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第2話

Auteur: 紗々
起業1年目、蒼介はこの写真を印刷して、私に約束してくれた。

「いつか事業が軌道に乗ったら、極地へ連れて行くよ。そこでこれと同じ写真を撮ろうな」

7年が経ち、蒼介は名もなき一介の平社員から、蒼海市で誰もが知る上場企業の社長へと成り上がった。

金も権力も思いのままだ。

しかし、あのささやかな極地への約束を、彼が再び口にすることはなかった。

蒼介の言う通りだ。

古いものは、やっぱり捨てるべきだ。

私は返信せず、蒼介のアイコンをタップし、プロフィール画面で削除を選んだ。

……

煌星(こうせい)グループのオフィスに立ち寄り、人事部で退職手続きを終え、会社を出ようとした時のことだ。

ドアノブに手を掛けた瞬間、廊下を通りかかった社員たちのひそひそ話が耳に入ってきた。

「7年も続いた結婚生活をあっさり捨てるなんて、あの篠原結衣は何様気取りなのかしら?」

「不倫が原因で離婚したって噂、聞いた?もしかして彼女の方なんじゃない?」

「絶対そうよ。神崎社長を裏切るようなことをしてバレたから、今日すぐに離婚に同意したのよ」

「社長は彼女に株まで譲ったらしいわ。社長も人が良すぎるわよね……」

私は伏し目がちに立ち尽くした。

人事担当者が少し気まずそうに私を見た。

「篠原さん、ただの冗談ですから、お気になさらず……」

冗談かどうかは、私自身が一番よくわかっている。

この噂を流したのが誰なのかさえ、見当がついていた。

すべては莉奈の存在を正当化し、彼が愛する「女性」が世間から叩かれないようにするためだ。

彼は私を矢面に立たせ、莉奈を守るための防波堤にしたのだ。

私が黙っていると、人事担当者は愛想笑いを浮かべた。

「ゼロから社長を支えてこられたお二人の仲のよさを、誰もが羨んでいましたから。

あの人たちは何も知らないから、好き勝手言っているだけです。

彼らの上司に報告して、きつくお灸をすえておきます」

その言葉を聞いて、私は再び沈黙に陥った。

私が蒼介との苦労を厭わなかったのは、彼がかつて本当に私を大切にしてくれていたからだ。

彼は私には流行りの服を惜しげもなく買ってくれたが、自分は2年着古したジャケットをずっと着回していた。

私の誕生日、結婚記念日、さらにはバレンタインのような小さなイベントまで覚えていたのに、自分の誕生日はいつも忘れていた。

私たちの結婚式は、私の地元の小さな町で挙げた。

規模は決して大きくなかったが、その町で用意できる最高クラスの式だった。

彼はいつも、自分の能力の及ぶ範囲で最高のものを私に与えてくれた。

だからこそ、結婚記念日の夜。薄暗く、ムードのある照明の下で、ケーキの上に飾られた、新郎新婦がキスをしている飾りを見つめながら、彼が口にしたあの言葉。

「結衣、俺たちこのまま夫婦でいる意味、あると思うか?」

その言葉を聞いた時、私はどうしても受け入れることができなかったのだ。

このまま離婚するのは不本意だった。私は、彼がまだ私を愛していると信じて賭けに出た。

互いに青春をすり減らし、顔を見るのも嫌になるほど関係が悪化するまで、意地を張って賭け続けた。

彼が金で私を追い払おうとした時、私はようやく諦めがついた。

我に返った私は、人事担当者に向かって小さく首を振り、ドアを開け放った。

先ほどドアの外で小声で噂話をしていた社員たちは即座に口を閉ざし、ビクビクしながらうつむいた。

彼らのその反応は、私に向けられたものではなかった。

廊下の突き当たりからこちらへ向かって歩いてくる、蒼介と莉奈に向けられたものだった。

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