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第3話

작가: 緋色の追憶
風哉は陽翠をちらりと見上げ、微かに眉をひそめた。「どうして遅れたんだ?」

「道が混んでいたから」陽翠は小声で答え、主賓席から一番遠い隅の空席を見つけて腰を下ろした。

宴会が始まり、室内はにぎやかな熱気に包まれる。

陽翠は一人静かに座り、目の前の料理にはほとんど手をつけていなかった。

風哉が悠和の口元を優しく拭き、碧泉が笑顔で料理を取り分けると、彼がごく自然にそれを受け取る――そんな光景が彼女の目に入ってきた。

「ママ、あのエビが食べたいな」悠和がふと言い出した。

碧泉が箸を伸ばそうとするより早く、風哉の手が動いた。スプーンで一匙掬い、悠和の取り皿へと運ぶ。「ゆっくり食べろ。喉に詰まらせるなよ」

悠和は顔を上げ、屈託のない幼い声で叫んだ。「パパ、ありがとう!」

貸切ルームの空気が、一瞬だけぴたりと静まり返った。

その場にいる全員の視線が、一斉に陽翠へと向けられる。

陽翠は箸を握る手にぐっと力を込め、爪が手のひらに深く食い込んだ。

碧泉が慌てたように悠和の口を塞ぎ、申し訳なさそうに陽翠を見た。「ごめんなさい、子供が何も分からずに勝手なことを言ってしまって……陽翠、気にしないでね」

それから彼女は少し顔を伏せ、慈しむような声音で言葉を継いだ。「この子、小さい頃から父親がそばにいなかったから、ずっと風哉をパパだと思い込んでいて……。

可哀想な子なのよ。今また病気になってしまって、父親の愛情に飢えているの。陽翠は心が広いから、子供の言ったことなんていちいち気になさらないよね?」

その言葉の端々には、妻である陽翠が「物分かりよく」振る舞い、病弱な子供と「哀れな」母親を寛大に受け入れるべきだという無言の圧力が透けて見えた。

陽翠は顔を上げ、風哉を見つめた。

彼は悠和の皿にあるエビの殻を剥くのに気を取られ、顔を上げようともせずにただ短く言い放った。「黙って食べろ」

あまりに淡々としたその言葉は、まるで彼女の頬を思い切り張り飛ばしたかのような衝撃となって響いた。

「そうだよ、陽翠さん」そばにいた風哉の友人が、へらへらと笑いながら口を挟んだ。「相手は子供なんだ、そう呼ばれたからって減るもんじゃなし。まさか、本気で子供相手にムキになるつもりじゃないでしょう?」

「全くだ。西園寺さんも人がいいよな、身寄りのない母子の面倒まで見てやって」

「中には、心が狭くて他人が優しくされるのを妬む人間もいるからなあ」

針のように鋭いひそひそ話が、そこかしこから彼女の耳に突き刺さってくる。

陽翠は箸を置き、立ち上がった。

「化粧室に行ってくるわ」

風哉はようやく彼女に目を向けた。その眼差しには、明らかな不快感が滲んでいた。「座れ。まだ食事の途中だろうが」

「少し、気分が悪いの」

「どこが悪いんだ?」彼の口調はさらに冷ややかになった。「さっきまで何ともなかっただろう」

陽翠はその場に立ち尽くした。全員の視線がスポットライトのように彼女を照らし出し、まるで晒し者にされているかのような屈辱が彼女を襲う。逃げ場など、どこにもなかった。

碧泉の口元に微かに浮かんだ嘲りの笑み。そして、風哉の腕の中に隠れながらこちらに向かってあっかんべーをする悠和の姿が、はっきりと目に入った。

「風哉、陽翠をそんなにきつく叱らないであげて」碧泉が優しくとりなした。「本当に具合が悪いのかもしれない。なにしろ妊娠中なんだもの。行かせてあげて」

風哉は陽翠を数秒ほど睨みつけると、面倒そうに手を振った。「早く戻ってこい」

陽翠は身を翻し、貸切ルームを出た。

廊下に敷き詰められた重厚な絨毯が、彼女の足音を一つ残らず飲み込んでいく。

化粧室へ入り、蛇口をひねる。水は氷のように冷たいはずなのに、今の彼女にはその冷たささえ感じられなかった。

先ほどの貸切ルームで、風哉が碧泉と悠和を庇っていた光景が脳裏に蘇る。あんなにも自然で、あんなにも当たり前のように。

それに比べて、自分はどうだろう。幸福な一家の団欒に不当に紛れ込んだ部外者であり、目障りな不純物でしかなかったのだ。

不意に、言いようのない疲労感が押し寄せた。

七年――。いつか、彼の凍てついた頑なな心が解ける日が来ると信じて、今日まで待ち続けてきた。

けれど、今ならわかる。その雪解けの季節は、決して彼女に用意されていたものではなかった。

彼の優しさも、忍耐も、包容力も。そのすべては、別の女に捧げられていた。

彼女はただの余り物で、最初から存在してはならない「過ち」に過ぎなかったのだ。

陽翠は化粧室に二十分ほど留まった後、貸切ルームには戻らず、そのまま真っ直ぐホテルを後にした。

夜風は肌を刺すほどに冷たい。

タクシーを拾い、行き先を告げると、彼女は車窓にもたれかかって静かに目を閉じた。

スマートフォンが震えた。風哉からのメッセージだった。【どこにいる?】

陽翠はそのメッセージを長いこと見つめ、やがて画面の明かりを消した。

返事はしなかった。
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