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ダイヤモンドは泣かない 〜可愛い顔したあの子に、もう奪わせない〜
ダイヤモンドは泣かない 〜可愛い顔したあの子に、もう奪わせない〜
Author: 藍沢咲良

Prologue〜肝油ドロップ缶〜

Author: 藍沢咲良
last update Petsa ng paglalathala: 2026-08-29 16:32:38

「深月《みづき》ちゃん。これ、あげる」

祖母は私に、白いビニール袋に入った昭和レトロな飴の缶をくれた。

白いビニール袋の上からうっすらと見えた文字は……「肝油ドロップ」

──何故?

「いらない」って言葉が喉元まで出かかった。

だめだめ、ここは孫として、”おばあちゃんの謎の贈り物”を受け取るのよ。

本当にいらなかったら、家でこっそり捨てればいい。

「ありがとう」

営業スマイル的な孫娘の笑顔、装着。

ちゃんと微笑んで受け取りましたよ?

一人暮らしのアパートの、私の部屋。

お風呂場に干していた洗濯物を片付けた頃、祖母から貰った謎の肝油ドロップ缶の存在を思い出した。

白いビニール袋から取り出す。

うわ。

ガムテープついてんじゃん。

開封済み。

うんやっぱいらない。

申し訳程度に一個ぐらい食べようか。

──蓋を開けると、ベルベットの青い箱と白い紙が二つ折りになって入っていた。

ベルベットの箱を開ける。

うわ。

箱の中には、直径1㎝はあるだろう大きなダイヤモンドが、ごついプラチナの台座に鎮座していた。

喧嘩するときに装着したら相当強そうな、痛そうなプラチナのリング。

試しに指に着けてみる。

……うん、ごつい。

そして重い。

何これ指の筋トレ?

白い紙は、カレンダーの裏紙だった。

『困ったときに使ってネ。黒瀬栄子』

黒瀬栄子。

私の祖母の名前だ。

黒瀬は母方の実家の名字。

私の名字は時國《ときくに》。

時國深月。

それが、私の名前だ。

……おばあちゃん。

私、今、困ってる。

このダイヤをどうしたらいいのよ⁈

静かにベルベットの箱に戻す。

そ·っ·閉·じ·ってやつ。

カレンダーの裏に書かれたメッセージも折りたたんで、肝油ドロップの缶に入れた。

ガムテープ付きの蓋は……まあ、いいか。

このままにしておこう。

白いビニール袋はもう捨てていいよね。

どうすんのこれ。

とりあえず見なかったことにするべき?

せっかく直径1cm超えなのに。

こんなゴツい台座じゃ、どう考えても着けられない。

肝油ドロップの缶にしまう。

クローゼットの中の、引き出しになっている衣装ケースの一番奥に入れてみた。

どうすんのこれ。

現実逃避に昨日読み終わった漫画でも読んでみる?

それともダイヤの存在全無視して晩ごはんでも作ろうか。

そもそもこれ、どうしておばあちゃんは私にくれたのだろう?

スマホが光った。

母からのLINEだ。

『もらった?』

『ダイヤのこと?』

『そう。おばあちゃんがね、深月にあげたいって話してたの』

『これ、お母さんが貰わなくて良かったの?』

『お母さんが貰ったら、お父さんに取られちゃったかもしれないでしょ』

……否定できない。

3年前に亡くなった父は、宝飾品や株に価値を見出さない人だった。

「現金じゃないなら、そんなの死に金だ!俺に任せてみろ。すぐ倍にしてやる!」

そんなことを平気で言う人だった。

なんで母がこの父と結婚したのかは未だにわからない。

当時お見合いをしたとしか聞いていない。

このダイヤを私が貰うことについて、母と祖母との間で話がついているなら、それでいいや。

母の話によると、黒瀬の祖父は昭和当時、かなりのバブリーだったそうで。

「大きなダイヤが欲しい」と外商さんに話したところ、このダイヤの指輪が出てきたらしい。

当時小学生だった母は、その指輪をこっそり着けて習字教室に行ったり、デパートに行っていたらしい。

怖すぎる。

小学生当時のうちの母、こんなでかいダイヤの指輪つけて出歩くとか。

このサイズだと、そもそも本物だって周りの大人は思わなかったのかもしれない。

ガラス玉に見えたとか。

社会人3年目、一人暮らしのOLのアパートの部屋に、宝石箱なんて無い。

──司《つかさ》にだけは、見られない方がいい。

藤崎《ふじさき》司。

2歳下の、私の彼氏。

最近手癖の悪さが露呈してきた。

ATMで下ろしたはずの一万円札。

2枚あったはず。

絶対にあったはずなのに、司が部屋に泊まって朝起きたら減っていた。

代引きの荷物のために下ろしたはずのお金。

まだ宅急便が来ていないのに減っているのは明らかにおかしい。

先日、司が盗んだことを前提として会話していたら「そりゃ盗《と》ったけど」と自白した。

あれ以来、司をこの家に呼んでいない。

でも問題がひとつ。

司は、この部屋の合鍵を持っている。

だからあのダイヤは、絶対に司に見つかってはいけない。

おばあちゃん、謎の肝油ドロップ缶に入れておいてくれてありがとう。

これなら、衣装ケースの奥深くにあっても、司にはバレないもんね。

自分の家なんだけどな。

何で隠さなきゃいけないんだろう。

家の中に泥棒がいる。

そういうことだ。

何で付き合ってるかって?

わからない。

もうよくわからない。

いなくなったら寂しいから?

「──いや深月。それ、別れた方がいいって」

職場の食堂。

大学からの友達で同僚の高瀬《たかせ》環《たまき》は顔をしかめた。

ダイヤの話をしたわけではない。

「最近一緒に食事するとき、財布すら出さなくなった。毎回私が奢らされてる」ってこぼしただけだった。

「うん、そうだよね……」

私の抱いていた違和感は間違っていなかったか。

第三者から見ても、司の行動はおかしい。

「そうですよ。深月先輩は、もっと大事にしてくれる彼氏の方が似合いますって」

4月入社の新卒ちゃん、小川《おがわ》日菜《ひな》も続いた。

配属されてすぐ、私が教育係に任命された。

まだ私3年目なんだけど。

いいのかな?

教育係なんて引き受けて。

課長に言われたときは少し抵抗があった。

やっと自分の仕事が、少し余裕を持ってできるようになったばかりなのにって。

言いくるめられた感はあった。

でも、日菜ちゃんが慕ってくれているのがわかるから、引き受けて良かったと思っている。

環は環で、商品開発部の人達からよく声を掛けられている。

営業よりも開発を志望していた環は、そのうち商品開発部に異動するんだろうな。

希望はずっと出しているらしい。

環がいなくなったら、私は少し不安だ。

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