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5_3.結婚準備

last update Dernière mise à jour: 2025-12-22 11:00:51

ガラスのショーケースに飾られた結婚指輪を見つめながら、私の心は静かに沈んでいった。

キラキラ光る指輪はどれも素敵だとは思う。でも、あまり好きなデザインではなかった。

雑誌で見た、憧れのキラキラした指輪。繊細な彫りが入っていたり、宝石が散りばめられて輝いていたり……。

でも、そういう指輪はここには置いていなかった。

デザインは違えど、どれも似たり寄ったりなもの。パッと目を引くものもない、良く言えばとても無難な結婚指輪。悪く言えば、代わり映えのしない地味な指輪。

だけど、どんなに不満でも、ここで買うしかないのだ。それが式場の決まりだから。残念なことに、それ以外の選択肢はない。例外は認められない。あるものの中から、選ばなくてはいけない。

「……じゃあ、私はこれがいいかな」

「俺はこっちがいい」

二人の意見は見事に分かれた。

あれもこれも妥協してきた。

式場も、指輪の店も。

本当は、いろんなお店を見て回りたかった。ドレスの試着をして、ランチを楽しんで、指輪を選んで。私は、そんな時間を夢見ていたんだ。

でも現実は、どんどん理想から遠ざかっていく。あり得ないほど、自分の気持ちとは反対方向に動いていく。

だからこそ、この指輪だけは妥協したくなかった。

せめて、ここだけは自分の気持ちを通したい。

ガラス越しに見える指輪はどれも輝いているのに、私の心はくすんだままだ。

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