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第9話

作者: 安田徹
「っ、痛い!」杏奈は叫び声を上げた。そして医師の手を強く掴み、必死に訴える。「お願いします、子供を助けてください。もう9ヶ月なんです。なんとしてでも産みたいんです!電話なんてしなくていいので、早く手術室へ。何があっても、全部私の責任で大丈夫ですから!」

杏奈は、そう言い残して気を失った。

意識が遠のく中、頭を宗谷の言葉がよぎる。

「そんなことして、バチが当たるのが怖くないのか?

たとえ子供を失ったとしても、自業自得だ!」

こんな言葉を吐くような男に、この子の父親になる資格なんてない。

意識を失ってどのくらい経ったのだろうか。気がつくと、周囲の人々の話し声が耳に入ってきた。

「急げ!もう破水しているんだ。胎児の心音も弱い、すぐ手術だ!」

「あれ、この人って……旦那さんはどうしたの?」

「旦那さん?さっき聞いたんだけど、今日は息子さんのお披露目をするために、食事会を開いてるとか……」

「食事会?奥さんはここにいて、子供はまだお腹の中なんだぞ!」

「愛人との子だろうな。あっちの子もここで産まれたから」

「なんて人なの!今までの健診はいつも一緒に来てたから、仲の良い夫婦だと思ってたのに!」

「奥さん、頑張ってください!あともう少しですよ!」

「……」

再び意識を取り戻すと、傍に赤ちゃんを抱いた助産師が立っていた。

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

それと同時に、離婚を担当してくれている弁護士が駆け込んできて、離婚届受理証明書を杏奈に差し出す。「離婚届は無事受理されましたよ」

杏奈はそれを受け取り、じっと見つめた。ようやく、胸のつかえが下りた。

杏奈は助産師を見上げ、静かに言った。「すぐにここを離れたいんです」

……

お宮参り後のお披露目を兼ねた食事会にて。

宗谷は、朝からずっと琴音と一緒だった。

同僚たちが次々と駆けつけ、二人を祝福する。

「おめでとうございます!元気な男の子ですね!」

「結城室長、せっかくおめでたい日なのに、なんで奥さんが来ていないんですか?まだ納得してくれていないんですか?」

「奥さんも、そんなに意地を張らなくてもいいのに」

宗谷は何も言わなかったが、ただ、妙に落ち着かない気持ちでいた。

食事会が始まる時間になっても、杏奈の姿はどこにもない。

まだ怒っているのか?昨日はつい頭に来てひどいことを言ってしまったが、本心ではなかった。

すると、琴音が子供を抱えながら、急かしてきた。「宗谷さん、みんな待っているわ。杏奈さんはもう来ないだろうから、早く行こうよ」

それでも、スマホを取り出して連絡しようとする宗谷を、琴音が止める。「先に入ろう。もういいでしょ?」

だが、宗谷はやはり発信ボタンを押した。

「おい、昨日の夜は一体なんだったんだ?あんなに何度も電話をかけてきて!杏奈はどこだ?せっかくのめでたい日なんだから、早く連れてこい……」

ボディーガードが答える。「奥様は昨晩、池の中に4時間もいたため出血してしまったので、私たちが病院に連れて行きました。

医者も全力を尽くして治療をしてくれたのですが……

お腹の子は……すでに息を引き取っていました」

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