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第3話

Author: キュートキャット
「秘書が具合を悪くしたから、手を貸したんだ。急ぎの書類を取りに、俺についてきただけだから」

表情こそ平静を装っていたが、後ろめたさまでは隠しきれていなかった。

私は気にしていないように笑った。

「私は何も言ってないでしょ。そんなに慌てなくても、ちゃんと信じてるから」

二人が背後で言い争うのも構わず、私はそのまま屋敷へ入った。

「恭平さん、本邸を見せてくれるって言ったじゃない」

「詩乃が予定より早く来たんだ。今、お前を連れて入るわけにはいかない」

恭平は運転手に命じて、彩香を送り帰した。

そして自分も屋敷へ入ってきた。

ところが食事が始まる頃になると、恭平の母が彩香を連れて現れた。

「この子は恭平の秘書なの。もう6年も恭平のそばで働いてくれているのよ」

恭平の母は誇らしげに彩香を家族へ紹介し、「そばで」と口にしたときには、わざわざ私へ視線を向けた。

恭平の表情が険しくなった。

「母さん、秘書を身内の食事会に同席させる必要はない。外へ出してくれ」

恭平の母はたちまち腹を立てた。

「秘書だから何なの?人を職業で見下すようなことを、いつ私が教えたのよ」

恭平は目を険しくし、二人をにらみつけた。その声には明らかな警告が込められていた。

「残るなら黙って食事をしろ。みっともないことは言うな」

それを聞いた彩香は目を赤くし、今にも泣きだしそうになった。

食卓では、普段は厳しい恭平の母が何度も彩香に料理を取り分け、機嫌を取っていた。

私の存在など、まるで目に入っていないようだった。

一方、隣に座る恭平は二人の態度を見て見ぬふりをし、私の世話ばかり焼いていた。

それでも彩香が料理を褒めるたび、無意識に彼女へ目を向けていた。

針のむしろに座らされているようで、何を食べても味がしなかった。

席を立とうとしたとき、彩香が突然えずいた。

恭平は魚料理を運んできた使用人に、すぐ離れるよう命じた。

そして慣れた手つきで、彩香の背中を軽くさすった。

その場にいた者たちは顔を見合わせ、面白がるような目を私へ向けた。

恭平は気まずそうに手を下ろすと、私に説明した。

「実は、彩香が妊娠しているのは俺の友達の子なんだ。そいつに頼まれているから、気にかけていただけだ」

私は無表情のままだった。

その言い訳を信じていないことは、誰の目にも明らかだった。

恭平の母は満面の笑みを浮かべ、妊娠はめでたいことだと何度も口にした。彩香を見る目も、先ほどまで以上に優しくなっていた。

恭平は私の手を強く握って軽く揺すり、子犬のように機嫌を取ろうとした。

私は適当な理由をつけて席を外したが、恭平はぴったりついてきて、しつこく説明を続けた。

「詩乃、怒るなよ。彩香が前にオフィスで吐いて、それで妊娠を知ったんだ」

あまりにも白々しくて、思わず笑ってしまった。

「それで、父親はあなたのどの友達なの?」

恭平はためらいもせず、嘘をついた。

「田中家の息子だ。街の東側でネット通販をやってる家の。家族に反対されて、取引を条件に彩香の面倒を俺に押しつけてきたんだ。俺も仕方なく、少し気にかけているだけだよ。怒るなって。嫌なら、あいつのところへ送り返すから」

けれど、街の東側でネット通販を手がけているのは近藤家だった。

恭平は、私が大ざっぱで、城戸家を取り巻く複雑な人間関係など知らないと思っていたのだろう。

だが、彼と結婚するつもりだった私が、何も知らずにいられるはずがなかった。

恭平がまだ隣で私をなだめていると、使用人が慌てて呼びに来た。

「恭平様、彩香さんがひどくお腹を痛がっています。すぐに来てほしいと……」

恭平は厳しい声で拒んだ。

「どうして俺を呼ぶんだ。俺は医者じゃない。具合が悪いなら、運転手に病院まで送らせろ」

そう言いながらも、眉間に刻まれたしわは消えなかった。

しばらくして、恭平はスマホに届いたメッセージを確認すると、会社で用事ができたから先に帰ると言い、私も一緒に帰るかと尋ねた。

私は首を横に振った。

画面に表示された彩香からのメッセージが目に入ったからだ。

【赤ちゃんも私も、あなたに会いたい】

恭平が慌ただしく立ち去ったあと、私は部屋の隅に座り、眉間を軽く押さえた。

すると、使用人たちの話し声が聞こえてきた。

「詩乃様も、お人よしにもほどがあるわ。妊娠した愛人が目の前まで乗り込んできたのに、まだ気づいていないなんて」

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