LOGIN7アップ
私達がティータイムを楽しんでいる時、お父様は来客してきた方と客室で話をしていた。応接室を私達が使用しているから、こちらを選んだようだ。ここは客室なのだが、基本的にお客を持て成すのは応接室と決まっていた。 「すまないね。狭くて……」 困ったように話をかけるお父様。今、娘が使用しているから、ここしか場所がなくてね、と苦笑しながら椅子に座った。 「この部屋も美しいではないですか。狭くもないですし」 応接室に比べたら狭い、しかし一般的には広い方なのかもしれない。来客の男はお父様の心を汲みながら、腰をかけた。 「そう言ってくれるのなら、よかったよ。気を遣わしてすまないね」 私の前でのお父様とこの男の前での態度は明らかに違う。娘には厳しく、口うるさいのだが、他者から見たら、少し気弱に見える。 「しかし君から連絡が届いた時は、驚いたよ。しかも娘の事を聞きたいと言われた時には度肝を抜かれた」 「グール伯爵がそのような事を言われる事に、私も驚きですが」 「ははは。すまん、つい」 二人はルビーに用意させたコーヒーを楽しみながら、話に華を咲かせた。ルビーの入れたコーヒーは、フランスに比べれば味や風味は落ちるのだが、そこら辺のメイドよりは腕がある。基本はフランスに淹れてもらっているのだが、私が独占している時は、いつもこんな感じ。 正直、私に対してお父様は、かなり甘いと思う── 「それで、娘の何が聞きたいのかな?」 「シャデリーゼ嬢の好きな色を聞きたいと思いまして……」 好きな「色」を聞きたいと言い出した男の言葉に、驚きを隠せないお父様。きっと何か意図があって聞いているのだと思うのだが、手紙でもよかっただろうに、と言った。 「どんな環境で生活しているのかも拝見したかったのもありますね」 「ほう。そんなに私の娘の事が気になるのかい?」 これは、もしや、と思いながら、探るように会話を紡いでいく。お互いがお互いを探り合っている感じがする。それなのに一切の緊迫感や緊張などは感じれない程、穏やかだ。 私の知らない所で、何かが動き出そうとしている── 8アップ 「ティータイム中にすみません「お嬢様」をお呼びにと。グール様から言われてこちらへ来ました」 私とフランスのティータイムを基本ルビーやお父様は邪魔などしたりしない。それなのに、この時はいつもと違った。私は丁度、お茶を飲み終わった所だったので、タイミングはいいのだが。正直、フランスと色々話したい気持ちがあったのだ。 「珍しいですね。伯爵様がお呼びとは──」 「……そうね。何かあったのかしら?」 私とフランスはまったりとした雰囲気の中でそう言った。動く気配のない私を見かねたルビーは、お客様も来ているので、お急ぎを、と急かす。来客中に私を呼ぶ事なんて今まで一度もなかった。 フランスは空気を読み、口を開く。 「お茶はいつでも楽しむ事が出来ますので「お嬢様」はそちらを優先してください」 にっこりとふんわりと私を説得させるように言うフランスに背中を押され、私は立ち上がった。何故自分が呼ばれたのか、分からないけれど。呼ばれたのなら、行くしかない。 「分かったわ。また一緒にお茶を飲んでくれるかしら? フランス」 「勿論ですよ。また一緒に楽しみましょう」 フランスの返答を聞いて、安心した私はルビーの後を付いていく。クルリと後ろを振り向くと、丁寧にお辞儀をするフランスの姿があった。 9アップ ──ガチャリ ルビーの背中を追うように、部屋に入っていく。私は何事かと思いながら、客人の方に視線を向けると、意外な方が座っていた。 「失礼します──「お嬢様」をお連れしました」 「ありがとう、ルビー。下がっていい」 「はい。また何かあればお申し付けくださいませ」 そういうと、クルリと私の方に向き、ルビーは何か言いたげにアイコンタクトを送ってくる。私はその意味が分からずに、心の中で疑問ばかりが積みあがっていく。 「シャデリーゼ。遅かったな」 「……すみません。遅れました」 客人の手前、言いたい事があったが表向きがある為、言葉を飲み込み、お父様の話に合わせる事にした。正直、ここに来たくなかったなんて、口が裂けても言えないもの。 ガタン、と椅子から立ち上がる客人。私の傍に近寄り、優しく微笑む。その顔は何処かで見た事がある顔だった。 「はじめまして、シャデリーゼ嬢。私の息子がこの度は粗相をして申し訳ない」 息子? 誰の事を言っているのかと考えたが、思い当たる節があるのは一人しか思いつかない。昨日から私の脳内に入り込んで存在を示しているリオン。それしか浮かばない。 (そう言えば、リオンに似てるわ。何処かで見た事がある顔だと思ったけれど……どうして気づかなかったのよ、私は) じっくりと客人の顔を凝視してしまう。失礼に当たるのだが、無意識にしている行動に自分でも気づけない私。お父様はその様子を観察しながら、私に声をかけた。 「ここに座りなさい。いつまでもお客様の顔を凝視するのも失礼だ」 「はい……すみません」 お父様のおっしゃる通りだ。初対面なのに挨拶も何もしてなかった事に気付き、私もリオンの事を言える立場じゃない、と戒めた。 「いいのですよ、グール伯爵。個人的に来ていますので、そんなに怒らないで下さい。私の顔がリオンにそっくりだから、驚かれたのでしょう」 「申し訳ありません」 お父様が言葉を出す前に、私はクベルト伯爵に頭を下げた。自分かきちんとした対応をするべきだったと思う。私はもう30歳だ、それ位の事、冷静に考えたら分かる事なのに、出来なかった自分を恥じた。 「可愛らしいお方ですね。私の名前はクベルトゲールと申します。昨日は私の息子「リオン」のダンスのお相手をして頂きありがとうございました」 「いえ、私の方こそ、楽しい時間をありがとうございました」 「リオンから貴女の話を色々と聞きましてね、直接お会いしたいと考え、無理言って時間を調整してもらったのです」 「わざわざ、ありがとうございます」 こんなふうに、クベルト伯爵が私に会いに来るなんて考えもしなかった。お父様はクベルト伯爵と面識があるのだけど、私は初対面だ。どんな対応をすればいいのか正直分からないけど、自分で出来る精一杯の事はしたい。 「緊張しないでください。大丈夫ですよ」 ふんわり微笑む姿は、本当にリオンにそっくりだ。思わず見惚れてしまいそうになる。リオンが成長するとこうなるのかと妄想してしまうくらいに。クベルト伯爵から漂う色香にあたりそうになる。 「シャデリーゼもコーヒーを飲むか?」 助け船を出してくれるのはお父様だった。私は我に返りながらも、外向きの笑顔で微笑みながら「お願いします」と頼んだ。 10アップ 時間が経つにつれ、緊張も少しずつだがほぐれていった。私はルビーのコーヒーを飲みながら、クベルト伯爵の質問に色々と答えていた。ここまで質問責めになるなんて考えてなかったから驚きを隠せない。 「シャデリーゼ嬢の好みは分かりました。色は「ブルー」がお好きなのですね。リオンからも聞いていたのですが、私の方で再確認がしたかったのです」 私は疑問に思っている事をクベルト伯爵にぶつけてみる。 「しかし何故、そこまで私に興味を抱いてくださったのですか? リオン様より年上の私に……」 クベルト伯爵は、一口コーヒーを飲み、カップを置いた。 「個人的興味ですよ」 なんだろう、軽くかわされた気がするのは気のせいだろうか。笑顔の裏に何か魂胆があるようにしか思えない。でも答えたくないのなら、これ以上詮索しても意味がない。そう思った私は、笑顔でありがとうございます、とお礼を言った。 「それに年齢は関係ありませんよ? 貴女は素敵なご令嬢だ。もっと自分に自信を持った方がいい」 なんて紳士なのだろうと感心してしまう。そりゃそうだ、伯爵ともあろうお方が失礼な事を言う訳がない。それも初対面の相手なら尚更。私をずっと見つめてくるクベルト伯爵の視線から逃れようと、お父様へと視線を変えた。 「お父様、クベルト伯爵とお知り合いだったのですね」 「そうだな。仕事でお世話になっている」 「知りませんでした」 はい、嘘を吐きました。ルビーからお父様の近況は全て把握しているので、クベルト伯爵と面識があるのも把握済み。だけどこういう言い方でもしないと、この場が持たないので、仕方ないと考えたのです。 「シャデリーゼ嬢は、グール伯爵の事を理解しているのですね」 「当然ですわ、じゃないと令嬢としていけませんから」 「ふふっ。本当に面白い方だ」 つい、本音が引き出されてしまった。挑発ではないのに、どうしてだか上手くかわす事が出来なかった。私がお父様の繋がりを知っている事を把握していたのだと理解してしまった瞬間だった──3スウィブル ソッと触れた手から温もりが広がっていく。リオンとの関係性とはまた違った新鮮さを感じた。だけど、きっとこの予感は心の中から消してしまわないといけない。自分が苦しむ結果になると予感してる。 「ここまでくれば大丈夫でしょう」 口調が元に戻っている事に気が付いた。私はクロウを見つめると、悪戯な笑みでウィンクをする。二人の内緒だと言うサインでもあるようだ。どうにか察する事が出来た私は、ソッと手を離し、いつものシャデリーゼに戻った。 「それではご案内しますね、|シャデリーゼ《・・・・・・》様」 「はい」 私はここから歩いていく。勿論リオンの元へと満面の笑みで向き合う為に、だ。令嬢として、一人の女として歩いていく決意は出来ている。リオンの傍にミシャがいようと、そんな事なんて関係がなかった。 歩いていくと、皆様が待っていると言う部屋についた。緊張しながらもコンコンとノックをし、ドアを開ける。私がクロウと一緒に現れる事により、周りの視線が少し気になるけど、ここはひるんではいけない。 「──失礼します」 私の背中には見守るようにクロウがいる。私は真っすぐな瞳でリオンを見つめた。その横にはクベルト伯爵が驚いた表情でこちらを見ている。 「遅れて申し訳ありません」 私が一言添えると、我に返ったクベルト伯爵はいつもの表情を取り戻し、笑みで迎えてくれる。リオンは少し表情が曇っている様子だが、今の私には関係ない。視線を動かしてミシャがいるのか確認したのだが、そこに彼女はいなかった。 少し気が抜けそうになるが、まだ予断は許されない。もしかしたら遅れてくるかもしれないからだ。クロウが親戚なのだから、ミシャも来るに決まっている。私はそう判断していた。 彼女を見ていて分かる。リオンに対して愛情よりも恐ろしいものを抱いているのが。執着心に近い
運命 二人の令嬢が交わる時、本当の運命が動き出す。一人は光の力を扱う者、もう一人は闇の力に支配される者。全ては繋がっていないように見えて、繋がっているのだ。 「おとう……さま」 「……」 「お父様!!」 考え事をしていたグール伯爵を現実へと引き出したのはシャデリーゼだった。ずっと何度も何度も呼ばれていた事に気が付かない程、過去の忌々しい思い出に支配されていたのだろう。 しかし何も知らないシャデリーゼからしたら、いつものグール伯爵と様子が違う事でかなり心配をしている。ハッと我に返ったグール伯爵は、何事もなかったように口を開いた。 「シャデリーゼ、来ていたのか」 「やっと気がつきましたか? 顔色が悪いですわ」 この純粋な瞳を守る為に、今まで生きてきた。あんな過去の事を今になって思い出すとは……|その瞬間《とき》が近いのかもしれないとグール伯爵は悟る。 「体調が悪いのですか? そうなら無理はいけませんわ」 「大丈夫だ、考え事をしていただけさ」 「あんな長時間ですか?」 何かを隠しているグール伯爵に疑いのまなざしを向けるシャデリーゼ。いつもの彼女ならきっと「お父様」の言葉を鵜呑みにしていたのかもしれない。しかし彼女は直観力に優れている部分がある、何かが起こりそうな感覚がすると、グール伯爵に忠告をするのだ。 「とりあえず横になってください。お母さまを呼んできますわ」 「……すまない」 一度言い出したら聞かないのを知っているグール伯爵は、安心したかのように苦笑いをして提案を受け入れる。じゃじゃ馬で女らしくない娘、だが本当は誰よりも真っすぐで純粋なのだから。 そこには愛がある── 香るのは不思議な匂い 私の心をかき乱そうとする匂い 嫌な感覚の中でも自分の道を守るしかない その先に何があるのかは誰にも分かる事などないだろう お父様の様子が変だった。何度呼んでも抜け殻のようで、何かに魂を取られ
6スイング 花の香りが部屋中に充満している。その中で『お香』と言う異国のもので匂いを漂わせているらしい。炎を灯す事で煙と共に香りが出るような仕組みになっている。 私はこの匂いがあまり好きではない。その香りを纏っている一人の女を連想させてしまうからだ。だから一端、別の場所で民を装う服装に着替えて、あの部屋へと向かう。 表の道はおもおもの店で成り立っている。そこには私達が口にするものとは見た目も匂いも違う食べ物が並べられている。最初の頃は物珍しさに購入して食してみたが、私には合わなかった。 その部屋があるのは黒い建物で作られた裏路地にある店だ。独特の雰囲気の中で存在を醸し出している。普通の店でないのは分かり切っていた事だった。 私の配下の者達が調べてくれたおかげでこの店に辿り着く事が出来たのだ。 ザッ── 慣れていない靴を履いているせいか、どうも歩きにくく感じる。足が少し重いような感覚の中で店の内部へと踏み入れた。 「いらっしゃいませ」 この国とは思えない程の異空間の中に迷い込んだようだった。異国の地の生地を初めて見た。何重にも羽織っているような着こなしに、目を奪われてしまいそうだった。 「ブルーの瞳の方がこの店に来るのなんて珍しいですわ。さぁさぁ、部屋の方へ」 「……ああ」 黒い着物と呼ばれる羽織を着た女性が先頭に立ち、道案内を始めた。外観からしたらシンプルな作りのように見えたのだが、色々な仕掛けがある。急に武器が飛んできたりとか、こんな屋敷は初体験だ。 「この屋敷の造りは……」 「カラクリと呼ばれています。この店に来る方は簡単に超える事が出来るかと……貴方様も軽やかに避けているじゃありませんか」 「……」 「ふふっ」 無表情で女の話を聞く事しか出来ない。自分から言葉を発してしまうとボロが出そうになる。武器が飛び交う中で冷静に判断するのは、いくら私とて、難しいもの。 「無言を貫く……それも一つの選択肢でしょう」 意味
3スイング 「クベルト貴様!!」 十人の兵士に囲まれているクベルトと父親。二人が逃げれないように円陣を組まれてしまっている。 「お久しぶりですね……クレイ伯爵」 ドアの向こうからゆっくりと近づいてくる人影と声。兵士はその人物が通れるように間を開け、敬礼する。 「グール・リベスタ!!」 「閣下の名前を呼び捨てにするなどど、愚弄だ」 一人の兵士が怒号を鳴らすのをクスクスと笑いながら、いいのだよ、と諭した。兵士の横をスッと通り、二人との距離を詰めていく。クベルトは自信を持ち、凛としたリベスタの横顔を見つめる。自分とは違う世界で生きている人間。妬ましくもあり、羨ましくもあり、そして美しく感じた。 それがクベルトとグールの出会いだったのだ── ガシャンと机を叩くクレイ伯爵、その姿はあまりに哀れだった。リベスタがここにいると言う事は、違法取引の密売に気付かれたとしか思えなかったクレイ伯爵は、自分の息子の裏切りを知る事になった。 「私が|ここ《・・》に来た意味が理解出来ていますよね?」 二人の間を割るように、大量の資料を机の上にばらまき、目を通すようにと命令する。『お願い』ではなくあくまで『命令』なのだ。国家権力を使っているから逃げる事は出来ない。 クレイ伯爵に冷静な眼差しを向けていたかと思うと、思い出したかのようにクベルトの方へ向き、困ったように笑みを見せた。 「クベルト様も確認していただけますか?」 「は……い」 こんな大物に話をかけられるなんて考えもなかったクベルトは自分が大きな物事を動かしてしまった事実を回らない頭で受け入れようとした。自分が望んだ事なのだ、こうでもしないと自分の運命も立場も変化はない、と言い聞かせながら……
ミシャの心 ねぇ、あの時の事覚えてる?── あたしは貴方の事が大嫌いだった。理由はどんくさいから。いつもあたしの後ろを追いかけてきては、転ぶの繰り返しで、何度振り返って、駆け寄ったか消してしまいたいくらい、心の中に想い出として残っている。 『嫌い』は『好き』の反対でありイコールなの。 いつの間にかそんな貴方の事を可愛いと感じるようになった。男の子らしくない貴方と触れ合う度に、優しさが満ちていく感覚がした。 心が満たされるって言うのかな? あたしより年上の貴方の名前は『リオン』 年齢を重ねれば、重ねる程、彼は大人になり、たくましくもあり美しい男性へと変貌を遂げていく。あたしは昔と何も変わらない、悪く言えば変化がないのかもしれない。人の見方によれば『安心』に結び付くものかもしれない。 他の女性の影なんて、見えなかった。特別はあたしだけ。他の女性はあたしの立場を超える事なんてないと過信していた……今、考えると幼稚な考え方だったのかもしれない。 今のあたしはクロウの膝の上で眠っている。暴走なんてしたくなかった。迷惑かけたくなかったのに、どうしても止めれなかった。クロウはこんな情けないあたしでさえも受け入れてくれる人。私とは血が繋がっていない事も、幼少の頃、お父様とお母様の話を盗み聞きしていたあたしは、その事実を聞いて、泣きそうになったのを覚えている。 「……あたしは一人ぼっち」 両親もあたしと血の繋がりがない、身近な存在であたしの心を守ってくれているクロウでさえ、他人なのだから、ショックが隠せなかった。一人だけの空間に置き去りにされた感じに、絶望を感じてしまった。 「もう期待なんてしない」 そう決めていたはずなのに、リオンの存在があたしの心を癒したの。だから、もう一度『信じて』もいいかもしれないと、淡い気持ちを抱いていた。 あたしはクロウ
4シェイプ リオンの部屋で穏やかな時間を過ごす私達。この満たされた空間を邪魔する人なんて誰もいない。見つめ合う私達はゆっくりと微笑み合う。この世界に二人しかいないようにーー リオンの手が私の頬に触れようと手を伸ばしてくるーーひんやりとした感触を確かめるように瞳を揺らした。 彼の瞳は真剣な光を灯しながら訴えかけてくる。リオンが何を望み、語りかけているのかを理解した私は受け入れるように頷く。 「……分かっているわ」 覚悟は出来ている。男性の部屋に入る事の意味を理解している私は高鳴る心臓の音を抑えながら目を瞑った。 余裕があるように見えたリオンはただポーカーフェイスを演じているだけ。余裕があるように見えるが、全くない。感情が突き走って体がついていかない。早る気持ちを緩ませながら、私の唇へキスを落とした。 「……ん」 最初は壊れないように優しく、啄むようにキスをする。私の反応を確かめるように、次第に深く深く絡めていった。どこにも行き場のない熱をお互いの体温へ送りながら、息が高まっていく。 「はぁ……ん」 勝手に出てしまう声を止める術はなかった。私はその甘さに理性を壊され、自分を保つ事に必死になっている。これ以上されると壊れてしまうだろう。覚悟を決めていたはずなのに、経験した事のない感覚は知らない自分を見せようとしている。怖くなってしまった私は後ろへ逃げようとすると、リオンは私の後頭部に手を添え、逃さない。 私達は「恋人」と言う立場を捨て「婚約者」へとなった。 5シェイプ リオンが自分以外の女性を愛する所なんて見たくない、想像もしたくない。私の隣にはいつもリオンがいて、その横で笑っている自分がいて……クロウとクベルト伯爵は見守ってくれる。それがミシャの願いであり、夢だった。 リオンの顔が見たく鳴ったミシャはルンルン気分で彼の部屋へ行った。急に現れた自分の姿を見て、どんな表情をするのか、喜んでくれるのかドキドキしながらドアの隙間から様子を見ていた。 「……は?」 彼女の視界が捉えたのはリオンとダンスをしていた相手、あの時の女性がいた。どうして彼の部屋にいるのか分からない。二人は見せつけるように唇を重ねていく。見たくない現実を受け止める事が出来ないようだった。 「何よ……あれ」 隠れて見ている事も忘れて、静かに呆然と立ち尽くしている。その様子に