LOGIN詩乃はテレビのリモコンを手に、ひたすらチャンネルを切り替えながら、夫に言った。「最近のドラマって本当につまらないわ。昔のドラマのほうがやっぱり面白かったわね。俳優もなんだかどれも同じって感じだし。私が時代に追いつけていないのかしら、私の見る目がないの?」航は笑って言った。「君は昔からずっとテレビを見るのはあまり好きじゃなかっただろう。それに見るような時間もなかったし。集中してテレビを見たことなんて今まであったっけ?音楽でもかけて聴いたらどうだい?」彼の妻はできるキャリアウーマンだった。退職する前は仕事を中心に生きてきた。毎日仕事にかける時間が多く忙しかったというのに、テレビを見る暇などどこにあるだろうか。昔、子供たちがまだ小さかった頃、忙しい仕事を終わらせると、妻は三人の子供の勉強をしっかりと見ていた。そして、いつも子供たちが夜寝るとすでに夜中過ぎになっていた。そんな時間にテレビを見るような気力があるはずがない。そしてその翌日にはまた新しい一日が始まり、仕事に出かけるのだ。長男が神崎グループを継ぐ才能があったから、夫婦二人は引退して家でゆっくり過ごし、もう会社の事にはノータッチで、詩乃にはやっと穏やかな日々が訪れた。詩乃はそんな自分の半生を思い出し、言った。「本当にそうね。若い頃から今まであまりテレビなんて見なかったから。それより、バッグヤードで何か野菜やら果物やら育てるほうがいいかも」「何か育てたいなら、夕方太陽が西に沈んで、暑さが和らいでから、耕しに行こう。ある程度の広さの畑ができたら、野菜やら果物やら植えようか。家の前にある庭には君の好きな花を植えて、毎日水やりして世話をしていれば、きっと面白いはずだ」神崎グループの管理中枢から退いた後、夫婦もパーティーなどにはあまり参加しなくなっている。仲の良い人から誘われれば顔を出す程度だ。この時、どっしりとした足音が聞こえてきて、航は言った。「玲凰が帰ってきたようだ」詩乃は頷き、部屋の入り口のほうへ目を向けた。するとすぐに背のスラリと高い長男の姿が詩乃の視界に入ってきた。彼は流星の如く颯爽と両親の前までやって来た。玲凰は手にファイル入れを持っていた。それを見た詩乃は息子に調査を頼んでいたことを思い出し、テレビの電源を切り、長男に近づいて尋ねた。「玲凰、はっきりとわかった?」
成瀬家は、莉奈が黙ってこっそり俊介と結婚したことを責めているだけであって、娘の死を望んでいるわけではない。だから、彼らは話し合った後、最後には娘に弁護士をつけることに決めたのだ。少しでも娘の罪を軽くできるようにと思ってのことだ。莉奈の兄とその嫁は実際莉奈のことなどどうでもよかったのだが、両親からひどく怒られてしまった。そして最近になってようやく両親の話を受け入れ、ある程度のお金を使って妹に弁護士を雇った。英子夫婦は実際見間違えたわけではない。彼らは実際、成瀬莉奈の両親だった。彼らは病院を見つけて来て、娘の夫である俊介に娘を寛大に許してやってほしいと頼みに来ていた。俊介が情状酌量の嘆願書を出してくれれば、娘は減刑される。莉奈の親が俊介に嘆願書を頼みにやってくれば、俊介の両親から大反対されるはずだ。これらの事を唯月は知らないし、構いたくもない。彼女には無関係な話だ。唯月と佐々木家を結ぶ唯一の存在は陽だけだ。……神崎家にて。外出していた玲凰が家に帰ってきた。彼の乗る車が善の屋敷の前を通り過ぎる時、彼はちらりとそちらを向いた。すると妹が善の家にいるのに気づき、彼は車を停めようと思ったが、結局は自分の家の敷地内まで運転していった。妹と善は付き合っていて、妹も彼のことが好きだ。善の実家はA市にあるとはいえ、善は星城に家を二つも持っている。そして今内装工事中のこの家は神崎家と隣同士だ。事実、玲凰も善のことを高く評価していた。アバンダントグループも神崎グループも提携話が持ち込まれている。そしてそれを担当するのは、もちろん善だ。この提携話は、蒼真が弟のために、将来の妻の家族と仲良くするためのきっかけをつくるために与えた機会だった。提携の機会がなくとも、玲凰は善を評価している。主に、善も妹のことを非常に愛している。しかしだ、母親があのように娘を遠いところに嫁に出したがらないので、玲凰も母親と少し同じ気持ちになってしまった。それで、善の味方をすることもないし、邪魔をすることもせず、自然に任せているのだった。少し前まで、九条家の弦が妹を口説きに来ていた頃、玲凰は両親の善に対する態度がかなり変わったことに気がついた。この時、両親が家にいるのに、妹が善の屋敷のほうにいて、内装の確認をしているということは、つまり
二人の子供は今育ち盛りの時期で食欲旺盛だ。だから英子たち家族はしばらくの間、思いっきり食事を楽しんでいない。子供たちを連れて外食すると、子供たちのほうに食べさせてやらないといけないので、その分お金もなくなる。英子は懐かしそうに言った。「あなた、私たちだって自業自得ってもんよね。前俊介と唯月さんがまだ離婚してなかった時、うちの食べ物、飲み物、みんな良いものばかりだった。それに私らが稼いだお金も使わなくてよかったじゃない。俊介が生活費をうちの親にくれて、それがこっちに流れてきてたし。私魚介類が好きだし、牛肉だって食べたいわ。でも高いから、唯月さんにひとこと言えば、買ってきてたくさん食べさせてくれたもん。それが今では、彼女は全く構ってくれなくなった。仕事すら私にくれないのよ」夫が何か言おうとしたが、結局は何も言わなかった。輝夫自身もあの頃の良い思いをしていた日々が懐かしかった。夫婦二人はただ働くことだけ考えていればよかった。子供たちのことは妻の両親に任せていた。年寄り二人の退職金と、義弟が彼らにくれる生活費をもらって、夫婦二人は稼ぎを全て貯金に回していたのが、非常に愉快だったのだ。今では何をするのも自分で払わなければならない。義弟が長く入院していて、その費用も馬鹿にならない。その入院費は彼の妻の両親が出している。それに、義弟が入院してはじめて、輝夫も義父母がまだ金をためていたことを知ったのだ。以前、お金の全部を輝夫たち夫婦の家庭に使っていたわけではなかった。それが残念なことに、義弟の入院費にほぼ使ってしまった。自分が義弟の入院費を出さなくていいことを思うと、輝夫はまたどうでもよくなってきた。どうせ、義弟がいる限り、義父母の老後の問題を婿である彼がどうこうする必要はないだろう。それに、妻は実家から甘い汁をすするのが好きだ。いつも自分の家庭の事を第一に考えている。だから、輝夫が将来、義父母の老後の面倒を見る心配をする必要はない。輝夫はさすが英子と夫婦になった人間だ。同じく図々しい考えを持っている。「英子、英子」「どうしたの?」「あそこにいる夫婦、成瀬さんとこの両親じゃないのか?」英子は夫が指差したほうへ目を向けると、そこにはある夫婦が歩いては立ち止まり、周りを見渡しているのが見えた。誰かを探しているよ
「陽の父親とあの成瀬って人が結婚してからも、佐々木英子とあの母親の二人が毎日騒いでめちゃくちゃにして、仲がどんどん悪くなっていったんです。あの人とはできる限り離れていたいんです。馬鹿しかあんな人と一緒に食事なんてしませんよ。私の店で雇うなんてもってのほかです」英子のあの恥知らずな態度、それに厚かましさには唯月もトラウマがある。隼翔は頷き、下に視線を向けて膝の上に座っている陽を見た。それからは唯月と佐々木家に関する話はしなかった。入院病棟を出て、隼翔は唯月に尋ねた。「どこで食事するかな?」「私がご馳走します。どこか良いレストランに行かないと。以前、社長はどこでよく食事していましたか?食べ慣れているレストランで私がご馳走しますから」隼翔は微笑んだ。「前はよくスカイロイヤルのレストランで食べていたんだ」彼は理仁と親友なので、スカイロイヤルをひいきにしていた。隼翔は飲食業界には手を伸ばしていない。この業界は競争が激しいと思うし、それにスカイロイヤルには敵わないからだ。「では、そこで食事をしましょう」唯月は太っ腹にこう言った。「私が奢りますから、社長はお金を出さないでくださいよ」隼翔はニコニコ笑った。「わかった、そうするよ」唯月は今自分で稼ぐことができるようになって、たまに誰かにご馳走するのは問題ない。隼翔も遠慮なく奢ってもらうことにした。あまり遠慮しすぎると、唯月を怒らせてしまうかもしれない。陽は隼翔と一緒に彼の車に乗った。唯月のほうは自分の車を運転し、二台はすぐに病院を去った。彼らが去ってすぐに、英子夫妻が三人の子供を連れて出てきた。英子は両親からひどく叱られて、不機嫌だと顔に書いてあった。彼女は夫に文句をもらした。「私だって俊介のために、実家のために言ったのにさ、二人から怒られるなんて一体どういうことなのよ?私は言いたいことを隠さず、遠回しにでもなく率直に言った正直な人間よ。それなのにあんなに怒るなんて、まったく理解できないわ。俊介もよ、怪我させられて痛い思いをしたってのに、あの成瀬って女を許すだなんて言い出したでしょ。それに離婚もしようとしないわ。それならそれでいいけどさ、陽ちゃんが東って名字になってから後悔しなきゃいいけどね。唯月さんは今すごく調子が良いじゃないの。痩せて綺麗になったし、良いとこのお嬢さ
英子の父親は厳しい口調で娘を一喝した。「陽君は叔母さんのところで、唯月さんは自分の仕事で忙しい。彼女には陽君の面倒を見る時間がないから、唯花さんに手伝ってもらうんだぞ。それなのに恭弥までついていったら、誰がお前の子供を見るんだ?恭弥はやんちゃだから、もしあちらで何か壊してしまったら、それを弁償できるか?」琴ヶ丘という場所は星城一の富豪家である結城家の屋敷がある所だ。彼らのような一般人では立ち入ることもできない場所なのだ。琴ヶ丘に入ると景色がとても美しく、豪華だと聞いている。ここ星城の富豪家の装飾品など全てが精巧に作られた貴重なものばかりだ。恭弥のようにやんちゃで何でも壊すのが好きな子供が、万が一結城家の物を壊しでもしたら、英子が家を売り払っても弁償できるかどうかわからない。父親から一喝され、英子は口を尖らせて黙った。唯月も、恭弥などを琴ヶ丘に連れていくわけがない。唯月はまだ恭弥が昔陽をいじめたことを覚えている。あの日、もし妹の夫とその従兄弟たちが駆けつけてくれていなかったら、陽は一体どうなっていたことか。唯月がそれに対して何か復讐をするようなことはないのは、柏木家の長男がこっぴどく叱られてとんでもない目に遭ったからだ。だが、それでも唯月の気がおさまるわけはない。佐々木父の話も道理がある。恭弥はやんちゃすぎるし、なんでもかんでも物を壊してまわる。以前、一度恭弥が来ると、よく唯月の部屋に勝手に入って、スキンケアや化粧品を駄目にしていた。それに、陽のおもちゃも壊すほどで、まるで小熊のように破壊力を持っている。もし、そんな恭弥が琴ヶ丘の物を壊してしまえば、唯月も結城家に申し訳ない気持ちになる。頭がおかしくならない限り、唯月は絶対に恭弥を琴ヶ丘に連れていったりしない。「おじいちゃん、おばあちゃん、じゃあね」陽は佐々木父と母の二人にさようならの手を振って、母親と一緒に行ってしまった。そして少し歩くと、彼は隼翔に抱き上げられて、膝の上に乗せられた。そしてボディーガードに押されて車椅子で移動した。唯月は隼翔に注意した。「社長、そんなふうにしていると陽が慣れてしまっていけません。自分で歩かせないと、それに体も鍛えることができますし」隼翔は言った。「陽君はまだこんなに小さいから、あまり歩きすぎて疲れるといけないよ。甘やかせ
そう言うと、唯月は息子を呼んだ。「陽、もう帰るから、お父さんにバイバイしてね」「唯月さん、今日は週末で陽君も幼稚園はないだろう。陽君は私たちに任せて今日と明日は父親に付き添わせてあげたらどうだろうか。明日の夜私たちが陽君をそちらに連れて行くのはどうですかな?」佐々木父が唯月に意見を求めた。彼は孫をもうしばらくの間、自分の傍に置いておきたいと思っているのだ。佐々木父はずっと口を開かなかったが、陽が隼翔と親しげにしているのを見て、どうも危機感をおぼえたようだ。隼翔が自分の孫の継父になるのではないかと心配だった。二人がこんなに仲良さそうにしているのを見て、もし隼翔が陽の父親になれば、二人はきっと良好な親子関係を築くことができるだろう。その時、実父である俊介はきっと陽からその存在を忘れられてしまうはずだ。元嫁を取り戻すことができないのは仕方ない。そもそも彼ら佐々木家全員で唯月をいじめてきたのだから、彼女は心に傷を負っている。しかし、孫は彼ら佐々木家の血を引く人間だ。それに俊介のたった一人の息子だ。そんな陽が佐々木家から疎遠になるようなことだけは避けなければならない。唯月は答えた。「おじさん、陽にどうするか聞くべきです。陽がここに残りたいというなら、私は特に意見はありませんよ」すると佐々木父は孫に尋ねてみた。「陽君、週末はここでお父さんと一緒に過ごさないかな?お母さんと東おじさんは帰るけどね」陽は少しも悩むことなくすぐに拒否した。彼は正直にこう言った。「おじいちゃん、ぼく、おばちゃんの家に行って遊ぶんだ。おばちゃんが朝、でんわでおとうさんのおみまいが終わったら、遊びにおいでって言ってた。りひとおじちゃんの家族がぼくに会いたがってるって言ったんだよ」佐々木父はなんとか陽をおだてて説得しようとした。「おばちゃんの家にならいつだって行けるじゃないか。だけど、お父さんは今体の調子が良くないんだよ。病院でずっと横になってて、つまらないんだ。誰か話し相手が必要なんだ。陽君はお父さんの息子なんだから、ここにいて一緒に過ごそう。いいかな?」「でも、おじいちゃんもおばあちゃんも、それに英子おばちゃんもここにいるんじゃないの?」陽は理解できずに聞き返した。ここにはすでにたくさんの人が父親に付き添っているではないか。もし父親に誰も付き添う人がいな
唯花は我慢できずに理仁に電話をかけた。電話の呼び出し音は鳴り続けるが、理仁は一向に電話に出ない。「まさか本当にヤキモチ焼いてるの?」唯花は電話をかけるのをやめ、そう呟いた。彼女は携帯をレジ台の上に置いて、すこし黙ってからハンドメイドの道具を取り出した。することがないので、またそれを始めたのだ。それから数分もせず、花束が急に彼女の目の前に現れた。唯花が顔を上げると、理仁のあの真っ黒な瞳と目が合った。「あなた……どうしてずっと電話に出なかったの。それにメッセージに返事も返してこないし」ハンドメイドをするその手を止めて、花束を受け取ると、彼に文句をひとこと呟いた。
「明凛ちゃん帰って来たんだね」誰かが明凛の姿を見かけて高い声で彼女の名前を呼んだ。牧野家を取り囲んでいる人たちは、すぐに両脇に逸れて明凛が通る道を作り出した。明凛は自分の家を囲んでいる人たちを見て、それはこの地域に暮らす人たちばかりだと気づいた。中には部屋を貸している部屋の住人もいて、彼らは彼女のほうをニコニコと見つめていた。道が開くと、明凛はみんなが家の前で一体何を見ていたのか理解できた。家の前には広範囲に花の海が広がっている。この日まる一日電話もメッセージも送ってこなかった悟がその花でできた海の傍らに薔薇の花束を抱えて周りと同じようにニコニコと立って彼女を見つめていたの
アバンダントグループは桐生家が経営する会社の星城での子会社であるが、正式に独立させて親会社にする準備を進めている。ビジネスをかなり大きく展開しすぎたのだ。この会社を任されている善はきっとさらに忙しくなるだろう。それに伴い、この星城に腰を据えることになるはずだ。以前は、彼は毎月かならず実家のほうへ一週間は帰り滞在していた。実家に戻ると星城にまた帰りたくなかったのだが、それが今はずっと星城にいたいと思うようになっていた。彼の兄夫婦にはもうすぐ子供が生まれる。善は義姉が子供を産んで、もし姪っ子ができるのであれば実家に帰ろうと思っていた。もし、二番目の義姉のように二人の甥っ子が生ま
唯花は少し考えて言った。「別にそこまでプレッシャーには感じていないつもりなんですけど。あちらのおうちからも子供について言われることはありません。おばあさんからたまに早くひ孫に会いたいなと言われるくらいです。理仁さんから暫くしたらA市に旅行に行こうって言われています。桐生家のご当主に会いに行こうって」理仁は唯花の友人関係はまだ浅いと思っていた。彼女と蒼真の妻である遥が友達になればいいと考えているのだ。唯花は善は桐生家の坊ちゃんで、彼は姫華のことが好きだから、唯花自身が遥と親交を深めて桐生家の家風を知ることができれば姫華のためにもなると思っていた。桐生家が世間から評価されているような一族な







