INICIAR SESIÓNハロウィン当日。キッズコーナーでワークショップの準備をしていると、植物園の職員ジャンパー姿の笹川さんが段ボールを抱えて現れた。
「小野さん。こんな感じでどうですか?」
箱の中には、細工されたミニカボチャがぎっしり。
「素敵……ありがとうございます」
飾り付けを終えた書棚の上に並べていく。笹川さんも、壁の折り紙に触れないよう気を配りながら手伝ってくれた。
カボチャにはアルファベットが一文字ずつ彫られていて、順に置くと「HALLOWEEN」。
両端には表情の違うオバケカボチャが二つずつ並べられるようになっていた。「急にお願いしたのに、本当にありがとうございます」
「いえ。終わったら回収に来ますね」 「あの、しばらく飾っておいてもいいですか?」 「もちろん」並べ終えると、彼は段ボールを片手に”では”と足早に図書室を後にした。
「今の、笹川さん?」
入れ違いで真弓さんが事務所から出てきて、閉まりかけたドア越しに背中を見送る。
「ご存じなんですか?」
「うちの夫、植物園勤めなの。とはいっても、笹川さんは研究員でうちの旦那は管理作業員なんだけど。小野さん、知り合い?」 「お隣さんなんです。この飾りをお願いして」並べたカボチャを見せる。
「へえ! 小さな町はすぐ繋がるわね。笹川さん、以外だわ。こんな特技があるとは」
ちょうどその頃、親子連れが集まり始めた。用意していた材料を机に広げ、子どもたちを迎える。
◇◇◇
ワークショップは大成功だった。保護者の協力もあり、長谷川さんと二人でなんとか子どもたちが楽しめるように回し切った。。
「このカボチャ、すごく可愛い! 職員の方の手作りですか?」
帰り際、姉妹の手を引くお母さんが声をかけてくる。
「いえ、得意な方がいて、その方からお借りしています」
「素敵ですね。大人向けのワークショップもやってほしいです」そう言って、微笑みながら帰っていった。
そんな声があったことを、笹川さんに伝えたかった。◇◇◇
夜。焼き菓子を紙袋に入れて、インターホンを押す。反応が無い。
ふと、ガレージの方から灯りが漏れているのに気づく。「こんばんは」
車の奥の人影に声をかけると、薄手のカーディガンを羽織り、眼鏡をかけた笹川さんが顔を上げる。
「あ、こんばんは。すみません。インターホンに気づかなかったかも」
「いえ。今日はありがとうございました。すごく、喜んでもらえました」「本当ですか? そう言ってもらえると嬉しいですね」
「棚の“HALLOWEEN”。子どもたち、ずっと見上げてました。親御さんからは、”大人向けのワークショップはしないんですか?“って」彼の後ろ、作業台には、大きなカボチャが置いてある。
「新作ですか?」
「植物園の散策通路用のランタンなんです。昨日、1つ割れてしまったので、新しいのを」「……作業、ちょっと見ててもいいですか?」
カボチャのこの硬い皮にどんな風に細工をするのか、見たいと思っていたのだ。
「え? そんなたいしたことはしませんが…ご興味があるなら」
「ものすごく、あります」笹川さんの耳がほんのり赤くなる。
中をくりぬく作業の途中だったらしく。大きなスプーンのようなおたまのようなもので、中の身をグリグリと掻きだす。「柔らかそうに見えますけど……」
「やりやすいように少しだけ温めてます」なるほど。
「小野さんもやってみますか?」
気づくと夢中になって見ていたので、笹川さんの背中に張り付くような格好になっていた。
「……す、みません。見入ってました。こんなに身がいっぱいあるのに、もったいないですね」
「これはランタン用のカボチャで美味しくないらしいですよ」 「そんなのがあるんですね……」そう言いながら、渡された道具でカボチャの中をゴシゴシとそぎ取っていく。
「中はそんな感じでいいと思います。顔も作ってみますか?」
「え? でも、通路に飾るのにクオリティの低い物になったら申し訳ないですし…」並んだカボチャの中で、1つだけひどく不細工になってしまっては申し訳ない。
「あはは、全然大丈夫ですよ。ほら、もう下書きはできてますし。こういうナイフを使うんです」
笹川さんは、細身の刃がついたナイフで器用に三角の目をくりぬいていく。それから、どうぞ、と私にナイフを手渡した。
「皮に対して垂直に刃を入れると切りやすいです」
私がかぼちゃを手で押さえナイフを皮に置くと、ためらいなく手を取って包丁の持ち方を調整する。
「こんな感じです。まっすぐ突き立てるようにして……」
刃をぐっと皮に刺したところで、笹川さんも何かに気づいたようだ。パッと手を離し、少し後ろに下がる。
さっきまで笹川さんの触れていた手の甲が、ぼんやりと膜を被ったように感じる。「……あの、力を入れすぎると刃が滑るので、気をつけてゆっくり下書きの通りにナイフを動かしてください」
たぶん、私の耳が赤いのはバレていると思うが、今はナイフに集中だ。
笹川さんの動作を見ているときは、簡単に思えたが三角の角をキレイにくりぬくのは思いのほか難易度が高かった。
「ちょ…っと、片目だけすごく大きい子みたいになってしまいましたが……」
出来上がると左右の目の大きさが全然違う。
「大丈夫ですよ。こっちも目を大きくして、目の大きい子にしてしまえば」
ナイフを手に取ると、笹川さんがなんてことないように片方の目を一回り大きくして、さらに口を彫って全体の切り口を滑らかにしていく。
「やっぱり、違いますね。クオリティが」
「クオリティなんてそんな。ただのカボチャですから」 「でも、笹川さん、文字を彫ってたでしょう? あんな小さなカボチャに」仕上げをしている笹川さんの手元を肩越しに覗きながら、丁寧な作業に感心する。
「確かに字を彫るのは、練習がいりますね。僕もいまだに小さな点とか囲いの中をうっかり切り落としてしまいますし」
笑いを含んだ声でそう言う。
「練習したら、私も自分の名前くらいは、彫れるようになりますか?」
「できますよ」出来上がったカボチャを眺める。
「……名前、彫りましょうか」
「え?」「このカボチャ。片目は小野さん作だから名前入れましょうか」
「そんな。植物園の物なのに」「名前、なんておっしゃるんですか?」
いつかの玄関先の会話を思い出した。ちょっと顔が熱くなる。
「……はるか、です」
笹川さんは、マジックで顔の反対側の下の方に平仮名で“はるか”と下書きをすると、さっき顔を作るのに使っていたナイフよりもさらに細い長い刃のついたもので、字を彫り始めた。
静かな、でも穏やかで心地よい時間。ふっと顔を上げると作業台の向こうの、家に繋がるガラス戸にロウが丸くなっている影が見えた。
「はい」
出来上がった名前を笹川さんが見えるように持ち上げてくれる。
カボチャに彫られた自分の名前。「これが植物園の通路にあると思うと、絶対に見に行かないといけない気持ちになりますね」
笹川さんは、道具を片付けながら「ぜひ、見に来てください」と笑う。
「お礼に焼き菓子と、あと、良かったらこれ。笹川さん、お花が好きそうなだから、嫌がられないと思って」
持って来た紙袋から、小さな額に入ったカボチャと魔女をイメージした押し花アートを見せた。
「小野さん。絶対、モノづくりする人だろうなって思ってたんですよ。すごいですね。カボチャは百日草の花ですか?」
「あ、そうです。笹川さん、さすがですね」お互いのオタク気質がうまく合った。いい年をした大人が互いを褒め合う。でも、ここには私たちだけしかいないからいいのだ。
「よかったら、中へ。あったかいお茶、淹れます」
「じゃあ、お言葉に甘えて」笹川さんが扉を開くと、待ってましたというようにロウが体を起こす。
やかんが音を立てるまでの間、ダイニングの端にバランスよく置かれた植木鉢を見る。
「ハロウィンが終わったら、植物園でリース作りのワークショップがあるんです。良かったら来ませんか?」
笹川さんがこちらに背中を向けたまま言う。
「あ、はい。ぜひ……」
シンクに立って、ガスを止めティーポットにお湯を注ぐ動作を見つめる。
「笹川さん。嫌でなかったら、連絡先を交換していただけませんか? こんな風に、毎回私が突然押しかけてきたらご迷惑でしょうし」
彼の手が一瞬止まり、そしてまた動いて、ヤカンをコンロに戻した。
トレーに乗せたカップがゆらゆらと温かな湯気を漂わせている。 私の前にティーカップを置いて、目の前に座ると、笹川さんは自分の携帯を入り口近くのキャビネットの上から持ってくる。「連絡先、交換してもらえると嬉しいです」
そう言って、互いに連絡先を登録し合う。
画面に並んだ“笹川湊”の文字。「でも……その、小野さん」
笹川さんが、携帯の画面を見ながら言い淀んだ。
「はい?」
「できれば、これからも、何かあれば訪ねてきてくださると、とても嬉しいです」笹川さんの首筋がほんのりと赤らむ。
「その…とても嬉しいと思います。ロウも僕も」
紅茶の湯気が眼鏡を曇らせて、彼の表情は読めない。
「はい」
小さな声で返事をした。
いつものように笹川さんの家を出て、自分の家の玄関先まで歩く。
玄関ポーチから笹川さんとロウが見守っている。今までは緊張したまま振り返らずに歩いた。でも、今日は.....。
我が家の玄関ポーチまで来て、笹川さんの方を振り向き、家に入る前に手を振ってみた。笹川さんも手を振り返してくれる。
玄関ドアを背中にして鍵を閉める。そして、扉にもたれて、自然と唇を弓なりにして笑っている自分に気づく。
この歳になってこんな気持ちになることがあるなんて。
胸の内で生まれたなんともいえない感情が、自分をウキウキさせていることに気づく。
トリック オア トリート
犬の
これがどんな感情に育つかは、まだわからない。でも、淡々と過ぎていた日々に秋の彩のような鮮やかさをくれたのは確かだ。
「ふふふ。本当にハッピーハロウィンだわ」
そう呟くと、軽やかな足取りでダイニングへ向かった。
ハロウィン当日。キッズコーナーでワークショップの準備をしていると、植物園の職員ジャンパー姿の笹川さんが段ボールを抱えて現れた。「小野さん。こんな感じでどうですか?」箱の中には、細工されたミニカボチャがぎっしり。「素敵……ありがとうございます」飾り付けを終えた書棚の上に並べていく。笹川さんも、壁の折り紙に触れないよう気を配りながら手伝ってくれた。カボチャにはアルファベットが一文字ずつ彫られていて、順に置くと「HALLOWEEN」。 両端には表情の違うオバケカボチャが二つずつ並べられるようになっていた。「急にお願いしたのに、本当にありがとうございます」 「いえ。終わったら回収に来ますね」 「あの、しばらく飾っておいてもいいですか?」 「もちろん」並べ終えると、彼は段ボールを片手に”では”と足早に図書室を後にした。「今の、笹川さん?」入れ違いで真弓さんが事務所から出てきて、閉まりかけたドア越しに背中を見送る。「ご存じなんですか?」 「うちの夫、植物園勤めなの。とはいっても、笹川さんは研究員でうちの旦那は管理作業員なんだけど。小野さん、知り合い?」 「お隣さんなんです。この飾りをお願いして」並べたカボチャを見せる。「へえ! 小さな町はすぐ繋がるわね。笹川さん、以外だわ。こんな特技があるとは」ちょうどその頃、親子連れが集まり始めた。用意していた材料を机に広げ、子どもたちを迎える。◇◇◇ワークショップは大成功だった。保護者の協力もあり、長谷川さんと二人でなんとか子どもたちが楽しめるように回し切った。。「このカボチャ、すごく可愛い! 職員の方の手作りですか?」帰り際、姉妹の手を引くお母さんが声をかけてくる。「いえ、得意な方がいて、その方からお借りしています」 「素敵ですね。大人向けのワークショップもやってほしいです」そう言って、微笑みながら帰っていった。 そんな声があったことを、笹川さんに伝えたか
夜、食事を終えた頃に、いつものように隣家に車が帰ってくる音がした。先日は、帰って、着替えて、さあゆっくりしよう、という時間に訪問してしまったに違いない。 急ぎ目に隣家へ向かう。インターホンを押すと『はい』という返事があって、私が名乗ると、すぐに玄関が開いた。 良かった。笹川さんは、植物園の職員用ジャンバーを着たままだった。「お疲れのところすみません。実は笹川さんにお願いがあってお伺いしたんです。少しだけお時間いいですか?」昼に考えたアイデアがどうしても拭えず、ダメもとでお願いしてみることにした。「あ、玄関先ではなんですから、良かったら上がりますか?」そう言われて厚かましくも家に上がり込んだ。玄関から続く廊下の奥に摺りガラスのドアがあって、その奥がリビングだった。祖母の家と建てられた時期が同じなだけあって、台所のシンクの位置などは古い感じではあったが、壁を取り払ってリンビングとダイニング繋げ広く快適な作りにリフォームしてある。 ロウが走り回れるようにしたのかもしれない。「どうぞ。そこにかけてください。さっき帰って来たばかりなので、お茶を入れるので少し待ってくださいね」そう言うとコンロにヤカンをかけた。「あ、お構いなく。お仕事帰りお邪魔してしまってすみません」 「いえいえ、大丈夫です」キッチンを向いて背中を越しに笹川さんが返事をする。その横に寄り添うようにロウが座る。 本当にベッタリなのね。微笑ましくて笑いがこぼれた。入れてもらったお茶を飲みながら、笹川さんに昼間に思いついた案を相談する。「それなら大丈夫ですよ。実はカービング用に中をくりぬいたカボチャがすでにいくつかあるので、すぐにできます」 「本当ですか? 良かった。子どもたちがすごく喜ぶと思います」「良かったら当日図書室に直接持って行きますね」 「え! そんな、申し訳ないですから。私、お預かりさせていただければ……」 「小さいけど数があると重いですから」結局、お願いした物は笹川さんが、ハロウィン
週末から雨が続いていた週明け月曜日の休日。リビングで趣味の押し花アートに没頭する。最近、少し老眼になりつつあって、ピンセットで花びらを掬う時に突き刺してしまわないように気を使う。時折、眉間を指でつまんでほぐさないと、気づくと目が疲れて仕方がない。春から夏にかけて作った材料を、組み合わせながら、花や花びら、葉を重ねて全体にグレーとブルーの配色をする。「よし、これにパンジーの黄色を入れて月っぽくしたらいいかな」1人暮らしの良いところは、声を抑えず独り言が言えるところで、悪い所は独り言が増えてしまう点だ。図書室の子どもたちへのハロウィンのプレゼントに栞を作ってみた。夏のワークショップで一緒に押し花をやったので、たぶん喜んでくれると思う。うーん、と体を伸ばして椅子の背もたれをグーっと体で押したとき、インターホンが鳴る。カメラを覗くとどうやらお隣さんのようだ。「はい、今出ますね」相手が何も言わないのに、パタパタと廊下を小走りに玄関に向かっていた。玄関を開けると、傘を差した笹川さんとカッパを着たシェパードが立っていた。「こんな日にすみません。先日のタッパーをお返しに来ました」「すみません。ご丁寧にありがとうございます」ついついカッパを着て賢くお座りをしている犬の方に視線がいく。「お名前なんていうんですか? 」「……“みなと”です」犬の名前にしては、珍しい。横浜とか神戸とかの生まれなのだろうか。「みなとくん? ちゃん? かな」しゃがみ込んで、目線を合わせてみた。「いい子だね、みなとくん」「あっ。すみません。“みなと”……僕の名前です」――すごい空気が流れた「……この子はローワンです。普段は、ロウって呼んでいて……」顔が熱くて立ち上がれない。“みなとくん”って……「すいません。恥ずかしい間違いをしてしまって……」頭上から焦るような、困ったような声が降ってくる。「こちらこそ……すみません」しゃがみ込んだまま、謝った。「ほ、ホントにいい子ですね。ちっとも騒がないし、吠えたりもしないし」取り繕ったような感じで立ち上がると、笹川さんは耳まで赤くして、目線を合わせない。こういう勘違いってホントに恥ずかしい。でも、お互いにそうだ、と思ったらちょっと解れた。「その……ロウは、保護犬で。前の飼い主に声帯を除去されたようで、声が出ない
仕事を終えて家に帰り着くのはいつも6時過ぎ。隣家に灯りが灯ったら訪問してみようと夕飯の支度を始める。ここに引っ越してきて片づけをしていたら、祖母が作ったレシピノートが数冊出て来た。時間のある時には、それを時々参考にして懐かしい味を楽しんでいる。「あ、そうだ」台所の籠に入った栗と玉ねぎを見てメニューを決めた。夕食を終えて食器を片づけていると、隣家のガレージに車が入る音がする。――あー。緊張しちゃう。エプロンを外してテーブルの袋に入った皿とミニカボチャのランタンを手にして隣家へ向かった。 インターホン越しに様子を伺う。間を置いて反応があった。『はい』 『あの、隣の小野ですけど』 『……はい』静寂が続く。――インターホンが切れた? のかしらもう一度ボタンを押して、話をしようとしたところで玄関が開いた。「あっ…え? お、お待たせしてすみません」たぶん、着替えの途中だったのだろう。いつもの眼鏡をかけていないし、シャツの裾が乱れている。近くで見ると、思っていたよりも背が高い。他所の玄関ってだいたいその家の匂いがするのよね。でも、なんていうか、ここの玄関は心地よい香りがする。花の香り?「お疲れのところすみません。先日から、我が家の庭に素敵なカボチャが転がっていて…」こういうのは、不満を言いに来たわけではないように話すのが難しい。「え! ああ! こちらこそ、すみません! たぶん、うちの犬が悪戯をして」 「あら。ワンちゃんがいるんですか? 全然吠え声も聞こえないし、気づきませんでした」隣家から犬の気配を感じたことは無かった。薄暗い廊下の奥のガラス扉の向こうに大きな犬の影が見える。「すみませんでした。あまり庭には出ないようにしているんですが、最近、気候がいいので少し遊ばせていて。その時に持って出たんだと思います。ご迷惑をおかけしました」申し訳なさそうに、頭を下げる姿に慌ててしまう。「迷惑なんて、そんな。素敵な細工ですね。言葉はお考えになったものなんですか?」 「お恥ずかしい……」耳を赤くして言葉に詰まっている。困らせてしまったことに気づく。「あ、あの、すごいなって思って。本当に素敵だなって。あ! 私、お詫びをしないと」手に持っていたカボチャを手渡しながら、その大きく開いた口の中を見えるようにした。「あまりに素敵だったので、勝
最初のカボチャは、夕方の色が庭に沈みきる頃に見つけた。庭のベンチの下、掌に収まるほどのオレンジの球が転がっていた。 つるの名残が、猫のしっぽのようにくるりと曲がっている。持ち上げると、皮に彫り込まれた文字があった。細い刃で綴られた詩。 灯りは小さいが 道になる彫ってあるのでカクカクとした字ではあるが、しっかり読み取れた。刻まれた溝は新しく、そこに指を当てるとほんの少しカボチャの生々しさが残っている気がした。庭越しに隣家を見れば、背の高いヒマワリが秋の名残を振っている。その陰に、薄い色のシャツの人影。隣に住む笹川さん――だ。影は動きを止めた。私も、カボチャを手にしてしばし動きを止めた。 しばらくして、その影は姿を現すことなく建物の向こうへと去ってしまった。祖母の家に戻ってきたのは、今年の春。ほこりを払って暮らしを置き直し、地域が運営する図書室で非常勤司書の職を得た。昨年の夏までは、東京の都心にある雑貨店で働いていた。昔から小物づくりが好きで、大学卒業後に雑貨販売の会社に就職をしたが、どうやら私は作るのが好きなのであって、売るのは性に合わなかったようだ。追われるような仕事の日々に心が追い付かず、祖母の入院を機に仕事を辞めた。春に祖母が亡くなるまでは、その世話を一手に引き受けた。母からは、仕事を辞めさせて申し訳ない、と言われたが、祖母の介護を言い訳に仕事を辞めたところもあり、少し後ろ暗い気持ちではあった。小学2年の頃に母が離婚し、私は学校が休みに入るたびによく祖母の家に預けられた。 だから、この場所は第二の故郷と言っても過言ではない。地域の図書室も、歩いていける植物園も、小さい頃は毎日のように通った場所だ。 祖母と最後の日々を過ごせたことは、自分の中の祖母への思慕の整理にもなった。翌日の夕方にも、ベンチの下にミニカボチャが転がっていた。 風の手紙は 季節を運ぶ昨日のとは違う言葉が彫ってあった。持ち上げてしばし周囲を眺める。――お隣さんよね? どうしよう。うちの庭に入ってましたよ、って持っていくべきかしら大きな口をあけたようなカボチャは、中がくりぬかれ、その中にろうそくがおけるように作られている。結局、もう暗いから、と自分に言い訳をして、家にそれを持って入り、昨日のカボチャの横に並べてみた。 ふと思いたって、祖母の仏







