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タイミング〜3アップ

last update Date de publication: 2025-10-17 11:00:18

タイミング

 いつの間にか寝てしまっていた。私はムクリと起き上がると、昨日お風呂に入ってない事に気付く。気を張っていたのと、お酒がまわっていたので疲れたのかしら。

 この事がお父様に気付かれたら、|また《・・》怒られる。私も一応令嬢だから、そういう所はきちんとしなさいと叱られた所で、今日だ。まぁ自室にも簡易的なお風呂があるのだからいいのだけど……

 私には専属のメイドがいる。いつも私の生活や体調管理をしてくれているルビー。私とルビーは年が近い。今年30になった私の二つ上になる。

 昔は優しかったのに、婚期を逃してしまった私に対してお父様と同じように性格の改善を要求し始めたのだ。私は自分の性格を好んでいるし、男性の為に変えるつもりもないから、大変。

 令嬢の中で、年が近い子達は皆結婚している。タイミングを逃した私を心配しているようで、色々な縁談が来るようになった。

 何度も何度も逃げ続けている私に対し、怒ったのはルビーとお父様。正直、お父様は怒りを通り越して呆れているようだが、ルビーは辛抱強く、叱ってくれている。

 (まぁ……私が悪いんだけどね)

 そんな事を考えてもキリがない事くらい、私だって理解している。過去は戻ってこないのだから、今の現状でどう動くかが重要。

 「んー」

 考える事に疲れた私は、両手を上にあげ、背伸びをする。そしてまだ誰も起きていない時間帯なのをいい事に、お風呂に入る支度をした。

1アップ

 お風呂のドアを開けると、水が張られている事に気付いた。そしてそこには一枚のメモが貼られている。私はネグリジェを脱ぎ、そのメモへと手を伸ばした。

 <いつでも入浴出来るように水を張っています。後は自分で調整してください>

 筆跡を見るとルビーの字だ。私は見抜かれていた事に、肩を落としため息を吐く。最後に小さな文字で、書かれていた言葉を見つめながら──

 <隠そうとしても無駄ですからね>

 綺麗な文字でそう書かれていた。ああ、また怒られる……まぁ、昨日時点で気づかれても仕方ないか、と割り切ると、水だけ張られている浴槽に近づいた。

 私は右手でどれくらいの冷たさか確認すると、そのまま水を浸透させていく。

 「今日はいつも以上に冷たいわね。まるでルビーの怒りのよう」

 ポツリと呟くとその表情が頭の中で浮かんできた。私はくすっ、と笑うと浸していた手を抜き、代わりに左手で波紋に合わせながら魔法を発動する。

 「ルーツ」

 私の言葉に反応するように、コポコポと水の温度が上昇していく。今日は熱めに入りたいから、意識を集中させて、っと。数秒の間で自分の期待通りの温度になった事を確認し、体を沈めていった。

 「ふぅ」

 本来なら令嬢は「魔法」を使う事が出来ない。しかし私の場合は違った。祖母の血が原因のようだ。まだ祖母が生きている時に試しで「お前もやってごらん」と言われ、見よう見真似でしてみると出来てしまったの。

 普段はルビーが温度管理してくれて入っているんだけど、何せこんな事が多いから、スパイスの一環として、使用しているようなもの。

 「気持ちいい。温度もベストね」

 さっきまで入浴する事に対して後ろ向きだったが、入るとやはり癒される。この時間も私の中で心と体を癒す大切なひとときなのだ。

 2アップ

 あまりにも気持ちよくて長湯をしてしまった。少しのぼせたようだ。私は髪を乾かしながら、微睡んでいる。

 「本当に、便利ね」

 両手で長い髪を挟みながら、空気の流れを変換していく。すると風は微力だが温度を一定に保ちながら、テキパキと髪を乾かし続けた。

 (これくらいでいいかしら。喉が渇いてきたわ)

 魔法を使う事には慣れているのだが、何せのぼせと喉の渇きが酷い。以前から感じていたけど、魔法の副作用なのかもしれないと思う。祖母にも人によって副作用の出方が違うとも教わっていたから、これがそうなんじゃないかと考えているの。

 ──コンコン

 「入っていいわよ」

 「失礼します「お嬢様」」

 ガチャリとドアが開き、ルビーが入ってきた。タイミングがいい事、そう思いながらも、決して口には出さない。ここで何か言ったら反論されるのが見えているから。

 「喉が渇いたでしょう? 飲み物をお持ちしました」

 「……ありがとう」

 私の目の前にグラスが置かれる。私は待っていましたとばかりにグラスに手を伸ばした。唇をつけようとすると、ルビーの視線を感じた。

 「昨日はごめんなさいね」

 「いつもの事ですから慣れています」

 「あら、そう」

 コクンと水を流し込み、喉を潤していく。全身に浸透していく感覚に酔いしれながら、ゆっくりと飲んでいた。

 「ダンス会場で何かありましたか?」

 唐突に聞いてくるルビーに視線を注がせながら、グラスを置いた。私は何も言うつもりはなかったが、軽くリオンの事を告げる。

 するとルビーは驚いたように目を見開いた。今までの私とは明らかに何かが違ったのだろうか。自分ではその変化に気付いていないのだけど、ルビーには一目瞭然だったよう。

 「物好きもいるのですね。よかったじゃないですか」

 「物好きって何よ」

 「リオン様、と言うとクベルト伯爵のご子息ですね。まだ若いのに、なんと言うか……」

 困った笑みを浮かべながらそう言うルビーの表情は少し安心しているようだった。

3アップ

 「クベルト伯爵のご子息なのね」

 「はい、そうですよ。奇抜な髪色の方ですね、社交界では有名です」

 「……知らなかった」

 「「お嬢様」は興味を持たないと話を流す癖がありますからね。以前わたくしがお伝えしたのですが、覚えていないでしょう?」

 どうせ、と心の声が聞こえてきた気がした。私は言い返す言葉が見つからず、話を逸らそうとする。

 「そういえば以前から思っていたのだけど、その「お嬢様」ってやめてもらえないかしら?」

 「……何故です?」

 「私、今年で30よ?」

 「それが、何か?」

 キョトンと首を傾げるルビーを見ていると、この年齢でお嬢様はないでしょう、と言ってやりたくなる。それに私とルビーの付き合いは長い。お父様の目がある訳でもないし、もう少しフランクに関わりたいのが本音だもの。

 「では「シャデリーゼ様」がよろしいのですか?」

 「それも嫌ね」

 「では何とお呼びになればよろしいのですか?」

 「呼び捨てでいいわ。私とルビーの仲じゃない」

 「それは難しいですね。私と「お嬢様」は立場が違いますから」

 ガクッと肩を落としながら、ジトーとした目でルビーを見つめる。しかしルビーは表情を崩す事なく「メイド」として仕事を全うしようとしている。

 「はぁ……もういいわよ」

 「そうですか「お嬢様」」

 今まで提案をする事を躊躇っていたのに、勇気を出して伝えると簡単に玉砕された。元々真面目だから、仕方ないのかもしれない。

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