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あさの紅茶
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Novels by あさの紅茶

君と奏でるトロイメライ~今度こそ君を離さない~

君と奏でるトロイメライ~今度こそ君を離さない~

山名春花 ヤマナハルカ(25) × 桐谷静 キリタニセイ(25) ピアニストを目指していた高校時代。 お互いの恋心を隠したまま別々の進路へ。 それは別れを意味するものだと思っていたのに。 七年後の再会は全然キラキラしたものではなく何だかぎこちない……。 だけどそれは一筋の光にも見えた。 「あのときの続きを言わせて」 「うん?」
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Chapter: 君と奏でるトロイメライ 08
「手首を捻挫してからどうしても上手く弾けなくて。こんな状態で人に教えているのが苦しくて辞めさせてもらったの。生徒さんたちには申し訳なかったんだけど……」マグカップに口をつけながら、春花は困ったように眉を下げた。「時間をかけながら生徒さんたちを説得したって、店長さんから聞いたよ」「そっか……」葉月には、自分の居場所を静に言わないでほしいとお願いしていた。静の中から自分の存在が消えたら良いのにとさえ思っていた。なのに今こうして会えて嬉しい気持ちになっている。こうして捜してもらえたことに感激さえしている。なんて矛盾した気持ちなのだろう。目が合って、ふわりと柔らかく微笑む静。 春花はそんな静を求めるように胸が震えた。「保育士になったんだね」「うん。なんだかんだピアノが忘れられなくて。ちょうどここの求人を見つけて、リトミックに力をいれてるし保育士免許も持ってたし、ダメ元で受けてみたんだ。それでまた子供達の前でピアノを弾いて、一緒に歌って、ああなんかいいなって思った」「そっか、これが春花の天職だったんだ」「そう、なのかな? だけど……」言いかけて春花は言い淀む。一度目を伏せてから、静を窺うように見つめる春花に、静は首を傾げた。「うん?」「今日、静と弾いたトロイメライが一番楽しかった。静に敵うものは何もなくて。本当に嬉しくて、楽しくて。ずっと弾いていたいって思った。静が来てくれたのが嬉しかった」「俺は後悔してたよ。あの時なんですぐに日本に帰らなかったんだろうって。なんで海外に行ったんだろうって。もう後悔はしないって決めたはずなのに。春花に会いたくてたまらなかった」「今さら、こんなこと我がままだと思うけど……。私……、静とずっと一緒に……いたい」「春花」ぐっと手を引かれ、春花は座ったまま前のめりになる。静に抱きとめられポスンと胸の中に納まった。「俺も一緒にいたい」「いいのかな、私で」「いいんだよ。春花じゃなきゃダメだ。もう絶対離さないから。俺と結婚してください」きつく抱きしめられながら春花は静のぬくもりに酔いしれる。 すれ違っていた想いはまたひとつになって、やがて涙となった。「……はい」雫がキラキラと頬を伝う。 そのまま交わした口づけは、甘く蕩けるようで、そしてすこし涙の味がした。 【END】
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-05-12
Chapter: 君と奏でるトロイメライ 07
◇小さく古い一軒家。少し錆びている門を開けると、油が切れかけているのかキィと小さく鳴った。玄関を入ると、なんだか懐かしい香りがする。「ここ、おばあちゃんちなの。空き家になってたところを借りたんだ。まわりは山に囲まれて、自然がいっぱいでのんびりしてるでしょ」前に住んでいた場所とはまるで違う。人も街も時間の流れさえもゆったりと感じられ、まとう空気も澄んでいるようだ。裏手にはだだっ広い庭が広がる。リビングに通されると「座ってて」と言われ、静は素直に従う。すぐ横にはキッチンがあり、一人暮らしの慎ましやかな生活が見てとれた。物はあまり多くないところが春花っぽい。ふいに指先にふわっとした感触があり、目線を落とす。「ニャア」「……トロ、元気だったか?」体を擦り付けるようにしたトロは、頭を撫でられ気持ち良さそうにゴロゴロと鳴いた。ポットでコーヒーを淹れる、コポコポとした音でさえ耳に優しく響いてくる。とても静かな環境に、静は大きく深呼吸をした。春花がいてトロがいて、部屋の片隅には使い込まれた電子ピアノ。そんな緩やかな感覚が妙に心地好い。静の目の前にマグカップがコトリと置かれる。一緒に住んでいた頃には何とも思わなかった行動ひとつが、今はとても愛おしく感じられた。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-05-11
Chapter: 君と奏でるトロイメライ 06
宣言通り、春花の退勤時に迎えに来た静は、春花の姿を捉えると柔らかく微笑んだ。春花はどんな顔をしていいかわからず、ぎこちなく笑う。「あ、そうだ。海外公演大成功おめでとう!」「ありがとう」「すごいね。ニュースで見たよ。やっぱり静はすごいなって思った。これからどんどん活躍していくんだろうね」静が活躍する姿を想像すると胸が震える。本当に凄い人が近くにいるものだと他人のことのように思った。突然、ぐっと腕が引っ張られ、春花はよろける。そのままガシッと抱きしめられたことに心臓がバクンと跳ねた。「そういうこと言うなよ」「静?」「俺はどんな栄誉よりも春花と奏でるピアノが一番好きだ。どんなに練習してもどんなに素晴らしい人と共演しても、春花と弾くピアノが一番楽しくてわくわくして、心が踊る」静の胸の中で聴く静の言葉は、嬉しくてそして悲しい。何も言えないでいると、額にしずくが落ちてきて春花は驚いて顔を上げた。「……静?」「好きなんだ、春花。ずっと一緒にいたい」「……嬉しいけど、静はこれからもっと活躍していくでしょう。だから……」「そうやって身を引こうとするな。メイサからすべて聞いたよ。春花が犠牲になることは何もないんだ。春花の犠牲の上でいくら立派な賞を取ったって何も嬉しくない。春花が隣にいてくれないとダメなんだ」ぽとりと落ちた静の涙は、やがて春花の視界すらもぼやけさせていく。「バカだよ、静は」「うん。でも春花ほどじゃない」「なによそれ……」春花は静の背中に手を回す。胸に顔を埋めると、懐かしい香りに包まれた。それがとても心地良い。春花の大好きな匂いだ。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-05-10
Chapter: 君と奏でるトロイメライ 05
「せんせーすごーい!」「素敵な演奏をしてくださった桐谷さんと春花先生に、ありがとうの拍手をしますよ」園長先生の掛け声とともにパチパチと拍手が送られる。 貴重な体験をした園児たちはその後も春花と静に群がり、やがて保育士たちに諫められて順番に教室へ戻って行くため列を成した。「突然のお願いだったのに、引き受けて下さりありがとうございました」「いえ、こちらこそ不審者のようにウロウロしてしまって申し訳ありません。お騒がせしました。実は僕は春花さんと同級生で、春花さんに会うためにここに来ました」「春花先生に?」「ずっと捜していたんです。春花さんは僕の初恋の人だから」園長と静が会話しているのを、聞き耳を立てながら園児たちの誘導をしていた春花だったが、静の発言により思わず足が止まる。こっそりと静を窺うが、その視線はバッチリと捉えられ逸らすことを許されない。「春花、仕事が終わるまで外で待ってる。迎えに来るから」頷くことはできなかったが、頬がピンクに染まってしまったことでハッと我に返り、そのまま春花はそそくさと園児たちと教室に戻った。「春花先生、そこのとこ詳しく!」「なれ初め教えてください」「後で話聞かせてよ~」と同僚の先生方に声を掛けられ、春花はかつてないほどに戸惑った。どうしてこうなったのだろう。意味が分からない。そんなことを漠然と思いつつも、静に会えた喜びが後からじわじわと押し寄せてきて、また泣きたい気持ちになった。(私はまだこんなにも静が好きなんだ)自分から離れたのに。 誰よりも応援するために離れたのに。 会えたことがこんなにも愛しく感じるなんて。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-05-09
Chapter: 君と奏でるトロイメライ 04
「さあさあ、次で最後にしましょう」「え~! もっとひいてよ~」園長先生が声をかけると、園児たちから一斉に不満の声がわき上がった。思ったより大盛況になったコンサートに、静もニコニコと対応する。「じゃあ、最後は先生と一緒に弾いてもいいかな?」緩やかに声をかけた静の視線は、まっすぐに春花をとらえていた。目があった春花は内心ドキリとする。「春花、連弾で。トロイメライ」「……え」指名されたことに戸惑い動けないでいると、「はるかせんせ~」「ひいてひいて~」と、園児たちが口々に騒ぎ出す。それでも動けないでいると、今度は園児が春花の手を引っ張って静の元へと連れていった。静は春花をエスコートしてくれた園児たちに「ありがとう」とお礼を言うと、春花の肩を持って椅子に座らせる。大人しくストンと座った春花だったが、「……静」「春花」柔らかく名前を呼ばれ、その甘くて痺れるような声に心がザワザワと揺れ動いた。「いくよ」静のすうっという呼吸音に身がピリッと引きしまった。静のリズムに合わせて自然と指が動く。あんなに違和感があった左手首も、全く気にならない。静が隣にいるという安心感は絶大なものだった。(……楽しい!)演奏しながら、いつしか春花は笑顔になっていた。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-05-08
Chapter: 君と奏でるトロイメライ 03
子どもたちが遊戯室に集まる。遊戯室にはピアノがあり、舞台の真ん中に設置された。 園長が「みなさーん」と声をかける。ざわざわしながらも子供たちは「はーい」と元気よく返事をした。「今日は、ピアニストの桐谷静さんが来てくれましたよ。桐谷さんはピアノがとても上手なんですよ。みんなの知っている曲はあるかな?」園長が説明すると、最初キョトンとしていた園児達もあれやこれやと歓声がわいた。ザワザワとした遊戯室。 今から何が始まるのだろうと期待に満ち溢れた園児達。 大舞台に慣れている静でも、少しばかりプレッシャーを感じてしまう。なぜならそこに春花がいるからだ。ピアノの前に出てお辞儀をすると、パチパチと子供たちが拍手をした。子供たちの陰に隠れるように座る春花を確認してから、椅子に座る。ポロロン……と演奏が始まると、ざわざわしていた園児達は耳を澄ますようにしんとなった。「これしってる!」「あー!きいたことあるー!」演奏が進むにつれ、メロディに合わせて歌い出す子、リクエストする子も現れ、楽しそうな声が遊戯室にこだまする。春花はどうしたらいいかわからず、ぼんやりと静の演奏を聴いていた。(どうして静がここにいるの? どうして戻ってきたの?)ぐるぐる回る思考に考えが追い付かない。園児たちに囲まれて楽しそうにピアノを弾く静。タキシードを着ていなくても髪をきっちりセットしていなくても、そこに存在しているだけで眩しく輝いている。そんな彼を見て、泣きそうになった。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-05-07
泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜

泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜

石原紗良(25) 甥っ子(4)を育てる一児の母。 滝本杏介(27) プール教室の売れっ子コーチ。 紗良の働くラーメン店の常連客である杏介は、紗良の甥っ子が習うプール教室の先生をしている。 「あっ!常連さん?」 「店員さん?」 ある時その事実にお互いが気づいて――。 いろいろな感情に悩みながらも幸せを目指すラブストーリーです。
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Chapter: 番外編③ シアワセノカタチ-11
カシャカシャカシャッその音に、紗良と杏介は振り向く。そこにはニヤニヤとした海斗と、これまたニヤニヤとしたカメラマンがしっかりカメラを構えていた。「やっぱりチューした。いつもラブラブなんだよ」「いいですねぇ。あっ、撮影は終了してますけど、これはオマケです。ふふっ」とたんに紗良は顔を赤くし、杏介はポーカーフェイスながら心の中でガッツポーズをする。ここはまだスタジオでまわりに人もいるってわかっていたのに、なぜ安易にキスをしてしまったのだろう。シンデレラみたいに魔法をかけられて、浮かれているのかもしれない。「そうそう、海斗くんからお二人にプレゼントがあるんですよ」「えっへっへー」なぜか得意気な顔をした海斗は、カメラマンから白い画用紙を受け取る。紗良と杏介の目の前まで来ると、バッと高く掲げた。「おとーさん、おかーさん、結婚おめでとー!」そこには紗良の顔と杏介の顔、そして『おとうさん』『おかあさん』と大きく描かれている。紗良は目を丸くし、驚きのあまり口元を押さえる。海斗とフォトウエディングを計画した杏介すら、このことはまったく知らず言葉を失った。しかも、『おとうさん』『おかあさん』と呼ばれた。それはじわりじわりと実感として体に浸透していく。「ふええ……海斗ぉ」「ありがとな、海斗」うち寄せる感動のあまり言葉が出てこなかったが、三人はぎゅううっと抱き合った。紗良の目からはポロリポロリと涙がこぼれる。杏介も瞳を潤ませ、海斗の頭を優しく撫でた。ようやく本当の家族になれた気がした。いや、今までだって本当の家族だと思っていた。けれどもっともっと奥の方、根幹とでも言うべきだろうか、心の奥底でほんのりと燻っていたものが紐解かれ、絆が深まったようでもあった。海斗に認められた。そんな気がしたのだ。カシャカシャカシャッシャッター音が軽快に響く。「いつまでも撮っていたい家族ですねぇ」「ええ、ええ、本当にね。この仕事しててよかったって思いました」カメラマンは和やかに、その様子をカメラに収める。他のスタッフも、感慨深げに三人の様子を見守った。空はまだ高い。残暑厳しいというのに、まるで春のような暖かさを感じるとてもとても穏やかな午後だった。【END】
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-23
Chapter: 番外編③ シアワセノカタチ-10
その後はスタジオ内、屋外スタジオにも出てカメラマンの指示のもと何枚も写真を撮った。残暑の日差しがジリジリとしているけれど、空は青く時折吹く風が心地いい。汗を掻かないようにと木陰に入りながら、紗良はこの時間を夢のようだと思った。「杏介さん、連れてきてくれてありがとう」「思った通りよく似合うよ」「なんだか夢みたいで。ドレスを選んでくださいって言われて本当にびっくりしたんだよ」「フォトウエディングしようって言ったら反対すると思ってさ。海斗巻き込んだ壮大な計画」「ふふっ、まんまと騙されちゃった」紗良は肩をすくめる。騙されるのは好きじゃないけれど、こんな気持ちにさせてくれるならたまには騙されるのもいいかもしれない。「杏介さん、私、私ね……」体の底からわき上がる溢れそうな気持ち。そうだ、これは――。「杏介さんと結婚できてすっごく幸せ」「紗良……」杏介は目を細める。紗良の腰に手をやって、ぐっと持ち上げた。「わあっ」ふわっと体が浮き上がり杏介より目線が高くなる。すると満面の笑みの杏介の顔が目に飛び込んできた。「紗良、俺もだよ。俺も紗良と結婚できて最高に幸せだ」幸せで愛おしくて大切な君。お互いの心がとけて混ざり合うかのように、自然と唇を寄せた。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-22
Chapter: 番外編③ シアワセノカタチ-09
カシャッ「じー」小気味良いカメラのシャッター音と、海斗のおちゃらけた声が同時に聞こえて、紗良と杏介はハッと我に返る。「あー、いいですねぇ、その寄り添い方! あっ、旦那様、今度は奥様の腰に手を添えてくださーい」「あっ、はいっ」カシャッ「次は手を絡ませて~、あっ、海斗くんはちょっと待ってね。次一緒に撮ろうね~」カシャッカメラマンの指示されるがまま、いろいろな角度や態勢でどんどんと写真が撮られていく。もはや自分がどんな顔をしているのかわからなくなってくる。「ねえねえ、チューしないの?」突然海斗がとんでもないことを口走るので、紗良は焦る。いくら撮影だからといっても、そういうことは恥ずかしい。「海斗、バカなこと言ってないで――」と反論するも、カメラマンは大げさにポンと手を叩いた。「海斗くんそれいいアイデアです!」「でしょー」カメラマンと海斗が盛り上がる中、紗良はますます焦る。海斗の失言を恨めしく思った瞬間。「海斗くん真ん中でパパママにチューしてもらいましょう」その言葉にほっと胸をなで下ろした。なんだ、それなら……と思いつつ、不埒な考えをしてしまった自分が恥ずかしくてたまらない。「うーん、残念」杏介が呟いた声は聞かなかったことにした。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-21
Chapter: 番外編③ シアワセノカタチ-08
ウエディングドレス用の、少しヒールのある真っ白なパンプスに足を入れた。かかとが上がることで自然と背筋もシャキッとなるようだ。目線が少しだけいつもより高くなる。「さあ、旦那様とお子様がスタジオでお待ちですよ」裾を持ち上げ、踏んでしまわないようにとゆっくりと進む。ふわりふわりと波打つように、ドレスが繊細に揺れた。スタジオにはすでに杏介と海斗が待っていた。杏介は真っ白なタキシード。海斗は紺色のフォーマルスーツに蝶ネクタイ。紗良を見つけると「うわぁ」と声を上げる。「俺ね、もう写真撮ったんだー」紗良が着替えて準備をしている間、着替えの早い男性陣は海斗の入学記念写真を撮っていた。室内のスタジオだけでは飽き足らず、やはり屋外の噴水の前でも写真を撮ってもらいご満悦だ。海斗のテンションもいい感じに高くなって、おしゃべりが止まらない。「紗良」呼ばれて顔を上げる。真っ白なタキシードを着た杏介。そのバランスのいいシルエットに、思わず見とれてしまう。目が離せない。「とても綺麗だよ。このまま持って帰って食べてしまいたいくらい」「杏介さん……私……胸がいっぱいで……」紗良は言葉にならず胸が詰まる。瞳がキラリと弧を描くように潤んだ。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-20
Chapter: 番外編③ シアワセノカタチ-07
そんなわけであれよあれよという間に着替えさせられ、今はメイクとヘアスタイルが二人のスタッフ同時に行われているところだ。あまりの手際の良さに、紗良はなすすべがない。大人しく人形のように座っているだけだ。(私がウエディングドレスを着るの……?)まるで夢でも見ているのではないかと思った。海斗を引き取って、一生結婚とは無縁だと思っていたのに、杏介と結婚した。そのことすらも奇跡だと思っていたのに。結婚式なんてお金がかかるし、それよりも海斗のことにお金を使ってあげたいと思っていたのに。そのことは杏介とも話し合って、お互い納得していたことなのに。今、紗良はウエディングドレスに身を包み、こうして花嫁姿の自分が出来上がっていくことに喜びを感じている。こんな日が来るなんて思いもよらなかった。この気持ちは――。嬉しい。声を大にして叫びたくなるほど嬉しい。ウエディングドレスを身にまとっているのが本当に自分なのか、わからなくなる。でも嬉しい。けれどそれだけじゃなくて、もっとこう、心の奥底からわき上がる気持ちは一体何だろうか。紗良の心を揺さぶるこの気持ち。(早く杏介さんと海斗に会いたい)心臓がドキドキと高鳴るのがわかった。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-19
Chapter: 番外編③ シアワセノカタチ-06
鏡に映る自分の姿がどんどんと綺麗になっていく様を、紗良はどこか他人事のようにぼんやりと見つめていた。一体どうしてこうなったのか。海斗の入学記念写真を撮ろうという話だったはずだ。それなのにウエディングドレスを選べという。掛けられていた純白のウエディングドレスは、そのどれもが繊細な刺繍とレースでデザインされている。素敵なものばかりで選べそうにない。「どうしたら……」ウエディングドレスを着ることなんて、これっぽっちも考えたことがなかった。だから果たしてこんなに素敵なドレスが自分に似合うのか、見当もつかない。ドレスを前にして固まってしまった紗良に「ちなみに――」とスタッフが声をかける。「旦那様の一押しはこちらでしたよ」胸元がV字になって、透け感レース素材と合わせて上品な雰囲気であるドレスが差し出される。肩から腕にかけては|五分《ごぶ》くらいのレースの袖が付いており、デコルテラインがとても映えそうだ。レース部分にはバラの花がちりばめられているデザインで、それがまるで星空のようにキラキラと輝く。純白で波打つようなフリルは上品さと可憐さが相まってとても魅力的だ。「でも自分の好みを押しつけてはいけないとおっしゃって、最終的には奥様に選んでほしいとこのようにご用意させていただいております」そんな風に言われると、もうそれしかないんじゃないかと思う。杏介の気持ちがあたたかく伝わってくるようで、紗良は自然と「これにします」と答えていた。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-03-18
強引な後輩は年上彼女を甘やかす

強引な後輩は年上彼女を甘やかす

社内で高嶺の花と言われる朱宮姫乃(29) 彼氏いない歴=年齢なのに、彼氏がいると勘違いされてずるずると過ごしてきてしまった。 「じゃあ俺が彼氏になってあげますよ。恋人ができたときの練習です」 そう協力をかって出たのは後輩の大野樹(25) 練習のはずなのに、あれよあれよと彼のペースに巻き込まれて――。 恋愛偏差値低すぎな姫乃を、後輩の樹が面倒を見るお話です。
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Chapter: 04_2 初デート 姫乃side
博物館は自然の中にあって、そよそよと流れる風が木々を揺らし空気が澄んでいる。私はこの空気感がとても好き。博物館はよく一人で来るので、気を抜くとこれがデートだということを忘れてしまいそうになる。「常設展も好きだけど今は特別展がやってて、見に来たかったの」チケット売場で”常設展+特別展”というお得なセット券を買って、私はウキウキだ。そんな私を見て、大野くんは静かに笑っていた。「姫乃さん、面白すぎる」「えっ、また何か間違えた?」「間違ってないですよ。正解はないけど、行きたいところ、水族館とか遊園地とか言うかと思ったのに、デートで博物館って。渋いよね」「はっ!」確かに、言われるとそうなのかもという気になってくる。 やばい、間違えた。私ったら自分の趣味全開でどうするの。これはデートだったのに。いや、でもデートってどんな……?「デートしたことないからわからなくて……」ゴニョゴニョと語尾が小さくなる。もっとデートのこと調べておけばよかった。 もっと妄想ふくらませておけばよかった。せっかく大野くんがデートの練習を提案してくれたのに。「ちょっと待って。嘘でしょ?」「何が?」「姫乃さん、デートしたことないの?」「そうだよ。だから練習したいんだってば。もう、これ以上辱しめないでっ」目を丸くして驚く大野くんの背を押して、無理やり特別展の入口まで連れていった。これ以上この話を深掘りしてほしくない。世間知らずだって幻滅されたら嫌だもの。「はいはい、わかったわかった。じゃあ姫乃さん、デートなんだから俺のことは名前で呼んでよ」「ええっ!」「彼氏のこと名字で呼ぶ? 呼ばないよね?」……そうなの? だったら名前で呼ぶのが正解、よね?恥ずかしい。無性に恥ずかしい。 けど、勇気を出して口にした。「……樹くん」「はい、よくできました。じゃあ行きましょう」慣れなくて困惑する私に対して、樹くんは涼しい顔をしている。 すでに経験の差が現れているようだ。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-06-16
Chapter: 04_1 初デート 姫乃side
大野くんとのデートの日。 デートという言葉に踊らされているのだろうか、なかなか寝つけなかったし朝も早くに目が覚めてしまった。デートってどんな服を着ていけばいいのだろう。デートなんてしたことがないからわからない。散々洋服を出し入れして考えたあげく、結局出勤時と変わらない服になってしまった。理想だとかやってみたいことはたくさんあるけど、これは練習なんだから、ダメなところは大野くんに指摘してもらえばいいのだ。そうだ、そういうことなんだよ。というわけで、私がデートに選んだ場所は博物館だ。 デートっぽく待ち合わせをしたいと思って博物館前集合って決めたのに、マンションを出たところでさっそく大野くんに出会ってしまった。「あ……おはよう」「おはようございます。一緒に行きますか」「そうだね。そうしよう」意気込んでいたのに拍子抜けしてしまって、何だかくすぐったくて笑えてしまう。待ち合わせのときめきはなくなってしまったけれど、これはこれで何かいいな。……って、私ったらものすごく楽しみにしてるみたいじゃないか。大野くんは私の練習に付き合ってくれてるだけなのに。平常心、平常心。 落ち着け私。落ち着け、落ち着け。電車は意外と混んでいて、座る場所がない。大野くんは私を端っこに寄せて、吊革を握る。会社で見る大野くんはスーツを着ているから、私服がなんだか新鮮。カジュアルなシャツにパンツ、スニーカー。背が高いから私よりも目線が上。大野くんってイケメンだな……なんて眺めていたら、急に電車がガタっと揺れて勢いのまま大野くんの胸にダイブした。「うぐっ!」思い切り鼻をぶつけた。大野くんが「大丈夫?」と覗き込んでくる。 うわー、めちゃくちゃ恥ずかしい。 大丈夫大丈夫と鼻を擦っていると、くすりと笑われてしまった。「ぼんやりさん」「だって電車が急に揺れるんだもの」「はいはい、つかまっててください」そう言われたので大野くんの袖を掴んだ。 大野くんは一瞬目を見開いて「そこかー」と呟く。 何か間違えたらしい。慌てて手を離そうとしたけれど、「それでいいです」と微笑まれたので、そのまま掴んだ。うーん、デートって、難しい。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-06-14
Chapter: 03_4 しょうがないな 樹side
「今まで人を好きになったことないんですか?」「うーん……」これまた真剣に考え始める。こちらが頭を悩ませそうなくらいに頭を悩ませている。そもそも姫乃さんは人気があるのだから、彼氏募集中ですなんて言った日にはあちらこちらから声がかかるに決まっている。それはもう、いい男から悪い男まで、姫乃さんを自分のものにしたいやつがわんさかと……。そこまで考えて、それは嫌だなと思った。姫乃さんがぼんやりしている人だということを知っているのは俺だけでいい。姫乃さんが綺麗だけじゃなくて可愛いということも、俺だけが知っていればいい。誰にも知られたくない、独占欲というやつがわいた。だったらどうしたらいい?姫乃さんを俺の手元に置いておく方法。「しょうがないな、じゃあ俺が彼氏になってあげますよ」「ええっ!」「いろいろ練習したいでしょ?」「練習?」「恋人ができたときの練習ですよ」こうすれば姫乃さんを俺のものにできる。姫乃さんは押しに弱いから、絶対頷くと思った。姫乃さんが他の男のものになるのが考えられなくて、そう提案した。けれどそれは俺が姫乃さんを好きだともとれるわけで……。姫乃さんを好きかどうか。考えたこともなかったけど、好きなのかもしれないなと思う。やばいな、俺の考えもぼんやりしている。姫乃さんに流されているのかもしれない。そんな俺の気持ちにはまったく気づいていない様子の姫乃さんは百面相のように表情を変えたあと、「よろしくおねがいします」とカタコトに頷いた。調子に乗った俺はデートをしようと提案した。これまた顔を真っ赤にして動揺しているのだが、いったい何を想像しているのだろう。行きたいところがあるとやたらテンションが高くなった姫乃さんは、いつもとはまた違った、子供のように楽しそうな顔をして笑った。微笑ましすぎてこちらもつられて笑った。なんだかとても心が浮ついた。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-06-13
Chapter: 03_3 しょうがないな 樹side
だいたい、なぜまわりは姫乃さんのぼんやりさに気が付かないのだろう。 完璧だとか高嶺の花という言葉が先行して、そういう固定した目で見ているからだろうか。姫乃さんは彼氏の話になると、とたんに動揺するというのに。「ねえ、大手企業のエリート彼氏がいるって?」「ぐっ!」「同棲を始めて結婚も秒読みなんだ?」「げっほっ!」ゴホゴホとむせ返る姫乃さんに水を手渡す。 ほら、この動揺の仕方。こんなにわかりやすいというのに、なぜ気づかない? けれど逆に言えば俺だけが知っている姫乃さんということにもなって、なぜか優越感がわいた。「そうだよ、彼氏いないもの」「別にいいんじゃないですか? 何か問題でも?」「だって私もういい年だし、いい加減彼氏作らないと行き遅れちゃうよ」口調から必死さが伝わってくる。行き遅れるだなんて、姫乃さんなんて引く手あまただろうに、何を言っているのだろう。もしかして理想が高すぎるのだろうか。それとも以前は本当に大手企業のエリート彼氏がいて同棲までしていたとか?「じゃあ作ればいいじゃん」姫乃さんならすぐできるでしょう、という意味で言ったのだけど。「どうやって? 彼氏ってどうやったらできるの?」真剣な顔で訊き返されて、逆に言葉に詰まった。 必死さが更に強まった感じだ。「姫乃さんマジで言ってます? 今まで誰かと付き合ったことないんですか?」素朴な疑問だったのに、姫乃さんは一瞬で顔が真っ赤に色づいた。 マジか。嘘だろう?
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-06-12
Chapter: 03_2 しょうがないな 樹side
昨日は姫乃さんの部屋にお邪魔したので、今日は俺の部屋に誘った。 姫乃さんは何の疑いもなくヒョコヒョコ着いてくる。大丈夫か、男の家だぞ? 警戒も何もあったもんじゃないし、下心やあざとさなんて微塵も感じられない。ダメだ、姫乃さんは天然なのかもしれない。まあ、俺とて襲う気はないけど。「何かお手伝いを……」そういう姫乃さんをソファに押し込めた。昨日は作ってもらったから、今日は俺が作ろうと決めていた。それに隣に来られると無駄に緊張するからやめてほしい。大人しく座っていてくれたらいい。簡単なものしか作れないけど、失敗のないチャーハンと餃子にした。そういえば誰かに手料理を振舞うのは初めてかもしれない。あ、なぎさにはよく作ってやるけど。あれは身内だから別だ。姫乃さんはソファで人形のように綺麗に座っていた。 出来上がったチャーハンと餃子の皿をテーブルに並べると、とたんに嬉しそうな顔をする。「すごい、大野くん料理男子だね」「今時の男は作れて当たり前でしょ?」「そうなの? しっかりしてると思う」うんうんと頷きながらチャーハンを食べている。頬っぺた落ちちゃいそうとか言いながら頬を押さえる仕草は、綺麗と表現するのは違う。なんというか、とても可愛らしい、みたいな。 ほらまた、綺麗から可愛いに変わった。「姫乃さんがぼんやりしすぎ」「私、ぼんやりしてる?」きょとんとするので、俺は大きく頷く。 これがぼんやりしてないで、何だって言うんだ。すると姫乃さんは目をキラキラさせながらくしゃりと笑った。「うわー。初めて言われた。なんか嬉しい」なぜそこで喜ぶのか、意味不明。「変なの」「だって、まわりのみんなは私を完璧とか高嶺の花とか言うの。全然そんなんじゃないのに、どんどん話が大きくなっていく。私がちゃんと否定できたらいいんだけど、なんかタイミング逃しちゃうっていうか、流されるというか」確かに見た目は完璧で高嶺の花だと思う。俺も見ているだけならそう思っていたかもしれない。だけど姫乃さんを知れば知るほど、いい意味で綻びというのかボロが出るというのか、とにかくこの人はふわっとしていて隙だらけだ。「そういうところがぼんやりしてるよね」言えば、またくしゃりと笑った。 どうやら嬉しがっているようだ。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-06-11
Chapter: 03_1 しょうがないな 樹side
自分でもなぜそんな約束を取り付けたのか、理解しがたい。 姫乃さんと、毎日一緒に夕食を食べるという約束。ただなんとなく、姫乃さんを誰かにとられたくない独占欲が働いて……。って、まるでそれでは俺が姫乃さんを好きみたいじゃないか。だけど姫乃さんが会社では見せない表情をくるくる見せるたび、ドキリと胸が高鳴る。この人は本当はどんな人なのか、知りたくなる。もっと暴きたくなる。仕事中の姫乃さんはやはりいつも通りの姫乃さんで、姿勢よく真面目に業務に取り組んでいた。見た目、優等生タイプ。まわりの男性陣が姫乃さんの近くを通るたびにチラ見していく。「今日も綺麗だな」「俺たちの癒し」そんなことを呟きながら。 それには俺も同意する。姫乃さんは綺麗なのだ。柔らかい雰囲気が、見てるだけで癒されるし。定時を過ぎても姫乃さんは凛として仕事をしている。姿勢が崩れないのはすごいと思うけど、あれは世界に入って戻ってこないやつじゃないか?「姫乃さん、何時までやります?」「え? あっ! もう定時越えてる?!」声をかければ案の定、時計を見て驚く。完全に世界に入っていたな。 姫乃ワールド面白い。夕飯一緒に食べようと言ったら、頷きながら頬を赤らめた。 そんな姿が少しいじらしく感じられて、嬉しくなった。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-06-10
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