 「この格好かい? ヘイゾーが死んじゃってね。ペットの葬儀屋やら役場やら行って来た帰りさ」 「そうなんですか。病気だったんですか?」 「いいや、老衰だってさ。ここんとこずっと寝たきりだったんだよね」 どうりでウチが帰った時吠えてくれなかったんだ。 「残念ですね」 「ああ本当に。レイカちゃんもヘーゾウと仲良くしてくれてありがとね」 「いえ」 「じゃ」 オジサン泣いてた? 無理もないよ、15年も一緒だったんだから。サビシイヨ。へーちゃん。バスやっと来た。
ゴリゴリーン。 「役場まで」 町の経済にコーケンするため、チャリ通やめてバス通にした。おっとあの二人、桃李女子高だ。紺の紐リボンとくるみボタンの丸エリ白ブレザーに長めの紺のスカート。腕にスモモの木のワッペン。「トーリ、モモイラザレバ」だっけ。なんでかトーリくんにモモが嫌われちゃってるヤツ。辻沢から通ってる子いるんだね。誇らしくもある。今年は東大京大に何人行ったのかな。見た目もどこか知的な感じする。でもおねーさん一言だけ言うね。引っ張ると埃の線になるから、その白い靴下はピシッと履こ(無言)。 「でね、あたしの姪っ子、双子なんだけど、まだ4才なの」 「お、可愛い盛り」 「そーなぬおー。めっちゃかわいいぬおー。二人ともほっぺがぷよぷよでー」 「そーか、かわいいのか。そのかわいいのがどした?」 「あ、そうそう。伯母さんが古い家の出だとかで、あんなちっさいのに、乳歯、わざと折っちゃったんだよ。二人とも。かわいそくない?」 「おー、かわいそーだ。で、なんで?」 「女の双子だからヴァンパイアにならないようにだって。バカげてるでしょ」 「へー、いまだにあるんだ。その割礼みたい今夜も暇な窓口。雨、降りそーにないね。 「アメが降るー、アナタは来ないー」だれだっけこの歌口ずさんでたの。うわ! ブチョーのササマダラだ。やだやだ。思い出したくもない。 しかし、このノボリ目障りだわ。わざわざミニのまで作ってさ。「ゴマスリで町おこし!」(ミニ声)。やっぱヘン。この町は誰にヘツラッてんの? そーいえば、来るとき、三宅酒店の角でお葬式やってたな。こんな時間なら通夜じゃね? って思うけど、この町、なんでかお葬式、夜やるんだよね。本式でない仮のお葬式の「影隠し」っていうので出すことが多いからかもだけど。ま、例のシキタリってやつだね、きっと。 それで思い出した。前園さんのオバサンがいつか言ってたことがあって、お葬式って必ず三つ続くもんなんだって。小島さんのお母さん亡くなった時は、そのあとホントに二つ続いたんだよね。宮崎さんとこのオバーさんと、暮山さんの娘さん。あるのかねそーいうの。ママのお葬式の時も、「これで二つ目ね。この間、三輪さんの奥様が亡くなられてー」、なんて死神みたいな(オバサンごめんね)こと言ってたっけ。前園のオバサンはなんでも知ってるから、すっごく頼りになるけど、ある意味怖い存在だよ。てか、あと二つお葬式あるかも。 へー、ここの天井ガラス張りなんだね。気付かなかったや。昼間とかめっちゃ熱くなりそう。設計した人、何考えてんだろ。あ、動いた。何だろ。ガラスになんかが張り付いてる。暗いからよくわかんないけど。ケッコーおっきいから、うーん。カブトムシかな。手足があるみたいだから、ヤモリかも。あ、もう一匹いる。なんか絡み合ってる。アラー、お盛んですねー、小動物さんたち。それに比べてウチなんぞは、彼氏いない歴、イコール年齢だもの。ショボン。今何時? スマフォどこだっけ。カバンの中だった。まーた、モー。このスマフォ、反応ワルスギ。そろそろ寿命? コイツメ! コノ! コノ!。やっと反応した。二時半。まだまだ明けない夜明け。小動物さんたちは? あれ、一匹いなくなった。ブーンって飛んでったんだね。やっぱカブトムシだったんだ。 「アヴェックでランデヴューか。羨ましい」 ヴの発音、よだれでべちょべちょになるから嫌い。バ・ビ・ブでよくない? てか、いま誰言った? アヴェ
エレベーターはもう停まっちゃってるし。西棟の階段は外から入るのか。東棟の階段は中からだから、こっちから昇ってみよ。ぎ、ぎぎー。何か臭いね。生臭いっていうか、おえ、吐きそうになる。鼻摘まんでいこう。かつーん、かつーん、かつーん、かつーん、かつーん。ぎ、ぎぎー(効果音サービス)。疲れた。かなり昇ってきたな。足パンパンだよ。ここが最上階? 高い。めっちゃ気持ちいー。遠くに街の灯が見える。ウチが三年過ごしたN市かな。ホントにクローしたよ。結局彼氏の一人もできなかったし。 ウチがいた会社、ブラックとか言ちゃったけど、確かにサービス残業とかあったよ。けどちゃんとしたトコだった。セク原みたいのはホントに珍しくって、それなりに女の子をソンチョーしてくれるところだった。プロジェクトっていうのにも、君たちも戦力だからってユメカと一緒に参加させてくれたり。ウチら頑張った。朝夕2回のなっがーい会議とか毎回出席したし(今レジュメ、何《《チョー》》目ですか? のレイカちゃん笑)、何十部っていうレジュメ作るの手伝ったし(2《《チョー》》ホチキスのレイカちゃん)、みんなの夜食、遠くのコンビニまで買い出しに行ったし(8《《チョー》》コンビニのレイカちゃん)、ビックヤマダセンターにコピー用紙買いに走ったし(用紙《《チョー》》達のレイカちゃん)。チョーじゃねーし、シラベだし。 そのプロジェクトの打ち上げで、社長賞とかもらったのは、やっぱ中心の男の人たちだけだったけど、最後に、プロマネのササマダラ、じゃなかった、プロジェクト・マネージャーの笹部長から、今回の真の功労者はここにいる女の子たちですって言われて、みんなから拍手されて、頑張ってよかったねって、ユメカは喜んでたけど。 ……結局、女の子呼ばわりかよ。 そんで、飲み会の席とか男子だけであつまる場所では、ユメカとウチのことを爆貧問題(胸の大きさを漫才の爆笑問題にかけてるんだよ。バカでしょ)って陰口たたいてるの知って、怒りをトーリこして、すごくさびしい気持ちになった。その中にはちょっといいなって思ってた子もいて……。おんなじチームで働いてるのに、人のことそんなふうに言うのってどうかしてるって思わない? 女バスなら絶対ありえないもん。……してたか、ウチらも。 キツリツしてるな、こ
よかった。こっちは開くよ。う! 何このニオイ。古い倉庫の一番奥の濡れ段ボールが腐ったような。床もヌルヌルしててキモイし。人がいる。それもたくさん。階段に並んでる。こっち見た。例の偉い人たちみたいだけど何か変。みんな同じようにメタボバラに髪の毛少ない。あっちの人セーラー服着てるし。え、おじさんだよね。こっち来る、ワラワラと。これやばいやつだ。逃げよう。入った扉締まりそうになってる。ダッシュ!ギリセーフ、出れた。でも、締められない。何で? 向うからすごい力で押してるんだ。ダメ。耐えらんない。逃げなきゃ。追いかけてくるよ。わ! 反対側にも同じようなやつがいる。このままじゃ挟まれる。どっか隠れるところ! あそこに部屋が。扉開いてますように。 入れた。ドア閉めれた。あの人たちなんなの? みんなフィットネスボールから頭と手足出したみたいな体形して。もう追って来ないみたいだけど。でも静かになるまで待とう。 静かになったみたい。てか、何だろこの部屋。制服がいっぱい陳列してある。女子のものばっかだな。ん? この制服のDJって袖の刺繍、なんか見たことあるな。三つ葉のマークのも、これ東京の有名女子高のじゃね? かわいい。ヒナゲシの花のエンブレムって、これ成女工のだ。こっちはウチのコーコーの。夏冬ある。青洲女学館のまで。なんだろ制服ミュージアムかなんかかな。でなかったらセーフクオタのコレクションルーム? しかし、やたらムーディな部屋。ジュータンふっかふかだし。ソファーもなんか、ベッドみたい。天井ミラー張りって、ここはラブホか? ウチ、ラブホ行ったことないから知らないけど。 棚に木刀が置いてある。ライトアップして。この木刀真っ黒。ちょ、ちょっとだけ持ってみよう。わっ! なんかしびれた。これはエグイほうの武器だね。触っちゃダメなやつー、ってね。 正面の机の後ろに見覚えのある代紋が。辻の字に木ノ芽と山椒の実六つ。なんだ町のマークか。ひょっとして、ここは。 しかし仰々しい机だな。おっきすぎるよ。椅子でっか。名札があるね。ひっくりかえってる。どれどれ。えっとー、「辻川町長」! やっば、ここ町長室? ウチの上長の上長の上長の上長の上長くらい上長の部屋なの? はやく出、って痛ったー。今ゴツンて。何すんの? 頭なぐったの誰
……。 (さあどうぞ、お隣へ。ねえ、ウチら友だちだよね。お願いがあるんだけど、聞いてくれる?) ……。 「レイカ」 ……。 「レイカってば」 ……。 「レイカ。起きなよ。ちょっと」 ミワちゃんの匂いだー。いいにおーい。 「あんた、ちょっと。起きなってば」 やっぱ、イー匂いだわー。なんか、いつもより匂いキツいな。うっぷ。 「あ、ミワちゃん。おはよー」 「おはよーじゃないだろ。あたしが早く来たからいいようなもの、人に見られてたら、あんた辞めさせられるところだったよ」 「だって、なんか変な夢みちゃって」 「夜勤が夢見てる自体がNGだろが!」 「ゴメンなさい、ミワかーさん」 ゼツミョーのシナ。 「うっさいよ笑。紹介したこっちの身にもなれっての」 紹介はハローワークなんですけど。 「ほれ、夜明けのカタバミ・チャイ」 いらないです、ソレ。 雨降ってないや。天気予報のうそつき。傘持ってきて損した。しかし、なんだったんだろ。アタマ殴られたような気がしたけどキズとかたんこぶとかもできてないし、痛み残ってない。やっぱ夢だったのだろう。いつのまにか寝てたんだよ。寝不足だったから。そゆことにしよ。セーラー服着たフィットネスボールに追いかけられたり、町長室がムウディーなラブホって、ありえねー案件だし。ズズズー。これは、いける。ミワちゃん、カタバミ・チャイ。初めておいしーよ。ウチ、舌がバカになったんじゃないよね。
役場行くの結構楽しい。バス通に変えて楽になったからかな。今で20分かかるところをよくチャリ通続けてたよ。 「町役場まで」 ゴリゴリーン。 「ゴリゴリカード、2000円のください」 「好きなのどれだい?」 選べるの? なら、 「辻女の冬服ください」 「辻女はないなー。冬服であるのは成女工だけだな」 運転手さん、あんたも好きだねって顔すんな。制服フェチじゃないから、全然チゲーから。ウチ女の子だし。しかし、成女工冬服かぶった、イラナイ。どーせなら青洲女学館がよかった。あの空色の制服、あこがれた時期あった。成女工め、使い倒してくれる。 チラシもらった。ふーん、宮木野沿線8校の夏冬バージョンコンプリートで、お好きな本物の制服プレゼントキャンペーンだって。誰得なの? まーた、変なセーヘキのヤツ引き寄せるからやめろってゆーの。って言ってたら、成女工JK乗ってきた。「なんか、うわさでー、サンショ畑の跡地、人が埋まってたって」 「なにそれ、こっわー。殺人?」 人の隣にドッカって座るなって。ウチ、一瞬浮き上がったしょ。 「それがさ、死んでるってたら、起き上がって、歩いて行っちゃったんだって」 「はあ? それはツリだわ」 「いや、マジでマジで」 「ツリツリ。だまされねーし」 「それより、ミノリ。ぶってー鼻毛出てっから」 「うっそ、マジで? カエラ、鏡貸して」 「はいよー、鏡。それ、ウチ見てたよー」 「ありがと、あ? カエラなんて言ったの? アイリどこよ、どこ出てんの?」 「うっそー。だまされてんのー」 「こんの。テメ、コロス」 「テメーがクソネタぶっ込むからだろ!」 変わんないね、ウチらの頃と。
役場に着いたらミワちゃんから、 「レイカ、あんた何したの? 町長さんに呼ばれてるよ」 ウチが? ウソ。町長室に忍び込んだのばれたのかな。やだなあの、ラブホみたいな部屋に行くの。 「トントン。すいませーん。お呼びだとかー」 「どうぞ」 女の人の声。秘書さんかな。 「シツレーします」 暗い部屋。カーテン閉まってる。外まだ明るいのに。 「こちらの、ソファーに掛けてお待ちください。町長、今呼んできますので」 出てっちゃった。あれ? 制服コレクションなくなってる。ってか、まったく別の部屋だ。フツーに町長さんの部屋。ウチ、この間は違う部屋に入ったんだろか。あー、同じ位置に黒木刀がある。机のバカでっかさも一緒だし、天井は、鏡じゃないな。絨毯は虎皮って、イマドキ。暗くてよくわからなかったからな。 奥の扉がバーンって開いて、すごい勢いで入ってきた背広のおじさん。ウチの前にドカって座っていきなりしゃべりだした。 「お待たせ。いやー、呼びだてしてすまなかったね。アナタの課はトップダウンでアタシが作ったもののひとつだから、なんたらかたら」 すっごいしゃべる、この人。ヒマワリのパパだよね。背高くって痩せてて、ちょっと見いい男だけど、頭がね。こんなにハゲちらかしちゃってて残念。あー、どこかで見たことあるって思ったら、ヒマワリの捜索の時、陣頭指揮取ってた人じゃない。あたしら女バスも助けになりたいって街中の捜索に協力したんだ(青墓へは連れてってもらえなかった)。あの時はたしか辻川助役ってよばれてた。あ、すみません(小声)。お茶出してもらちゃった。秘書さん、顔よく見えなかったけど、お肌真っ白。どこの美白化粧品使ってんだろ。あとで聞いてみよ。ズズー、アッツ。舌やけどした。 「アタシは、アナタの母上とは昔からの知り合いでね。それはお美しい方だった。それがね、あんな亡くなり方をするなんて。ご愁傷様でしたね」 「もにょごにょごにょ」(超小声)。 こういうときなんて返事すればいいのか分かんない。 「とにかく、美しい方でね。アタシが若いころ、まだヤッチャ場で小僧をしていたころだ。腐った菜っ葉にまみれてね」 ヤッチャ
電話だ。スオウさんから。珍しいな。 「はい。あー、分かるよ。おひさ。まあまあ忙しいかな。うん。シラベが帰って来たんだ。いや、知らなかった。そうなんだ。ひさごで、来週の金曜日に。時間は遅めで。うん。分かった。じゃ」 それにしてもスオウさんは未だに通話オンリーなんだな。女バスでSNSグループ作ろうってなった時、スオウさんがそんなオタクなことするならバスケ部辞めるってなって、結局女バスはいつも電話連絡だった。女バスで集まるの卒業以来か。情報収集できるから今回は行ってみようか。シラベに会うの、気が重いけど。 先週は仕事が忙しくてお休みしたから2週間ぶりのジョーロリ講座。お師匠さんってば、 「いいのよー。真似してくれればー」 って言うんだけど、何言ってんのかが分からないのに、どうやって真似しろっての? 最初の最初に、サワリのところだけ録音させてもらえたけど、それさえ聞き取れてないのに。 録音していいですかって言っても、 「覚えられるわよー」 って許してくれない。だから、全然進まないんだよね。勘亭流みたいな太い字で書かれたテキストも全然読めないし。結局また、テキスト1ページ分も進まなかった。 「ヒビキさんは、いい香りがします」 え? 「取り入れたばかりの洗濯物みたいな」 おテントウさまの香りってやつですか? それは褒めていただいたんでしょうか? 「それでヒビキさん。あの人のことはどうなりましたでしょう?」 「引き裂けたかと」 浮気相手を告訴って話振ったら、あの巫女さん泣きだしちゃって、宮司さんにムリヤリだって。駅前のスイーツ屋さんで、はいはいって感じで話聞いて、パンケーキプリンアラモード食べさせて帰しただけだけど。 「はて? そのような感触はなかったような」 「そうなんですか?」 「あの人に何かあれば、すぐにこの胸に響きますので」 えー、なんかすごい。強い絆で結ばれてる二人なんだ。それなのに、宮司さんってばサイテー。
なんなのこんな夜中にユサのやつ。家に来いってから家のある隣町かと思ったら、青物市場で一人住まいしてるってじゃない。青物市場ったら旧本社の近所っしょ。なんか生臭くさそうで行きたくないんだけど。 車、路駐だけど大丈夫かな。ここらへんコインパーキングないから仕方ないけど。 ここか。すっげー、タワマンじゃん。そういえばここ、「キムタクが住む予定」って噂になったタワマンだ。こんなイナカにキムタク住むわけないのに駅前の一等地にタワマン建つとどこでも噂んなるよね。サーフィンの拠点とか近くに親戚がいるとかまことしやかなディテールがついて。ふーん。エントランスがオートロックで監視カメラ付きなのね。おーいユサ、来たよ(無声)。見えてんのかな、あのカメラ。お、開いた。で、最上階までエレベーターで行って、廊下の一番奥の扉の呼び鈴を押すっと。 なかでドカドカ音がして、ちょとたってインターフォンから、 「今開けるね」 扉が開いて顔出したしたのは、うっすら化粧したユサ。 あんだ? その恰好は。すっけすけのガーゼみたいなの着て。おっぱい見えてんぞ。 「どうぞ、入って」 「おじゃま」 ピンク系のインテリアが鼻に着くリビングに通された。 「ごめんね、急に呼び出して。多分、ヒビキは分かってると思うけど、さっきまでカイチョーがここにいてさ」 なるほど、それで子ネコの写真がひっくり返してあるわけだ。ん? この部屋なんか変な臭いする。あたし乙女だから何の臭いか分かんないや。 「人がシャワー浴びてる間に、あたしのパソコンでインターネット見てたみたいで。カイチョー、開いたページ閉じないでネットする癖あって、帰ったあともそのまんまになってたからブラウザのタブ一つ一つ開いて見てたら、ほとんどがエッチなサイトだったんだけど、その中に気になるサイトがあって」 相変わらずユサの話はグダグダだな、で? 「これ、『スレイヤー・V』をクリアするとアカウントもらえる会員制のSNSで、 『スレッター』 っていう」 だから? 「ちょっと観てみて。なんか調べてるんでしょ。カイチョーのこと」
空気重い。コの字に並べた会議机に、3吉田、北村シニアマネ、伊礼バイプレまで。社長待ちの役員会議室。真ん中のパイプ椅子にあたし。この状態は入社の時の役員面接以来だけど、緊張はあの時ほどでない。 入口の扉が勢いよく開いて、「ヒビキ、やってくれたな。カイシャ潰れるぞ」 社長、ご来臨。怒り度、60パーセントに抑えてる。「すみません」「幸い、死人は出なかったが、けが人が両手出た。金と信用含めて、かなりの損失だ」 言いようがないです。どうして志野婦の神輿が宮城野の神輿にぶつかっていったのか? あれはあきらかな故意。誰かに命令されたような。なんてことはここでは口にしませんから、社長。「一番に現場に行って仕切ったことは褒めてやる。まあ、ヒビキ一人を攻めてもどうなるものじゃなし。言ってみれば、ここに雁首並べた連中みんなが責任を負うべきだ。なあ、北村」「へ、へい」「何が、へいだ。お前んちの屋号は『小房の粂八』か?」 北村シニアマネ、緊張しすぎ。「プレス集めて謝罪会見は吉田クンお願い。カス同席で土下座でもなんでもさせて。その後は懇意の記者連れて病院回って」 『クン』付けは吉田シニアマネ。社長とは高校の同期だから。当然会長とも同期で、かつ設立メンバー。「宮木野信用金庫からいろいろ言って来てます」「吉田さん、あんたのコネクションはこういう時のためだろ。フォローお願い」 『さん』付けは、吉田エグゼクティブ。社外から引っ張ってきたから。「役場はどうしましょう」「今、町長に一番近いのは伊礼だ。お前に任せる」 伊礼バイプレは社内一の切れ者だから、いつも一番やっかいな仕事を任される。「あとは、辻のうるさがただけど」 北村シニアマネと吉田ディレクタ下向いちゃってる。「これは、あたしがやる。北村、お前も同行しろ」「へい」 吉田ディレクタ安堵。ちなみに呼び方は、「吉田! 警察と消防な。上とはもう話しついてるから、お前は署員の皆様と茶飲み話でもして来い。手ぶらで行くなよ」「いくらぐらいの菓子折りがい
ミワちゃんにタクシーで家まで送ってもらった。セイラに借りたハンカチ血だらけだ。洗っても落ちなさそうだから、買って返さなきゃだよ。疲れた。お風呂入って寝よ。 傷小さいのに、なかなか血が止まんない。アタマやると血止まんないっていうよね。お風呂入るのやめとけばよかったかな。ん? ニーニーの部屋のほうで音がした。やだな。大急ぎで部屋に帰ろ。ふー、全部鍵かけた。やっべ、ドライヤー持って来るの忘れた。急いでドア開けたからチェーンを外すの忘れてた。で、一回閉めようとしたんだけど、そん時すっごい力でドア引っ張られて、ギリギリチェーンが引っかかって止まって、向うはドアを開こうと揺さぶるものだからウチは弾き飛ばされそうになったけど、必死でしがみついて、めっちゃ怖いの我慢して、無我夢中でドア閉めてもっかい全部鍵掛けたんだけど、どうやってそれができたのか分かんなかった。 ドアの隙間からちらっと見えたのは小さな子供だった。不吉な色の目をこちらに向けて、銀色の牙から涎を滴らせてた。あの子供はニーニーだ。ウチと2段ベッドで寝起きしてた頃のままのニーニーだ。ニーニーもしかしてヴァンパイアだったの? あれじゃ学校にも行けない。だからずっと引き籠ってた? ウチ、これからあんなのと二人で生活すんの? 超怖いって。痛! ズキって。血が止まらない。この傷のせいでニーニー出てきた? 血に誘われて? 夜じゅーずっと、ドアの向こうに何かがいる気配がしてた。ムチューで布団かぶってたら、パパに教わった呪文を思い出した。スギコギの唄。寝れない夜、パパが教えてくれたやつ。どこからあさがあけましょおすぎこぎもって ごりごりごり すぎこぎもって ごりごりごり もうすぐあさがあけますよすぎこぎけずって ぎりぎりぎり すぎこぎけずって ぎりぎりぎり そうらあさがあけました繰り返し、繰り返し、ずっと、ずっと、何回も、何回も、朝が来るまで布団の中で歌い続けた。((ここを開けろ、中に入れろ))って声が頭の中でウルサいから、ワーって聞こ
【レイカ】 そろそろ12時。宮木野神社と志野婦神社の御神輿がこのメヌキドーリの交差点に来合わせる時間。で、ケンカ神輿? しないよ。かわすの、お互いで。宮木野神社の御神輿は、どんだけ優雅に、志野婦神社の御神輿は、どんだけ勇壮にお互いの御神輿を交わしあうかが見せ場。ってパンフに。「おー、来たよ。志野婦のでっかいちん(ピー)だ」(ナナミ、ファール4) どよめき。歓声。また歓声。人垣で何も見えない。ナナミとミワちゃんは背か高いからいいけど、ウチとセイラは人並みだから、さっきからぴょんぴょんしつづけ。疲れるね、セイラ、大丈夫?(無声)。うん、メマイする(無声)。「やだ。アレに辻川雄太郎をよろしくって書いてある」「電飾でギラギラだぞ」「どんだけ名前売りたいんだ?」【ヒビキ】 来た。宮木野の神輿。大外から回って、優雅にかすめてー。で、志野婦の神輿が練りに練って勇壮に。……どうして突っ込んでいくんだよ。喧嘩じゃないんだよ。どこの祭りだと思ってんだ。危ないって! ぶつかったら衝撃に耐えられないんだって、寄せ木だから。あーーーーーーー。やった。爆裂した。派手に。【レイカ】 おー、どよめき。また、どよめき。きっと、ものすごい接近して、あやうくぶつかりそーになってるんだ。ジャンプ! ? 痛っ。なんか飛んで来た。頭に何か当たった。すごい悲鳴が上がってる。阿鼻叫喚? 【ヒビキ】 うわ、下がるな下がるな。後ろに人いるから。あ、すみません。後ろの人の足踏んじゃった。【レイカ】 いたたたた。足踏まれた。さがんなよ、後ろに人がいるっての。なんなの? その被り物。それはヴァンパイアじゃなくてカレー☆パンマンでしょ。【ヒビキ】 って、シラベじゃね。ユサまで。やっべー、逃げろ。じゃない。けが人助けなきゃ。【レイカ】「何があったの? ミワちゃん」「ぶつかった。志野婦のが宮木野のに。志野婦の神輿、
【レイカ】 駅前広場、すごい人だかり。なんだろ。〈本年度のヴァンパイアお揃いコーデコンテスト優勝者はーーー〉〈デゥルデゥルデゥルデゥルデゥルデゥルデゥルデゥル。ジャーーー〉 司会者、口で言ってる。予算のカンケーってやつ?〈天伴連町、ブラック・キャリエッタ姉妹の御二方でした〉 大歓声。あ、さっきの紫と赤のタイツの二人だ。まー順当だろーね、あの二人なら。〈それでは、記念品の授与と優勝イベントのほうを行いたいと思います〉 おー、金のすり鉢&スリコギ棒だ。高そー。大歓声と大拍手。パチパチパチっと。〈次はイベントのほうに移りたいと思います。あ、商品はこっちに預りますので。優勝者のお二人は、前の処刑台のほうにどうぞ。もちょっと前に。そう、そこです。用意があるので少々お待ちください。いいですか? 準備OK?〉「レイカ行くよ」「見て行かないの?」「ウチはいいわ」「あたしもいい」 なら、ウチもいいけど。すごい歓声。「ゴリゴリ! 殺せ! ゴリゴリ! 殺せ! ゴリゴリ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」 地面揺れてる? 【ヒビキ】 うわ、地響きしてる。周りの人たち殺気だってるよ。「ねーさん!」「なに?」「興奮するっすね!」 カワイ、お前も何気に辻っ子だな。【レイカ】 セイラは? 後ろ振り返ったら、舞台の上の二人が真っ赤な絵の具を浴びせかけられてた。セイラ、そんなところにしゃがんでると踏みつぶされちゃうよ。どうしたの? セイラ。息、上がっちゃってる。過呼吸? セイラ身体弱いのにあんな刺激の強いの見るから。大丈夫? 立てる? 行こ。キャリエッタ姉妹の念動力が地獄を呼ぶ前に。なんてね。……セイラ、なんで泣いてるの? うわ! 何あれ。ひどスギ。 【ヒビキ】 あと10分で12時か。あのイベント過激すぎだった。ペンキかけるだけでよくない? 斬首いらないよ。司会者が血まみれのマネキンの首を両脇に抱え
で、いま冷たい手であたしの首ねっこ抑え込んでるのは誰かな?「ヒビキちゃん。人がワルイな。社長の差し金でいろいろ調べてるんだって? 予め言ってくれないと、こっちも準備あるからさ」 この声は町長。どうしてこんなところに?「言ったら極秘調査になりませんから」「おー、極秘調査ね。相変わらずヒビキちゃんは社長の裏仕事手伝ってるのね。でも、あんまりやりすぎると、この可愛い首どうかなっちゃうよ。ダメダメ、後ろ向くのはなし」 そーかよ、まずその手を放せよ。「おっと、どっかのバカみたく指へし折られるのは勘弁」 へし折る? ちょっとひねっただけじゃないの。会長が人のフトモモ触るから。「アタシのこの指はそう簡単には折れないけどね」 気味悪く節くれ立った指があたしの頬をなでた。長っが。触んな、きもい。爪伸びすぎだろ。(「町長? そうだよ。あいつもヴァンパイア。よそ者だけどね」) センプクさんの言ったことは本当だった。「こちとら辻っ子だ。お前らなんぞ怖くない」「あれ? なにいきってるの? 君の友だち殺したのアタシじゃないからね。恨み違いしないでよ」 何だと、ハナ毛。「あんたの指がきもいのはいいとして、腐った菜っ葉の匂いがしてるのはどうしてだ?」「おっと、いけない。ついつい本性出しちゃったよ。人に見られたら大変なことになる」 痛てて。押しやがった、転んじゃっただろ。ん? いない。町長が消えた。どこ行ったんだ? おおー、今頃震えが来た。止まんないよ。怖かった、すごく。 震えは止まったけど腰ぬけた。立ち上がれない。お、ちょうどいい。カワイだ。「おい、そこのセーネン」 そう、お前だよ、カワイ。ちょいちょい、こっちゃ来い。「カレー☆パンマンさんが何のご用でしょうか?」「ばか、あたしだよ。ヒビキ」「えー、ねーさんこんなところで何してるんすか?」「ちょっと転んで立てない。手を貸せ」 カワイに手を引いてもらってようやく立てた。立ち上がる時ふらついてカワイに寄り掛かったら、「ねーさん
ヴァンパイア祭りになってから人の集まり増えたけど、こうやって人ごみの中に佇んでいると、ざわざわとした気持ちになって落ち着かなくなる。多分、この中にヴァンパイアが混じってるって知ってるからなんじゃないかな。さっきすれ違った紫と赤のペアーみたいなそれらしい格好じゃなくて、ごくあたり前の格好して。そいつが4年前にココロをあんな風にしちゃったんだ。 ココロが帰って来たってココロのパパから連絡もらった時は、本当にうれしくてココロんちに飛んで行った。帰ってきたのはずいぶん前だったって電話で言ってたのに、家に着いたら警察に連絡してないって言われて、初めてその時変だなって思った。 なぜかごめんなさい、ごめんなさいって言い続ける痩せ細ったココロのママに案内されて、台所の下の地下室に下りると、そこには猛獣を飼うような檻が設えられていて、中にうつろな目をした辻女の制服姿のココロが立ってた。 その時のココロを見て全て分かった。違うって。これはココロじゃないって。ココロは死んじゃったんだって。一時は、ココロをこんなにした奴が憎くて憎くて、怒りで狂い死にしそうになった。でも時間が過ぎると、やっぱりココロはそこにいて、あたしの名前を呼んでくれるし、黄色く濁った眼球、鋭い牙や爪、血管が赤黒く透けて見える白い肌をしていてもココロはココロだった。 あたしはどうしていいか分からなくなった。そして、毎日学校の帰りに冷たい地下室に籠ってココロと対面しているうちに、こうしてココロと一緒にいられることだけが大切なことに思えてきて、その他のことはウチらには関係ないって気持ちになった。 そうするうちにココロのママが2階のココロの部屋で首を吊って自殺して、ココロのパパがココロの食餌を調達しに出かけたまま帰ってこなくなり、最後はあたしがココロの面倒を見ることになったけど、それもこれも時間が過ぎただけのことで、あたしは何も感じなかった。 だって、死んでしまったココロが目の前にいるこの世界は、あたしにとっては、すべてが停止してしまったのと同じだったから。これからずっと何も変らない、そう思ってたから。
三社祭。日中は暑かったけど、夕方になっていい感じに涼しくなってきた。シラベたちに一緒にって誘われたけど、仕事って断った。これも一応仕事だし。一人でぶらぶらしてるのは運営委員会が決めた変なルールに反すると思って、せめてってこのお面買ったけど大丈夫かな。ピロシキに目鼻つけたようなやつだった。これ、違くないか? 夜店のどぶづけの中見たら、「辻沢ダイゴ」ばっかり残ってるし、ラベルシール、瓶からはがれて水の中で泳いじゃってる。やっぱプロダクトの急ごしらえは禁物だ。「ママー、このミルクおえー」「だから変なの買わないのっていったでしょ。いらないなら捨てちゃいなさい」「ぼく。泣くな」 お、いなせなおニーさん登場。さらしにハチマキ、似あってるね。「このラムネと交換してあげるよ。いいや、お金はいらないよ、ママさん」「すみません。ダイキ、ありがとう言いなさい」「ありがとー」「いいって、こんなまずいもん押しつけやがるから、みんなが迷惑してらーね」 社長に見せらんない。おニーさん、ノボリに八つ当たりしなくても、あーあ。あとで買戻し要求されるの覚悟しとこ。 |陽物《チンコ》神輿にでっかく「辻川雄一朗をよろしく!」。町長の名前、思った以上に映《バ》えるね。電飾派手にして正解だった。それより、チンコの神輿、今年初めてなのに、皆さんに受け入れてもらえたのはありがたいな。「ねーちゃん。恥ずかしがんなって。毎晩、旦那のにまたがってんだろー」「乗りなれてるじゃねーの、あねさん。さすがベテランだね」「うるさいね。うちのやつは3年前から、使い物になんないよ」「おーい、旦那さんよー。頑張んないと捨てられちゃうよー」「いいよ、いいよ、持って帰っちゃって。それは奥さん専用だ」 それにしても、今年年女じゃなくてよかった。誰が言いだしたのか、年女はあれにまたがるもんだって。絶対社長に、「なに? ヒビキ年女なの、じゃ乗れ!」 って言われて、先頭切って乗る羽目になってた。あんなのに乗せられたら乙女一生の不覚だったよ。
あそこの二人は、控え目に牙付けて口に血のりシール貼ってるだけだけど、さっきすれ違った二人組なんか、全身ヴァンパイアコスプレだった。紫と赤の全身タイツ着てマントつけて。気合入ってんなーって、注目の的だった。二人ともスタイルよかったし。 ウチらジモティーは夜店で買ったヴァンパイアのお面、頭に乗っけておしまい。あー、そうね。あそこにもいるけど、沿線のJKは、制服にヴァンパイアメークってのが流行りみたい。お揃いコーデ、メンドーだからだと思うけど。けっこー、かわいい。スカートの丈つめて、ブットい足晒して。 ヒ! ちっさいおばーちゃんたち。チョー怖い。 「なんか、今年の志野婦の神輿、ちん(ピー)の形してるんだって」(ナナミ、ファール) 「やめてよー。ナナミ」 「セイラ、お前。何ぶりってんだ?」 「ないわ、辻沢の祭りは女祭りだよ」 「山椒の木の寄木造りって書いてある」 「レイカ、お前はどこの人だ。さっきからパンフばっか見て」 ケッコー面白いよ。 「山椒の木ってのは最悪だね。宮木野さんとこNGのはずなのに」 「どぃうこと?」 「宮木野さんは山椒の木の元で死んだから、神社に山椒は持ち込めないことになってる」 ふーん。そーいえば、役場の宮木野さんも山椒の木の下に寝転がってた。 「年女があの神輿に跨がるってパンフに書いてある。豊作祈願だって」 ちん(ピー)に女の子が乗るって、恥ずい。(レイカ、ファール1。反省) 「セイラ、今年、年女でなくてよかった」 「そーだねー。セイラは乗せらんないね」 「ミワちゃんは?」 「あたしは、別に気にしない」 「ちん(ピー)にのったミワの姿って、ワラエル」(ナナミ、ファール2) 「ウケル。そん時は、ナナミも同乗してるから。同い年、二人とも笑」 「レイカもそん時は年女だろ。ママハイ仕込みが」 「ほっとけや」 って、ナナミ、ヤマハイ仕込みでなくってママハイって言ってたんだ。ママの言うことハイハイ聞くって意味か。ウチ、そんなでもなかったよ。とくにコーコーの頃は。ナナミにテクニカルファールみとこ(ナナミ、ファール
今夜は三社祭です。ミワちゃんとナナミとセイラと来てる。カリンも誘ったけど仕事だって、こんな日に。かなりブラック、カリンの会社。ミワちゃんの黄色地に白い花柄の浴衣キレー。ナナミ、相変わらず肩幅広っろ。その浴衣おとーさんの? 渋すぎでしょ。セイラはいったいいつからそーいう趣味になった? ゴスロリ浴衣って。でもアンガイ似あっててカワイイ。ウチはママの拝借。ちょっとオトナな感じの赤地に黒い縦じまの浴衣。高倉さんにママの浴衣出してって頼んだら着付けまでしてくれた。《《おはしょり》》長すぎて腰紐高くしてるのは内緒。 三社祭は宮木野神社と志野婦神社のお祭り。二社しか参加しないのに三社っていうのは、カゲ社といって数揃えを入れてるから。二より三の方が縁起いいしょ。でも、三つ目は青墓の杜にむかーしあった青墓神社のことって言う人もいる。ホントのところは分かんない。ウチは俗説の、宮木野さんと志野婦さんの双子の姉妹の他にもう一人男の兄弟がいて、三社ってのが好き。 ウチは8年ぶりの三社祭。もとは4年ごとのお祭りで、ちょうど4年前にはあの事件があって中止になってた。でも、ミワちゃんたちは毎年参加だって。ヒマワリのパパが商店街振興を掲げて町長に当選してすぐの仕事が、三社祭を毎年開催に変えたこと。無理っていわれてたことを共催企業を募ることで実現したって。これはお祭りのパンフの受け売り。「ヤオマンの提灯と、三社祭の提灯、半々って感じ」「ほんとだー。んっぐぐ」「レイカ、お前、その腐れ牛乳好きだな。何本目だ?」「3本目。おいしーよ。あれ? なんて名前なんだっけ。ラベルない」「辻沢ダイゴ。あのノボリに書いてある」「ダンス・飲・ザ・辻沢ダイゴ!」「ほれ、レイカ。踊れ!」「あ、かっぽれ、かっぽれ」「なにそれ?」「知らない」 あぶな、人にぶつかりそーになった。あんなでっかいヴァンパイアの被り物二人でしてたら邪魔でしょに。てか、周りヴァンパイアだらけ。 宮木野さんと志野婦さんの双子姉妹がヴァンパイアって言い伝えをもとに、女の人はヴァンパイアの格好をして参加するように呼びかけてるんだって。二人一組でね。お揃いヴァンパイアコーデってやつ。