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第2話 木南カンナはお金を稼ぎたい

Author: 結城らい
last update Last Updated: 2025-11-27 19:12:21

 あれから一週間経ち――

「お兄ちゃん、お帰り」

「ノコ、ただいま」

 いつものようにバイトから戻ってきた俺は、すぐにでも布団に打ち倒れたいのを我慢して、妹のノコのため買ってきたお土産をビニール袋から取り出した。

「わ、アイス! いいの? お兄ちゃん」

「たまにはいいだろ。ほら、溶ける前に食べな」

 うちには冷蔵庫なんて贅沢品は無い。アイスの保管は出来ないので、すぐに食べなければいけない。

 ノコは、さっそく蓋を開けると、大福型のアイスを食べ始めた。

 それから、俺がただ黙ってニコニコ微笑みながら見ていることに気が付いたようで、首を傾げながら、こう尋ねてきた。

「お兄ちゃんのは? アイス無いの?」

「俺はいいよ」

「え、そんなのダメだよ。私だけなんて」

 大福型のアイスは二個入りだ。そのうちの一個を、ノコは俺に向かって差し出してきた。

「食べて。私、一個で十分だから」

「本当に、俺はいらないよ。ノコが全部食べな」

「私、二個も食べられない」

 まだ小学四年生だというのに、この気づかい。なんていい子なのだろう、ノコは。俺はじんわりと感動しながら、お言葉に甘えて、大福型のアイスを食べさせてもらった。

 久々に食べるアイスは、ヒンヤリ冷たくて、甘さが口の中に染み渡って、実に美味である。

 うちがもっと裕福だったら、こんなアイスくらい、毎日のように食べられるのに……。

 とにかくお金が無い。10年前、ノコが生まれて間もない頃、俺がまだ6歳の時に、親父は蒸発した。それからほどなくして、母さんは亡くなった。一度は親戚が助けてくれたものの、途中から、このボロアパートの家賃を払うことすら渋り始めて、結局、中学に上がった俺は、バイトで生活費を稼がなければならなくなった。

 もちろん、こんなガキの俺を雇ってくれるところなんて、正規のバイトでは存在しない。だから、違法な工事現場のバイトを頼るしかなかった。

 だけど、重要なのは、生活費のことだけではない。

「けほ、けほ」

 ノコが咳き込み始めた。

 俺は慌てて、部屋の片隅に置いてある吸入器を手に取ると、ノコに渡してやった。

 吸入器を使って、ノコは薬を吸い込む。すぐに、発作は収ったようだ。涙目にはなっているが、ノコはニッコリと笑った。

「ありがとう、お兄ちゃん」

 ノコは病気を抱えている。その治療費を稼ぐことは、生活費以上に大事なことだ。

 けれども、昨今は物価も上がってきている。政府はまた増税を検討しているそうだ。生活費だけで家計は逼迫しており、治療費を捻出するのもひと苦労。

 もはや、バイトだけでは回らなくなりつつある。

(やっぱり、Dライバー活動に活路を見出すしかないのか⁉)

 ダンジョンライバー。略してDライバー。

 3年前に世界各地でダンジョンが現れて、最初こそただ単に探索するだけの者達しかいなかったところへ、ある中国人がライブ配信に目をつけたことから、一気にブームとなったダンジョン配信。

 これからはダンジョン配信だ! とばかりに、後に続く者達が現れた。個人勢は数えきれないほどいるけど、特に優秀な奴は企業にスカウトされ、公認ダンジョンライバーとして活躍している。

 各国の政府は、特定の企業が力を持つことを危惧して、それぞれの国ごとにダンジョン攻略に規制をかけようとしているけど、なかなか法整備は進んでいない。

 この日本においても、ダンジョンへ入るのに許可制を設けよう、という案が政府の中から出てきているけど、各大企業の反発もあって、なかなか話がまとまらずにいる。でも、いつかは法が整備されて、自由にダンジョンへと潜ることが出来なくなる日も来るだろう。

 そうなる前に、俺は何としてでも、Dライバーとして名を上げて、お金を稼ぐ必要があった。

「ん? お兄ちゃん、電話来てるみたいだよ」

 ノコに言われて、俺はちゃぶ台の上に置いてあるスマホを見た。

 ブブブ、と震えている。

 画面には、知らない携帯番号。俺のスマホには、クラスメイトですらかけてくることが無いというのに、いったい、どこの誰がかけてきているのだろうか。

「はい、もしもし」

 電話に出ると、向こうから、女の子の声が聞こえてきた。

『あなた、木南きなみカンナね』

「どちら様でしょうか」

『まずはお礼を言っておくわ。この間は助けてくれてありがとう』

「えっと……マジで、どちら様?」

『忘れたとは言わせないわよ。一週間前、等々力渓谷ダンジョンで、ダイダラボッチから私のことを救ってくれたじゃない』

「あー、あの時のガトリング娘!」

 俺の勝手な呼び方に、ガトリング娘はムッとしたようだ。

『やめてよ、変なあだ名つけるの。私はアナスタシア。御刀みとアナスタシア。ナーシャって呼んでくれていいわよ』

「思い出した! そうか、お前が、あの有名な『ガトリング・ナーシャ』か!」

『馴れ馴れしく『お前』呼ばわりされる覚えは無いけど、まあ、いいわ。助けてもらった恩もあるし、その無礼は許してあげる』

「で? 登録者数1万超えの大人気Dライバーさんが、俺に何の用?」

『ちゃんと会ってお礼がしたいの。今日の夕方6時とか時間取れないかしら』

 一瞬、躊躇した。

 昔の経験から、他のダンジョン探索者やDライバーとは関わり合いになってはいけない、と思っている。

 だけど、御刀アナスタシアと言えば、最新鋭の兵器を作っている「御刀重工」の令嬢だ。つまり、大金持ちの娘。もしかしたら、お礼として大金を払ってくれるかもしれない。

 我ながらゲスな考えだとは思うけど、わかってほしい、それだけ俺はお金に困っているのだ。

「いいよ。どこに行けばいい?」

 こうして俺は、今絶好調で人気右肩上がりのDライバー・御刀アナスタシアと会うことになったのである。

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