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第892話

Author: 魚ちゃん
優香の怒りは、ちっとも収まっていなかった。

玄関のドアを開けるその直前まで、まだ腹の虫が収まっていなかった。

ところが、中に入る前に、微かな音が耳に入った。

「今の、何の音?」

啓太は笑いながら優香を見た。

「入ってみれば分かるよ」

優香はぱっと目を見開いた。

子犬の鳴き声がした。

ふわふわで、甘えた声の、小さな子犬の声。

気のせいかしら。それとも、近所で誰かが犬を飼っているのだろうか。

何となく辺りを見回したが、姿は見えない。

啓太が彼女の腕を引き、中へと連れていく。

ドアを開けた瞬間、足元に毛むくじゃらの何かが飛びついてきた。

優香は歓声を上げそうになったが、咄嗟に口を押さえて声を殺した。

大きな声で、この小さな子を驚かせてしまったら大変だ。

白くて、ころころとした、小さな犬だった。

優香の足の周りをくるくると走り回りながら、ちぎれんばかりに激しく尻尾を振っている。

「生後二ヶ月のサモエド、まだ名前はないんだ」啓太が隣で静かに言った。「気に入ってくれた?」

優香は、さっきまで啓太に腹を立てていたことなど、すっかり頭から飛んでいた。

「かわいい!
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