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ヌェーヴェルの決心-1

Author: よつば 綴
last update Last Updated: 2025-04-03 06:00:00

 俺たちは、欲に忠実になるというヴァニルの提案を、ぐうの音も出せずに受け入れる他なかった。

 だが、大きな問題がひとつ残る。

「俺は跡継ぎを作らにゃならん。家を継いで、子にまた継がせる責務がある。お前らと、この関係を永遠に続ける事はできないぞ。最悪、俺の人生が一区切りついてからの再考ということになるな」

 我ながら、とんでもなく自分本位な事を言っているのはわかっている。だが、次期当主の座は譲れんのだ。

「ヌェーヴェル、君は····女性を抱きたいのかい?」

「当たり前だろう。俺は不能なわけじゃない」

 寂しそうな顔で聞くノウェル。まだノウェルと交わってもいないのに、俺が悪い事を言っているような気分になるのは何故だ。

「あっははは! ヴェルには無理でしょ。ボクたちに組み敷かれて潰されてるお前が女を抱く? はははっ。ヴェルはもう、女じゃイけないよ」

「ノーヴァ、はしたない笑い方はよしなさい。ですが、私も同感ですね。ヌェーヴェルには不可能でしょう。私達が与える快楽の中でないとイけない身体になってるんですから」

「やってみなきゃわからんだろうが!!」

 俺を不能扱いしやがって。こうなったら意地でも女を孕ませてやる。

「あのね、ヌェーヴェル。無理をして継がなくても良くないかい? 元々、お父上への復讐の為に継ぐつもりだったのだろう? 小さい頃は継ぎたくないと言っていたじゃないか。いっそ、グェナウェルに譲るというのはどうだい?」

 グェナウェルとはすぐ下の弟だ。アイツは良い奴だが、少々頼りない。その下の弟、ランディージェのほうが野心に満ちている。確実に命を狙ってくるような性格で、普段から小さなトラブル絶えない。

 なんなら、妹のパミュラのほうが、ランディージェよりも聡く穏やかで、それなりに向上心もある子だから後継に向いている。女でなければ、父さんはパミュラに継がせただろう。

 しかし、今は俺が1番の候補なのだ。これを誰かにくれてやるつもりはない。これまで、俺を思い通りに操ってきた分、クソ親父の老後を俺が支配してやるんだ。絶対に泣か
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     ほとんど眠れずに、俺はタユエルの店へ赴く。人使いの荒い父さんから、先日の銃を仕入れてこいと仰せつかったのだ。「ヴァニル、相手が俺に何を言おうと、たとえ何をしようと、絶対に口も手も出すなよ」「事と次第によりますよ。それより貴方、あんな事の後でよく私を護衛につけましたね」「これは仕事だ。私情は挟まん。だから、馬車《ここ》でシようとか考えるなよ。約束は今夜だろ」 俺は書類に目を通しながら言った。チラッとヴァニルを見ると、むくれた顔で窓から外を眺めている。「キ、キスくらいならいいぞ。軽いヤツな」「····子供じゃあるまいに」 気を遣って言ってやったのに、無下にするとは腹立たしい。「そうか、ならもういい。指一本触れるな」「わかりましたよ。······ヌェーヴェル」「なんだよ」 やらしい声で呼ばれたので、鬱々とヴァニルを見る。ヴァニルは恍惚な表情で俺を見て、滾らせたイチモツを見せつけてくる。「バ、バカか!! こんな所でナニおっ勃ててるんだ!」「シィー····声が大きいですよ。御者に聞こえてもいいんですか?」 唇に人差し指を当てて言う。無駄にエロい所為で、こっちまでその気にさせられてしまうじゃないか。「夕べ、途中で終えてしまいましたからね。で、どっちの口に欲しいですか? 今なら優しくしてあげますよ?」 俺の話を聞いていなかったのだろうか。いや、聞いた上での愚行か。 これに逆らったら、きっと御者に気づかれてしまう程度には激しく犯されるのだろう。そうなれば厄介だ。「······くそっ。資料に目を通さにゃならんから、し、下の口にしろ」 おずおずとヴァニルにケツを差し出す。到着まで1時間足らず。間に合うのだろうか。

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     ヴァニルは俺のケツに爪を食い込ませ、力一杯奥を抉って言う。「こういう強い刺激がないと、ヌェーヴェルはイけないんですよねぇ」「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁっっ!! ケツ、イッひゃう····ヴァニル、お゙ぐっ、ぎも゙ぢぃぃ!! ノウェル、ごめっん゙ん゙っ! 俺、もう····酷くされないと、イ゙ッ、けなぃあ゙ぁ゙っっ····」 懸命に話す俺の邪魔ばかりするヴァニル。奥を抉るだけでなく、千切れてしまいそうなほど乳首を抓りあげる。「そういう身体になってしまったんですよね。だから、お嫁さん探しも諦めたんですものねぇ。··はは、恥辱にまみれる貴方は最高に愛らしいですよ、ヌェーヴェル。ここまで躾けた甲斐がありました」「悔し··けど、もう、戻れにゃ··ふあぁっ····女でイけない··って····お前らじゃないと、満足できないって····わかってるんだよぉ····」 ボロボロと溢れる涙。必死に抑えてきた感情が、精液や潮と共に際限なく溢れ出してくる。「だったらいい加減、跡を継ぐのもやめて私達に溺れたいと言ったらどうです? いつでも連れ去ってあげますよ」 ヴァニルは、俺の首をねじ切れそうなほど振り向かせ、深いキスをした。「ん、あ··はぁ····あにぅ····あにぅ······」「ん? 何ですか?」「なんでお前が、

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