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第四話 ブレックファースト・ガーデンキャンプ(その一)

last update Last Updated: 2025-05-26 10:30:06

 ——ある休日のこと。

寝室の窓には生成色をベースに薔薇と蝶の柄の入った遮光カーテンで閉めている。

けれど朝の日差しが、完全に閉ざされていないカーテンの隙間から入ってきた。

その温かみのある光から私の顔に当たる。

何気なく目を覚ませようとしていた。

(うぅん、今……何時だろう……?)

布団の中でモゾモゾ動いてから、チラッと時計の針を見てみる。

時刻は、もう朝の8時半をとうに過ぎていた。

平日だと、大体六時半を目安に起きる。

だがペースを崩したくない私は休日であっても、そろそろ起きる時間である。

「ふあぁ~……」

むくりとベッドから起き上がり、小さなあくびを一つ。

目を擦った後でも瞑ったまま、腕を上へ伸ばし肩周りをリラックスさせる。

ちょっとだけ夜更かしもしちゃったから、僅かな眠気は残っている。

(ん~……なんか今日は深くゆっくり眠った気分だなぁ……。けど、休日だから罪悪感なんて一切なし)

私は寝ぼけながら、寝室から出てリビングへ向かう。

(んーと、今日の天気はどうだろうか?)

私はひとまず、今日の天気予報を調べることにした。

スマートフォンに入っているアプリでチェックする。

昨夜テレビで放送していたニュース内の天気予報からは、曇り時々晴れと聞いていた。

リビングの窓越しで見ると、雲の量はそんなに多くない。

(うーん、この量だと三割といった程度かな?)

確かに、所々だけど白い雲が見えている。

それでも青空が広がっていることに変わりなく、爽やかな気候っていう雰囲気はしていた。

(いい天気……。朝のこれからは何をしようかな?)

と、午前中の予定を考えようとしたが……。

——ぐぅぅ……。

空腹だと言わんばかり、お腹の虫が底から鳴ってる。

(そりゃあ、そうだわ……)

まだ朝ごはんすら食べてないから無理もない。

今、さっき起きたばかりだから仕方ないんだ。

そう思った途端、なぜか頭の中から閃きがピーンときた。

(あっ! 今日は、庭で朝ごはんなんていいかも!)

この前ホームセンターで、IHヒーターでも使えるスキレットを買ったことを思い出した。

いつか、それを使って調理をしてみたかったものだ。

いつもの朝に比べたら、スッキリしたかのように頭が冴えている。

(よし、こうなったら今すぐ行動だ! 早く準備しよう!)

私はこっそり右手の拳にガッツを入れ、急いで顔を洗いながら目をよりスッキリ覚ませる。

日焼け止め対策をした後、庭キャンプ用の服装に着替えて準備万端だ。

(外での朝ごはん、楽しみ!)

心の中でスキップするかのように踊っている。

ウキウキしながら玄関へ行き、いそいそと靴を履いて扉を開けた。

——ガタンッ!

「……ん?」

外へ出ると、いつの間にか家の隣に車がある。

おまけに収納庫付近から、ガチャ、ガチャと何かの音を立てている。

(えっ……アレ? まさか誰か勝手に侵入したとか? えぇ? いや……どうしよう)

そんなことを、不意に想像してしまった。

今にも冷や汗や顔を青くなりそうにもなる。

けれど、せっかく庭で朝ごはんを食べる計画がなくなるのは悲しい。

覚悟を持って恐る恐る収納庫の方へ、忍び足で近づくしかない。

「ちょっ……え?」

——見覚えのある後ろ姿に思わず……。

「えぁ? え?」

私は素っ頓狂に声を出してしまった。

てっきり、どこか一泊してから昼頃くらいに帰ってくると思っていたからだ。

朝に帰ってきたことの驚きの方が大きい。

「きょ、恭……弥さん?」

戸惑いながら、彼の名前で呼ぶ。

私が外にいると気づいたのか、彼は私の方へ振り向いてきた。

彼は何事もなかったかのように笑顔で挨拶を交わす。

「あっ! 空、おはよう。目は覚めた?」

そう、その声の正体はもちろん聞き覚えのある人。

正真正銘、私の旦那のこと……恭弥さんだった。

職業は写真家兼フォトグラファー。

この家とは別の地方に、現像や制作する仕事場があってそこで暮らしている。

「いっ……いつ、帰って来てたの?」

ゴニョゴニョとしたハッキリ言えない声で、恭弥さんに尋ねた。

朝帰りといっても、彼の仕事場は車で約二時間半以上は掛かる。

つまり、深夜もしくは早朝から出発していることになるだろう。

「んーと、確か……朝の7時過ぎぐらいかな。いやぁ、まだ起きてなかったし起こすのも悪いと思って」

彼はあっさりした返事で答える。

だが私の行動を見て、少し笑いを堪えている。

(んもぅ……。密かにガサゴソとやられたら、流石にビックリするよ……)

安心感への解放に私の呆れ心が出たのか、頬が少し膨れて困った表情が自然と出てしまう。

それを見かねたのか、彼は何かを思い出し……。

「そういや、言い忘れてたね……」

「……?」

恭弥さんは私の元へ行き、手を伸ばして彼の身体へ抱き寄せてきた。

「はわぁ……!」

「ただいま、空」

彼の忘れていたことは、帰宅した時に掛ける言葉。

思いがけない行動だったからか、きゅーっと胸が締めつけられる。

私の胸の鼓動がより早く響いている。

「……おかえりなさい」

彼の前では、どうしても頬の赤みが緩んで隠しきれない。

嬉しさもあるけれど、そっと彼の行動に甘えたい気持ちもあるからだ。

恥ずかしさも出ていたが、ゆっくり目を瞑ってそっと寄り添いながら応えることにした。

——また、あなたに触れられるのが嬉しいから甘えを許してしまう私がいる。

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