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第二幕〜第四幕

last update 最終更新日: 2025-10-15 03:25:22

第二幕

 ──お嬢様

 その言い方がなんだか含みもあって、そこでもカチンときそうになった。それでも|ここ《・・》はダンス会場なのだから、罵声を浴びせる訳にもいかず、堪えてしまう。

 リオンはそんな私をよそに、サッと手を伸ばした。ふんわりと私の手に重なるとふふっ、と微笑みを漏らす彼を見て、なんて悪魔かしらと思ってしまう程、ある意味似合っている。

 「どうしました? お嬢様」

 「……その「お嬢様」って止めてくれない?」

 「どうしてですか?」

 私達は手を合わせ、体を寄せ合いながらステップを踏む。正直ダンスが得意ではなかった。しかし日頃の練習の成果もあり、ここまで踊れるようになった。

 以前の私ならリオンの言葉に返答なんて出来なかっただろう。

 (練習してよかったわ……)

 私達がステップを踏めば踏む程、ドレスが揺れている。まるで見えない力に引き寄せられるかのように、雰囲気と空間に身を任せていく。

 世界にどっぷりと浸かる、その言葉が一番似合うのかもしれない。

 「私は「お嬢様」なんかじゃないわ、名前があるのですから」

 「それはそれは」

 「貴方からかってる?」

 「そんな事ありませんよ?」

 私とリオンの視線がバチッと合う。彼はニッコリと微笑み、一方私は苦笑いしか出来ない。

 「そんな顔していると楽しめるものも、楽しめませんよ?」

 顔と顔が近すぎて、彼の吐息が私の耳を掠める。

 ──ドクン。

 最初から正直印象が良くないリオン。なのにそんな彼の不意打ちに反応してしまう自分がいて戸惑う。

 「っつ……」

 なんだか悔しくて、恥ずかしいと思った瞬間だった。

第三幕

 「恥じらう姿も可愛らしいですね」

 「は?」

 「そんな言葉使いはよくありませんよ?」

 隠したくても隠す事が出来ない感情の色。顔に出てしまった事を後悔しながらも、彼の姿をチラッと確認する。奇抜な髪色だけど、凄く綺麗な子。見た感じ私よりも年下なのは明白だ。

 彼の言う通り「楽しむ」のが一番なのかもしれないと思い、今までの彼の言動をなかったモノのように割り切る。それがいい。きっと……

 そう思いながらも、少し気が抜けてしまったのだろうか。私は少しよろけてしまいそうになる。

 「気を抜いてはいけませんよ」

 そう呟きながら、よろけそうになった私の身体をサポートし、元の体制に戻す彼。私は咄嗟に「ありがとう」とは違う言葉を口走ってしまう。

 「抜いてないわ」

 「くすくす。強情ですね……それもまたいい」

 「……なんなのよ、もう」

 リオンの耳に入らないように独り言を呟きながらも、彼のペースになっている事に気付く。ダンスも主導権も。

 私の方が年上なのに、どうしてこんなに翻弄されてしまうのか、自分でも分からなかった。

 「僕がエスコートしているので、大丈夫ですよ」

 「……ええ」

 不服だが、彼のエスコートのおかげで助かっているのは事実だから、否定しようがない。切り替えようと思っていたのに、上手くいかない。

 リオンはチラリと周囲を確認しながら、私に話しかけてきた。

 「皆さんダンスを心から楽しんでいます。だからシャデリーゼ様も」

 先ほどとは違うふんわりとした優しい表情で諭された気がした。彼の言動から行動からダンスを愛している事が分かる。

 私は自分の都合や感情で動いていたのかもしれない。少しシュンとしてしまったけど、輝くシャンデリアの光を浴びながら自然の流れに身を任せる事にした。

 「楽しみましょう。リオン様」

 大人にならないといけないと感じたのと、ダンスを心から愛する人達への謝罪も込めて吐いた言葉だった。

第四幕

  「なんなのよ、あれは……」

 私とリオンが楽しそうに踊っている姿を見つめる一人の女がいる。ギリッと歯を食いしばりながら、睨んでいた。

 女は幼さが残りながらも美しい外見をしている。大きなブルーの瞳、品やかな金色の髪、そして淡いピンクのドレスを身に纏っている。

 周囲の男性達の目線は女に釘付けだ。誰かが動く前に自分がダンス相手に立候補したいと思っている人もいるだろう。

 「どうした? ミシャ」

 女の背後からスッと体を守るように声をかけてきた男はこのダンス会場でも有名なクロウだ。有名な資産家の息子で時々現れては、女性達の争いが起こってしまうらしい。

 「どうもこうもないわ。あれを見て」

 ミシャはスッと私とリオンを指さすと、クロウの視線も彼女の指先を追いながら、視線を移していく。クロウは私達の光景を見つめながら、愉快そうに笑った。

 「リオンの奴もすみにおけないな」

 「……」

 ミシャは違う言葉を期待していたのだろう。しかしクロウから出た言葉は悪意のあるものではなかった。基本サッパリしているクロウの性格を理解しているミシャだが、自分の味方になってくれると思っていたのだろう。

 「どうした?」

 ミシャの様子に気付いたのか、心配そうに声をかけるクロウ。彼は背後から彼女の真ん前に移動し、ミシャと同じ目線にする為に屈んだ。

 「どうしたも何もないわよ……」

 「はっきり言わないと分からないぞ?」

 「私以外の女と踊っているリアンなんて見たくない」

 その言葉を聞いたクロウは困ったようにミシャの髪を撫でた。

 「ここはダンス会場だぞ? リオンだって他の女性とダンスをするだろう」

 「……今まで断ってた」

 小声で呟くミシャの声はクロウには届いていない。

 「え?」

 「だから!! リオンは今までダンスを断ってきたのよ。私以外の女は誰一人選ばなかったのに」

 クロウはミシャの機嫌をどうにか直すように考えながらも、彼女の真っ赤になっている瞳から零れる雫を指で拭った。

 「泣くな。お前のそんな顔を見る為にここに来たんじゃない」

 「だったら……」

 クルリと彼女に背を向け、私達を確認すると、振り返った。

 「何処の令嬢か分からないが。今回は諦めなさい」

 まるで父親が幼子に言うように甘い口調。その中にも厳しさはあるだろうが。どちらかと言うと砂糖のように甘かった。

 「……」

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