LOGIN鈴の瞳に憎悪が一瞬よぎった。「あそこは自分の短所を変える場所のようなものですから。河野夫人、あなたは私と協力したいと言っていましたよね。私にいろいろと情報を探ってほしいとか。それで報酬は?」鈴は仕事がない。刑務所に入って、彼女の物は全て両親の元に返された。しかし、両親も刑務所に入ってからは、彼女の携帯、銀行カード、それから車の鍵など、恐らく全て咲の手にあるはずだ。鈴は咲からそれらを取り戻すことはできるが、柴尾グループに関しては今すぐにどうにかできるわけではない。そもそも彼女は会社のことは全くの無知であるし、来栖浩司が咲を手助けしている。さらには結城辰巳が咲の後ろ盾になっているのだ。柴尾邸も、もう長い間咲に占領されてしまった。実家の財産を動かせるのは咲だけだろう。鈴は、今後咲から金をもらわないといけないのかと思うと、苦虫を嚙み潰したような顔をした。河野夫人は穏やかな声で言った。「鈴さんは結城社長の妻の情報を手に入れたらすぐに私に教えてくれればいいです。彼女は今や結城家の若奥様で、どんな些細な行動もすぐに世間の注目を集めます。だからきっと難しいことはないでしょう。そして彼女の情報だけでなく、彼女に関係する人物、例えば夫である結城社長、神崎家、そして彼女の姉である内海唯月という女性。彼らの情報も何か手に入ったら、すぐに教えてください。私たちは彼らに復讐をするんですから、敵に関する情報はなんでも把握しておく必要がありますでしょ?チャンスが来た時には、一発で徹底的に地獄まで打ちのめすことができますからね。その情報料に関してですが、あなたはどれほどお望みです?」鈴は答えた。「彼らの情報を手に入れるのはそんなに難しいことではないと思います。でも、もし結城社長にばれたら私は終わりです。だから危険も伴うということですよね。命の危険を冒しながら、情報収集するということです。だから河野夫人も私に不利な条件でやれとは言えないはず。協力するなら誠意も必要です。毎月一千万で手を打ちましょう。情報集めをするなら、多くの人に手伝ってもらう必要があります。誰かに頼むなら、もちろん相手にお金を払わないといけないし」河野夫人は、心の中で、鈴は「お高い請求」をすると罵った。この女は一カ月になんと一千万も要求してきたのだ。彼女は鈴にちょっと
三十分後。河野夫人は鈴をあるホテルに連れていった。それは普通のホテルで、高級ホテルなどではなかった。鈴は口では何も言わなかったが、内心河野夫人はケチだと文句を言っていた。五つ星ホテルに部屋をとってくれないとは。河野夫人はそのホテルの部屋をとり、車からある袋を部下らしき人物に降ろさせた。彼女はその袋を鈴に渡して言った。「新しい服が入っています。まずはシャワーを浴びて服を着替えてから下におりてきてください。食事に行きましょう」鈴はその袋を受け取り、部屋のカードキーを持って上にあがっていった。鈴は刑務所に暫く入っていたが、生まれた時からお嬢様という立場で大事に育てられてきた。そのため高いプライドがあり、このホテルはどうしても嫌だった。彼女は簡単にシャワーを浴び、髪を洗って、河野夫人からもらった新しい服に着替えた。ドライヤーで髪を乾かして鏡に映る自分を暫くの間眺めていてから髪を梳かした。鈴はかなり痩せてしまっていた。それでもまだ若いので、痩せていても、スリムな美人という感じだった。「咲、それに結城家のあのクソ女!絶対に許しはしないからね!」鈴は鏡に向かって、凶悪な目つきで誓いをたてた。「何倍にもして仕返ししてやる!」それからすぐに鈴は一階におりていった。河野夫人はそこで彼女を待っていた。鈴がおりてきたのを見ると、河野夫人は何も言わずに立ち上がり、鈴に近づいて言った。「さあ、食事に行きましょう。部屋は泊まるなら泊まってもいいし、泊らないならチェックアウトしてください」「この服、どうもありがとうございます。チェックアウトして家に帰ります。あそこは私の家だもの、あのめくら、私を追い出せると思うんじゃないわよ!」鈴は早く柴尾家に戻って、咲を困らせてやろうと思っていた。河野夫人は彼女をちらりと見ただけで、何も言わなかった。鈴はホテルを出て河野夫人の車に乗り、食事に連れて行ってもらった。食事する場所も高級レストランなどではなく、そこらへんにあるチェーン店で、何品か注文した。料理が運ばれてくるまで、河野夫人は話した。「鈴さん、高級なお店じゃなく、こんなところに連れてきて、私をケチだと思わないでくださいね。あなたは出所したばかりで、しかも予定より早くに出てこられたでしょう?彼らはあなたが自由になったこと
鈴の父親に世話になったからだ、と言ってはいるが、実際にはただ礼儀上の表面的な言葉にすぎないだろう。鈴は自分がここまで落ちぶれたのは、咲と唯花が原因で、しかも自分を守るために両親が咲に陥れられたことを思った。鈴と咲には、もはや修復のできない大きな恨みという溝ができてしまっている。仇である結城家に嫁入りした唯花と咲の二人の幸せを、ただ黙って見ていることなど、鈴には到底できないことだった。実の弟である流星は小さい頃から咲の味方をしていて、同じ親から生まれた鈴という姉にはまったく懐いていない。それだけでなく、いつも咲に嫌がらせをする鈴を責めるのだった。鈴は弟とは手を組むことはできないとわかっていた。鈴はまだ若いので、人脈や能力はない。だから、誰かと結託するしかなかった。刑務所まで迎えにきた女が言っていることが本当かどうかはわからないが、ターゲットが同じく唯花であるというのなら、彼女と協力するのは問題ないはずだ。敵の敵は味方だという。それで鈴は女の車に乗ることにした。河野夫人が運転手に車を発進させた後、鈴が尋ねた。「あの、私の二人のおばが今どうしているか知っていますか?私は復讐したい。実家の全てを取り戻したい。でも、私一人の力では無理です。でも弟には協力をお願いすることは無理だと思います。うちの二人のおばは父との関係が良かったから、きっと手伝ってくれると思うんですけど」鈴は、おばである朱美と樹里の息子たちが柴尾グループで働いていることを覚えていた。それも父親である正一が彼らを会社に引き入れたのだ。鈴側の人間だから、きっと助けてくれるはずだ。朱美と樹里は咲のことを非常に嫌っていた。咲が会社を継いだとなれば、あの二人は絶対に黙っているはずがない。「あなたのおばさん達ですね。それも望みは薄いでしょう。尾崎家と黒川家の人たち、あなたの従兄さんたちも含めて、お父様が刑務所に入ってから代わりに会社を管理しようと思っていたようです。でも、お姉さんと来栖副社長が手を組んで、彼らは負けてしまった。それから、従兄さんたちはクビになり、柴尾グループを追い出されました。それだけではなく、従兄さんたちとおばさんたちは納得がいかず、お姉さんにつきまとって会社を奪い返そうとしていました。でも、お姉さんはひどい人で、結城家の力を借りたんです。尾崎家と黒
「あなたが誰で、どんな人物なのか、それに誰があなたをここへ迎えに来させたのか教えてくれないなら、一緒については行かないわ」女性は暫く考えてから、笑って言った。「鈴さんは刑務所に入ってちょっと大人になったようですね。私、夫は河野と言って、お父様とは以前提携させていただいたことがあり、少し交流があったんです」河野?鈴は実家のビジネスのことはよく知らない。彼女はまだ二十歳過ぎたくらいで、両親はあまり会社の話をしてこなかった。ただ実家は経済的に豊かで、よその令嬢が持っているものは、両親が全て鈴に与えてくれた。それに鈴が持っているものを他の令嬢が持っているとは限らなかった。たまに、父親から実家のビジネスはどんどん大きくなっているという話を聞くくらいだった。そんな父親と何度か一緒にビジネスをしたことがあるというなら、父親の顔を立てて、自分を助けに来たわけか?「河野さんはどうして私が今日出所することを知っているんですか?」河野夫人は笑った。「何度か下の者に調べさせていたので、今日だと知ったんです。以前お父様と何度か一緒にお仕事をさせていただいて、交流がありましたからね。社長が刑務所に入られて私たちに、その付き合いから、娘と息子をお願いしたいと頼まれていたのです。弟さんは今とても順調のようですね。あなたのお姉さまとは仲良くされているそうで、結城社長の結婚式には、弟さんも咲さんと一緒に参加していたらしいですよ。その後は大学に戻られたみたいですけど。柴尾家のビジネスで、違法行為があったものはすべて警察に検挙されて、罰金を支払っています。合法的なビジネスは咲さんが社長として継いでいます。でも、お姉さんは目が不自由でしょう、だから主なことは来栖浩司さんが手伝っているみたいですね」柴尾家に関することは、少し聞けばいろいろと出てくる。河野夫人が言っていることは全て事実だった。鈴もそれらのことを知っている。河野夫人の話を聞いてもまだためらって尋ねた。「それじゃ、河野さんは私をどこに連れて行くつもりですか?」「まずは車に乗ってください。私もあなたを売ったりしませんから。ただ柴尾社長にはお世話になりましたからね。鈴さん、食事をして休んで、それに新しい服に着替えて気持ちを新たにしましょう。そうすることで、柴尾家をお姉さんから奪還することが
仲の良い友人が鈴を迎えに来ないのは別に構わないが、親戚ですら来てくれなかった。咲が柴尾グループの社長になったから、親戚たちもあのめくら女のご機嫌取りをしに行っているのだろうか。鈴は出所し、柴尾家のビジネスを奪還するつもりでいる。あの会社は父親がここまで大きくさせた会社なのだから、めくら女にとられてたまるか。それに目が見えないくせに、どうやって会社の管理ができる?あの来栖浩司という男は本心は違うところにあるのかもしれない。ただ両親が刑務所に入り、流星はまだ学生だから、あの男が咲の手助けをしているのだろうと鈴は思った。今自分が刑務所から出てきたから、もしかすると彼が自分側に立ってくれるかもしれない。彼は父親の右腕だった。それがどうしてめくら女に味方する?鈴は数歩ほど歩いてから立ち止まった。二台の車がゆっくりと近づいてきて、最後に彼女の目の前にとまったのだ。先頭にある車に乗っている人が車の窓を開けた。知らない年寄りの顔がそこにはあった。年寄りと言っても実際は五、六十くらいなのだが、二十歳過ぎの鈴にしてみれば、相手は確かに年を取っている。「柴尾鈴さんですね。今日出所されると知って迎えに来ました。シャワーを浴びて新しい服に着替えたら食事をしましょう」鈴はわがままで横柄なお嬢様で、そこまで頭が良いというわけではないが、馬鹿ではない。知らない人間の車に乗るわけがない。鈴は目の前にいる女性を見たが、本当に一度も会ったことのない知らない人だった。いくら考えてもこのような知り合いはいない。自分の親戚の中にもこのような人物がいた記憶はない。「あなたは誰?」鈴は警戒して尋ねた。鈴は予定よりも早く出所した。さっき鈴は友人も親戚も誰も迎えに来ていないことに不満を抱いていたが、実際、誰も彼女が今日刑務所から出てくることを知らなかった。それなのに、この女性はどうして知っているのか。しかも、わざわざ迎えに来たらしい。一体誰の指示で来たのだろうか。まさか母親にはまだコネでもあったというのか?「鈴さん、私が誰なのか気にする必要はないですよ。どのみち、私はあなたの復讐の手助けができるんですから。あなたの鬱憤を晴らすのに手を貸すことができるの。それに私があなたを売るのではないかと心配することもありません。私はただ
唯月は唯花の頭を軽くつっついて言った。「結城さんもあなたのことを気遣い、心配しているでしょ。それに、毎回あなたが間違ってるじゃないの。それで彼も仕方なく私に言ってきてるだけで、何が訴えてる?もし彼がここまであなたに関心がなければ、ほったらかしにされているわよ」唯花はすぐに笑った。「まあ、そうね。彼は最高な人だわ。お姉ちゃん、私が間違ってたってわかったから、もう言わないで。あれは訴えてるんじゃなくて、私を心配して気遣ってくれてるんだもの」「まったく、そもそもそうだったのよ。あなたのことをちょっと言ったらすぐに不機嫌になるんだから」すると唯月はまた妹の頭を小突いた。「それに、私が彼にあなたが言うことを聞かないようなら、私に言うようにって伝えていたから、彼もああやって私に言ってきたの。私ならあなたを言い聞かせられるから」唯花はやんちゃな子供のように舌をべぇっと出してみせた。姉妹二人は神崎家の庭をゆったりと散歩した。主に二人っきりで内緒話するためであり、それが終わると家にまた戻った。そしてすぐに、詩乃と姫華は手にいろいろと提げて病院に向かった。善は二人の運転手になり、航は妻の指示で、家に残り姪二人と理仁をもてなした。理紗の見舞いに行き、母子ともに健康な姿を見て、唯月姉妹は神崎家で食事を済ませてから帰っていった。唯月はレストランに行き、理仁は唯花と一緒に琴ヶ丘に帰った。そして同時刻のある刑務所の前で……中から柴尾鈴が出てきて、空を見上げていた。彼女は空はとても青く、空気も澄んでいると感じていた。この時太陽は照りつけていたが、それすらも心地よかった。自由を失っていた日々は、小さい頃から家族に愛され甘やかされて育ったお嬢様にとって、とても長く感じられた。早く刑務所から出られるように、彼女は中ではとても行儀よくおとなしくしていた。そして刑期が少し減り、予定よりも早く今年中に出所することができた。以前、鈴は人を雇って唯花の車を壊し、一発殴ってやろうと思っていたが、唯花は空手ができるので成功しなかった。それから鈴の両親が唯花の車を新しく弁償し、示談にもっていこうとしたが、唯花がそれを拒否した。唯花は弁償として新車を受け取った後、鈴をやはり刑務所送りにしたのだ。刑罰はそこまで重くなかったが、甘やかされてきたお嬢様にと







