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第376話

Author: 北野 艾
「そんなのダメだ!」太一は叫んだ。父にとって衆厳メディカルがどれほど大切な存在か、誰よりも理解しているのは自分だ。

もし本当に破産なんてことになれば、父の命の灯火も……一緒に消えてしまうかもしれない。

「俺がなんとかする!絶対になんとかしてみせるから!もう一回だけ、チャンスをくれよ!」

厳は虚ろな瞳を息子に向けた。「今さら何ができると言うんだ?お前になんとかできるなら、そもそもこんな事態にはなっていなかったはずだろ」

父の言葉に、太一は喉を詰まらせた。何も言い返せない。

「江崎さんにスマート医療の件を持ちかけろと言っただろう。あの時、私にはわかっていたんだ。あれが衆厳に残された最後の希望だと。……だが、お前はその好機を自ら手放し、衆厳を終わらせた」

「……すまない」

「あれだけ江崎さんとは良好な関係を築けと言い聞かせたのに、お前は聞く耳を持たなかったな。彼女は有能だ。あの海雲さんですら一目置いているほどだぞ。彼女と組めば、お前にとってもメリットしかなかったというのに」

太一は自分の胸に顔が埋まるほど深くうなだれた。一生、顔を上げて歩けないかもしれない。

あの時、確かに何度か詩織のところへ足を運んだ。だが、彼女は取り付く島もなかった。

当時の自分はそれを「私怨で仕事を断られた」と腹を立てたものだ。

そもそも、詩織の能力なんて鼻から信じていなかった。

大した学歴もない、見るべきキャリアもない。

ここ七年ほど秘書として雑用をこなしていただけの女じゃないか、と。

だから詩織を見切り、太一は志帆を選んだのだ。

志帆なら、海外大学院卒の博士号持ちで、国際的なトップバンクでの職歴もあり、巨大な港湾買収案件を主導した実績もある。

経歴書は文句なしに華やかだ。

そんな彼女と組めば、衆厳の危機を救うどころか、自分自身の実力を証明して、父や一族を見返すことができると信じていた。

だというのに、現実はどうだ。

「G市にお前名義で五千万ドルの信託を残してある。私が死んだ後は、無駄遣いせず大事に使え」

父の、あまりに疲弊しきった老人のような声が、錆びたナイフのように太一の心臓をえぐる。

生まれて二十数年、彼は初めて、心臓を直接抉り取られるような痛みに悶えた。

……

午後には重要な会議が控えていたため、詩織は仕方なくミキを連れて出社することにした。

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