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絶望を乗り越え、真の幸せへ

絶望を乗り越え、真の幸せへ

By:  甘桜Completed
Language: Japanese
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子供を持たないと誓った夫・結城湊が媚薬を盛られて、私・工藤栞の援助で大学を卒業した桜井莉乃とホテルで一夜を共にした。 その後、湊は全身にキスマークをつけたまま、私に懺悔した。 「俺の油断から過ちを犯してしまった。あの子にはもう十分な補償をして、海外へ留学させた。 栞、お前への愛は永遠に変わらないから」 罪を償おうとするかのように、湊はためらいもなく自分の腹をナイフで三度も刺した。 飛び散る血を見て私は理性を失って、「湊のせいじゃない」と泣き叫んだ。 それから一年後、お盆の親戚の集まりでのこと。 莉乃が湊との間にできた男女の双子を抱きかかえて、私の目の前で泣き崩れた。 「栞さん、子供たちから父親を奪わないでください。どうかこの子たちを哀れんで…… ご恩返しとして、この子たちは栞さんにお渡しします。どうか育ててやってください」 いつも冷静沈着な湊がその場ですぐに目を赤くして、懇願するような口調で言った。 「栞、俺たちは子供を持たないと決めているんだから、代わりにこの子たちを戸籍に入れて育ててくれないか?」 胸が抉られるような痛みを覚えながらも、喉の奥に込み上げる苦さを必死に押し殺して、平静を装って答えた。 「ええ、いいわよ」 結城家に響き渡る歓声と笑い声を聞きながら、私は結婚指輪を外した。 そして、結婚前にサインさせておいた離婚協議書を弁護士に送信した。

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Chapter 1

第1話

子供を持たないと誓った夫・結城湊(ゆうき みなと)が媚薬を盛られて、私・工藤栞(くどう しおり)の援助で大学を卒業した桜井莉乃(さくらい りの)とホテルで一夜を共にした。

その後、湊は全身にキスマークをつけたまま、私に懺悔した。

「俺の油断から過ちを犯してしまった。莉乃にはもう十分な補償をして、海外へ留学させた。

栞、お前への愛は永遠に変わらないから」

罪を償おうとするかのように、湊はためらいもなく自分の腹をナイフで三度も刺した。

飛び散る血を見て私は理性を失って、「湊のせいじゃない」と泣き叫んだ。

それから一年後、お盆の親戚の集まりでのこと。

莉乃が湊との間にできた男女の双子を抱きかかえて、私の目の前で泣き崩れた。

「栞さん、子供たちから父親を奪わないでください。どうかこの子たちを哀れんで……

ご恩返しとして、この子たちは栞さんにお渡しします。どうか育ててやってください」

いつも冷静沈着な湊がその場ですぐに目を赤くして、懇願するような口調で言った。

「栞、俺たちは子供を持たないと決めているんだから、代わりにこの子たちを戸籍に入れて育ててくれないか?」

胸が抉られるような痛みを覚えながらも、喉の奥に込み上げる苦さを必死に押し殺して、平静を装って答えた。

「ええ、いいわよ」

責め立てることもなく承諾したのを見て、湊は莉乃を助け起こして、興奮した面持ちでこちらを見る。

「栞、本当にありがとう。これからこの子たちの母親はお前だけだ」

湊の慈愛に満ちた視線が双子に注がれて、結城家も普段の喧騒が嘘のように静まり返る。

胸が締め付けられて、唇から苦笑が漏れる。もう、すべてが明白だ。

彼らはとうの昔に裏で口裏を合わせて、このお盆の日に認知を迫ることで、私を逃げ場のない状況に追い込むつもりだ。

湊が赤ん坊を一人抱き上げて、歩み寄ってくる。

「まだ名前が決まってないんだ。栞が名付けてくれないか」

おくるみの中で熟睡する小さな顔を見つめると、脳裏にもう一つのあどけない顔がフラッシュバックする。胸がぎゅっと締め付けられて、湊の顔を見据えた。

「離婚しよう」

湊は一瞬にして顔色を変え、慌てふためいて、すがるような声を出した。

「離婚なんてしない。莉乃は俺を助けるために妊娠したんだ。恩を仇で返して、子供を堕ろさせることなんてできなかったんだ。

子供を作らないことで、親父やお袋からプレッシャーをかけられていたのは知ってる。でも今、この子たちをお前の子供として育てられるなら、みんな幸せじゃないか?」

私を聖人君子のように祭り上げて、みんなのためにこの子たちを育てるはずだと決めつけている。

私の表情が強張るのを見て、ついに義母・結城祥子(ゆうき しょうこ)が口を開いた。祥子は湊がDINKsを選んだことで、ずっと私に不満を抱いていた。

「栞を責めるわけじゃないけど、湊は結城家の跡取りなのよ。あんたのためにプレッシャーに耐えて子供を作らない道を選んでくれたじゃないの。

湊を愛していると口癖のように言っているけれど、どうして彼の子を外に放っておけるの?

莉乃はいい子よ、一気に二人の孫を産んでくれたんだから。本来なら彼女を結城の嫁に迎えてもおかしくないわ。

でも湊はあんたを愛していて、どうしても辛い思いをさせたくないって言うのよ。本当に彼を困らせる気なの?」

「母さん、もう言わないでくれ!」湊が鋭い声で祥子の言葉を遮る。

「離婚はしない。栞は優しいから、子供たちを苦労させるような真似はしないはずだ」

彼の視線が、赤く染まった私の目とぶつかる。

「莉乃のことは心配ない。お前の結城家での地位を脅かすようなことはさせないから」

莉乃の手をきつく握り締める彼を見つめながら、心の底に苦い思いが広がっていく。

その場にいる誰もが知っている。湊と私がやむを得ずDINKsになったことを。かつて、私たちにも可愛い息子がいた。

けれど、1歳になったばかりの時、湊を恨む敵対者の手によって命を奪われたのだ。我が子を失った苦しみを受け入れられず、3年間も精神を病んでしまった。

その3年間、湊はあらゆるプレッシャーに耐えて、決して離婚しようとはせず、私を精神科病院へ送ることもしなかった。

正気を取り戻した後、彼は二度と子供は作らないと誓ってくれた。二度と私に子を失う苦痛を味わわせないために。

あの時の誓いはまるで昨日のことのように鮮明なのに、今、彼は別の女が産んだ子を抱いて、私の良心につけ込んでいる。

かつて学費を援助してやった莉乃に視線を移す。まさか彼女の恩返しが、私の夫の子供を産むことだとは思いもしなかった。

私と目が合うと、彼女はおびえたように肩をすくめて、目元を赤く染めた。

湊は痛ましそうに彼女を見つめる。再び私に向き直った時には、その目から微かに残っていた優しさが完全に消え去っていた。

「栞、莉乃を怖がらせるな」

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第1話
子供を持たないと誓った夫・結城湊(ゆうき みなと)が媚薬を盛られて、私・工藤栞(くどう しおり)の援助で大学を卒業した桜井莉乃(さくらい りの)とホテルで一夜を共にした。その後、湊は全身にキスマークをつけたまま、私に懺悔した。「俺の油断から過ちを犯してしまった。莉乃にはもう十分な補償をして、海外へ留学させた。栞、お前への愛は永遠に変わらないから」罪を償おうとするかのように、湊はためらいもなく自分の腹をナイフで三度も刺した。飛び散る血を見て私は理性を失って、「湊のせいじゃない」と泣き叫んだ。それから一年後、お盆の親戚の集まりでのこと。莉乃が湊との間にできた男女の双子を抱きかかえて、私の目の前で泣き崩れた。「栞さん、子供たちから父親を奪わないでください。どうかこの子たちを哀れんで……ご恩返しとして、この子たちは栞さんにお渡しします。どうか育ててやってください」いつも冷静沈着な湊がその場ですぐに目を赤くして、懇願するような口調で言った。「栞、俺たちは子供を持たないと決めているんだから、代わりにこの子たちを戸籍に入れて育ててくれないか?」胸が抉られるような痛みを覚えながらも、喉の奥に込み上げる苦さを必死に押し殺して、平静を装って答えた。「ええ、いいわよ」責め立てることもなく承諾したのを見て、湊は莉乃を助け起こして、興奮した面持ちでこちらを見る。「栞、本当にありがとう。これからこの子たちの母親はお前だけだ」湊の慈愛に満ちた視線が双子に注がれて、結城家も普段の喧騒が嘘のように静まり返る。胸が締め付けられて、唇から苦笑が漏れる。もう、すべてが明白だ。彼らはとうの昔に裏で口裏を合わせて、このお盆の日に認知を迫ることで、私を逃げ場のない状況に追い込むつもりだ。湊が赤ん坊を一人抱き上げて、歩み寄ってくる。「まだ名前が決まってないんだ。栞が名付けてくれないか」おくるみの中で熟睡する小さな顔を見つめると、脳裏にもう一つのあどけない顔がフラッシュバックする。胸がぎゅっと締め付けられて、湊の顔を見据えた。「離婚しよう」湊は一瞬にして顔色を変え、慌てふためいて、すがるような声を出した。「離婚なんてしない。莉乃は俺を助けるために妊娠したんだ。恩を仇で返して、子供を堕ろさせることなんてできなかったんだ。
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第2話
心臓がギュッと締め付けられる。別の女を庇う湊の姿を見て、突然すべてがどうでもよくなった。体面を取り繕う気すら起きなくて、結城家の笑い声が響く中、無言でその場を立ち去った。家に着くや否や、湊が追いかけてきた。手首を掴まれて、深く見つめられる。その瞳には心配の色が溢れていた。「どうして黙って帰ってきたんだ?どこか具合でも悪いのか?」優しく甘い声は、いつも通り私を気遣う夫の姿そのものだ。口を開いて、何かを言おうとした瞬間、湊の言葉に遮られた。「子供たちはまだ小さくて、すぐには俺たちに懐かないだろうから、莉乃も一緒にこの家に住まわせようと思う」言い終わるか終わらないかのうちに、莉乃とベビーシッターが子供を抱いて入ってきた。莉乃は目を真っ赤に腫らして、まるで怯えたように私を見つめる。「栞さん、私……これからは家で大人しくしていますから。お二人の仲を裂くような真似は絶対にしません」冷ややかな視線を向ける。「もう十分裂いているじゃない。じゃなきゃ、その子たちはどうやってできたの?」湊の欲求不満の捌け口になったのが彼女だと知った時から、以前のように穏やかな態度で接することなどできなくなっていた。崩れ落ちるように莉乃が目の前で膝をつく。「栞さん、うちは貧しくて、どうやってご恩を返せばいいか分からなくて……だから子供を産んだんです。もし私のことがお気に召さないなら、今すぐ子供を連れて出て行きます」泣きじゃくりながら言うと、彼女の胸に抱かれた赤ん坊までもが甲高い声で泣き出して、ひどく神経を逆撫でする。傍らにいた湊の顔色が一変した。莉乃を腕の中に引き寄せて、責めるような目で私を睨む。「子供を連れてくるのは俺が決めたことだ。莉乃をいじめるな」彼は振り向いて、使用人たちに命じた。「二階のベビールームを片付けて、子供が使えるようにしろ」目を見開いて、信じられない思いで湊を凝視する。「あれは私たちの息子の部屋よ。どうして他の人に使わせるの?」心が真っ二つに引き裂かれるような激痛が走って、声が震える。あの部屋は湊と二人で設計して、我が子への最高の期待を込めた場所だ。内装工事の時、湊は常に細部までこだわっていた。置物やぬいぐるみの一つ一つまで、彼が丹念に選び抜いたものだ。「俺たちの子だからこそ、ここまでする価値があるん
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第3話
【離婚の手続きをお願い】相手からすぐに返信が来る。【本気か?】【本気よ】かつて両親は、結婚後に私が不当な扱いを受けることを心配して、湊にこの協議書へサインさせていた。彼は、一生私を大切にするからこの紙はただの紙くずになると言っていた。スマホの画面を閉じて、ベッドに横たわる。息子のベビーリングを握りしめたまま、泥のように眠りに落ちた。どれほど眠っただろうか。突然、二人の使用人にベッドから乱暴に引きずり下ろされた。太いロープで体を縛り上げられる。「旦那様からの命令です。連れ去った男の子の居場所を吐かないなら、精神科病院に叩き込むと」抵抗も虚しく引きずられて、膝を壁に打ち付ける。冷や汗が出るほどの激痛が走る。床に勢いよく投げ出されると、腹部に鋭い痛みが走った。莉乃が赤ん坊を抱いて、目を赤く腫らして泣いていた。私の姿を見るなり、泣き崩れて土下座する。「栞さん、私を殴っても罵っても構いません!だからお願い、私の子を傷つけないで!まだ生まれて1ヶ月も経ってないんです、栞さんの折檻なんて耐えられません!」湊は顔を曇らせて前に歩み出ると、私の首を強く締め上げた。「お前だって子供を失った経験があるのに、いつからそんなに残酷になったんだ?莉乃に同じ苦しみを味わわせるつもりか」首を絞められて、息が詰まる。「違う……私、何も……してない」しかし莉乃は私にすがりつく。「栞さん、病気なら精神科病院で治療してもらってください。お願いですから、こんな時に発作を起こさないで!」彼女の叫び声と、赤ん坊の張り裂けるような泣き声が、湊の理性を完全に吹き飛ばした。彼は私の首を掴んだまま持ち上げて、歯を食いしばって言い放つ。「発作が出たんだな?いいだろう、今すぐ病院へ連れて行ってやる」無理やり車に押し込まれて、ドアに頭を打ち付けて鈍い音が響いても、彼が同情の目を向けることはなかった。車が停まったのは、ある精神科病院の前だ。恐怖で車内の隅に縮こまっていたが、力ずくで引きずり出される。「今さら怖いのか?だがもう遅い。あの子の居場所を吐くまで、絶対に帰さない」病室で私を押さえつけて、湊は医師に最も早く口を割らせる方法を命じた。その尋常ではない威圧感に怯えた医師は、震えながら答える。「も、もっとも即効性があるのは……電気け
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第4話
もし湊のやり方がもっと穏便であったなら、彼の敵対者が陽太を拉致することなどなかったはずだ。湊に生き地獄を味わわせるため、犯人は私の目の前で陽太を殺した。1歳になってようやく「ママ」と呼べるようになったばかりの陽太は、喉が張り裂けんばかりに泣き叫んで、息絶えるその瞬間まで私を呼び続けていた。しかし私は床に押さえつけられて、ただ悲鳴を上げるしかできなかった。わが子が苦しむのを無力に見つめることしかできなかったのだ。湊が駆けつけた時、陽太の小さな体はすでにすっかり冷え切っていた。そして私は、そのショックで心を病んだのだ。下腹部が急激に痛み出す。この子が宿っていることに気づいたばかりだというのに、再び子を失う苦痛を味わってしまった。思い返せば先月、湊が泥酔して帰宅した時のことだ。避妊具もつけず、彼自身もその夜の出来事を全く覚えていないようだ。病室のドアが開かれて、視線を向けると、目を真っ赤に充血させた湊と目が合った。彼も、私たちの子供を失って悲しんでいるのだろうか?そう思ったのも束の間、彼は私を凝視しながら嗄れた声で言い放つ。「子供は見つかった。だが、今回ばかりは度が過ぎる。退院したら療養施設へ移れ。精神が不安定な人間を、子供たちのそばに置いておくわけにはいかない」掌に爪が食い込んで血が滲むほど拳を握りしめて、乾いた喉から声を絞り出す。「私は正常よ。私が子供を傷つけるのが怖いなら、離婚してよ」彼が突然、骨が砕けそうなほどの力で私の手首を掴んだ。「離婚はしないと言ったはずだ。莉乃はお前のために、子供が1歳になったら出ていくと約束してくれたんだぞ。これ以上騒ぎを起こすな」言い終わるか終わらないかのうちに、莉乃が紙切れを握りしめて飛び込んできた。彼女は憎悪に満ちた目で私を睨みつけて、大声で問い詰める。「1年後は出ていくって言ったじゃない!なのにどうして、私の子供の臓器を提供するなんて同意書を出したの!?それに隠し子だって世間に公表するなんて……そこまでしてあの子たちを死なせたいの!?」「私がやったんじゃないわ」目の前に迫る莉乃を突き飛ばす。湊がその同意書を取り上げて、内容とサインを確認するや否や、私の頬を力一杯張り飛ばした。耳鳴り響いて、口の中に鉄の味が広がる。顔を上げると、冷酷な怒りに満ちた目で何かを言
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第5話
破片が莉乃の首に突き刺さった次の瞬間、飛び出してきた湊が、私の握る破片を素手で掴み取った。彼の手のひらから血が滴り落ちる。私の血と混ざり合って、莉乃の服を汚していく様は、ひどく痛ましかった。湊は恐怖と驚きに満ちた目で私を見つめながら、怒号を響かせた。「正気か!人殺しだぞ!」彼の顔を睨みつけて、フフッと笑いが漏れる。「記者会見を開いたのは、私が狂うのを見たかったからよね?言葉で弁明するより、実際に狂ってみせるほうが、よっぽどいい証明になるじゃない」常軌を逸した私の姿に、湊の目に一瞬の不安がよぎる。「栞……」「ああっ、痛いよぉ」莉乃が首を押さえて、彼の胸にすがりつく。彼女の目は赤くて、私を見る視線には怯えが満ちていた。湊は痛ましそうに彼女を一瞥すると、私を力強く振り払った。怯える莉乃を抱き上げて、その場を立ち去ろうとする。しかし二歩歩いたところで立ち止まって、氷のように冷酷な声で私に言い放つ。「自分で帰れ」彼が莉乃を抱いて去っていくのを見て、記者たちも興味を失い、次々と散っていった。「まさか結城社長の奥さんが、あんな頭のおかしい女だとはね」「病気になっても見捨てない社長の気持ちを踏みにじるなんてな」彼らの無責任な評価を聞き流す。心の中には波一つ立たないほど、恐ろしいほどの静寂が広がっていた。もう湊はいらない。彼の愛が誰に向けられようと、もはやどうでもいい。手にしていた破片を投げ捨てて、上着を脱ぐ。自分の手の怪我の止血も気にせず、私は血にまみれた床から陽太の遺灰を少しずつ、両手で集める。いつの間にか外は激しい雨になっていた。遺灰を大事に庇いながらビルのエントランスを出た瞬間、私は糸が切れたように地面に崩れ落ちた。意識を失う直前、誰かが焦ったようにこちらへ走ってくるのが見えた。……湊は莉乃を病院に送って、腕利きの医者を手配して精密検査を受けさせた。検査が終わっても、莉乃は怯えるように彼の腕に縮こまっている。「栞さんの発作、本当に怖かった。湊がいてくれなかったら、私殺されてた」だが湊はどこか心ここにあらずで、相槌も打たない。そんな彼に、莉乃は少し不満げな声を出す。「湊が一番愛してるのは栞さんだって分かってる。でも、あんなに情緒不安定だし、また発作を起こして子供たちを傷つけないか、本当に
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第6話
湊が眉をひそめるのを見て、莉乃は慌てて付け加えた。「安心して、その間は大人しくするから。決して迷惑はかけないわ」湊は額に手を当てて、しばらく沈黙した後、口を開いた。「駄目だ」栞の悲しい目が再び脳裏をよぎる。得体の知れない不安を感じながら告げた。「あと3ヶ月だけ子供たちのそばにいたら、出て行ってくれ」莉乃は途端に焦り出す。「どうして!?1年という約束だったじゃない!」湊は彼女の態度の豹変に驚いて、不快感を覚えた。「そもそもあの子たちは生まれてくるべきじゃなかった。ただ、結城家に跡取りが必要で、母さんがずっと栞にプレッシャーをかけていたから、お前に産ませることになったんだ。だから、栞に受け入れてもらうために、お盆の日にあえて認知を迫った。だが、あの子たちのせいで栞は深く傷ついた。だから、お前をこれ以上この家にいさせることはできない」この数日、栞が味わった理不尽な苦痛を思い出すと、湊も胸が痛んだ。言い終えると、顔色を悪くした莉乃を一瞥もせず、秘書に電話をかけた。「栞を病院へ連れていって、専門医の治療を受けさせろ」「承知いたしました」湊は電話を切ると、莉乃にしっかり休むよう言い残して背を向けた。当然、莉乃の憎悪に満ちた目を見ることはなかった。湊が家に帰ると、ベビーシッターが双子をあやしていた。男の子が激しく泣いていたため、彼が代わりに抱き上げて少しあやした。赤ん坊の顔立ちを見ていると、思わず陽太のことを思い出す。あの子はこの子よりもずっと愛らしい顔をしていた。残念なことに……深く考えるのが怖くなって、すっかり様変わりしたベビールームを見渡すと、突然息苦しさを覚えた。赤ん坊をシッターに返して、指示を出す。「この部屋を元の状態に戻せ」部屋を模様替えしたことが引き金となって、栞は情緒不安定になったのだ。シッターも使用人たちも唖然として湊を見つめて、心の中では呆れ返っていたが、表面上はプロらしく頷いた。彼が去った後、一人の使用人が呟く。「また戻すの?数日前のあの騒ぎは一体何だったのよ」もちろん、その愚痴は湊の耳には届かない。再び家を出た直後、秘書からの着信が鳴った。出た瞬間、切羽詰まった声が飛び込んでくる。「社長、大変です。奥様がいなくなりました!」湊は眉間に皺を寄せて、低い声で問う。「いな
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第7話
電話を切ると、湊は胸を押さえたままその場にへたり込んだ。考えれば考えるほど恐ろしくなって、愛する人を永遠に失うかもしれないという予感に息が詰まる。栞が妊娠していると知っていれば、莉乃に子供を連れて現れさせるような真似は絶対にさせなかった。秘書の仕事は早くて、すぐに莉乃に関する情報が送られてきた。資料に目を通した瞬間、湊の表情は氷のように冷酷なものへと変わる。あの日彼に薬を盛ったのは、ライバル企業の人間ではなくて、他でもない莉乃だったのだ。彼女は栞から援助を受けていたという立場を利用して、栞の口から彼のスケジュールを聞き出していた。そしてホテルの従業員として潜り込んで、彼に薬を盛って部屋に忍び込んだのだ。さらに、莉乃が以前から共犯者と計画を練って、栞を追い出した後に子供をダシにして後妻の座に収まろうとしていたことも判明した。赤ん坊が連れ去られた事件も、莉乃の自作自演だった。そのせいで湊は栞を誤解して、彼女から再び子供を奪ってしまったのだ。すべての悲劇の原因が莉乃にあると知って、湊の心は凄まじい憎悪で満たされた。「桜井莉乃を拘束しろ。自分のしたことの代償を、骨の髄まで味わわせてやる」その頃、莉乃はまだ病室で共犯者と次の計画を練っていた。結城家の奥様になるという甘い夢を見ていた彼女は、ボディーガードに連行される際、信じられないという顔をした。「湊が私に罰を与えるわけないじゃない!?」ボディーガードは冷ややかに答えた。「罰を与えるかどうか、ついて来れば分かる」今度は彼女が太いロープで縛り上げられて、頭には袋を被せられた。散々手荒な扱いを受けて、湊の顔を見るなり不満をぶちまける。だが、湊の冷え切った視線に気づいて、自分が電気治療の椅子に縛り付けられていることを悟った。恐怖と不安に支配されて、声が震える。「み、湊のために子供を二人も産んだのよ!?どうしてこんなことするの!」湊は冷笑した。「あんなに計算高いお前が、理由が分からないとでも?」莉乃の首を掴んで、憎悪に満ちた声で吐き捨てる。「お前が俺に薬を盛って嘘をつかなければ、俺は栞の子を失わずに済んだ!今こうして栞を見失うこともなかった!栞がお前に学費を援助してやったのに、これが恩返しのつもりか!」首を絞められて、息ができなくなった莉乃はパニックに
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第8話
本性を知った今、湊は莉乃を一瞥するだけで吐き気がした。汚いものでも見るかのように彼女を見下ろして、睨みつける。「栞を刺激して発作を起こさせて、電気けいれん療法を受けさせたな。彼女が味わった苦痛を、お前もたっぷりと味わえ」傍らに立つ医師に視線を送る。医師は震え上がりながら、湊が部屋を出た直後に装置のスイッチを入れた。莉乃の張り裂けるような悲鳴が、突如として響き渡った。……次に目を覚ました時、私は見知らぬ部屋のベッドにいた。気を失う前の恐ろしい記憶が、一気に脳内に押し寄せてくる。最後の瞬間、陽太の骨壺の破片を抱きしめたまま雨の中に倒れ込んだことを思い出して、胸がぎゅっと締め付けられる。ベッドから降りて骨壷を探そうとした瞬間、ドアが開いた。入ってきた人物の顔を見て、驚きの声を上げる。「舜……どうしてここに?」黒沢舜(くろさわ しゅん)は片眉を上げて、低く心地よい声で答えた。「離婚の手続きを頼まれた弁護士が、たまたま通りかかって、雨の中で倒れ込んでいた君を助けただけさ」舜は父の教え子の中で最も優秀で、東都市で一番の腕を持つ弁護士だ。昔は毎年、お正月やお盆になるとうちに遊びに来ていた。しかし私が結婚してからは、湊が彼にひどく嫉妬するため、舜とはほとんど連絡を絶っていたのだ。湊と離婚するつもりがなければ、彼を頼ることもなかっただろう。よりによって一番惨めな姿を見られてしまったことに、ひどく気まずさを覚える。「陽太……息子の……」「ああ、遺灰は俺がちゃんと集めておいた。また新しいお墓を探してやろう」頷くと、頭上から彼の声が降ってきた。「しかし、数年会わないうちにどうしてこんなにボロボロになってるんだ?まるで別人のように、性格まで変わってるじゃないか」力なく苦笑するしかなかった。以前の私は明るくて、希望に満ちた毎日を生きていた。けれど陽太の無残な死を目の当たりにして、3年間も心を病んだ。正気を取り戻してまだ2年も経たないうちに、今度は夫が隠し子を作ったのだ。誰だって性格が変わって当然だ。舜にこれまでの経緯を打ち明けた。てっきり、一人で静かにさせてくれるだろうと思っていた。しかし彼は、私のそんな消極的な気持ちなどお構いなしだった。「人を見る目がなかったのも、あんな悲惨な目に遭ったのも、君のせいじゃない
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第9話
舜の家の前に立つ湊はすっかりやつれて、顔色もひどく憔悴していた。二人の赤ん坊の世話は、やはり骨が折れるのだろう。相手にする気もなくて、そのまま車を出そうとしたが、湊はこちらに気づくや否や、車の前に立ちはだかった。「栞、やっと見つけた。車から降りて、話を聞いてくれないか」すがるような目で私を見つめながら、震える声で懇願してくる。「降りてくれるまで、ここを動かない」彼と話すことなど何もないが、終わったことにはきっちりけりをつけなければならない。「離婚届の受理証明書、届いたわよね?言いたいことがあるなら早く言って。急いでるから」車を降りて冷たく言い放つ。私の冷淡な態度に、彼は苦痛に顔を歪ませた。「離婚なんてしない。あの書類は俺の同意なしに勝手に出されたものだ。無効だ」「あんたの同意なんてどうでもいいの。サインしたって事実が重要なんだから。それに、手に入れた離婚届受理証明書は紛れもない本物よ」湊の顔色が一瞬にして絶望に染まる。私を掴もうと伸ばしてきた彼の手を、私は冷たく振り払った。「この間、本気で反省した。俺が悪かった。お前に申し訳ないことをしたし、子供まで……全部、莉乃のやつが仕組んだことだったんだ。薬を盛ったのもあいつだ。もう精神科病院に送ったし、あの双子も他人の養子に出した。栞、一緒に帰ってくれ。もう二度とあいつらに俺たちの生活を邪魔させない。再婚して、また昔みたいに仲良く暮らそう」私は嘲笑を浮かべる。「昔みたいって?本気で言ってるの?あんたのやり方はひどすぎるのよ。あんたが恨みを買う人間だからこそ、私と陽太は拉致されたの。普段出かける時すら、いつもビクビクしなければならなかった。莉乃がいなくても、あんな生活はちっとも楽しくなかった。だから3年も心を病んだのよ。莉乃を愛しているかどうか、もう私には何の関係もない。お願いだから二度とかかわらないで」これ以上無駄話をする気はなかったが、湊は執拗に私の手を握って、決して離そうとしなかった。「俺が悪かったって謝ってるじゃないか!どうして許してくれないんだ?俺よりお前を愛してる男なんて、いるわけないだろ!」「いるさ」車から降りてきた舜が、湊の顔面に強烈なパンチを食らわせた。「栞を大切にすると言っておきながら、お前のせいで彼女は子供
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第10話
「いやだ!お前は俺の妻だ!俺と一緒に帰るんだ!」湊が私に掴みかかろうとした瞬間、舜に蹴り飛ばされて、無様に地面に倒れ込んだ。私は彼を一瞥もせず、予定通り舜とのドライブに出かけた。しかし、湊のずうずうしさを甘く見ていた。それ以降、舜と行く先々で、必ず湊の姿を目にするようになった。私たちのスケジュールを調べ上げて、飽きもせずについてくる。最初は舜も怒鳴りつけていたが、やがて相手にするのも馬鹿らしくなって、勝手にさせるようになった。そして、私と舜との関係は日を追うごとに深まっていく。赤いバラが好きだという私の好みを覚えていた舜は、大量のバラで埋め尽くされた部屋で、私に告白してくれた。「栞、ずっとずっと昔から君が好きだった。ただ、昔の俺は告白する勇気がなくて、君を手放してしまった。今、ようやく君は独身になった。もう一度、俺にチャンスをくれないか?」私が口を開く前に、背後から湊の声が響いた。「栞は俺のモノだ!そいつの告白なんか受け入れるな!栞、愛してる、頼むからそいつの告白を断ってくれ!」数人のボディーガードに取り押さえられながら、湊は震える声で私にすがりつくように叫ぶ。私が振り向くと、彼の顔に喜びの笑みが広がって、希望に満ちた目を向けた。「栞、まだ俺を愛してくれてるんだろう?そいつの告白なんて断るよな?」私は彼を見据え、はっきりと告げた。「あんたが莉乃をお盆の集まりに連れてきたあのときから、私の愛はとっくに冷めていたのよ」湊の表情が強張る。彼が後悔の涙を流して崩れ落ちる中、私は舜の告白を受け入れた。今度こそ、本当の愛を大切にする。それから、湊が私の前に姿を現すことはなくなって、平穏な日々が訪れた。両親が海外へ移住する際、私にかなりの資金を残してくれていた。私はそのお金を使って、小さな本屋を開いた。暇な時は本を読んで、社会のドロドロとした人間関係に悩まされることもない。やがて、私は舜と結婚式を挙げた。どこから情報を聞きつけたのか、湊が式に現れた。彼は私に財産譲渡の契約書を差し出した。「昔のことは本当にすまなかった。これは本来、栞が受け取るべきだったものだ」少し皺の増えた彼の顔を見て、胸に複雑な思いが込み上げた。最終的に私は何も言わず、彼からの財産を受け取った。1年後、私と舜の間に可愛らしい女の
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