Masuk――シュッ、シュッ!
その側で、ケトルの口から吹き始めた。
(あっ! そろそろ、お湯が沸く頃になるなぁ)
ご飯の蒸らしもそろそろ良い感じだろう。
メスティンを耐熱の手袋で網から引き上げた。
(開けるのは、味噌汁用のお湯を入れてからにしよう)
ケトルの口から湯気がどんどん吹き出ている。
お湯が沸いた合図だ。
その取っ手を手袋したまま掴む。
味噌玉を入れたシェラカップへ、濃すぎない程度にお湯を六分目ぐらいまで注ぎ入れた。
お箸で混ぜ、固まっている味噌を溶かしていく。
メスティンの蓋を開けると、湯気の中から覗き込むお米の艶が綺麗に光っていた。
(今回もいい感じに炊けた証拠だ)
炊けたお米の半分くらいをプラスチック製のお椀へ移し入れる。
(よし、これで和食キャンプ飯の完成!)
ここでおさらいとして、今日のお品書きを紹介しよう。
ご飯、味噌汁、白菜ときゅうりの漬物、メインは鯵の干物焼き。
一汁一菜の雰囲気はあるけど、一人で食べる分には充分な量だろう。
(では、頂きます)
ごはんを食べる合図を呟きながら、手を合わせて食事を始めることにした。
(まずは、味噌汁から啜るとしよう)
私は猫舌で、熱いものは簡単に飲めない。
フーフー息を吹きつつ、汁物からゆっくり味わう。
やはり、外で飲む味噌汁も温かい。
風が時折吹いていて少し冷え込むから、より感じやすいのだろう。
(うん、味噌と一緒に鰹の粉を入れて溶かしているけど、意外とほんのりと出汁が効いている!)
ご飯を一口食べたあと、白菜の漬物を取って一口運ぶ。
白菜の白い芯の部分をメインに漬け込んだもの。
その甘みと白だしが口の中から身体へ流れるように伝わってくる。
(あぁ、だしの優しさが染み込むぅ……)
もう一つの漬物、今度はきゅうりを取って一口。
(きゅうりは、白菜と同じく浅漬けの定番の一つだし、合わないわけが無い)
さてお待ちかねである主役の出番、鯵の干物。
最初に右側の真ん中の骨をめくるよう取り除き、身をほぐしていく。
その時点で、身のふんわり感が箸伝手で感じている。
(あ、この感じだと、焼き加減はバッチリだ)
ほぐした鯵の干物の身をひと口分箸で取って、食べてみる。
(うわぁ……これは美味い! 家のグリルやフライパンで焼くのと違って、炭で焼く特別感がある!)
余りにも感動してしまった。
身のふんわり感と味の美味しさにほっぺが落ちそうにもなる。
(これは、ご飯が進んじゃうよ……)
干物の塩気が、食欲を沸かしてくれる力を生み出している。
そして無心になって頬張りたくなるくらいだ。
いつの間にか、どんどん口の中へ運んでいく。
もちろん、味噌汁も忘れずに飲んでいる。
味噌汁の中にあるワカメも、ちゃんと元の姿であろうの形に戻されていて、噛みごたえもある。
そういえば、キャンプで和食を作っている人ってどれぐらい、いるのだろうか。
そんな感じに、ふと疑問が浮かぶこともある。
(よく考えてみたらキャンプとはまた違ってくる話だけど……。コンロも無かった時代に生きていた昔の人は、七輪だったり串に挿して焚き火に直接焼いていたりしていたんだよなぁ……)
今の時代は電気や機械の発達でかなり便利になっている。
けれど少しの手間でも美味しく作って、それで幸せを得られるなら本望だと思う。
(恭弥さんは料理もよく作る人だから、栄養面は大丈夫かと思う。でもたまには、彼の食事にこんな和食を出してあげたいなぁ)
ここで読者のみんなは察したのかもしれない。
いつもなら、恭弥さんとのやり取りを交わしているはずだということを。
なぜ今回はLIMEの内容を話さないのに、彼の話題を出しているのか?
そう、ようやく我が家に帰ってくる時がやってこようとしている。
(運転中はお邪魔になっちゃう。けれど帰ってくると思うと嬉しい)
今日は家に帰るための移動日。
その上、車で高速道路を走っている最中だからだ。
(今頃、彼の好きな音楽をかけながら、頑張って運転しているかなぁ?)
サービスエリア休憩を挟みながら、きっと休日を楽しみに向かっているのだろう。
ちなみに最後に帰ってきたのは、年末年始の一週間のお休みのときだった。
つまり、約三ヶ月振りだ。
ワクワクと同時に、久しぶりに会うのだから緊張してしまうかもしれない。
(さて、恭弥さんと会ったら、何をしようかなぁ?)
彼との再会まで、やりたいことをリストにしなくっちゃ。
沢山あって迷いそうだけど、ここは話し合いながら決めたい。
でもその前に、雪絵さんの依頼を済ましてからじっくり考えることにする。
依頼も一応、納期があるし締切までに間に合わせておかないといけない。
(あ、そうだ!)
この和食キャンプをネタに使って、依頼されたコラムを書き上げてみよう。
せっかくこうやって経験をしたからには、体験レポートいう形で綴ってみようと思う。
特に、鯵の干物と味噌玉をメインの題材に書きたいことも決まった。
作り方と共に、炭火で焼いたときに先人の暮らしを浮かんで思ったことなどを……。
――和食から得た発想と新たな発見を見つけ……今日もごちそうさまでした。
——冬を迎える前のひとり鍋に、乾杯!(まずは、主役の豆腐をすくってと……)豆腐一つをお玉で鍋からすくい、箸で水菜とネギを取り出す。温まっているとはいえど、口の中へ入れるときの豆腐の中は熱い。それに私は猫舌だから、熱い状態ですぐに食べるのが少し苦手だ。ひと口で食べられるサイズを箸で割り、フーフーと少し冷ましながら口の中へ運ぶ。「ハフッ、ハフッ! 熱っ!」(やっぱり、まだ中はちょっと熱いのが……。けど、美味しい)絹豆腐は湯豆腐にすると、より柔らかな感じのイメージある。けれど、コシが残っていて尚且つ滑らかさも持っている。ポン酢に含まれる柚子の風味と酸味、昆布のホッとする優しい出汁が豆腐本来の味を横に添える感じだ。(この出汁が手助けをしてくれるから、豆腐がより感じられるのかなぁ)けれど時にポン酢のタレは豆腐の中へ染み込み、味変するかのような変化も起きる。不思議な作用だなぁと、感心してしまう。豆腐をひと口食べ終えたら、熱燗が入った徳利をおちょこに入れ移し、チビっと味わう。(う~ん、良い感じのまろやかさ!)口当たりがお酒の尖りっ気もクセもない。ほんのり甘みが広がっている。それなのに、後味はスッキリさせてくれるものだ。(湯煎して温めたのは正解だね)ストーブも大活躍してくれて、本当に一石二鳥だ。(豆腐も良いけど、野菜も煮えているから食べてみようっと!)私は先にポン酢に浸かっている水菜から取って
もう既に昼間も寒くなって、パーカーだけでは冷えが防ぎ切れない。風が吹くと耳まで凍えてしまいそうな気がした。こんなときこそ、イヤマフ付きのニット帽も被りたくなる。(この寒さじゃあ……それに合わせてウィンドブレーカーを羽織る出番の時期になったかぁ)薄い長袖の上に厚めのパーカー、その上に赤のウィンドブレーカー。作業用に履くズボンも、裏起毛が入ったヒートタイプの黒ズボンにした。今日は寒くないと良いなぁと思いつつ、いざ外へ出てみると……。(うっ! 寒っ! これは冷える……)強い風はまだ吹いてない。けれど、外の空気は想像通りひんやりと寒い。今日の天気予報では、雨が降らない薄暗い曇り空。これも冬の季節へ近づいた合図がしている気がする。周りに生い茂っている雑草の葉っぱも、ほぼベージュ色で纏う枯れ草だ。(玄関内に、カイロが置いてあったはずだけど……あ、あった!)玄関の靴箱の上にある箱からカイロを一つ取り出した。すぐにやって来る冬には欠かせないであろう。これさえあれば、多少の寒さがあっても我慢出来るし大丈夫だろうと思いたい。袋から中身を取り、シャカシャカと振ってウインドブレーカーのポケットにしまった。(さて、今からいつものテーブルやチェアを……)庭の収納庫から取り出し庭の真ん中へ設置する。その少し離れた場所に、焚き火用シートを敷いて焚き火台を置く。もちろん、今回も焚き火をするに決まっている。笠の開いた松ぼっくりや前回に残っている小さめの炭から新たに追加する大きめの炭を敷き詰めて……。それから、前に細かく割っておいた薪を山みたいに立てて並べていく。(一応、
——十一月の初旬頃。本格的に、冬が目の前になるという寒さの日。お昼はとっくに経って、もうまもなくおやつの時間まで過ぎようとしている。(あぁ、そろそろ暖房が欲しくなる時期がきたなぁ。ストーブを押入れから出したいものだ)日中の気温は今のところ、まだマイナスへ行くほどの温度になっていない。だが夜になれば、一気に下がって一桁台が多い。特に、来月後半になれば雪が降ってくるかもしれないと予報もちらほら出ている。寒さを凌ぐこたつのある温かい家に篭りたい気持ちが高まってくる頃だ。庭でこっそりに住んでいる虫や、山の中で暮らしている動物達もきっと同じ。これから訪れる寒さから凌ぐため、冬眠の準備をしているのだろう。(私も、そろそろ衣替えして冬用に着る厚い生地の服装を出さないといけないなぁ)そう思っているうちに、ふと気づいた。冬になれば、我が家の場所では雪が降ってしまう。雪の中でのキャンプを一度してみたい気持ちはある。だが今は、そこまで過ごすことができる装備や道具がない。ストーブと焚き火台だけあっても寒さが耐えられるのか?答えは当然「ノー」で、極寒の寒さには厳しいのである。(今日もきっと、寒いだろうなぁ……)だがこの時期こそ、どうしても食べたい物がある。それは……鍋料理である。鍋料理といえば寄せ鍋やキムチ鍋など定番の味。高級なものだと蟹やふぐ、あんこう鍋とか思い浮かぶかもしれない。そうは言っても、本当はそこまで予定していなかった。(食べたいものが急に浮かんできちゃったせいで、チャチャッと用意するのが難しい)その理由は、冷凍のお肉や魚を解凍してないからだ。今から解凍しても
(あ、そろそろ他の方へひっくり返そうかな)さつまいもを入れてから、二十分経った頃だった。焼き芋を均一に焼きたいため、火挟を持って焼いてる方面から転がすように返す。焼けるまでの時間まではまだまだといったところだ。炭が少なくなってきたので、薪や切炭を少し追加する。そうこうしていると、今度は雪絵さんからLIMEのメッセージが届いた。雪絵さん「い、芋……? どういうこと?」どうやら少し困惑気味だったので、ここは説明することにした。すると、すぐに返信が来た。雪絵さん「あぁ、そういうこと! 意味がわかったわ。 何を送ってきたのかと思ったら……今、焼き芋作ってるのね」私「うむ。焚き火台で作っているの」雪絵さん「へぇ~焚き火台で! それは面白そうだね。私も彼とやってみたいなぁ」(な、なぬ? 彼氏……だって⁉︎)雪絵さんがもう彼氏持ちになったということに、私は思わず驚いてしまった。この件は前回も説明したが、改めておさらいを……。同時に彼女から届いた今回の情報を共有しながら確認してみようと思う。(まさか、彼氏の話になるとは思わなかったけど)雪絵さんの彼は、私とも同い年で某アウトドアショップで働いている。彼女曰く、彼は販売リーダーという役職持ちの店員。オススメのキャンプ道具を取材した時が馴れ初めだという。その日をきっかけに数回訪れたり連絡先も交換したらしい。プライベートのことも話している内に意気投合し、ようやく交際に発展したのが昨年からだ。(告白はどっちだったかなぁ……あっ、これだ)探していると、先日送られてきたLI
お昼を過ぎ、もうすぐ午後二時になろうとしている。前回登場した雪絵さんの上司でもある、最上川副編集長から原稿を依頼された。仕事内容は本紹介の雑誌に掲載されるコラムだった。今、その原稿でどんな本を題材にするか考えながら勤しんでいる。(まさか、また副編集長から仕事が来るとは……)今回依頼されたコラムのテーマは「秋の夜長にオススメする本の紹介」である。確かに九月も終わったし、今は十月に入って半分ぐらい経とうとしている。その分、少しずつ日が短くなり夜の時間が長くなっていく。それに加え、だんだんと夜が冷えてくるだろう。日の入りも同じように早くなっていく。まるで、これから冬が訪れようとするときの合図を示している。(まずは、秋を重点に考えてみよう……。確か、なんとかの秋っていう……例えば、芸術の秋とか)今の時期に相応しい秋といったら、私の個人的な意見ではまだまだ食欲の秋。少し冷え込むくらいの気温が、私にとってのベストシーズンでもある。なぜなら私の癒しの一つ、大好きな焚き火ができるからだ。そう思うと小さな子供たちの歌う焚き火の歌が、外から聞こえてくる気がする。下校時にその曲を歌っている小学生の姿が浮かんでくるだろう。(焚き火……焚き火……。うーん、焚き火と言ったら……)——ハッ!私は、あるモノを思いついてしまった。そう、焚き火といえばもちろんアレが真っ先に思い浮かぶ。(アレは昨日買ったばかり。ならば、やるしかないでしょう!)この物語の読者の皆さんはその正体、わかったかな?正解はおやつやおかずにでもなれる、定番の食材「さつまいも」。今日のおやつタイムに食
ある程度ごはんの蒸らし時間も過ぎた。そろそろ開けてもいい頃合いだろうと、メスティンの蓋を開ける。あとは、保冷剤の入った小さめのクーラーボックスから、ラップでアルミ皿ごと包まれている生春巻きを取り出したら、全て出揃った。(よし、これで全部完成して揃った! 冷めない内に頂くとしよう)「いただきます」まずは前菜の生春巻きから頂こう。本来なら、お店や惣菜についているのはスイートチリソースをつけて食べることが多い。けれど、私の場合は違う。少し醤油の味が欲しい理由からポン酢を選んでいる。ポン酢でも種類があって迷うけど、ここは好みだと思う。ちなみに、私は柚子ポン酢をオススメしている。(一本目の真ん中の部分を取ろうかな)割箸で三等分に切った春巻きを掴み、ちょこっとだけきゅうりなどの野菜の方につけて口へ運ぶ。(ん! 野菜のシャキシャキとサッパリとしたポン酢の味に、少し塩気のあるスモークサーモンが良い塩梅だ!)もちろん、ライスペーパーのモチモチ感がある。もう一つと先程取った一本目の右端っこを取り、同じようにして食べる。端っこは、どうしても具材が少ない。その分、ライスペーパーのモチモチ感が一番分かりやすいだろう。さて、いよいよお待ちかねの、メインディッシュであるラムチョップ。ローズマリーの香りとラムのほんのりとした獣の匂いが漂っている。骨を右手に取り、左端も左手で添えて、フライドチキンを食べるような食べ方で一口かぶりついてみる。(おっ! これは、柔らかい……!)オリジナルスパイスがかかっただけでも、すごく美味しい!お好みでソースをつけてもアリだ
「うぅ~……暑い……」そろそろ九月を迎え入れようする、ある残暑の日。午前十一時を回り、もう少しでお昼を迎える。私はいつものように、自宅内の仕事場で校正の作業をしていた。エアコンは効いているものの昼間に近づくにつれ、外からの暑さが更に増していく。(今年の夏も、やっぱり暑すぎる……)真夏も苦手だけど、残暑も同様……いやより苦手である。特に湿度の高い暑さやられが、私にとってジワリと身体から体力のダメ
急いで着替え終わった私は、外の収納庫へ向かった。メッシュタープや焚き火台、黒のアイアンテーブルやチェアを出していく。あとは玄関内の収納室からキャンプギアを必要な分だけ取り出し、外へ運びこむだけ。(料理は、シンブルバーナーの方が早いから出しておこう)今回は焚き火台で調理しないことに決めた。別で用意した調理器具は折り畳み式のガスバーナーにして、お湯を沸かす方法で取り組もうと思う。メッシュタープを立て終えた後は、いつもの配置でテーブルなど順番
——タイマーの待ち時間、彼は私たちの出会いを語ろうと提案してくれた。「俺らって、初めて会ったのは何年前だっけ?」「確か……」そう、あれは出版社の創立記念パーティーのこと。「乾杯!」私は当時、編集社員としてまだ一年か二年目くらいの頃だった。重要な事情がない限り、全社員はそのパーティーへ出席していた。(うぅ……。コミュ障の私にとって雪絵さんが
——ある記念日の前日。私と恭弥さんは、今スーパーで食材を買いに行っている。なぜなら、夫婦にとって重要なイベントの準備をしている最中だ。それは……次の日に行う私達の結婚記念日。いつもならレストランで予約を取ったりしている。けれど、今年はちょっとした事情があった。 ◇ ◆ ◇ ——遡ることある日、私が晩御飯を食べている時間