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2-31.異端の鬼子(1/3)

last update Last Updated: 2025-08-06 06:00:17

 駅裏の「ふれあい過ぎ公園」で広報兼町長室秘書のエリさん改め、ヴァンパイアの辻川ひまわりと共闘の約束をした。そのあと一人でヤオマン・INに戻るため線路沿いの道を歩いていたら、

「おい、そこのJK!」

 と後ろから声を掛けられた。立ち止まって振り返る間に、数人の男が一定の距離を保ってあたしを取り囲んだ。全員、頭に不格好な三角の帽子を被り手に歪な棍棒を持っている。正面の若い男に目をやるとあたしの顔を見て一瞬たじろいだ。そしてそれはすぐに全員に伝播したのが分かった。すぐさま若い男が全員の怖じ気を払うように声を張り上げた。

「こんな時間に季節違いの夏服。あとを付けてみれば、やっぱりだ」

 続いて右隣の男が、

「しかし、この顔は蛭人間(ひるにんげん)や屍人(しびと)じゃないぞ」

 最初の若い男が叫ぶ。

「リファレンス係、制服はどこのもんだ?」

 その左横の男が大きなリュックを下ろし、中から分厚い紙本を取り出してページをめくり出す。そして中程のページで、

「辻沢女子高校の夏服のようです」

 と報告した。

「辻女か。ますます、らしくなってきたな」

「ああ、こいつは妓鬼(ぎき)だ。間違いない」

 その影に隠れるようにしている痩せた男が、

「俺たちまだ蛭人間殲滅ステージもクリアしてないのにヴァンパイア相手って」

 と言ったがその声は震えていた。どうやらそれがあたしから距離を取って近づいて来ない全員の気持ちを表わしているようだった。数秒の後、背後から別の男が、

「青墓の青つながりでもしやと思って青物市場に探索に来たらヴァンパイアにエンカウントだ。俺たちは今ものすごく付いてる!」

 と言うと、最初の若い男が全員を鼓舞するように叫んだ。

「そうだ。これは千載一遇のチャンス。絶対ものにするぞ! スレイヤー!」

「「「「スレイヤー!」」」」

 一斉に叫ぶと、中の二人が襲いかかってきた。

こんなに大勢の男の人に囲まれたら怖いはずなのに、あたしは妙に落ち着いていた。どう反応すれば分かった上に動きがものすごく遅く見えたから。走り寄ってくるのも棍棒を振りかぶるのも全部の動作がゆっくりだった
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