Chapter: 完結編・・・第四章 完結そして、大くんが画面いっぱいに映される。『最後に紫藤大樹です。俺たちの卒業式に参加してくださり本当にありがとうございました。自分たちはファンの皆さんの応援があって今日という日を迎えられたと思います。活動をやめることが正しいことなのか何度も話し合いを重ねました。ファンの皆さんのおかげでたくさんの花を咲かせることができました。この花たちは永遠に枯れないです。そしてこれから俺たちは一人一人活動していくことになりますが、それぞれの花をまた咲かせていきたいと思いますのでこれからも応援お願いいたします』画面の中で話している大くんの言葉に私は涙を流していた。三人がステージから去ろうとした時、会場内から大合唱が起こったのだ。ファンの皆さんで話し合って歌おうと決めていたのかもしれない。しばらく会場内の拍手は鳴り止まなかった。ファンが思い思いに愛の言葉を伝えている。三人はしっかりと受け取っているようだった。COLORが三人でお辞儀をして舞台は暗くなった。そして配信も終わったのだった。美花は気持ちよさそうに眠っている。いつか大きくなったらあなたの父親はたくさんの人に愛されたボーイズグループだったのだと伝えてあげたい。私と久実ちゃんと芽衣子さんは、抱き合いながら涙を流した。そして二人は、帰って行った。大くんが打ち上げから帰ってきたのは、一月一日の朝方。大きな窓からは太陽が入り込んできている。清々しい顔をして大くんは私のことをぎゅっと抱きしめた。「今まで支えてくれてありがとう」「こちらこそ」「本当にいろんなことがあったけれど、人間は幸せになるために生まれてきたんじゃないかなって思う。俺も、赤坂も黒柳も。ファンのみんなも。俺たち家族も」「うん」「生まれてきたことに感謝をしてこれからも一緒に頑張っていこうな」私は満面の笑顔を浮かべて大きく頷いた。辛いことがあったけれど、大くんとならどんなことも乗り越えていける。きっとこれからの人生が素晴らしく、また素敵な花が咲いていくと信じて私はこれからも歩んでいきたい。完結
Last Updated: 2025-05-09
Chapter: 完結編・・・第四章7気持ちが暗くなってしまいそうだったので、私はオードブルをテーブルに運んできた。「手作りじゃないんですけど、どうぞ食べてください」「ありがとうございます」紙皿を取り分けて私たちはジュースで乾杯をした。画面を見ていると『もうすぐ配信が開始されます』と表示されている。緊張しながら待っていると画面が暗くなり会場が映し出された。たくさんのペンライトが星空みたい。その映像を見て美花が夢を丸くした。音楽が流れて大歓声が湧き上がりCOLORが登場した。画面越しでもCOLORは、キラキラと輝いていた。解散するのがもったいないと思ってしまうほど魅力のあるグループだった。気がつけば私たちは会話をするのも忘れて画面に釘付けになっていた。あっという間に三時間が終わり、会場も画面から見ている私たちも一体になったようだった。『今日はこんなにもたくさんの人に集まっていただきありがとうございます。最後にそれぞれ挨拶をさせてください』大くんが言うと、会場からは歓声が上がっていた。最初に画面にアップになったのは赤坂さんだった。やりきったというような表情で流れている汗が宝石のように光っていた。『俺、赤坂成人から話をさせてもらいます。今まで支えてくれたみんな。本当にありがとう。いつまでもCOLORは続くものだと思って活動してきた。だからこんな日が来るなんて想像もしていなかったんだけど。寂しい気持ちもいっぱいある。でもみんなと作り上げてきた思い出が胸の中にあるから、忘れないで頑張っていきたい。本当に本当に今までありがとうございました』赤坂さんが頭を下げると会場には大きな拍手が湧き上がった。久実ちゃんは涙ぐんでいる。私はそっとティッシュを渡した。続いて移されたのは黒柳さんだ。いつもふんわりとした雰囲気なのに今日はキリッとしていて少し感じが違った。『黒柳リュウジです。たくさんの愛をくれてありがとう。自分は、自分のことも人のことも愛せない人間でした。でもみんながいてくれたから自分のことも人のことも好きになれたんだ。みんなと過ごしてきた時間はかけがえのないものです。ずっとずっと死ぬまでみんなとの思い出は消えない。みんなのこと忘れないからみんなも忘れないでね。お互いに幸せな人生を歩もう!』芽衣子さんは微笑んで一筋の涙をポロッと流した。
Last Updated: 2025-05-09
Chapter: 完結編・・・第四章6家族でのクリスマスパーティーは、大くんが多忙なためお預けだった。美花とクリスマスツリーを飾って、テレビで音楽番組を見て過ごす。解散前ということでテレビの生放送に出演し、帰ってくるのは深夜だった。COLORの活動が終了したらゆっくりと家族の時間を過ごそうと言われていた。そしていよいよ今年最後の日がやってきた。ということはCOLORの最後のコンサートの日でもある。いつものように朝起きて、食事を済ませた大くんは、少しだけ寂しそうな引き締まったような表情をしていた。「大成功願ってるからね。家でしっかりと応援してる」「どうもありがとう。じゃあそろそろ行ってくるかな」「うん」美花はまだすやすやと眠っていた。大くんを見送ると、私は今日の準備を始める。久実ちゃんと芽衣子さんが一緒にコンサートを見たいと言ってくれた。もしかすると年末年始だし実家に帰るのかなと思っていたけど、今年は特別な日だからと私たちは一緒に過ごすことになったのだ。今日のコンサートは夕方の五時から。今年最後の日ということもあるし、COLORの卒業式でもあるので、オードブルを注文していた。夕方には配達される予定になっている。飲み物やつまめるものはあらかじめ用意しておいた。全て手作りというわけにはいかないけれど、最大限のおもてなしをしたい。美花が起きたので食事をさせてから、部屋を片付けて準備をしていると、食事が配達された。間もなくして久実ちゃんと芽衣子さんが家にやってきた。「お招きいただきありがとうございます」久実ちゃんは体調が安定しているのか顔色がとてもいい。「一緒にコンサート見させてもらえて嬉しいです」芽衣子さんはいつもしっかりしている印象だったけれど、少し柔らかくなったような感じがした。「美花ちゃん、可愛い」久実ちゃんと芽衣子さんが美花の面倒を見てくれている間に、飲み物などを準備した。テレビの画面に映してあとは配信を待つのみだ。「実は、私たち明日同じ日に入籍をするんです」久実ちゃんが言い、芽衣子さんが隣で頷いた。「おめでとうございます!」「ファンはどう思うのかなって思ったんですけど……。同じ日にしたほうがいいんじゃないかって」芽衣子さんが恥ずかしそうにしながらもそう言った。COLOR全員が既婚者になるのだ。「私たちは、幸せになるべきですよね。自分の存在で解
Last Updated: 2025-05-09
Chapter: 完結編・・・第四章5 *大くんはそれから解散コンサートに向けて忙しくしているようだった。朝早く家を出てソロとしての活動をし、夕方以降にコンサートの準備をしているそうだ。帰ってくるのは夜遅く。解散コンサートまであと一ヶ月。最近ではテレビで特集が組まれることが多くなっている。私の旦那さんがどれほどの国民に愛されていたのか。テレビを見ていてもそう思うし、コンビニの雑誌の表紙やインターネットのニュースにも頻繁に出ていた。超多忙の中なのに早く戻って来れる日は、積極的に家事や育児を手伝ってくれている。美花は寝返りをするようになり、運動量が増えてきた。目が離せないので大変ではあるけれど、どんどんと成長しているのを見ると嬉しい。あっという間に時が流れていくのだろうなぁ……。小学生になって、中学を卒業して、高校生になり、大学か専門学校に通う。すぐに大人になるんじゃないかなと想像できた。美花はどんな人と出会ってどんな人生を送っていくのだろう。そんなことを考えながら夕食を作っていた。最近、離乳食も開始したので、美花の分も用意していると大くんが仕事から戻ってきた。「お帰りなさい」「ただいま」「今日は早かったんだね」「あぁ。たまには早く戻ってこないと、美花に会えないから」娘のことが可愛くて仕方がないといった様子だ。床に置いてある大きめのクッションの上でコロコロと転がっている美花に近づいてしゃがむ。「ただいま」「うー」「よく動いて体力があるな。いっぱい成長するんだぞ」大くんはどんなに忙しくても家にいる時は娘のお世話をしてくれた。積極的に手伝ってくれるので本当にありがたい。かなりハードスケジュールをこなしているようだけど、家では疲れた素振りを一切見せないのだ。だから逆に心配になってくる。「そろそろご飯だから食べてね」「俺は美花に食べさせてから食べるよ」「ありがとう。でも疲れてるから無理しないで」「大丈夫。こんなに可愛い娘の姿を見るとエネルギーが湧いてくる」満面の笑みを浮かべて言うので、申し訳ないなと思うけれど手伝ってもらうことにした。仕事で忙しい夫に手伝ってもらうのは罪悪感を覚えると友人に話をしたら、二人の子供なんだから協力してやるべきだよと言われたのだ。「美花、美味しいか?」かぼちゃを潰した離乳食を食べさせて優しい笑顔を向けて話しかけている。私は洗濯
Last Updated: 2025-05-09
Chapter: 完結編・・・第四章4 *十月になり、美花はどんどん成長してきた。声を出して笑うようになり、ますます可愛くなっていく。大くんの血を引いているためか音楽がすごく好きなようで音楽を流すと楽しそうにするのだ。自分の家に戻って暮らすことになり、今日私と美花は実家を出てきた。「いなくなると寂しいな……」「またすぐ会いに行くし遊びにも来て」「そうすることにする」両親は寂しそうな顔をしていたけれど、またすぐに会いに行く約束をした。父の車でマンションまで送ってもらって戻ってきた。部屋に入ると久しぶりなので若干の違和感を覚えるが、映画の撮影も落ち着いたそうで今日の夜から大くんも戻ってくる。やっと家族で過ごすことができるのだ。美花は車の中でぐっすり眠って今もまだ熟睡中だ。ベビーベッドに寝かせると、はなのしおりをお供えコーナーにおいて、実家で持たせてもらったお菓子を添えてから、手を合わせた。「家に戻ってきたね。これからいろんなことがあると思うけど見守っていてね」はなの姿はどこにも見えないし、声も聞いたことはないけれど、天国から私たちのことを温かく見守ってくれているのだという確信はあった。今日は久しぶりに大くんに手料理を振る舞おうと私はキッチンに立つ。最近は朝晩冷えてきたので温かくなる料理がいいかなと、ミネストローネと、鶏肉のグリルと、サラダを作ることにした。夕方になり美花にお乳をあげる。安心したような表情で美味しそうに飲んでいる。たまらなく愛おしい。「おいちい? ゆっくり飲んでね」飲み終えると抱き上げてゲップをさせる。満腹になった美花は眠くなってきたのか、グズりだした。体をゆすりながらあやしているとドアが開く音が聞こえた。玄関から入ってきたのは、大くんだ。「美羽、美花、ただいま」「おかえりなさい」「抱きしめたいところだけどウイルスがついていたら困るからまずは手洗いをしてくる」手洗いを終えた大くんは両手を広げて私たちのことをまるごと抱きしめてくれた。「これからはしばらく自宅で過ごすことができそうだ」「お疲れ様でした」「待っていてくれると思うだけで心強かった」彼のぬくもりを感じて私も心から安堵した。「美花、帰ってきたぞ。いい子にしてたか」優しい声で話しかけている。さっきまで眠そうにしていた美花は、大くんの顔を見るとニコニコと笑っている。「パパ
Last Updated: 2025-05-09
Chapter: 完結編・・・第四章3子供と接していくうちに一日一日、母親の気持ちが芽生えてくる気がした。おっぱいを飲ませてゲップをさせてオムツを取り替えて。ちょっとした表情の変化も可愛くて写真を何枚も撮ってしまう。そして退院する前日には、これから子育てで大変な日々がはじまり、ゆっくりと食事ができない母親のためにと出してくれる豪華なフルコースを食べていた。家族も同席していいとのことで両親と一緒に食事を楽しんでいた。ホテルのレストランかと思うほどの繊細な盛り付けと味付けに私は舌鼓を打つ。本当は大くんも一緒に食べたかったけれど、今彼は仕事を頑張ってきてくれているのだ。とにかく健康で働くことができるようにと私は願うしかなかった。 *「うぎゃああああああああ、ふぎゃああああああああ」「よしよし、いい子ね」退院して一週間が過ぎたが子育てはなかなか慣れない。赤ちゃんがどうして泣いているのかもまだわからないし、とにかく睡眠時間が削られる。先輩ママの話を聞いていて大変だとはわかっていたけれど、想像以上に体力が削られていた。夜中何回も起こされるし、放っておくわけにはいかない。子育ては予想よりもはるかにハードだった。でもすやすや眠っている娘の顔を見ると、疲れが吹き飛んでしまうのが不思議である。愛する人の子供をこの世の中に産むことができたことが何よりも幸せだし、自分の血を分けた我が子は世界で一番大切にしたい生き物だ。お腹の中にいる時から母性は沸いていたけれど、生まれてきた姿を見るとどんどん母親の自覚が芽生えてくる。我が子が無事に成人し、幸せな人生を送っていくところを見届けたい。可愛くて仕方がないけれど、それでもやっぱり一人では大変だからとのことで、しばらくの間実家で暮らすことになった。退院した日は両親が暖かく迎えてくれて、特にお父さんは顔がくしゃくしゃになってしまうほどだった。初孫が嬉しくてたまらないのかもしれない。お母さんも美花を見て目に入れても痛くないといった表情をしている。両親に孫という存在を見せることができて、少しは親孝行できただろうか。いろんな負担をかけたし悲しい思いもさせてしまったのでこれからは両親に対しても恩返しをしていきたい。母が面倒を見てくれるのでとても助かる。眠っている娘の姿を見ると、大くんのことを強烈に思い出すのだ。それほどそっくり。この唇とかもすごく似
Last Updated: 2025-05-09
Chapter: おまけ 私たちは結婚式の準備で大忙しだった。 でもこれから幸せな毎日が訪れると思ったら、 全然苦ではない。 今日は私たちは自分たちの家で、 結婚式をどのように執り行うか打ち合わせをしていた。 「圭介君、あまりお金もかけたくないし、ウェディングドレスはレンタルでいいよ」 「そんなわけにはいきませんよ。愛する妻にはとっておきのドレスを用意したいと思っているんです」 カタログをパラパラと見ながら発言する私の手を止めて、彼はじっと見つめてきた。 吸い込まれそうな素敵な表情に心臓はドキドキしてくる。 「いいよ、レンタルで」 「よくないんですって」 それの言い合い。 なんだか、ハッピーすぎる。 「わかった。そうする」 彼の熱意に負けてしまった。 夫婦になるなんてすごく不思議な気持ちだ。 仕事が忙しいはずなのに、 私の気持ちをしっかりと聞いてくれるし、不安なところは解消しようとしてくれる。 本当に優しくて素敵な人。 こんな大好きな人と結婚できるなんて私は幸せで、どうにかなってしまうのではないかと思う。 「ウエディングドレス姿すごく楽しみにしてます」 「私も。タキシード姿楽しみ。王子様みたく素敵なんじゃないかな」 素直に気持ちを打ち明けると彼は恥ずかしそうに顔を赤く染めた。 こういうピュアなところも大好きだ。 「あまり可愛いこと言うと襲っちゃいますよ」 「え?」 いきなりスイッチが入ったようで瞳が真剣に変わる。そして手を伸ばしてきて強く抱きしめられた。 「ちょっと待って、結婚式の打ち合わせをしてからにしようよ」 「もう我慢できません。可愛いことを言うから……」 顔を近づけてきて唇が重なった。 彼の甘くて長いキスに私は溺れていく。 「真歩さん……大好きです」 「ありがとう」 「真歩さんは?」 私の気持ちなんてとっくに知っているはずなのに、言葉で聞きたいとでも言いたいような顔をしている。 好きだと伝えるのは何だかくすぐったくて恥ずかしい。 でも彼が求めてくれるならちゃんと素直に伝えたい。 「好きに決まっている」 照れを隠しながら言うと、彼は嬉しそうに笑った。 「ありがとうございます。 一生大事にして離しませんから」 長い腕で抱きしめられて、私は素直に彼の
Last Updated: 2025-06-25
Chapter: 3−12 翌日の授賞式では、直接社長から賞状を受け取った。 その後はホテルで立食パーティーが開かれて、たくさんの仲間に祝福してもらった。 途中、社長に声をかけられて少し席を外す。何を言われるのかと緊張して後ろをついて行った。 用意されていたのはソファーとテーブルがある歓談室だ。「手短に話したいから立ったままで」「わかりました」「詳しくはまた今度ゆっくり話をしようと思っているのだが」 緊張でつばをゴクッと飲んだ。「素晴らしい活躍本当にありがとう」「こちらこそありがとうございます」「……圭介もかなり頑張ってくれて、跡取りとして任せることができると思うようになっているんだ。一人息子だから心配でたまらなくてね」 私は社長の話に耳を傾けていた。「まだ少し早いが、こうして成長した圭介なら家庭を持ってもいいかと思っているんだ。息子をお願いしてもいいかな?」 まさかお許しをいただけるなんて思わずに私は固まってしまった。 するとそこに岩本君が入ってくる。 二人で話しているところを見てかなり焦り、私の前に守るように立ってくれた。「お父さん、真歩さんに何をする気ですかっ!?」 社長は面白そうに笑って冗談を言うのだ。「相野さんに大事な話をしようと思って呼び出した」「父さんがどんなに反対しても、僕たちの関係は崩れることはありません! 昨日プロポーズさせていただきました」 反対されると思っているようでかなり必死だ。 社長は嬉しそうな顔をして大きく拍手をしてくれた。「もうプロポーズまでしたのか? それはよかった。おめでとう」「え?」 混乱している岩本君に私は説明をした。 社長が私たちの結婚を認めてくれたと伝えると、こわばっていた顔が柔らかくなって、今まで見た中で一番素敵な笑顔を見せてくれた。
Last Updated: 2025-05-23
Chapter: 3−11 半年という月日は長いような、短かったような。仕事も順調で時間の経過が早く感じたのかもしれない。 四月の下旬になり、アメリカから岩本君が戻ってくる。 あれから社長と出くわすたびに微妙な空気が流れていたが、私は心から愛した人とこれからも一緒に過ごしていきたいと自分なりに決意をしているところだ。 空港の到着ロビーで待っていると、手を振りながら近づいてくる人の影が見える。岩本君だ。私は嬉しくなって走ってかけよった。 それと彼は両手を大きく開いて受け止めてくれる。「ただいま」「お帰りなさい」「会いたかったです」 会えない間寂しいからと一度も泣くことはなかったけれど、一回りも二回りも成長して戻ってきたように見える。 身分を隠して新入社員として一緒に働いていた時とは別人のようだった。年下なのにかなり頼れる存在というオーラを感じる。「真歩さん……」「岩本君……」「家に戻ってイチャイチャしましょう」 そう耳元で囁かれて私は恥ずかしいけれど、コクリと頷いた。 荷物がたくさんあったのでタクシーで岩本君のマンションに戻ってきた。 部屋に入ると同時に岩本くんにハグをされる。そして何度も何度も口づけを交わす。「すみません。真歩さん不足だったんで」 少し落ち着きを取り戻した岩本君が顔を赤くしていた。 リビングに入ると、彼はポケットの中から小さな箱を出す。「僕と結婚していただけませんか?」 ダイヤモンドの指輪はキラキラと輝いていた。断る理由なんてない。「ありがとう。こちらこそよろしくお願いします」 大企業との御曹司との結婚は、そう簡単にはいかないかもしれない。でも二人の思い合う気持ちがまずは大切なのではないかと、プロポーズを受け止めることにした。「父のことは絶対に説得します。幸せになりましょうね」 岩本君が力強く私のことを抱きしめてくれた。「ずっと岩本君についていく」「ええ。でもそろそろ名前で呼んでもらえると嬉しいのですが……」「そうだったよね……」 恥ずかしくてたまらないけれど、期待に満ちた瞳をされるので私は大きく息を吸った。「圭介君」「…………うわぁ、たまらないですね」 名前を呼んだだけなのにこんなにも喜んでくれるなんて。彼の反応があまりにもかわいかったので私は満面の笑みを浮かべる。「明日は社内の授賞式ですね」「うん」 ゲ
Last Updated: 2025-05-23
Chapter: 3ー10 毎日がめまぐるしく過ぎていく。 他社の商品の企画なども担当しつつ、パルティとのやり取りを繰り返していた。あまりにも忙しくて岩本君とオンラインで話せる日数も限られていた。 そして気がつけば三月になっていた。『ティーオーユーデザイン企画 相野様いつもお世話になっております。商品が完成しました。本日送らせていただきますのでご確認お願いいたします』 パルティの担当者からメールが届いていた。 翌日、実際に商品が届き段ボールを開く。部署内のメンバーも集まってきて中身を確認していた。 私が考えたデザインがゲームのパッケージとなっていて、実際に手に持つと言葉では表すことができない感動が胸いっぱいに広がった。「すごいですね!」「おめでとうございます」「いいか? 皆も頑張ったら、こういう結果を出すことができるんだぞ」 課長が言うと後輩社員たちの瞳がキラキラと輝きだした。諦めないで続けて夢を叶えることができて本当に嬉しかった。 仕事を終えて家電量販店のおもちゃ売り場に足を運ぶ。 本当に並んでいるのかなと緊張しながら行ってみたら、特設コーナーは設置されており、しっかりと商品が並べられていた。これを見て本当に夢が叶ったんだと実感した。 買い物に来ている仕事帰りのサラリーマンや、子供を連れた人がゲームを次々と手に取っていく。 ゲームの内容はかなり楽しそうで私もプレイしてみたい。 幸せそうに嬉しそうに、ゲームを手に取ってレジへ向かう姿が印象的だった。 この感動をどうしても愛する人に伝えたくて、私はスマホで電話をかけていた。すぐに岩本君が電話に出てくれる。「今大丈夫?」『そろそろ電話をしようと思っていた頃ですよ。今日は商品が発売日でしたね。本当におめでとうございます』「家電量販店に見に来たんだけど、特設コーナーが設置されていたの」『素晴らしいですね。隣で一緒に見たかったな』「……そうだね。帰ってきたら一緒にゲームしてみない?」『それはいい考えですね』「うんっ」 休日には亜希子のお墓で手を合わせて報告をしてくることもできた。 その後、クライアントから連絡が来て売れ行きは好調とのことだった。連日のようにテレビや雑誌でも紹介され、売り上げがどんどんと上昇していく。 そのうちにパッケージデザインのことまで注目してもらえるようになった。 私はアイ
Last Updated: 2025-05-22
Chapter: 3ー9* * * 九月下旬に修一郎は福岡支店の営業職として転勤することになったと発表された。事実上の左遷である。 デザイン部から営業職に変わる人は社内では初めてらしい。 修一郎が転勤する最後の日まで、私と言葉を交わすことはなかった。 同じ会社で働いている限り、またどこかで会うかもしれないけれど、本当にこれで修一郎と別れることができると思えた。 さようなら、修一郎。 十月になり、岩本君がアメリカに飛び立つ日になった。 有給休暇をもらって私は空港に見送りにいく。「真歩さん。しばらく会えないと思うと寂しくなってきました」 守る時は守ってくれて、しっかりしている時はかなりしっかりしていて頼れる存在なのに、こういう時に甘えてくるので私の胸はかき乱されてしまう。 私だって会えなくなってしまうのはすごく寂しい。 お泊りして、朝まで一緒に過ごしていたのだから。「休みが取れたら会いに行こうかな」「ぜひ!」 私は手を差し出した。岩本君はかっちりと握手を交わしてくれる。「頑張ってきてね」「はい。毎日連絡します」 そのまま手をぐっと引っ張って思いっきり抱きしめられた。そして公の場だというのに唇に優しくキスをされたのだ。「行ってきます」「行ってらっしゃい」 彼は颯爽と歩き出す。こちらを振り返って何度も手を振りながら。4 岩本君がアメリカに行ってから一ヶ月後、私の作品は無事コンペで選ばれた。 そして正式にゲームパッケージとしてクライアントに案を提出することになった。 修正や予算案を詰めていく作業があり、連日残業続きだったけれど、夢を叶えるために私は奮闘していた。 クライアントに無事に提出し、素晴らしいアイディアだと絶賛されて来年の春に発売されることになった。『おめでとうございます』 パソコンの画面に映っているのは、オンラインでつながっている岩本君だ。お祝いだからと彼はシャンパンを手に持っている。 私が寂しくないように頻繁にメッセージを送ってくれて、時間が合う時はオンラインで話をしているから遠い地にいるという感じはしなかった。『ご友人も喜んでくれていますね』「うん。ゲームが発売されたらお墓に行ってこようと思ってるの」『真歩さんが頑張っている姿が自分にもいい刺激になってますよ』「私こそ、岩本君のおかげ」『そうですか? では、ご褒
Last Updated: 2025-05-22
Chapter: 3ー8 その日の夜。引越し先が決まり荷造りをしていると岩本君が帰宅した。「裏で動いてくれていたんだね。本当にありがとう」「いえ。それで相野さんがコンペ用に最初に考えていた案を何とか使ってもらえないかとお願いしているのですが……」 私は首を横に振る。「あのことがあったおかげで、コンペに出せた作品がさらに洗練されたものになったと思うの。辛い経験だったけど、今はこれでよかったなと思っている」 彼は優しそうな表情を浮かべて頷いた。「そう言ってくれるなら安心しました。僕がアメリカに行ってからコンペの結果が出るのですね」 そうなのだ。どんな結果になったとしても受け止めるつもりでいたけれど、できればそばで見守ってもらいたかった。「本当に引っ越ししてしまうんですね」「無事に家を見つけることができたから、今までお世話になって本当にありがとうございました」 心から寂しいと言った目をする岩本君が急に後ろから抱きしめてきた。「ちょっと……」「嫌ですか?」「……ううん。でも、年の差もあるしふさわしい人がいるんじゃないかなと思って」「僕がふさわしいと思ったのは真歩さんですよ」「ありがとう」 岩本君が私の目の前に回ってきて、ずっと瞳を見つめてくる。「もし辛いなら一緒にアメリカに行きませんか?」「辛いけれど、必ずわかってくれる人がいる。私は自分の作り出したアイディアたちに様々な色を込めたの。『私を見て』って。もう少し頑張ってこの世界で勝負をしていきたい」 岩本君が深く頷いた。「その言葉を聞いて安心しました。僕も半年アメリカで頑張ってきます。戻ってきたら、その時はプロポーズさせてもらおうと思います」 まっすぐな彼の言葉が矢のように胸に突き刺さる。 彼の自分を見てほしいというアピールがものすごく強いかもしれない。「わかった。私も頑張ってるから」「ええ」 自分の会社の御曹司との恋愛というのは、かなりハードルが高いかもしれないけれど、御曹司だから好きになったわけではなく、好きになった人がたまたま御曹司だった。 様々な困難はあると思うけど乗り越えていきたい。 私と岩本君はゆっくりと顔を近づけてキスをした。
Last Updated: 2025-05-21