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第6話

Author: みそ煮
last update publish date: 2026-02-25 08:58:31

瀬奈は部屋にあった荷物をまとめた。とはいえ、彼女の部屋には持っていけるようなものは何一つなかった。

湊斗は瀬奈に必要最低限の生活を保障してはいたものの、彼女に余分なものは買い与えなかった。沙織やほかの愛人たちはハイブランドのバッグやアクセサリーをもらっていたようだが、当然瀬奈には贈り物など一度もしたことがなかった。

「……」

ドレッサーの引き出しを開けると、いくつかアクセサリーが入っていた。当然、これらはすべて瀬奈が自分のお金で購入したものだ。瀬奈は神宮司家の夫人とはいえ、お飾りの妻。当然神宮司家の財産を自由に使えるわけがない。

瀬奈はお金になるかもしれないから持っていこうと、アクセサリー類をカバンに詰めた。その中で、あるものに目を留めた。

「あら?これは……」

瀬奈の手に握られていたのは、子供用のリボンの髪飾りだった。三十代後半の彼女は到底着けられないし、中高生が身に着けるにしても幼すぎる。

では、一体何故そんなものがここにあるのか。瀬奈はすぐに気が付いた。

そのリボンは、かつて湊斗が瀬奈に贈ったものだった。

彼女が小学生の頃、まだ湊斗と仲が良かったときだ。彼は彼女の誕生日に、ピンク色のリボンをプレゼントしたのだ。

瀬奈は愛する湊斗からのプレゼントに大喜びし、毎日のようにリボンを髪につけた。忘れていた幼い頃の記憶だった。

「彼から貰ったもの……あったわ……」

それが最初で最後の贈り物となってしまったが、本当に本当に大切なものだった。当然、湊斗はそんなこと覚えてもいないだろうが。

「すごく大切なものだったけれど……今はもう必要ないわね」

瀬奈はリボンをカバンに入れずに、ドレッサーの引き出しに閉まった。どうせ湊斗とは離婚するのだから、彼の痕跡が残っているものは持っていかないほうがいい。

彼女は机の上にサイン済みの離婚届を置いた。見える位置に置いておけば湊斗も自分がいなくなった理由をすぐに理解するだろう。もっとも、突然失踪したところで何とも思わないかもしれないが。

瀬奈はカバンを手に持つと、殺風景な部屋を見渡した。

彼女が二十年過ごした場所。今は亡き義理の両親が彼女に与えてくれた、大きな部屋。辛い記憶ばかりだったが、それも今日で終わりだ。

彼女は最後に部屋を軽く掃除すると、カバンを持ったまま出て行った。邸宅の廊下を歩き、門の外に出ると、瀬奈は長年過ごした邸宅を振り返った。

「二十年間ありがとう」

辛い記憶ばかりだったけれど、たしかに楽しい思い出も存在した。邸宅から背を向けた彼女は、二度と振り返ることはなかった。

神宮司家を出た彼女が最初に向かったのは、墓地だった。近くの花屋で購入した花を、そっとある人物の墓に添えた。

「お義父さん、お義母さん……」

湊斗の両親――神宮司夫妻の墓だ。二人は十六年前の旅客機事故で同時に命を落としてしまった。

夫妻の訃報を聞いた瀬奈は、人目も憚らずに声を上げて泣いた。何故あんなに優しい人たちがこんなにも早く亡くならなければならなかったのか。

事故のあと、瀬奈は自分を責め続けた。

「すみません、私はもう……お義父さんとお義母さんの娘ではいられなくなったようです」

彼女がここに来た理由はただ一つ。大好きだった義理の両親に真っ先に彼との離婚を報告したかったからだ。

生前、湊斗に顧みられなかった瀬奈をいつも気にかけてくれた二人。何も言えない瀬奈に代わって、いつも湊斗に苦言を呈していた。

「湊斗のこと、優しく見守っていてあげてください」

それだけ言うと、彼女は義理の両親の墓から背を向けた。

そして彼女は近くにとまっていたバスに乗り込んで駅に向かった。電車で一時間ほど揺られ、到着した駅で瀬奈は下りた。

瀬奈が元々湊斗と住んでいた黒川区に比べるとかなり田舎な場所だった。瀬奈が駅で立ち尽くしていると、小さな子供が嬉しそうに彼女の元へ駆け寄ってきた。

「お母さん!」

五歳ほどに見える可愛らしいその少女は、瀬奈に抱き着いた。彼女はそんな少女を、優しく抱き上げた。

少女の顔は湊斗にそっくりだった。

「――良い子にして待ってた?里亜」

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Comments (4)
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匡子
黒川区だって。黒川家でしょ。AIだとすぐわかる
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ミワコ
ロック解除しないと読めないシステムだったんですねぇ...
goodnovel comment avatar
智恵子
続きをすぐ読みたいです
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