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第6話

Auteur: トフィー
充の心臓が跳ね上がり、息も荒くなった。勢いよく莉子の方を振り返る。

しかし、莉子はもう完全に気を失っていて、手術室の中へ運ばれていった。

「もう喧嘩はやめて……私、手術は受けないし、今すぐ退院するから……」

紗奈は二人の口論におびえて、泣きそうな声を出す。

「悪いのはあいつだ。お前は何も悪くない。自分を責めるな」

充は、ささやくように紗奈をなぐさめた。

秘書の池田裕也(いけだ ゆうや)に紗奈を病室へ送らせた充は手術室のドアの前に座り込む。

頭の中では莉子がさっき言った言葉が何度も繰り返されていた。

あれは、カッとなって言っただけとは思えない。

急に胸が詰まるような息苦しさを感じ、どうしようもない焦燥感が心を締め付けた。

でも、莉子が自分から離れていくわけがない。きっと、自分を困らせたくてあんなことを言っただけだ。

充はスマホを開くと、莉子とのこれまでのやり取りを何度も見返した。莉子がまだ自分を愛している証拠を探し出しては、自分に言い聞かせるように心を落ち着かせる。

どれくらいの時間が経っただろうか。ようやく手術室のランプが消えた。

どうやら皮膚組織の摘出は、無事に終わったようだ。

充はためらうことなく、すぐに紗奈の病室へ向かった。

紗奈の手術が無事に終わったのを確認すると、充は疲れきった足取りでやっと莉子の病室へと戻った。

病室に入ると、莉子はもう目を覚ましていた。

莉子が身を起こしたのを見て、充はすぐに駆け寄って水を渡す。

しかし、莉子はそれを受け取ろうとしなかった。

抑えていた苛立ちが、また充の心にこみ上げてきたが、莉子の青白い顔を見て、なんとかこらえ口を開く。

「紗奈の手術は成功した。お前が紗奈に謝れば、それでこの件は終わりにしてやる。

あと1週間で結婚式なんだ。大人しく言うことを聞けよな」

充を見上げる莉子の瞳には何も映っておらず、静まり返った水面のようだった。

その目に、充は心臓が鷲掴みにされたような感覚を覚える。

「謝るつもりはないし、結婚式を取りやめたいなら好きにして」

充は拳を固く握りしめ、ギリッと歯を食いしばった。

充の瞳の奥にあったわずかな優しさも、一瞬にして氷のような冷たさと嫌悪に変わる。

「お前がそんな態度だったら、結婚式は中止しないどころか、前倒しで決行する。

ただし、まともな式場も、ウェディングドレスも、指輪も用意させない。お前の友達や親戚を招待して、お前を笑い者にしてやるさ。

けど、お前が過ちを認めるなら、今までのことは全て許してやる。だって、俺たちには5年間の積み重ねがあるんだし、お前以上に大切な存在はいないからな」

その言葉を言い終わると同時に、充のポケットでスマホが鳴った。

充が電話に出ると、秘書の裕也が紗奈の名前を告げるのが聞こえた。

さっと表情を変えた充は、ジャケットを掴んで慌ただしく部屋を出ていく。

莉子は、充の後ろ姿をしばらく見つめていたが、姿が完全に見えなくなると、ゆっくりと視線を戻した。

人が本性を現す時は、まず相手の急所を見つけ出し、容赦なく叩きにかかるものらしい。

モデルの自分が、見た目やプライドを一番大事にしているのを知っているくせに、充はそれを盾に自分を脅してきた。

うつむいた莉子の目に、ふと左手の指輪の跡が映る。

莉子ははっとした。

自分たちは憎み合う敵ではなく、かつては愛し合っていたのに……

退院の日、長いボイスメッセージが何件か送られてきただけで、充はやはり来なかった。

莉子はボイスメッセージを聞く気にすらなれなかった。

家に帰ると、莉子は部屋の隅々まで掃除して、自分に関するものは全部捨てた。

しばらく片付けをしていると、突然玄関の方で物音がした。

顔を上げると、紗奈がオートロックの暗証番号を押して入ってくるのが見えた。

ここは二人の家なのに、充は平気で他の女に暗証番号までも教えていたのか。なんて滑稽なことなのだろう。

「ここ数日帰れないから、着替えを何着か会社に持ってきてほしいと、充に言われて……」

莉子は表情を変えず、淡々と答える。

「充の寝室は二階の一番奥。それと、玄関のスマートキーはもうすぐ電池が切れるから、予備の鍵が必要なら植木鉢の下にあるから。毎週土曜には家政婦さんが掃除に来るから、帰る時に必ず鍵を返してもらって」

紗奈は一瞬ぽかんとしてから、探るような声を出した。

「莉子さん、私……そんなつもりじゃ……

みんな、心の中ではあなたこそ充に一番ふさわしいと思っています。ただ、私と充は幼馴染だから、それで特別に気にかけてくれるだけなんです」

莉子は紗奈を見つめ、片側の口の端だけを上げる。

「ここには私たち二人しかいないんだから、そんな猫被らなくたっていのよ。それに、あなたの下心なんてもう分かってるし」
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