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Author: 橘 廉
last update publish date: 2026-05-26 18:53:21

 圭さんとの熱い名残を部屋の空気に残したまま、数日が過ぎた。

 あの日以来、店内の空気はさらに張り詰め、三人の視線は私の一挙手一投足だけでなく、私の「肌」そのものを値踏みするように追いかけてくる。

 そしてその夜、均衡を破ったのは、一番静かで、一番透明な怪物だった。

 深夜二時。鉄さんと圭さんが明日の大型クロースアップマジックの仕込みのため、一階の倉庫にこもってから一時間が経っていた。私は自分の部屋で、ベッドに腰掛けてパジャマのボタンを留め直していた。

 カチリ。

 鍵をかけていたはずのドアが、音もなく開いた。

「……お姉さん。起きてる?」

 暗闇の中から滑り込んできたのは、レンくんだった。彼の右手には、私が厳重に管理していたはずの自室のスペアキーが、指先で器用に弄ばれている。

「レンくん……!? 鍵、どうして……」

「これくらい、僕にとっては落ちてる石を拾うより簡単だよ。……それより、やっと二人きりになれた」

 レンくんは私の返事を聞く前に、音もなくベッドへ這い上がってきた。いつもなら気だるげに燕尾服の裾を掴むだけの彼が、今夜は、まるで獲物を追い詰めた野生の豹のような、俊敏で容赦の
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     レンくんが落とした暗闇のなか、店内に張り詰めた空気は一触即発の様相を呈していた。圭さんの腕からすり抜け、私は乱れたシャツのボタンを暗闇の中で手探りで留め直した。 しがらみが消えたこの家では、誰が最初に一線を越えるかという、目に見えない秒読みが常に進んでいる。 その焦燥を最も激しく燃え上がらせていたのは、他でもない鉄さんだった。  翌日の営業終了後、私が一階の片付けを終えて階段に足をかけた、その瞬間だった。背後から音もなく伸びてきた巨大な影が、私の視界を完全に遮った。「――嬢ちゃん。ちょっとツラ貸せ」「え、鉄さん……? きゃっ!?」 問い返す暇さえ与えられなかった。鉄さんは私の身体を、まるで軽い荷物でも扱うように容易く小脇に抱え上げると、そのまま二階の奥――普段は決して誰も立ち入らせない、彼の自室へと強引に連れ込んだ。 重厚な木製のドアが、背後で荒々しく閉まる。鍵がかけられる金属音が、静かな部屋に重く響いた。「鉄さん、いきなり何をするんですか……! 開けてください!」「開けねぇよ。……もう、限界なんだよ」 振り返った鉄さんの瞳を見て、私は息を呑んだ。 いつもなら「嬢ちゃんの安全のためだ」と無骨な言い訳を口にする男が、今夜はその建前すら完全に投げ捨てていた。昏い情熱を宿したその視線は、かつて地下のカジノで命を賭けていた時のイカサマ師のそれよりも、ずっと狂暴で、容赦がない。「圭の奴といい、あのクソガキといい、コソコソと俺の目の届かねぇところで嬢ちゃんに手を出しやがって。……これ以上、お前をあいつらの目のつく場所に置いておけるかよ」「鉄さ……んっ」

  • 三人の「ペテン師」に愛されて。〜詐欺師とイカサマ師とスリ師に身も心も奪われる私〜   本番

    「レディース・アンド・ジェントルメン。今夜、皆さまは目撃します。この世に不可能などないという……本当の奇跡を」 父の形見である燕尾服の裾を翻し、私はステージへ踏み出した。眩しいスポットライトが、私の視界を真っ白に焼き尽くす。一瞬だけ、最前列に陣取る権藤たちの下卑たニヤけ顔が視覚の隅をかすめ、心臓が裏返るような衝撃を覚えた。けれど、私は唇に「魔法の笑顔」を完璧に貼り付ける。 まずは挨拶代わりのカードマジック。 指先はまだ微かに震えていたけれど、トランプを手に取った瞬間、その震えは甘美な緊張感へと変わった。空中に手を

  • 三人の「ペテン師」に愛されて。〜詐欺師とイカサマ師とスリ師に身も心も奪われる私〜   開店前

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  • 三人の「ペテン師」に愛されて。〜詐欺師とイカサマ師とスリ師に身も心も奪われる私〜   詐欺師 圭

     信じる者は『すくわれる』。 そう、今、俺の目の前にいる男はすくわれるのだ。足元を。「……なるほど。高橋様が、この次世代決済通貨『アポロン・コイン』に慎重になられるのは、至極当然のことです。賢明な投資家ほど、最初は疑うものですから」 都内高級ホテルのラウンジ。重厚なベルベットの椅子に深く腰掛け、俺は完璧に調律された微笑みを向けた。今の俺の名は『サトウ』。ドバイを拠点に活動する、仮想通貨ファンドのシニアマネージャーだ。 目の前の男――中小企業の社長である高橋は、脂汗を浮かべながらタブレットの上昇チャートを凝視している。この通貨は、近々大手取引所への上場が決まっている。今このプレセールで

  • 三人の「ペテン師」に愛されて。〜詐欺師とイカサマ師とスリ師に身も心も奪われる私〜   手品師 結

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