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7アップ〜10アップ

last update Date de publication: 2025-10-18 08:00:38

7アップ

 私達がティータイムを楽しんでいる時、お父様は来客してきた方と客室で話をしていた。応接室を私達が使用しているから、こちらを選んだようだ。ここは客室なのだが、基本的にお客を持て成すのは応接室と決まっていた。

 「すまないね。狭くて……」

 困ったように話をかけるお父様。今、娘が使用しているから、ここしか場所がなくてね、と苦笑しながら椅子に座った。

 「この部屋も美しいではないですか。狭くもないですし」

 応接室に比べたら狭い、しかし一般的には広い方なのかもしれない。来客の男はお父様の心を汲みながら、腰をかけた。

 「そう言ってくれるのなら、よかったよ。気を遣わしてすまないね」

 私の前でのお父様とこの男の前での態度は明らかに違う。娘には厳しく、口うるさいのだが、他者から見たら、少し気弱に見える。

 「しかし君から連絡が届いた時は、驚いたよ。しかも娘の事を聞きたいと言われた時には度肝を抜かれた」

 「グール伯爵がそのような事を言われる事に、私も驚きですが」

 「ははは。すまん、つい」

 二人はルビーに用意させたコーヒーを楽しみながら、話に華を咲かせた。ルビーの入れたコーヒーは、フランスに比べれば味や風味は落ちるのだが、そこら辺のメイドよりは腕がある。基本はフランスに淹れてもらっているのだが、私が独占している時は、いつもこんな感じ。

 正直、私に対してお父様は、かなり甘いと思う──

 「それで、娘の何が聞きたいのかな?」

 「シャデリーゼ嬢の好きな色を聞きたいと思いまして……」

 好きな「色」を聞きたいと言い出した男の言葉に、驚きを隠せないお父様。きっと何か意図があって聞いているのだと思うのだが、手紙でもよかっただろうに、と言った。

 「どんな環境で生活しているのかも拝見したかったのもありますね」

 「ほう。そんなに私の娘の事が気になるのかい?」

 これは、もしや、と思いながら、探るように会話を紡いでいく。お互いがお互いを探り合っている感じがする。それなのに一切の緊迫感や緊張などは感じれない程、穏やかだ。

 私の知らない所で、何かが動き出そうとしている──

8アップ

 「ティータイム中にすみません「お嬢様」をお呼びにと。グール様から言われてこちらへ来ました」

 私とフランスのティータイムを基本ルビーやお父様は邪魔などしたりしない。それなのに、この時はいつもと違った。私は丁度、お茶を飲み終わった所だったので、タイミングはいいのだが。正直、フランスと色々話したい気持ちがあったのだ。

 「珍しいですね。伯爵様がお呼びとは──」

 「……そうね。何かあったのかしら?」

 私とフランスはまったりとした雰囲気の中でそう言った。動く気配のない私を見かねたルビーは、お客様も来ているので、お急ぎを、と急かす。来客中に私を呼ぶ事なんて今まで一度もなかった。

 フランスは空気を読み、口を開く。

 「お茶はいつでも楽しむ事が出来ますので「お嬢様」はそちらを優先してください」

 にっこりとふんわりと私を説得させるように言うフランスに背中を押され、私は立ち上がった。何故自分が呼ばれたのか、分からないけれど。呼ばれたのなら、行くしかない。

 「分かったわ。また一緒にお茶を飲んでくれるかしら? フランス」

 「勿論ですよ。また一緒に楽しみましょう」

 フランスの返答を聞いて、安心した私はルビーの後を付いていく。クルリと後ろを振り向くと、丁寧にお辞儀をするフランスの姿があった。

9アップ

 ──ガチャリ

 ルビーの背中を追うように、部屋に入っていく。私は何事かと思いながら、客人の方に視線を向けると、意外な方が座っていた。

 「失礼します──「お嬢様」をお連れしました」

 「ありがとう、ルビー。下がっていい」

 「はい。また何かあればお申し付けくださいませ」

 そういうと、クルリと私の方に向き、ルビーは何か言いたげにアイコンタクトを送ってくる。私はその意味が分からずに、心の中で疑問ばかりが積みあがっていく。

 「シャデリーゼ。遅かったな」

 「……すみません。遅れました」

 客人の手前、言いたい事があったが表向きがある為、言葉を飲み込み、お父様の話に合わせる事にした。正直、ここに来たくなかったなんて、口が裂けても言えないもの。

 ガタン、と椅子から立ち上がる客人。私の傍に近寄り、優しく微笑む。その顔は何処かで見た事がある顔だった。

 「はじめまして、シャデリーゼ嬢。私の息子がこの度は粗相をして申し訳ない」

 息子? 誰の事を言っているのかと考えたが、思い当たる節があるのは一人しか思いつかない。昨日から私の脳内に入り込んで存在を示しているリオン。それしか浮かばない。

 (そう言えば、リオンに似てるわ。何処かで見た事がある顔だと思ったけれど……どうして気づかなかったのよ、私は)

 じっくりと客人の顔を凝視してしまう。失礼に当たるのだが、無意識にしている行動に自分でも気づけない私。お父様はその様子を観察しながら、私に声をかけた。

 「ここに座りなさい。いつまでもお客様の顔を凝視するのも失礼だ」

 「はい……すみません」

 お父様のおっしゃる通りだ。初対面なのに挨拶も何もしてなかった事に気付き、私もリオンの事を言える立場じゃない、と戒めた。

 「いいのですよ、グール伯爵。個人的に来ていますので、そんなに怒らないで下さい。私の顔がリオンにそっくりだから、驚かれたのでしょう」

 「申し訳ありません」

 お父様が言葉を出す前に、私はクベルト伯爵に頭を下げた。自分かきちんとした対応をするべきだったと思う。私はもう30歳だ、それ位の事、冷静に考えたら分かる事なのに、出来なかった自分を恥じた。

 「可愛らしいお方ですね。私の名前はクベルトゲールと申します。昨日は私の息子「リオン」のダンスのお相手をして頂きありがとうございました」

 「いえ、私の方こそ、楽しい時間をありがとうございました」

 「リオンから貴女の話を色々と聞きましてね、直接お会いしたいと考え、無理言って時間を調整してもらったのです」

 「わざわざ、ありがとうございます」

 こんなふうに、クベルト伯爵が私に会いに来るなんて考えもしなかった。お父様はクベルト伯爵と面識があるのだけど、私は初対面だ。どんな対応をすればいいのか正直分からないけど、自分で出来る精一杯の事はしたい。

 「緊張しないでください。大丈夫ですよ」

 ふんわり微笑む姿は、本当にリオンにそっくりだ。思わず見惚れてしまいそうになる。リオンが成長するとこうなるのかと妄想してしまうくらいに。クベルト伯爵から漂う色香にあたりそうになる。

 「シャデリーゼもコーヒーを飲むか?」

 助け船を出してくれるのはお父様だった。私は我に返りながらも、外向きの笑顔で微笑みながら「お願いします」と頼んだ。

10アップ

 時間が経つにつれ、緊張も少しずつだがほぐれていった。私はルビーのコーヒーを飲みながら、クベルト伯爵の質問に色々と答えていた。ここまで質問責めになるなんて考えてなかったから驚きを隠せない。

 「シャデリーゼ嬢の好みは分かりました。色は「ブルー」がお好きなのですね。リオンからも聞いていたのですが、私の方で再確認がしたかったのです」

 私は疑問に思っている事をクベルト伯爵にぶつけてみる。

 「しかし何故、そこまで私に興味を抱いてくださったのですか? リオン様より年上の私に……」

 クベルト伯爵は、一口コーヒーを飲み、カップを置いた。

 「個人的興味ですよ」

 なんだろう、軽くかわされた気がするのは気のせいだろうか。笑顔の裏に何か魂胆があるようにしか思えない。でも答えたくないのなら、これ以上詮索しても意味がない。そう思った私は、笑顔でありがとうございます、とお礼を言った。

 「それに年齢は関係ありませんよ? 貴女は素敵なご令嬢だ。もっと自分に自信を持った方がいい」

 なんて紳士なのだろうと感心してしまう。そりゃそうだ、伯爵ともあろうお方が失礼な事を言う訳がない。それも初対面の相手なら尚更。私をずっと見つめてくるクベルト伯爵の視線から逃れようと、お父様へと視線を変えた。

 「お父様、クベルト伯爵とお知り合いだったのですね」

 「そうだな。仕事でお世話になっている」

 「知りませんでした」

 はい、嘘を吐きました。ルビーからお父様の近況は全て把握しているので、クベルト伯爵と面識があるのも把握済み。だけどこういう言い方でもしないと、この場が持たないので、仕方ないと考えたのです。

 「シャデリーゼ嬢は、グール伯爵の事を理解しているのですね」

 「当然ですわ、じゃないと令嬢としていけませんから」

 「ふふっ。本当に面白い方だ」

 つい、本音が引き出されてしまった。挑発ではないのに、どうしてだか上手くかわす事が出来なかった。私がお父様の繋がりを知っている事を把握していたのだと理解してしまった瞬間だった──

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