ログイン玲は奏汰につきまとわれても、彼のやりたいようにしているのだから、つまり奏汰のことを嫌っているわけではないのだろう。執事は苦しんだ様子で言った。「旦那様に奥様、それから碧様のあの態度には見ているこっちがつらくなる。我ら玲様はあんなに優秀なお方だというのに、それなのに……玲様がもし女性であったら、それか結城社長のほうが女性だったのなら、あのお二人が一緒になるのには大賛成ですよ。祝福いたします。しかし、あの二人はどちらも男なのですよ!」玲の実の両親はこのような状況でも全く平気な様子だが、執事のほうは胸を締め付けられる思いだった。ボディーガードたちは黙っていた。彼らは心の中で、きっと玲は同性愛者で普段はそれを悟られないように過ごしているからみんな知らないだけなのだろうと考えていた。玲を恋い慕う女性は非常に多い。それなのに、誰一人として玲を落とすことはできていない。つまり、これこそ玲が女に興味はないという証拠なのではないか?女が好きじゃないというなら、つまり男のほうに興味があるということだろう?……凪は白山邸から戻ってきた後、母親と若葉の車が庭の駐車場に停まっているのを見て、二人が家にいることがわかった。凪は駐車して急いで家の中に入ることはなく、若葉の車の周りをぐるりと一周した。「お嬢様、お帰りなさいませ」この時、執事が出てきて、礼儀正しく挨拶をした。凪が若葉の車を回っているのを見て、執事は不思議に思い尋ねた。「お嬢様、若葉様の車を回って何をしてらっしゃるのですか?」凪は若葉の車のボンネットを叩いて言った。「若葉の車は私のよりずっと良いみたい」この執事はここで雇われてちょうど一年経つ。若葉の実の父親が当主の手で刑務所に入れられてから、新しく雇ってきた執事だ。まだ一年しか働いていないが、黛家では次女の若葉のほうが長女である凪より大事にされていることがわかっている。すでにそれぞれがあるべき立場に戻り、若葉のほうは後継者の候補から外され、凪のほうは自分のものを全て取り返したように見える。しかし、実際、若葉のほうが生活面では凪よりも贅沢な暮らしをしている。当主たちはよく若葉に贈り物をしているが、あまり凪に贈ることはなかった。凪の言葉を聞いて、執事は少し同情したようだった。しかし、あまり多くを話すことはできず、ただこのよう
少しだけ話すのをやめ、奏汰はまた声を低くして話し始めた。「玲さんもホテルには秘密の通路を持っていますが、俺にもあります。誰にもホテルに入ったことを気づかれませんから」玲が実は女性であるという事実を、いつか彼女が自分から世間に公表することを奏汰は望んでいる。それはつまり、彼女が彼のことを受け入れて、彼のために女性として生きることを決めたということだ。だから、奏汰はすでに玲が女性であると知っているが、他の人の前では依然としてその事実は隠し、誰にも彼女が女性であると疑われないようにしたいのだ。「泳ぎに行きたいなら、今から行きましょう」「ちょっと考えさせてください」玲がこれに心を動かさせていないわけではない。彼女もこんなに暑い日には泳いで涼を楽しみたいと思っていた。ただ水に入るなら今の男装を解かねばならず、プールで楽しんで出てくる時には、またかなりの時間をかけて男装しないといけないのでそれが面倒だった。普段、彼女は毎晩帰ってきて、外出する必要がない場合にやっと男という偽の殻を脱ぎ捨て、女性の姿に戻っている。自分の家の浴槽で思いっきりお風呂に入り、一日の疲れを癒やす。そして毎朝は早く起きて、誰の手も借りずにまた男の姿に戻る。絶対に少しもボロがないことを確認してから、外出している。このような毎日は、実際とても疲れる。しかし、彼女はこの生活に慣れてしまっている。「玲さんが誰にも気づかれないなら良いでしょう。そんなに考える必要はありません。それ以上悩んでいたら夜が更けて、ホテルで一緒に過ごすことになりますよ」玲は聞き返した。「まさか、あんたは今日うちに泊まっていくつもりなんですか?」「茂さんが明日の朝一に一緒に散歩でもしようと誘ってきたんです。俺がホテルに泊まったら、そんな朝早くにここまで来られませんから、茂さんが今日はここに泊まっていけって」玲はまた不機嫌そうな顔をした。奏汰は低い声で笑って言った。「俺はゲストルームに泊まらせてもらいますので、ご安心を。玲さんを困らせるようなことはありません。じゃ、こうしましょう。俺がここに泊まるのが嫌なら、今から一緒に泳ぎに行って、その後は玲さんだけホテルから出て家に帰ってください。俺はホテルで寝ることにします」少し考えてから玲は言った。「行きましょう」彼女も思いっきり暑い
凪が気に入っているのは姉のほうだということを碧が知らないとでも?しかし、姉は実は男ではない。正真正銘「姉」だ。凪の願いは初めから叶わない夢なのだ。この時、茂が急に立ち上がって娘に言った。「玲、碧、お前たちは奏汰さんのおもてなしをしっかりするんだぞ。私は母さんと一緒にドライブに行ってくる」「父さん、俺も一緒に行くよ」碧はお邪魔虫になりたくなかった。茂は碧を睨んで言った。「私は母さんとドライブをするのに、お前までくっついて来てどうするんだ?ドライブしたいなら勝手に行きなさい。私たちについてくるんじゃない」碧は言った。「……父さん、俺はあなたの息子だぞ。血が繋がってる息子なんだ」茂は鼻を鳴らした。「実の息子だからこうやって言葉で言ってるんじゃないか。もし他の人なら何も言わず直接横に蹴ってるぞ」碧は黙ってしまった。そして、彼は自分は絶対に両親にとってはおまけ的存在なのだと思った。それから十分もせず、茂と弥和の夫婦は出かけていき、碧も適当に理由をつけて外出した。玲は家族がみんな、彼女と奏汰を二人っきりにさせようとしているのを見て、碧のようにため息をついて、自分は本当にあの親の子供なのかと考えていた。こんなあっさりと娘を差し出して、娘が損しないか心配にならないのだろうか?彼女は奏汰を睨んでいた。奏汰は自分は無実だと言わんばかりにこう言った。「俺はご両親に賄賂など送ってないですからね。あのお二人が俺のことを気に入って、娘の婿として見ているだけです。それで俺たちが二人っきりになる機会を作ったんですよ」玲は淡々とした口調で言った。「結城さん、何度も言ったと思いますが、俺たちは合わないと思います。俺も結婚する気はないですから」「付き合ってもないのに、俺たちの気が合うかどうかなんてわからないでしょう?俺は玲さんの考えとは違って、とてもぴったりだと思ってるんですけど。みんな俺たち二人が一緒にいるのを見たらべた褒めするでしょう?結婚したくないって、誰かに嫁ぐのは嫌だということですか?それなら俺が婿養子になりましょうか?」奏汰は笑って言った。「それは簡単ですよ。うちは三人全員男で、両親も俺が婿養子に出るのなんか気にしないので。三人の兄弟の中で誰かがお嫁さんをもらえば、両親はもう満足ですからね」玲は顔を暗くさせた。この図々し
碧が凪のことを嫌うなんて、笑える話だ。そもそも凪のほうが碧のことは目に入らないらしい。しかし、凪の言葉も正しい。碧はたくさん曖昧な関係の女友達がいる。各業界にそんな女友達がいるから、彼がただの友達だと主張しても誰が信じるだろうか?そんな彼に彼女ができたら、彼女は受け入れられるだろうか?凪は言った。「さっきおっしゃった、弟さんが本気で好きになる女性に出会ったら一途だというのを私は信じます。だけど、このような男性の心を動かすのは難しいでしょうね。だって、彼はもう周りに多くの女性がいることになれているのに、たった一人だけを選ぶなんて嫌なはずです」凪は碧のことを何とも思っていないので、玲もこれ以上弟の話題を続けるのはやめておいた。どうして弟はこんな道楽坊ちゃんのように生きているのだろうか?これにより、玲は弟と凪をくっつけようという企みを諦めるしかなかった。二人は庭を何周かした。釣りに行った茂たちが帰ってくると、奏汰がその腕をふるいみんなに豪華な料理を準備した。もちろんバーベキューもだ。あまりバーベキューには興味がなかった凪でさえも、奏汰が作ったものに、はまってしまった。そしてひたすら奏汰の料理の腕を褒めていた。将来奏汰と結婚する相手は本当に恵まれている、ラッキーだと褒めちぎっていた。奏汰は玲を見つめ、にやにやと笑って言った。「玲さんはちょっと痩せているから、俺が美味しい物をたくさん食べさせてあげますよ」玲は冷ややかな表情で言った。「結城社長、別にあんたに食べさせてもらう必要なんてないですので」「そりゃあ、玲さんが人に食べさせてもらう必要なんてないことくらいわかっていますよ。俺はただ、毎日三食あなたのために食事を作ってあげたいだけです」「奏汰さん、俺、最近かなり痩せてしまったんですよ。俺のほうに美味しい物を作って太らせてくれませんか」碧はからかうように言った。奏汰は碧をちらりと睨んで言った。「それ以上食べたら、豚になるぞ」碧は言った。「……奏汰さんはえこひいきが好きだな。俺と兄は同じ母親から生まれてきて、どっちもイケメンなんですよ。兄にはとても優しくて、壊れもののように丁寧に扱うし、甘い言葉だってかけるじゃないですか。両親でもここまで兄に良くしてませんよ。それに俺に対してはいつも鬱陶しそうな顔をして、一体
「若葉はただ会社で中身のない肩書きだけでいいと、私とは後継者争いはしないと言いました。彼女と争うことは別に怖くありませんが、会社に利益をもたらせない人間を養うなんて絶対に嫌です。でも、最近母はちょっと若葉を会社に戻そうとしている気がします。まあ、そうなったとしても、別に恐れることはないんですが」玲は顔を凪のほうへ傾けた。凪も同じように玲を見つめ、暫くしてから笑って言った。「白山社長、まさかあなたが私の本性に気づいているとは思いませんでしたよ」「他の誰かがあなたをどう見ているかは重要ではないです。お母様があなたを理解し、凪さんの秘めた実力を見抜いていればそれでいい。あなたの一族は、当主となる人間が絶対的な権力を持ちます。だから、お母様があなたを理解できているなら、他の人なんか構う必要はないんです」凪の顔から笑みが消えた。「母ですか、母の気持ちはいつも若葉のほうへ傾いています」玲は何も言わなかった。若葉は当主の傍で育った。何も真実を知らなければ、黛家当主の娘に対する愛は、若葉のほうへ注がれやすい。若葉が偽物だとわかったとしても、当主も長年かけて育ててきた母と娘の情をそう簡単に捨てることはできない。そして凪に対して、彼女は完全に後継者として見ているだけで、母と娘の情などほぼゼロに近いのだ。もし、黛家にあの規則がなければ、凪は今の立場も得られていなかったはずだ。「白山社長、私のことはここまでにしましょう。私に関することなんてこれくらいで、みんなが噂している話が全てです。それよりもちょっと社長にお尋ねしてもいいですか」玲は穏やかな声で答えた。「どうぞ」「白山社長と結城社長は……その、お付き合いされることはあるのでしょうか?」玲は言った。「……それは、俺も答えられませんね。明日の事は誰だってわからないでしょう」凪は笑って言った。「私は本当に白山社長のことを尊敬しています。あなたも私のことをよく理解してくれている。もし、白山社長が結城社長の気持ちを拒み続けるのであれば、私にもチャンスをくれませんか」最初に凪が玲に接近した目的はわざと若葉を刺激して、怒らせたいと思っていたからだとするなら、今の凪は玲のことを本当に高く評価するようになっていた。それは主に玲が彼女のことをよく理解し、本性を見抜いているからだ。玲は彼女に対しても
玲はため息をついた。「きっと、よその子供のほうがいいんでしょう」凪は笑って言った。「白山社長の気持ちは理解できます。うちの母もそうですから。いつも、どこどこの家のお嬢さんはどれだけ優秀だとか、私を馬鹿で役立たずな娘だと怒るんですよ。それにいつも若葉と比べてきます。若葉のほうが私よりもできる子だって。もし、黛家に代々から伝わる規則がなければ、彼女は私を後継者として育てることはしなかったでしょう。どのみち、いろいろ私の事が気に食わないんですよ」凪は気にしていない様子で話していたが、玲は彼女の心の苦痛を聞き取った。凪は黛家当主のそばで育ってはいないが、血の繋がる母と娘には違いない。母親からいつも傷つけられて、つらく感じないほうがおかしい。「凪さん、あなたはとても素晴らしい女性です。お母様がいくら何を言っても、きっと将来当主の座を勝ち取り、黛グループを率いていくことでしょう」玲は凪に慰めの言葉をかけた。それからまた続けた。「黛若葉は確かに当主に育てられた。小さい頃から後継者としての教育を受けてきましたが、実際、彼女の実力は高くありません。初めて彼女に会った時、弟にこっそり言ったことがあります。黛グループが彼女の手に渡ったら、会社はいずれ倒産するとね」きっと遺伝も関係しているのだろう。若葉は黛家の血を継いでいない。だから黛家の女性に伝わる優秀な遺伝子など持っていない。黛家当主は以前、生まれたばかりの娘が他の娘と差し替えられたことなど知らなかった。ずっと若葉のことを実の娘だと思い込んでいたのだ。だから、彼女を溺愛し、しっかりと育て、小さい頃から後継者になる教育を受けさせてきた。それでも、今の若葉は玲にとってはお粗末な不合格品だった。ただ、当主には一人しか娘がおらず、当時も娘が入れ替わっていたことなど知る由もなかった。黛家に伝わる規則では将来当主となるべきなのは若葉だった。当主は心の奥底では若葉の能力には満足していなかったが、それを表に出すことはなかった。若葉を順調に後継者にするため、当主は息子を会社に入れて重要なポジションに就かせ、娘の補助をさせるつもりでいた。若葉の能力は玲から見れば、会社を発展もなく今の状態のまま経営していくので精一杯だろう。しかし、最悪な状況は、それすらもできないことだ。一方、凪のほうは生まれ持ってビ
唯花は険しい表情で言った。「柴尾夫人、別に私があなたの次女に刑罰を受けさせるまで許さないと言ってるんじゃなく、あなたの娘がやった事に対して、刑罰が課されるかは法が決めることだと言ってるだけよ。私はまた自分が傷つけられるのが嫌なのよ。あなたの娘なら自分が一番よくわかっているでしょ。あなたはさっきあの子が自分の過ちを反省していると言っていたけど、今後もう二度と私に何か仕掛けないという保証はどこにあるわけ?あなたがあると言っても、私は信じないわよ」加奈子は不機嫌な顔で唯花を睨みつけていた。夫からいつも、若奥様と和解して娘を許してもらえるようにちゃんと話し合えと言われている。この田舎娘
理仁は莉子が家に戻り玄関のドアを閉めるのを見ながら、家の前でまた暫くの間静かに立っていた。そしてやっと車に戻っていった。さらに車の中で数分間静かに座っていて、結局車を出して去っていった。そして翌日の朝早く、理仁は急いで牧野家にやって来た。牧野家の庭の門はすでに開いていて、二匹のシェパードはリードに繋がれていた。この時理仁は少し嫌な予感がした。来るのが遅すぎたと思ったのだ。彼は車を止めて、車から降りるまえに、庭掃除をしていた莉子が箒を持ったまま近づいてきた。「結城さん、明凛と唯花ちゃんはもう出かけてしまったんです。二人で唯月さんのところに行くとかなんとか」理仁「……お
理仁のボディーガードたちはその職業柄、慣れた様子で理仁と唯花に道を作った。誰にも気安くこの夫婦に近づけさせないのだ。二人は理仁の両親の後ろについて、出迎えに出てきた小松家の人たちのほうへ歩いていった。両家はお互いに挨拶をかわした。小松家の視線は最後に唯花に移った。この日、唯花が人の目を奪うほど美しく、気品のあるオーラを出し堂々と落ち着いているので、一般家庭出身者のようには見えなかった。理仁と唯花が結婚していることはかなり前に公になっていた。しかし、彼らは一緒にこのような社交界のパーティーに揃って出席したことがなかった。唯花は普段、神崎夫人とともに出席していた。小松夫人は全く
俊介は顔を暗くして言った。「陽は俺の息子だ、永遠にその事実は変わらない。唯月が俺と息子を会わせようとしないなら、俺はまた裁判起こして親権を争うぞ」莉奈は俊介に親権をまた争わせるようなことをするわけなく、急いで慰めた。「あなたは今タクシーのドライバーをしていて、収入が安定しないでしょ。私たちはもうすぐ結婚式を挙げるのよ。その後はハネムーンに行くんだから、そんな余裕ないわよ」彼女はただ陽を利用したいだけであって、陽の親権がほしいわけではない。将来、彼女にも自分の子供ができるのだ。もし、陽を連れてきてしまったら、その子への父親の愛が半分になってしまう。「今日、唯月はさっさと店を閉めて







