LOGIN援軍が到着するまでの時間。 私の犠牲が、意味を持つための時間。 「連れていけ」 ヴァンスが護衛たちに命じた。 「象牙の間に閉じ込めろ。もし嘘をついていたら、私が直接始末する」 男たちは私の腕をつかみ、執務室から引きずり出した。 私は抵抗しなかった。 最後に一度だけ、ヴァンスを振り返る。 彼はダミアンの椅子に座り、空のUSBメモリを指先で弄んでいた。 勝利に酔いしれ、顔を歪めながら。 彼はまだ知らない。 自分がすでに負けていることを。 手にしているUSBメモリが囮であることを。 ダミアンがまだ生きていることを。 そして、私が彼を救うために、命を懸けていることを。 彼が勝利に酔いしれて無駄にする一秒一秒が、私の愛する男に与えられる一秒なのだ。 護衛たちは私を北翼へと引きずっていった。 象牙の間へ。 かつて、最初の裏切りのあと、三日間にわたって沈黙と空虚の中に閉じ込められた部屋へ。
私は声を震わせた。 恐怖は本物だった。 ただし、それは彼に対する恐怖ではない。 トンネルの中で、今も命を失いかけているダミアンへの恐怖だった。 「USBメモリを渡しました。今度は私を守ってください。ダミアン・クロスは死んだか、もう長くはないはずです。ホールで倒れるのを見ました。彼の部下たちは敗走しています。私はただ、生きてここを出たいだけなんです」 ヴァンスの唇に笑みが浮かんだ。 勝利を確信した笑み。 侮蔑と、これから味わう優越感を楽しむ笑みだった。 「ダミアン・クロスが死んだ?」 彼は首を傾けた。 「お前は、彼が死ぬところを見たのか?」 「倒れるところを見ました。何発も撃たれていました。もう立ち上がれないと思います」 ヴァンスは突然、笑い出した。 狂人のような笑い声が、荒れ果てた執務室に響く。 「聞いたか、クロス? 聞いたか? お前の大切なブランシュがお前を見捨てたぞ!」 彼は私を嘲笑いながら、さらに声を張り上げた。 「お前の伴侶も、女王も、愛する女も、勝者の側についたということだ!」 そして、再び私へ向き直った。 狂気じみた光が、その瞳の奥で揺れている。 「ここを生きて出たいのか? なら、最後に一つ情報を渡せ。忠誠を証明してみろ。秘密の通路はどこだ? クロスは最も機密性の高い記録をどこに隠している? 生き残った部下たちはどこだ?」
男たちは再び視線を交わした。 一人が無線機を取り出し、私には聞き取れないほど小さな声で何かを報告する。 もう一人は、銃口を私から逸らさなかった。 「ヴァンスがお前に会うそうだ」 無線機をしまった男が言った。 「秘密の通路について情報を持っているらしいな。執務室へ連れていく」 私は二人に挟まれ、背中に銃口を感じながら廊下を進んだ。 心臓が激しく打っていた。 これは、絶望的な賭けだった。 自殺行為にも等しいはったり。 もしヴァンスが、私が裏切ったことを知ったら。 USBメモリが偽物だと気づいたら。 私が最後までダミアンに忠実であり続けていると見抜いたら。 彼は私を殺すだろう。 それでも、時間を稼げるかもしれない。 ダミアンが死にかけているトンネルから、敵の注意を逸らせるかもしれない。 味方が介入できるだけの時間を作れるかもしれない。 私の命を懸けた陽動が、彼を救う助けになるかもしれない。 私たちは破壊された館の中を進んだ。 愛着を覚えるようになった石とベルベットの廊下は、見る影もなく荒れ果てている。 床には遺体が転がっていた。 ダミアンの部下。 ヴァンスの部下。 そして、銃撃戦に巻き込まれた罪のない招待
オーブンの火は消え、鍋やフライパンが避難の混乱の中で床に散乱している。 けれど、忠実な副官であるマーカスが、医務室を確保するよう命じたことは知っていた。 医務室は東翼にある。図書室の裏側だ。 そこまでたどり着けば、医師と担架、そして救護チームを連れて戻ることができる。 私は厨房を出て、中央廊下へ向かった。 そして、二人のヴァンスの部下と鉢合わせた。 黒い戦闘服に身を包み、目出し帽をかぶった男たちが、突撃銃をこちらへ向けている。 彼らは私を見て目を見開いた。 破れたベルベットのドレス。 血まみれの身体。 裸足。 そして、手にした拳銃。 「お前! クロスの女だな! 動くな!」 本能が働いた。 パニックではない。 本能だった。 犯罪カルテルと交渉し、民兵組織に潜入し、何度も絶望的な状況を生き延びてきた記者としての本能。 私は両手を上げた。 掌を相手に向け、拳銃を指先からぶら下げるようにして、ゆっくりと声を出した。 「待って。撃たないで。降伏します」 男たちは驚いたように顔を見合わせた。
私は彼の手を自分の胸に押し当てた。 鼓動を感じてほしかった。 私が生きていることを。 ここにいることを。 決して諦めないことを。 「あなたは以前、獲物を絶対に手放さないと言いましたね。だったら、私だって同じです。あなたを手放しません、ダミアン。今夜も、これから先も、決して」 私は彼の目を見つめた。 「だから、体力を残して。もう話さないで。そして、私を信じてください。今度はあなたが従う番です」 沈黙が落ちた。 やがて、暗闇の中で、かすかな吐息が聞こえた。 それは、笑い声に似ていた。 「……はい、女王様」 その言葉は、あまりにも弱々しく、あまりにも場違いで、それでいて、ブラックユーモアと絶対的な愛情に満ちていた。 私は泣きながら笑い出した。 影の王。 絶対的な支配者。 その彼が、最も無防備になった瞬間に、私を〈女王様〉と呼んだのだ。 それは贈り物だった。 捧げられたものだった。 私たちが二人で作り上げてきた言葉で語られる、愛の告白だった。 「休んでいてください」 私は彼の汗ばんだ額を撫でながら囁いた。 「助けを探してきます。必ず戻ります。私たちの誓いにかけて、私の首輪にかけて、私たちが築いてきたすべてにかけて。絶対に戻ってきます」
私は彼のポケットから携帯電話を取り出し、ライトをつけた。 白い光が闇を切り裂き、狭いトンネルと、湿気に濡れた石壁を照らす。 そして、ダミアンの姿を浮かび上がらせた。 彼は床に横たわっていた。 白かったシャツは、今や完全に血に染まっている。 瞼は閉じられ、顔は蝋のように青白かった。 人工的な光の下で、彼の身体の下に広がる血溜まりは黒く見えた。 彼はまだ呼吸していた。 けれど、ひと息吸うたびに苦しそうな音が漏れ、胸はほとんど動かなかった。 「ダミアン……」 私は膝をつき、彼の首に指を当てた。 脈はある。 けれど、弱い。 あまりにも弱かった。 ガラスの向こう側で逃げ場を求める蝶のように、彼の脈拍は不規則に震えていた。 「ダミアン、聞こえますか? お願い、目を開けて」 彼の瞼が微かに震えた。 唇が動く。 ほとんど聞こえない声が、闇に落ちた。 「……ブランシュ……」 「ここにいます。ここにいるから、ダディ。話さないで。体力を温存して」 「聞いて……私の話を……」 彼の手が、闇の中で私の手を探した。 冷たくなった指が、残された力のすべてを振り絞るように、私の指に絡みつく。







