Share

第18話

Author: アカリ
個室のドアは完全に閉まってはおらず、わずかな隙間から中の様子がはっきりと見えた。

そこには、ベルベットのソファにだらしなく体を預け、スモーキーなメイクでタバコを指先にはさんだ篠がいた。以前の清純で大人しい姿とは似ても似つかない、不良そのものの様子だった。

篠は楽しそうに、周りにいる友人たちと何やら話し込んでいる。

篠の姿を見た竜也は、これこそが自分の救いだと思い込み、興奮してドアノブに手をかけた。

しかし次の瞬間、中から聞こえてきた会話の内容に、竜也は凍りついた。

「篠、それにしてもさ。谷口さんって以前は篠にあんなに尽くしてたじゃない?今の彼、どん底みたいだけど、もうポイしちゃうの?」

赤いドレスを着た女性が、冷やかし半分に問いかけた。

篠は鼻で笑うと、タバコの煙をゆっくりと吐き出した。顔は血色よく生き生きとしており、竜也の前で見せていた弱々しい姿はどこにもなかった。

篠はまるでどうでもいい古い道具について話すように、投げやりに言った。

「当然でしょ。竜也なんて私にとってはただの『ATM』なんだから。もう玲奈にも見捨てられて何の価値もないし、お金も取れない。足手まとい
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 二度目の人生、裏切りヒモ男の援助をやめた   第26話

    万が一に備えてブローチに隠しカメラを仕込んでいた。それが、まさに役立った。隠しカメラは昨日の一部始終を捉えていた。私が車に乗った後の勇太の過度なボディタッチ、それを厳しく咎めた後、彼からの理不尽な突撃、そして薬のせいで抵抗できずに昏倒していく過程まで。証拠は完璧。言い逃れなんてできない。先ほどまで怒りに満ちていた記者たちは静まり返り、レンズと避難の矛先は一瞬にして逆転した。「えっ……全部仕組まれたものだったんですか?」「なんて陰湿な男なんだ!」「有名になりたくて、ここまでするんですね!吐き気がしますよ!」私は氷のような目で勇太を見下ろした。怒りのあまりお腹がギュッと痛み、冷や汗が止まらなかった。「あなたは一体何者なの?なぜ私をそこまで陥れようとしたの?」真相が暴かれると、勇太から演技じみた哀れさは消え、代わりにはらわたが煮えくり返るような憎悪が浮かび上がった。「なぜって……篠を殺した報いだ!俺は篠の幼馴染なんだぞ!お前が谷口のやつを突き放したせいで、あいつが発狂して篠を殺したんだ!どいつもこいつも許さない!牢屋に入った谷口を痛めつけられないなら、お前を痛めつけてやる!引きずり落としてやるよ!お前の家庭なんてボロボロにしてやる。大切なものを奪われる痛みを味わせてやる!」勇太は無様に叫び散らした。「もう少しで……もう少しで成功だったのに!」勇太は何かを思いついたように、私の大きなお腹をギョロリと睨み、邪悪な笑みを浮かべた。次の瞬間、落ちていた靴を掴むと、ありったけの力で私の腹をめがけて叩きつけてきた。「くたばれ!」あまりのことに頭が真っ白になり、私は動けなくなった。「玲奈、危ない!」その時、直樹が本能的に駆け寄り、鋭い蹴りで勇太の手首を弾き飛ばした。バキッと嫌な音と共に叫び声が響き、勇太の手から靴が吹き飛んだ。父は既に警察へ通報済みだった。勇太が地面に転がったその隙に警察が到着し、すぐに彼を制圧した。「傷害未遂の容疑で連行する!」しかも、こんな時に破水し、激しい陣痛が押し寄せた。「直樹、お腹が痛い……」異変を察した直樹は、すぐに私を病院へと連れ出した。急患として運び込まれる間、直樹は罪悪感に濡れた瞳で私の手を握り締めた。「ごめんよ……疑ったりして、

  • 二度目の人生、裏切りヒモ男の援助をやめた   第25話

    時間は、その瞬間に止まったかのように感じた。目の前で直樹の潤んだ瞳が怒りに震え、彼は拳を壁に叩きつけた。指の間から血が流れる。「直樹!」私は後ろにいた勇太を突き飛ばし、ふらつく足でベッドから飛び降りた。手近な服で体を隠し、直樹に駆け寄った。「触るな!」直樹は力いっぱい私を突き放した。その瞳に浮かぶ悲しみと絶望が、鋭い刃となって私の胸を刺した。母は失望した様子で私を見つめると、いきなり平手打ちを食らわせた。「玲奈!本当にがっかりだよ……直樹くんはいい人なんだよ。あなたが酷いつわりで苦しんでいる時、嫌な顔一つせず吐いた物を片付けてくれて、妊娠中もずっと世話をしてくれたのに、なんでこんな酷い真似ができるの!」父は顔面蒼白で唇を震わせ、何も言えずに立ち尽くしていた。直樹の両親の視線はまるで鋭いナイフのように突き刺さり、私をなぶり殺しにしたいという憎悪が渦巻いていた。「お父さん、お母さん、直樹、お願い聞いて!」頬の痛みも気にせず、私は声を枯らして叫んだ。「この男とは何の関係もないの。私は罠にはめられたの。昨日呼んだ代行運転の男よ。彼がわざと車内に催眠ガスを充満させて、仕組んだことなの!」するとその張本人が、突然直樹の前に跪き、涙を流して言った。「葛城さん、申し訳ございません。すべて俺が悪いんです。責めるなら俺を責めてください。奥さんは悪くありません!奥さんは身重なんです。どうか刺激を与えないで……」記者たちは興奮し、カメラが直樹と勇太に向かって一斉に浴びせられた。「デタラメを言わないで!」怒りで全身が震え、目がくらむような感覚が襲う。「あなたのことなんて知らない!根も葉もない噂で、夫婦の仲を引き裂くのはやめて!」勇太は泣き濡れた目で、散らばった衣類からスマホを拾うと、写真を次々と開いて記者たちに見せた。「玲奈さん、なぜ白を切るんだ?これらの写真は一体何なんだ?」そこには、私と勇太の親密そうな写真が何枚も映し出されていた。込み上げる怒りを我慢しながら、演じ続ける勇太を冷たく見つめ返す。「合成写真なんて、なんの意味もない!」皆が息を呑む中、私はずっと握りしめていたスマホを取り出し、録画していた動画を流した。

  • 二度目の人生、裏切りヒモ男の援助をやめた   第24話

    運転手を牽制するつもりで警告したが、それがかえって相手を刺激してしまった。運転手は勢いよくシートベルトを外し、車が完全停止する前の揺れに乗じて、後部座席にいる私に向かってのしかかってきた。「調子乗りやがって。女のくせに夜中ひとりでうろついてるような奴が、清楚ぶってんじゃねえよ。運転代行なんて呼んで、最初から俺を誘ってたんだろ?」「離して!」私は怒りと恐怖に震えながら必死に抵抗した。しかし次の瞬間、激しい目眩が襲い、体から力がみるみる抜けていった。車内のどこか異様な、甘ったるい香水の臭いのせいだとすぐに分かった。視界がぼやけていく中、満足げに歪んだ運転手の顔が目に入った。最後には抵抗する力も残されておらず、そのまま意識が暗闇に沈んでいった。……次に目を覚ました時、視界に入ったのは見知らぬホテルの豪華な照明だった。重い頭を押さえながら周りを見渡し、横で裸で寝ている男の顔を見た瞬間、私は酔いが一気に覚めた。間違いない、昨夜の運転手・上野勇太(うえの ゆうた)だ。私は勢いよく起き上がった。これは、どういうことなの?呆然とする暇もなく、ガタンという大きな音を立ててドアが開け放たれた。カメラやマイクを持った大勢の記者が、獲物を見つけたハイエナのように押し寄せてきた。「葛城さん!こちらの男性とはどのような関係なのですか!」「裏で愛人を囲ってたんですか!」「ご主人が妊娠中の葛城さんを大切にしていたというのに、こんな不貞を働いたのですか?」「葛城さん、釈明をお願いします!」……頭がパニックで何も答えられない。その時、後ろで寝ていた勇太が絶妙なタイミングで目を覚ました。彼はへらへらとした顔で私の背後から体をすり寄せ、腕を絡めてきた。「カメラはやめてくれよ、困るなあ……」勇太は挑発的にカメラを流し見した。「こいつの旦那が自分の女のしつけもできなかっただけだろ?それに、その腹の中の子の父親が誰なのか、それすら分かったもんじゃないしな!」たったそれだけの言葉で、私を奈落の底へ突き落とした。記者の声が重なり合い、その場は騒然となった。「裏の顔がこんな尻軽女だったとは……」「愛人のくせに被害者ぶって開き直ってるのですか?旦那さんが気の毒すぎますね」「そんなの、誤解で

  • 二度目の人生、裏切りヒモ男の援助をやめた   第23話

    聞いたところによると、私の会社を出た後、竜也は怒りが収まらず、その全ての原因を篠になすりつけ、そのまま彼女のもとへ乗り込んでいったという。当時、篠は病院で顔の怪我の治療中で、包帯を巻き終えた直後に竜也が病室へ乱入してきた。篠が事態を把握する間もなく、竜也は用意していた濃硫酸を顔にぶちまけ、さらに無理やり口を開けさせ、その液体を流し込んだという。一缶分すべてを飲まされた篠は、内臓を焼き尽くされ、目や耳からも血を流して息を引き取った。竜也は篠を殺害した罪で再び逮捕された。竜也は留置場で泣きながら、もう一度私に会いたいと漏らしたという。それを聞いた直樹は、私の手を握りながら静かに言った。「行っておいで。顔を見てくれば、これで完全に終わらせることができる」そして、重苦しい曇りの午後に、消毒液と絶望が充満した面会室の扉を開けた。留置中の竜也は、別人のように痩せ細り、肌はどす黒く、かつての華やかで精悍な面影はどこにもなかった。竜也が私を見つけるなり、目から大粒の涙があふれ出し、骨張った手を面会パネルのガラスに押し当てた。「玲奈……玲奈、来てくれたのか……俺が悪かった!本当に間違ってた!見てくれ、篠を殺してやったぞ!あいつは酷い苦しみ方をしてた!玲奈、お前の仇はとったんだ!これで、俺を許してくれないか?」私はただ、静かに竜也を見つめた。「竜也。あなたが陣内さんを殺したところで、前世で私を殺し、私の両親を死に追いやったという事実は変わらない。前世で死んだ人や、味わわされた痛みはすべて現実のものだった」私は深く息を吸い込み、最後にはっきりとこう告げた。「前世の自分に代わってあなたを許す資格なんて私にはないし、そんなつもりもない」それだけ言うと、紙のように真っ青になった竜也の表情を横目に、背を向けて立ち去った。後ろからは狂ったようにガラスを叩く音と竜也の慟哭が聞こえたが、私は二度と振り返らなかった。その後、裁判の判決が出て、竜也は後悔に苛まれながら獄中で日々を送ったという。一方、私と直樹は日々を幸せに暮らしていた。会社は順調で仕事の依頼も絶えず、さらには新しい命を授かった。両家の親も大喜びで、親族のグループチャットでは子供の名前を巡って連日大盛り上がりだった。こんな穏やかで平和な暮らしがずっ

  • 二度目の人生、裏切りヒモ男の援助をやめた   第22話

    私の意思が固いとわかると、竜也は泣きじゃくった。しかし私は心を動かさず、冷たい顔をして彼の横を通り過ぎた。竜也がまた袖を掴もうとしたが、私はそれを迷わず振り払った。「玲奈、行くな……頼む……」その瞬間、竜也はようやく私を完全に失ったことを悟り、背後で泣き叫んだ。私は振り返ることなく、むしろ歩みを速めた。頭の中にあるのは、直樹が誕生日を祝うために家で待っていてくれることだけだ。そして、家のドアを開けた瞬間、暖かな光と賑やかな色彩が私を包み込んだ。「玲奈、誕生日おめでとう!」頭の上で紙テープが舞い、キラキラとした飾り付けが空中に広がった。直樹がリビングの真ん中で、目尻を下げて笑っている。その背後には彩り豊かなバルーンと【HAPPY BIRTHDAY】の飾りが掲げられ、家中が温かい空気に満ちていた。「これ……全部あなたがやったの?」私は立ち尽くし、靴を履き替えるのさえ忘れていた。「もちろんさ!」直樹が駆け寄ってきて、腰を曲げて靴箱からスリッパを出してくれた。「早く中へおいでよ、気に入ってくれるかな?」直樹に引かれてリビングに入ると、視線がダイニングテーブルに釘付けになった。色とりどりの料理が並び、真ん中には不格好な手作りのクリームが塗られた【玲奈、誕生日おめでとう】のバースデーケーキがあった。「何度も練習して、やっと焦がさずに焼けたんだ!」直樹は恥ずかしそうにケーキを指差すと、何かを思い出したようにポケットから鍵を取り出し、目の前で揺らした。「これ、俺からの誕生日プレゼント!この間雑誌で見てずっと欲しがってた湖の側にある邸宅を買ったよ。明日見に行こう」私は鍵を、そして輝くような直樹の瞳を見つめた。竜也は一度もまともなプレゼントをくれたことがないし、私の好みすら知らなかった。10年間の交際で、いつも我慢して竜也に合わせていたのは私だった。誰かにこんなにも深く想われることが、これほど幸せなことだったなんて。胸の奥が熱くなり、なぜか目頭がツンとした。私は直樹を抱きしめ、頬にキスをすると、声を震わせて言った。「直樹、ありがとう」「喜んでくれてよかった」直樹は私を抱き返し、耳まで赤くしてテーブルへ促した。「さあ、食べて。せっかくの料理が冷めちゃうよ!」箸を持ち

  • 二度目の人生、裏切りヒモ男の援助をやめた   第21話

    竜也は、夢の中で起きた出来事すべてが、自分の前世の記憶であると確信した。まさか自分があんなにも篠にそそのかされ、卑劣な人間になり果てていたとは、思ってもみなかった。強烈な罪悪感が、津波のように襲ってきた。この瞬間、竜也は玲奈に心から謝罪しなければならないという衝動に駆られた。傷の手当もそこそこに、竜也はタクシーに飛び乗り玲奈のもとへ急いだ。……その頃、仕事を終えて会社から出てきた私は、見覚えのある姿が立っているのを見つけた。竜也だ。竜也の額には暗い赤色の血がこびりついており、髪は乱れ、瞳も痛々しいほど充血していた。「なんでここにいるの?」私の声は、自分が想像していた以上に冷え切っていた。私の言葉を聞き、竜也は途端に目を赤く染め、涙を溢れさせながら、よろよろと私にすがりつこうとした。私は一歩後ずさりし、それを避けた。「玲奈、俺が悪かった……本当に、申し訳なかった……」竜也は泣きじゃくりながら、支離滅裂な言葉を口にした。「何度もお前を見捨てたこと、お前が屋上で立っている時、あんな心無いことを言ったこと……あろうことか、ご両親の酸素マスクまで外したなんて……」竜也は突然その場に膝をつくと、顔を覆って激しく肩を震わせた。「あれは、全部篠のせいだ。あいつが俺をそそのかしたんだ!でも……でも、今回は何も起きていない。まだ取り返しのつくことなんだ。玲奈、もう一度だけチャンスをくれないか?今度こそお前を深く愛するし、お前だけを大切にするから……」竜也が私の両親の酸素マスクのことを口にした瞬間、私の中には、彼もまた前世から戻ってきたという確信が生まれた。巨大な怒りと、すべてを飲み込むような深い恨みがこみ上げてきた。「無理よ」私は冷ややかに竜也を突き放した。声は凍るように冷たい。「竜也、そんな茶番はやめて。それに、私にはすでにパートナーがいる。もし仮に結婚していなくても、あなたと復縁することなんて一生ない!前世、私が馬鹿みたいにあなたを愛して、信じてしまったから……だからあなたに殺されたの。私の親まで巻き添えにして!」二つの人生の恨みを詰め込み、私は唇を噛みしめながら吐き捨てた。「今世では、もう二度とあなたと関わりたくない。あなたに関わるたび、私は不幸になるだけだから」竜也の瞳孔

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status