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裏側に何者かが存在するのか……

last update Last Updated: 2025-07-27 18:37:22

例のアパートに到着した。

上がり框を跨ると相変わらず足の裏がべたついた。

嫌な記憶が脳の奥底から吹き出して来る。

成子が居間に入って電気を点けた。

ソファと椅子とテーブルと電源の点かないテレビ、

それ以外は物のない部屋。

「明美さん。

よく由樹さんを連れ戻せましたね。

ご褒美を差し上げましょう」

成子の右手には焼肉弁当があった。

椅子に座った明美は、

弁当を目にしただけで床に涎を垂らした。

涎は長く糸を引いた。

「明美さん。

どうぞ」

明美は焼肉弁当を受け取って、

テーブルの上に置いて透明な蓋を外した。

割り箸を割って掻き込むように食べ始めた。

食べ方は野球部の男子高校生が牛丼を掻き込む時のようだ。

「はははっ。

よっぽどお腹が空いていたのでしょうね。

可愛い明美さん。

そんなに急いで食べなくても焼肉弁当は逃げないでしょう」

彩花も椅子に座ろうとした。

それを見た明美は立ち上がって、

彩花を思い切り蹴飛ばした。

床に叩きつけられた彩花は再び泣きじゃくった。

由樹はしゃがんで彩花を抱き寄せた。

「何すんだよ」

明美に怒鳴った。

「コッチの台詞だ馬鹿。

成子さんの許可なしに椅子を使うんじゃねえ」

仁王立ちになって叫び散らす明美の口から、

米粒が幾つも飛んで来た。

一粒が由樹の頬に飛んだ。

「そりゃあそうですよね、

明美さん」

成子が明美の側に立って、

由樹と彩花を見下ろした。

「親子揃ってどうしようもないですね。

明美さん、

教育してあげなさい」

スタンガンではなくディルドを取り出した。

このディルドは何度も見た。

初めてこの部屋に来た時は、

明美の口に突っ込まれていた。

清江が発狂してからは毎日のように咥えさせられていた。

由樹も清江の口に押し込んだ経験がある。

根元にあるボタンを押す感触を思い出して眩暈がした。

先端から高濃度のアンモニア水が飛び出して来る。

「そのションベン臭い女児を離しなさい」

明美に言われたが、

従わないで由樹は彩花を強く抱き寄せた。

彩花の身に危険が迫っている。

娘がディルドを咥えて濃いアンモニア水を放出される瞬間を想像して、

必死で守ろうとした。

娘がこんな目に遭っているのはそもそも自分のせいだ。

自分が旦那デスノートを使っていなければ、

今頃彩花は隆広のスマホでしまじろうの動画を観ていたはずだ。

「嫌」

明美を睨み付けて拒否し続けた。

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