Share

第258話

Author: リンフェイ
「君が行きたいなら、俺たちも週末は海で過ごしてもいいよ。海で獲った新鮮な魚介類が食べられるし」

これは結城理仁が夫婦二人で週末プチ旅行をしようというはじめての誘いだった。

「今って十一月よ」

「星城の十一月は昼間太陽が出ればまだまだ暑い。海にバカンスに行くのにちょうどいいよ。寒くもないし暑すぎもしないから」

内海唯花はお腹をさすりながら言った。「その話はまたにしましょう。今はまだ週末何か予定が入るかわからないし」

結城理仁はうんと一言答えた。

食器を片付けてキッチンに入り食器を洗った。そして、妻から注意の言葉を聞いた。「そんなにたくさん洗剤を使わないで、泡だらけになっちゃうわよ」

結城理仁は顔をこわばらせ、何も言わなかった。

十分ほどで結城理仁は食器をきれいに洗ってしまった。

さっき冷蔵庫を見た時、その中にはフルーツが入っていた。

彼は大きめのお皿を洗い、冷蔵庫に入っていたいくつかのフルーツを取り出して水洗いし、一口サイズに切って皿に盛りつけ、爪楊枝も添えてキッチンから出てきた。

「食後のフルーツをどうぞ」

彼はそのお皿をテーブルの上に置いた。

内海唯花「……あなた、本気で私をお腹いっぱいで殺す気?」

結城理仁は軽く彼女の額をつついた。「後でちょっと散歩して消化させればいいだろう」

星城高校の前は広々としていて、長く続く二車線に沿って大きな川が流れている。その道沿いを歩けば消化ができるというわけだ。

内海唯花は彼が突然親しい態度を取ってきたのに驚き、反射的に彼の手を叩き払おうとしたが、それをする前に彼のほうがその手を引っ込めた。

それで彼女の手は空を切った。

「少ししたらちょっと散歩しよう」

内海唯花は姿勢を正して座って彼に聞いた。「今夜は会社の接待はないの?」

「本当はあったけど、ばあちゃんがここに来て君と一緒にご飯を食べるよう言ってきたから、その予定をキャンセルしたんだ」

内海唯花は、ばつが悪そうに言った。「私がおばあちゃんにそうしてって言ったわけじゃないからね」

彼女とおばあさんの関係は良好だ。彼と結婚したのもおばあさんが原因だ。

おばあさんを利用してこうしていると彼がまた誤解するんじゃないかと心配して、内海唯花は一言説明して言ったのだ。

結城理仁は瞳をキラキラと輝かせて彼女を見つめ、穏やかな声で言った。「それは
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第259話

    内海唯花が視線を携帯に集中させたのを見ると、彼女からその携帯を奪ってしまいたい衝動に駆られた。幸い、彼は自制心が強いのでそのような行為には及ばなかった。そんなことをしてしまえば二人の関係がまたさらに悪化してしまうから。彼は彼女に近づき、内海唯花の前に立つと、低く落ち着いた声で「唯花」と呼んだ。「ドタンッ!」内海唯花は彼に「唯花」と呼ばれて驚き、携帯を床に落としてしまった。彼女は急いで腰をかがめて携帯を拾い、携帯ケースが割れているのを見て「私の携帯ケース二千円したのよ」と悲しがっていた。結城理仁は彼女の携帯を受け取り見てみた。確かに、ケースが割れて見た目がよくなかった。彼女が携帯ケースが壊れて悲しんでいるのを見て、彼は言った。「後で十個買ってあげるよ」「ちょっと多めにちょうだい。またあなたが急におかしくなって私を親しく『唯花』って呼んだら、携帯ケースがあと何回壊れることやら」結城理仁は口角をピクピクと引き攣らせ、また黙ったまま彼女を暫く見た後、低い声で言った。「内海さん、俺たちは夫婦だろ」夫婦なのだから、彼が彼女を呼び捨てにするのも当たり前のことで変ではないだろう。内海唯花は彼の手から携帯を取り、おかしそうに彼に言った。「何?何か言いたいことあるんでしょう?今後は名前で呼ぶなら『さん』をつけて呼んで。私もあなたを呼び捨てにするのは慣れないし、呼び捨てにされるのもなんだか落ち着かないわ」「俺は、君に謝りたいんだ」結城理仁は厳しい顔つきで言った。彼はこの時、自分の過ちを認め申し訳ないという表情になっているだろうと自分では思っていた。しかし内海唯花の目には、彼はまるで学校で生活指導をする生活指導の先生のように厳しい顔つきで、生徒たちも逃げ出してしまうくらい怖い顔に映っていた。「あの日の夜は、あまりに衝動的に動いてしまった。君に悪いことをして、間違っていたよ。君に謝りたい」内海唯花は彼を見つめ、その続きの言葉を待っていた。しかし、彼はそう言うと、彼女と目を合わせたままで続きの言葉を出さなかった。彼は彼女に失礼な行為をしたことを謝っていて、決して彼女と金城琉生の関係を誤解したことを謝っているわけではない。「私と金城琉生とは何も怪しい関係じゃないわ」内海唯花はすでにこう説明していた。しかし、もう一度は

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第260話

    結城理仁「……俺の目つきから何も感じられない?金城琉生が君を見つめる時、さっき俺が君を見つめていたのと同じ感じなんだが。俺は男だから、男の考えがわかるんだ。彼は君にかなり長い間片思いしているようだぞ」このバカ娘、そんなことも知らずに本当にバカみたいに彼を自分の弟として見ているのだから。金城琉生のほうは彼女から弟扱いされたいわけではなく、彼女の大事な人になりたいと思っているのだ。内海唯花がまた理仁をからかい、彼にマウントを取ってくるのに対して結城理仁はそれにツッコミは入れなかった。「さっきの目つきに何か感情があった?ただの殺気しか感じられなかったけど」結城理仁の顔は曇った。演技して損した。内海唯花は恥ずかしそうに笑った。「今のあなたではいくら演技しようとしても無理なのかも。目にはその人の心が映るっていうでしょう。あなたは私のことを愛していないし、だから私を見たって、なんの感情も映らないのよ」結城理仁は手をあげた。そして、彼女のその好き勝手する両手をペシッと叩いて払った。「結城さん」「なんだ?」「私、えっと、その、今すっごくあなたにキスしたいんだけど」それを聞いた結城理仁の顔がこわばり、真っ黒な瞳で彼女をじいっと見つめた。内海唯花は相変わらず恥ずかしそうにまた言った。「あなたが本当にカッコいいから」と言った。以前キスをした後、彼女は彼からの熱いキスが忘れられなかった。ん?まさか彼女、はまってしまったの?「したくないっていうならいいの。仕事に戻って、私も引き続き店番するわ」と内海唯花は言いながら、再び携帯を取り出しそれを見るふりをして、彼から視線を外した。すると突然、力強い大きな手が彼女をレジの前まで引っ張ってきて立たせた。そして、その手は彼女の両肩に置かれ、彼女の体を彼の傍に引き寄せ、麗しい唇にキスをした。内海唯花は目をぱちぱちとさせた。この男、女性から積極的に動くのに絶対慣れていないんだ。何をするのも優位に立ちたいとするその彼の態度に笑いたくなった。「いたっ」唇が痛い。彼は彼女の唇を咬んだ。血は出ていないが、それでも痛かった。「あなた躾のなってない子犬かなにか?人に噛みつくなんて!」「君も俺に噛みついただろ」キスの途中で他のことを考えている彼女のほうが悪い。

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第261話

    結城理仁の顔は瞬時にいつもの氷のように冷たくなった。そして、彼は落ち着いて顔色を変えずにレジから出てきた。内海唯花は背筋を伸ばし、少し乱れた髪を整えた。結城理仁の何事もなかったかのような様子に内海唯花は心の中で何百回と彼にぶつくさ文句を言っていた。そして彼女は座り、あのクズな親戚が入って来るのを待っていた。あのように彼女を大声で呼ぶのは、絶対に内海家のクズな親戚どもと決まっていた。一分もせず、内海瑛慈夫妻がすごい剣幕で入ってきた。その夫婦二人の後ろについて来たのは、内海唯花の二人のおじとおばだった。内海唯花は口角を上げにやりと笑った。まあまあ、みなさん、よくお揃いで。内海瑛慈夫妻が勢いよく入って来ると、レジに座っている内海唯花を見て、彼女のほうへと押し寄せようとしたが、結城理仁にその行く手を阻まれてしまった。結城理仁は背が高く、かなりのイケメンだが、異常なまでに冷酷な空気でそこに立っていて、そのオーラは周りにいる者をおじけさせてしまう高貴さがあった。またその冷たさが無意識に彼らを尻込みさせた。内海瑛慈夫妻はその冷徹な結城理仁に向かい合い、驚いてしまった。それで本能的に後ろに二歩後ずさった。「お、お前は誰だ?こんなところに突っ立ってて、我々を脅かす気か?」内海瑛慈が尋ねた。結城理仁は彼を一瞥し、唇をきつく結んで何も言わなかった。彼はこのようなクズ人間とは話をしないのだ。「あなた、彼ってもしかしてこのクソ女の旦那で、結城とかいう人じゃないの」内海瑛慈の妻は小声で夫に言った。彼らもただ村の人から内海唯花が結婚したということを聞いたことがあるだけで、その夫とは会ったことがない。村人たちは内海唯花の夫がとてもハンサムで、性格は見たところあまり良くないようだと言っていた。人を見るその目はまるで刃のように鋭く、良い人そうに見えなかったと。まさかヤクザ関係者じゃないだろうね?内海瑛慈の妻はそれを考えると、慌てて夫の腕を掴み、彼の後ろに身を隠した。内海民雄は内海家の長男だ。この時、彼が前に出てきて結城理仁をじろじろと見ると、なんとか笑顔を絞り出し、遠慮がちに尋ねた。「あなたが唯花の旦那さんですかね?私は内海唯花のおじの内海民雄と申します。どうぞよろしく」結城理仁は内海家の面々をちらりと見て、冷

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第262話

    内海民雄「……」内海唯花め、このクソ女全く始末に悪い。この女の結婚相手もまさかこんなに手に負えない野郎だとは。結城理仁はレジ台に寄りかかり、両手をポケットの中に突っ込んだ。内海唯花は瞳をキラキラさせた。わあ、彼のこの動作、すっごく魅力的!ゴホンッ、今はイケメンを鑑賞している場合ではない。内海唯花は急いで真面目におじとおば達を見た。「言え、お前ら妻を呼び出して何の用だ?そっちの数が多いのをいいことに彼女に手を出す気か?それとも、脅迫して大金を無理やり出させてそっちのばあさんの医療費を出させようとでも?それから、お前らの宿泊代、ガソリン代、高速代も要求するって?」「こいつのような野蛮な女、私たちに敵うとでも?」内海瑛慈の妻は怒って言った。彼女がここに来たのは、カタをつけるためだ。息子の内海陸が勾留されたとわかってから、一族たちはみんな先に陸を留置所から救い出してから、内海唯花に決着をつけに行こうと言っていた。しかし、彼らが内海陸を留置所から出してあげようとした時、保釈できないと言われてしまったのだ。内海陸の母親はそれで焦って怒り、また心を痛めていた。息子の顔すら見ることができなかった。彼女は内海唯花の後ろ盾になっている人間が手を回したのだと疑っていた。でなければ、息子以外の不良たちはみんな保釈されたのに、どうして陸だけが許可されないのか。そもそも内海唯花と対立している一族たちだ。内海陸が勾留されるという事件が起こってから、その対立はさらにヒートアップしてしまった。それで年長者たちは、やはり一団となって内海唯花に会いに来た。この前は、若い世代の者たちが表に出てきて、年長者は内海唯花に電話をする程度のものだった。「唯花、お前に聞くが、あんたが陸を警察に通報したんだろ?なんでこんな悪辣なことができるんだい?陸は一体いくつだと思う?まだ子供じゃないか。あんたがこんなことをして、彼の人生を台無しにしたんだよ。前科がついちゃ、どうやってこれから生きていけってんだい!あんた達は従姉弟同士なんだよ。あんたは姉として弟を許してやることだってできたのに、警察に通報して勾留までさせて、ひどすぎると思わないのか。何か恨みがあるんだったら、私にかかってきなさいよ!」頭に一気に血が上り、内海陸の母親は結城理仁など怖くなかっ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第263話

    内海瑛慈が真っ先に我に返り、後ろを向いて妻のところへと走っていった。「おまえ、大丈夫か?」内海唯花のおばは結城理仁に服を引っ張られて襟も不格好に飛び出し、突き飛ばされ地面に倒れてしまった。それによる怪我はなかったが、彼女はかなり狼狽していて、瞬時に結城理仁からその面子を潰されてしまったような気がした。「あんた、死人か何か?あんたは私の夫でしょ?自分の妻がこんなふうにされてなんで防ごうとも助けようともしないんだい。ただあの男が私を引きずり出して、地面に倒されいじめられるのを見ているだけなんてさ!」唯花のおばは夫に支え起こされた後、すぐにその夫を押し返し、指をさして罵った。「息子をいじめ終わったら、今度は私をいじめやがった。道徳も神もあったもんじゃないよ。あんた目をしっかり見開いて見てみな、年上を敬うこともなく、不孝者の最低な人間だ。さっさとあいつらを懲らしめてやっておくれよ!」内海瑛慈は兄弟の中で一番年下だ。生まれてから今まで両親や兄弟姉妹から非常に可愛がられて育ってきた。彼の妻が彼と結婚した後、同じように可愛がられてきた。この内海家の親戚たちの中で、瑛慈の家庭が一番お金がなかったが、兄弟姉妹たちに経済的に支えられて自分で建てた一戸建てで暮らすことができたのだった。唯花のこのおばは、内海家に嫁入りしてからというもの順風満帆に暮らしてきた。だから、今までこのような屈辱を味わったことがなく、自然と大声で罵っている。彼女は心の中で、野次馬たちが集まってきたら、内海唯花の悪行をばらしてやろうと思っていた。内海唯花がいかに傲慢な女で、おじやおば達に理不尽な態度を取っていると知らしめてやるのだ。この夫婦は長年添い遂げてきた。内海瑛慈は妻の考えなどお見通しだった。彼は急いで妻の口を塞ぎ、少し血相を変えて低い声で諭した。「何騒いでいるんだ。周りの人たちが集まってくるぞ。内海唯花に恥をかかせようと思っているのか?だけど、よく考えてみろ、うちの息子が一体何をしたかを。誰かに撮られてネットにアップでもされたら、恥をかくのは俺たちのほうなんだぞ。やっとこの間の炎上が収まって、俺たちはようやく静かに暮らせるようになったんだ。それなのにお前、またネットで炎上したいのか?」しかも内海唯花には後ろ盾があるんだぞ。妻が結城理仁にあのように扱われて、内

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第264話

    ここ数年、贅沢な暮らしをしていて彼らはふくよかな体になっていた。少し動いただけでもすぐ息切れしてしまう。内海唯花は空手もやっているし、この夫婦と喧嘩するような力は実際ないのだ。当時も佐々木唯月がどのように妹を育てていたのかさっぱりわからなかった。まさか内海唯花に武術を習得させていたとは。幸い、彼らは先見の明があって、内海家の三番目の弟が亡くなった時にもらった事故による賠償金はきちんと保管していた。そうでなければ、唯月姉妹がその金を使いきってしまっていたかもしれない。「唯花、あんまり人に酷い扱いをするもんじゃないよ。忠告しておくよ、さっさと陸を留置所から出さないと、もしあの子に何かありでもしたら、地獄の底まであんたに付き纏ってやるからな。夫がいるからっていきがってんじゃないよ!」おばは唯花を指差して怒鳴りつけた。結城理仁は手を洗い終わり、顔を唯花のおばのほうに向け、氷のように冷たい目で彼女を一瞥した。それで怒鳴り声は瞬時に腑抜けた声に変わった。彼女は、この冷たく口数の少ない男をとても恐れていた。「唯花」内海民雄は口を開いた。「どうであれ、手を出すのはよくない。お前の旦那に謝るよう言ってくれ、私たちは年長者だからお前らとやりあうことはしないから」「おじさんも手を出す行為はよくないってわかってるのね。陸は夜中に不良たちを引き連れて鉄の棒を持って私の車を妨害し脅迫してきたわ。あの時、私はとても怖かったのよ。車を降りたら、彼から先に手を出してきた。もし私の反応が速くなかったら、私はその鉄の棒で殴られていたでしょうね。おじさん、そうなっていたら私は今頃どうなっていたかしら?」結城理仁は内海唯花が、あの時怖かったなどとでたらめを言うのを聞いて、口元を引き攣らせ呆れたが、それでも目は笑っていた。内海唯花は続けて言った。「彼のほうが悪いのよ。私はただ正当防衛をしただけなのに、何か間違ってる?あなた達もこんな夜遅くに大勢で押し寄せて来て、私を責めて侮辱して、あんた達のほうが道理にかなってるとでも?」内海民雄はかすれ声になり、ぐうの音も出ず、暫くしてから口を開いた。「唯花、私たちも陸が間違っていたとわかっている。だけど、お前は怪我とかしてないだろう?お前は空手ができるから陸たちはお前には敵わない。お前は怪我一つせずぴんぴんしている。従姉弟同

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第265話

    「おばさん、早く私に感謝してちょうだい。何かお礼の品でも買ってきてくれるのが一番なんじゃないかしら。あなたの息子を助けてあげたんだから、しっかりお礼してもらわないとね」内海唯花のこの言葉に内海家の年長者たちは口を引き攣らせた。唯花のおばは両目を大きく見開き、青筋まで立たせて鬼の形相だった。しかし、それでも手を出せなかった。結城理仁がこの場にいるので、内海唯花が何かせずとも親戚たちは反論する勇気もなかった。それを見て理仁はニヤリと笑っていた。この娘、よくやるじゃないか!「唯花」ここに一緒に来ていた内海唯花のもう一人のおばは耐えきれず口を開いた。「あたしらは別にあんたが間違ってるなんて言ってない。間違ってたのは陸のほうさ。ただあんたらは従姉弟同士で、血の繋がりも濃い同じ一族の人間なんだよ。今回の件は、あの子を家に謹慎処分する程度で十分だったんだ。あんたがあたしらに言ってくれれば、陸を叱ってやったんだ。警察送りにするなんて本当に必要のないことなんだよ。あたしらはあの子を留置所から出してあげようとしたけど、断られた。陸が出られないなんて、もしかして、あんたが頼りにしている人間の仕業なんじゃないか?唯花、昔のことはよく覚えているよ、あんた達姉妹があたしら内海家の人間を恨んでるってのはよくわかってるさ。だけどね、さっきから言ってるが同じ一族なんだよ、どちらも『内海』という苗字だろう。他所の無関係な人間に頼んで内海家に干渉しないようにしてくれ」つまり彼女は内海唯花に後ろ盾に頼るなと言いたいのだ。彼女を助けている影の人物に内海一族の邪魔をされたくないのだ。内海唯花はさっき結城理仁が直接手を出したのは正しいと思った。このようなクズ人間たちに理屈を論じても意味がないのだ。彼らはひたすら彼女と内海陸が従姉弟同士の親戚だから、陸が過ちを犯したとしても警察に通報してはいけないと言う。彼女は冷たく言った。「毎度毎度あんた達は血縁関係がある家族なんだって強調してくるけど、本当に笑っちゃうわよ。あんた達が悠々自適に暮らしていけるのも納得がいくわ。図々しく、恥知らずのクズ人間、世界最強のクズ集団よ。厚かましさでは、あんたらに敵う奴なんかいないわね。私があんた達を恨んでるっていうのを知っていながら、私の前に現れて、年上だからと偉そうに私に教育しようって?恥ず

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第266話

    彼女、内海唯花はきちんと道理をわきまえているし、年上を敬う人間だ。もちろん、その年長者が年長者たる品格を備えている場合においてだが。「内海さん、さっきの人たちは君の親戚?あいつらはまたあなたに何か言いに来たの?もしかして、まだあなたのおばあさんの医療費を出せとか言ってる?本当に恥知らずもいいところねえ。自家用車も持っていて、一軒家に住み、何千万もの貯金があるんでしょう。自分の母親が病気になってるっていうのに、両親を失った姪っ子にその金を出させようとするなんて」「今まで恥を知らない人間には会ったことがあるけど、彼らほど酷い奴らは生まれてはじめてだよ。本当にこの世の中どんな人間がいるかわかったもんじゃないな」「本当、本当。確か内海さんの両親が事故で亡くなって、その賠償金もあいつらが山分けして奪っていったんだろ。一億二千万なんて、大金だよ。やつらが今のような贅沢な暮らしができるのは、内海さんの両親のそのお金のおかげなのに、他人の不幸を利益にしたうえにあなたを侮辱するなんて」「内海さん、あなたはあんな恥知らずな奴らに優しすぎるんじゃないか。彼らが来たらすぐに箒で追い出してしまえばいいんだ。何も話をする必要なんかないよ。ああいう人たちは自分が犯した罪も認めず、自分たちのほうが正しく、他人が間違っていると言い張るんだから」「内海さん、あいつらがまたあなたにおばあさんの医療費を出せと圧力をかけてきたら、私に言ってちょうだい。私たちが一緒に、あの義理人情のないやつらを追い出してあげるからね」店のご近所たちは内海唯花と彼女の親戚が対立していることを知っている。さっきのように内海唯花が箒をもって年配者たちを追いかけ回したのを目撃しても、彼女が間違っているとは思っておらず、内海唯花は善良な人間だと思っていた。ご近所さんたちはドーベルマンを数匹飼っている。あのクズ野郎どもが再び現れようものなら、犬にあいつらを咬ませて二度と来られないように脅してやろう。無駄話でさえもあのようなクズ野郎どもとする時間がもったいない。内海唯花は渋い顔をして言った。「でもあの人たちも結局は私の父の兄妹姉妹たちです。私がかなり怒ったからやっと追い出すことができたんです」「追い出して当然よ。あの人たちはお父様の兄弟たちなのでしょうけど、薄情すぎるのよ。普通の人なら、彼らのような

Latest chapter

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第596話

    その時、聞いていて我慢できなくなった人が英子に反論してきた。「そうだ、そうだ。自分だって女のくせに、あんなふうに内海さんに言うなんて。内海さんがやったことは正しいぞ。内海さん、私たちはあなたの味方です!」「こんな最低な義姉がいたなんてね。元旦那が浮気したから離婚したのは言うまでもないけど、もし浮気してなくたって、さっさと離婚したほうがいいわ、こんな最低な人たちとはね。遠く離れて関わらないほうがいいに決まってる」野次馬たちはそれぞれ英子を責め始めた。そのせいで英子は怒りを溜め顔を真っ赤にさせ、また血の気を引かせた。唯月が彼女に恥をかかせたと思っていた。そして彼女は突然、力いっぱい唯月が支えていたバイクを押した。バイクは今タイヤの空気が抜けているから、唯月がバイクを押すのも力を入れる必要があった。それなのに英子が突然押してきたので、唯月はバイクを支えることができず、一緒に地面に倒れ込んでしまった。「金を返せ。あんたのじいさんがお母さんから金を受け取ったのを認めないんだよ。じいさんの借金は孫であるあんたが返せ、さっさとお母さんに金を払うんだよ」英子はバイクと一緒に唯月を地面に倒したのに、それでも気が収まらず、彼女が持っていたかばんを振り回して力を込めて唯月を叩いた。さらには足も使い、立て続けに唯月を蹴ってきた。唯月はバイクを放っておいて、立ち上がり乱暴に英子からそのかばんを奪い、狂ったように英子を殴り返した。彼女は英子に対する恨みが積もるに積もっていた。本来離婚して、今ではもう佐々木家とは赤の他人に戻ったので、ムカつくこの佐々木家の人間のことを忘れて自分の人生を送りたいと思っていた。それなのに英子は人を馬鹿にするにも程があるだろう、わざわざ問題を引き起こすような真似をしてきた。こんなふうに過激な態度に出れば、善悪をひっくり返せるとでも思っているのか?この間、唯月と英子は殴り合いの喧嘩をし、その時は英子が唯月に完敗した。今日また二人が殴り合いになったが、佐々木母はもちろん自分の娘に加勢してきた。この親子は手を組んで、唯月を二対一でいじめてきたのだ。「警察、早く警察に通報して!」その時、誰かが叫んだ。「すみません警備員さん、こっちに来て喧嘩を止めてちょうだい。この女二人がうちの会社まできて社員をいじめてるんです」

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第595話

    唯月がその相手を見るまでもなく、誰なのかわかった。その声を彼女はよく知っている。それは佐々木英子、あのクズな元義姉だ。佐々木母は娘を連れて東グループまで来ていた。しかし、唯月は昼は外で食事しておらず、会社の食堂で済ませると、そのままオフィスに戻ってデスクにうつ伏せて少し昼寝をした。それから午後は引き続き仕事をし、この日は全く外に出ることはなかったのだ。だからこの親子二人は会社の入り口で唯月が出てくるのを、午後ずっとまだか、まだかと待っていたのだ。だから相当に頭に来ていた。やっとのことで唯月が会社から出てきたのを見つけ、英子の怒りは頂点に達した。それで会社に出入りする多くの人などお構いなしに、大声で怒鳴り多くの人にじろじろと見られていた。物好きな者は足を止めて野次馬になっていた。唯月はただの財務部の職員であるだけだが、東社長自ら採用をしたことで会社では有名だった。財務部長ですら、自分の地位が脅かされるのではないかと不安に思っていた。唯月は以前、財務部長をしていたそうだし。上司は唯月を警戒せずにいられなかった。さらに、唯月が東社長に採用されことで、上司は必要以上に彼女のことを警戒していたのだ。唯月は彼女にとって目の上のたんこぶと言ってもいい。周りからわかるように唯月を会社から追い出すことはできないから、こそこそと汚い手を使っていた。財務部職員によると、唯月は何度も上司から嫌がらせを受け、はめられようとしていたらしい。しかし、彼女は以前この財務という仕事をやっていて経験豊富だったので、上司の嫌がらせを上手に避けて、その策略に、はまってしまうことはなかった。「あなた達、何しに来たの?」唯月は立ち止まった。そうしたいわけじゃなく、足を止めるしかなかったのだ。元義母と元義姉が彼女の前に立ちはだかり、バイクを押して行こうとした彼女を妨害したのだ。「私らがどうしてここに来たのかは、あんた、自分の胸に聞いてみることだね。うちの弟の家をめちゃくちゃに壊しやがって、弁償しろ!もし内装費を弁償しないと言うなら、裁判を起こしてやるからね!」英子は金切り声で騒ぎ立て、多くの人が足を止めて野次馬になり、人だかりができてきた。彼女はわざと大きな声で唯月がやったことを周りに広めるつもりなのだ。「あなた方の会社の社員、ええ、内海唯

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第594話

    「伯母さんはあなた達が簡単にやられてばかりな子たちだとは思っていないわ。ただ妹のためにも、あの人たちをギャフンと言わせてやりたいのよ」唯花はそれを聞いて、何も言わなかった。それから伯母と姪は午後ずっと話をしていた。夕方五時、詩乃はどうしても唯花と一緒に東グループに唯月を迎えに行くと言ってきかなかった。唯花は彼女のやりたいようにさせてあげるしかなかった。そして、唯花は車に陽を乗せ自分で運転し、神崎詩乃たち一行と颯爽と東グループへと向かっていった。明凛と清水は彼らにはついて行かなかった。途中まで来て、唯花は突然おばあさんのことを思い出した。確か午後ずっとおばあさんの姿を見ていない。唯花はこの時、急いでおばあさんに電話をかけた。おばあさんが電話に出ると、唯花は尋ねた。「おばあちゃん、午後は一体どこにいたの?」「私はそこら辺を適当にぶらぶらしてたの。仕事が終わって帰るの?今からタクシーで帰るわ」実はおばあさんはずっと隣のお店の高橋のところにいたのだった。彼女は唯花たちの前に顔を出すことができなかったのだ。神崎夫人に見られたら終わりだ。「おばあちゃん、私と神崎夫人のDNA鑑定結果がでたの。私たち血縁関係があったわ。それで伯母さんが私とお姉ちゃんを連れて一緒に神崎さんの家でご飯を食べようって、だから今陽ちゃんを連れてお姉ちゃんを迎えに行くところなの。おばあちゃんと清水さんは先に家に帰っててね」「本当に?唯花ちゃん、伯母さんが見つかって良かったわね」おばあさんはまず唯花を祝福してまた言った。「私と清水さんのことは心配しないで。辰巳に仕事が終わったら迎えに来てもらうから。あなたは伯母さんのお家でゆっくりしていらっしゃい。彼女は数十年も家族を捜していたのでしょう。それはとても大変なことだわ。伯母さんのお家に一晩いても大丈夫よ。私に一声かけてくれるだけでいいからね」唯花は笑って言った。「わかったわ。もし伯母さんの家に泊まることになったら、おばあちゃんに教えるわね」通話を終えて、唯花は一人で呟いた。「午後ずっと見なかったと思ったら、また一人でぶらぶらどこかに出かけてたのね」年を取ってくると、どうやら子供に戻るらしい。そして唯月のほうは、妹からのメッセージを受け取り、彼女たちが神崎夫人と伯母と姪の関係で

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第593話

    昔の古い人間はみんなこのような考え方を持っている。財産は息子や男の孫に与え、女ならいつかお嫁に行ってしまって他人の家の人間になるから、財産は譲らないという考え方だ。息子がいない家庭であれば、その親族たちがみんな彼らの財産を狙っているのだ。跡取り息子のいない家を食いつぶそうとしている。それで多くの人が自分が努力して作り上げた財産を苗字の違う余所者に継承したがらず、なんとかして息子を産もうとするのだった。「二番目の従兄って、内海智文とかいう?」詩乃は内海智文には覚えがあった。主に彼が神崎グループの子会社で管理職をしていて、年収は二千万円あったからだ。彼女たち神崎グループからそんなに多くの給料をもらっておいて、彼女の姪にひどい仕打ちをしたのだ。しかもぬけぬけと彼女の妹の家までも奪っているのだから、智文に対する印象は完全に地の底に落ちてしまった。後で息子に言って内海智文を地獄の底まで叩き落とし、街中で物乞いですらできなくさせてやろう。「彼です。うちの祖父母が一番可愛がっている孫なんですよ。彼が私たち孫の中では一番出来の良い人間だと思ってるんです。だからあの人たちは勝手に智文を内海家の跡取りにさせて、私の親が残してくれた家までもあいつに受け継がせたんです。正月が過ぎたら、姉と一緒に時間を作って、故郷に戻って両親が残してくれた家を取り戻します。家を売ったとしても、あいつらにはあげません!」そうなれば裁判に持っていく。今はもうすぐ年越しであるし、姉が離婚したばかりだから、唯花はまだ何も行動を起こしていないのだ。彼女の両親が残した家は、90年代初期に建てられたものだ。実際、家自体はそんなにお金の価値があるものではないが、土地はかなりの値段がつく。彼女の家は一般的な一軒家の坪数よりも多く敷地面積は100坪ほどあるのだ。彼女の両親がまだ生きていた頃、他所の家と土地を交換し合って、少しずつ敷地面積を増やしていき、ようやく100坪近くある大きな土地を手に入れたのだった。母親は、彼女たち姉妹に大人になって自立できるようになったら、この土地を二つに分けて姉妹それぞれで家を建て、隣同士で暮らしお互いに助け合って生きていくように言っていたのだ。「まったく人を欺くにも甚だしいこと。妹の財産をその娘たちが受け継げなくて、妹の甥っ子が資格を持っ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第592話

    姫華は唯花たちが引っ越し作業を終えてから、ようやく自分がそんなに面白いことを逃したのだと知ったのだった。だから彼女は明凛と唯花に不満を持っていた。明凛は唯花に姫華にも教えるよう言ったが、唯花が彼女はお嬢様だから家をめちゃくちゃにするという乱暴なシーンは見せたくないと思い姫華には伝えなかったのだ。確かに姫華は名家の令嬢であるが、神崎姫華だぞ。神崎姫華は星城の上流社会ではあまり評判が良くない。他人が彼女のことを横暴でわがまま、理屈が通じないというくらいなのだから、そんな彼女が家を壊すくらいのシーンで音を上げるとでも?逆に、彼女自身も機嫌が悪い時にはハチャメチャなことをしでかすというのに。「姉がもらうべき分はしっかりと財産分与させました。ただ内装費に関しては佐々木家が拒否したので、私たちが人を雇ってその内装を全て剥がしたんです」詩乃はそれを聞いて「それはそうすべきよ。どうして佐々木家においしい思いをさせる必要なんてあるかしら」と唯花たちの行動を当たり前だと言った。そして最後にまた残念そうにこう言った。「もし伯母さんが知っていれば、あなた達の家族として、大勢で彼らのところまで押しかけて内装費を意地でも出させてあげたものを。これは正当な権利よ」この時、唯花はふいに姫華の性格は完全に母親譲りなのだと悟った。「唯花ちゃん、もうちょっとしたらお店を閉めて私たちと一緒に神崎家に帰りましょう。家族みんなで食事をするの。そうだ、あなたの旦那さんはお時間があるのかしら?彼も一緒にいらっしゃいよ」唯花は「夫は今日出張に行ったばかりなんです。たぶん暫くの間帰ってきません。彼が帰ってきたら、一緒に詩乃伯母さんのお宅にお邪魔します」と返事した。「出張に行ってらっしゃるのね。なら、彼が帰って来てからお会いしましょう」詩乃はすぐに姪の夫に会えなくても特に気にしていなかった。彼女にとって、二人の姪のほうが重要だったからだ。今、彼女は姪を見つけることができて、姪二人にはこの神崎詩乃という後ろ盾もできた。ちょうど唯花に代わってその夫が頼りになる人物なのか見極めることができよう。「あなたのお姉さんは五時半にお仕事が終わるのよね?」「ええ」神崎夫人は時間を見て言った。「お姉さんはどこで働いていらっしゃるの?」「東グループです」神崎夫人は「そ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第591話

    姫華は父親である神崎航と一緒に母親を気にかけていたので、理紗が忘れずにこの鑑定結果を持ってきたのだった。唯花は理紗から渡された鑑定結果を受け取って見た。彼女はその結果を見た後、少しの間沈黙してからそれをテーブルの上に置いた。「唯花ちゃん、あなたは私の姪よ。私のことは詩乃伯母さんって呼んでね」今世では妹と再会を果たすことはできなかったが、妹の娘である二人の姪を見つけることができただけでも、神崎詩乃(かんざき しの)にとっては一種の慰めになった。彼女は唯花の手をとり、自分のことを「詩乃伯母さん」と呼ばせた。「唯月ちゃんは?それから陽ちゃんも」神崎詩乃はもう一人の姪のことも忘れていなかった。「姉は昼にはここへは来ないんです。夕方五時半に退勤したら帰ってきますよ」唯花はそう説明して、明凛のほうを見た。明凛が陽を抱っこして近づいて来て、唯花が彼を抱っこした。「神崎おば様……」唯花がそう言うと、詩乃は言った。「唯花ちゃん、私のことは詩乃伯母さんって呼んでね。私はずっとあなた達を見つけられるのを夢見ていたのよ。ようやく見つけたんだから、そんな距離感のある言い方で呼ばれると寂しいわ」唯花は少し黙った後「詩乃伯母さん」と言い直した。DNA鑑定結果はもう出てきたのだ。彼女が神崎詩乃の血縁者であることが証明されたのだから、神崎夫人はまさに彼女の伯母にあたるのだ。本当にまるでドラマのようだ。詩乃は唯花に詩乃伯母さんと呼ばれて、目をまた赤くさせた。そして姫華がこの時急いで言った。「お母さんったら、もう泣かないで。陽ちゃんもいるのよ、お母さんが泣いたりしたら、陽ちゃんを驚かせちゃうでしょ」明凛と清水はみんなにお茶とフルーツを持ってやってきた。詩乃は陽を抱っこしたいと思っていたが、陽のほうはそれを嫌がり、背中を向けて唯花の首にしっかりと抱きついた。「陽ちゃん、こちらはおばあちゃんのお姉さんなのよ」詩乃は立ち上がって、陽をなだめようとした。「いらっしゃい、おばあちゃんが抱っこしてあげる、ね」しかし陽は彼女の手を振り払い「やだ、やだ、おばたんがいいの」と叫んだ。詩乃は陽が過剰な反応をしたのを見て、諦めるしかなかった。そして少し前の出来事を思い出し、彼女はまた容赦なくこう言った。「あの最低な一家が、陽ちゃんにショックを

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第590話

    数台の高級車が遠くからやって来て、星城高校の前を通り過ぎ、唯花の本屋の前に止まった。隣の高橋の店で暇だからおしゃべりをしていた結城おばあさんが、道のほうに目を向けると数台の高級車がやって来ていた。そしてすぐに顔をくるりと元の位置に戻し、わざと頭を低くした。あの数台の車から降りてきた人に見られないようにしたのだ。「唯花、唯花」姫華が車から降りて、唯花の名前を呼びながら店の中へと小走りに入ってきた。その時は隣の店でおしゃべりしていた結城おばあさんを全く気にも留めていなかった。その後ろの車から降りてきた神崎夫人の夫の神崎航がボロボロに泣いている妻を支えながら、娘の後ろに続いて店の中に入ってきた。理紗はボディーガードたちに入り口で待機するように伝え、それから彼女も店の中へと入ってきた。唯花は三分の一ほどビーズ細工のインコを作り終えたところで、姫華に呼ばれる声を聞き、その手を止めて姫華のほうへ視線を向けた。「姫華、来たのね。ご飯は食べた?もしまだなら……」その時、神崎夫人が夫に支えられて入ってきて、夫人が涙で顔を濡らしているのを見て、唯花は状況を理解した。神崎夫人はDNA鑑定の結果を手にしたのだ。神崎夫人のその顔を見れば、聞くまでもなく彼女と神崎夫人には血縁関係があるのだということがわかった。「唯花ちゃん――」神崎夫人は急ぎ足で、レジ台をぐるりを回って彼女のもとへとやって来て、唯花を懐に抱きしめ泣きながら言った。「伯母さんにもっと早く見つけさせてよ――」彼女はそれ以上他に言葉が出てこないらしく、ただ唯花を抱きしめて泣き続けた。唯花は彼女に慰める言葉をかけたかったが、自分もこの時何も言葉が出せなかった。「私の可哀想な妹――」神崎夫人は妹がすでに他界していることを思い、また大泣きした。唯花は彼女と一緒に涙を流した。明凛は陽を抱っこして清水と一緒に遠くからそれを見守っていた。陽は全くどういうことなのかわかっていない様子だった。姫華と理紗も目を真っ赤にさせていた。神崎航がやって来て、妻を唯花から離し、優しい声で慰めた。「泣かないで、姪っ子さんが見つかったんだ、良かったじゃないか。私たちは喜ぶべきだろう。そんなふうにずっと泣いてないで、ね」神崎夫人は夫に支えられて椅子に腰かけた。妹の不幸な境遇と、二人の

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第589話

    「内海のクソじじい、あんたはしっかり私から百二十万受け取っただろうが。現金であげただろう、あれは私がずっと貯めていたへそくりだったんだよ。あの金を受け取る時にあんたは唯花を説得してみせると豪語してたじゃないか。それがあんたは何もできずに、うちの息子はやっぱり唯月と離婚してしまったんだぞ。だからさっさと金を返すんだよ。じゃないと本気で警察に通報するわよ」佐々木母は内海じいさんがどうしても認めようとしないので、怒りで顔を真っ赤にさせていた。内海じいさんは冷たい顔で言った。「もし通報するってんなら、通報すりゃええだろ。俺がそんなことを怖がるとでも思ってんのか。俺はお前から金を受け取ってないし、もし受け取っていたとしてもそれが何だって言うんだ?それは唯月が結婚した時の結納金の補填だろう。うちの孫娘がお宅の息子と結婚する時に一円も出しゃあしなかったくせによ。結納金に代わって百万ちょいの補填だけで済んだんだぞ。お宅にも娘がいるだろ。その娘が結婚する時に一円も結納金を受け取らずにタダで娘を婿側に送ったのか?」佐々木母はそれを聞いて腹を立てて言った。「なにが結納金だ、お前は唯月を育ててきたのか?そうじゃないくせに結納金を受け取る資格があんたにあるとでも?彼らはもう離婚したってのに、馬鹿みたいにあんたらに結納金を今更補填してあげるわけないでしょうが。さっさと金を返すんだよ!」「金なんかねえ。命ならあるけどな。それでいいなら持って行くがいい」内海じいさんは、もはやこの世に何も恐れるものなど何もないといった様子で、佐々木母はあまりの怒りで彼に飛びかかって引き裂いてやりたいくらいだった。そこに英子が母親を引き留めた。「お母さん、あいつに触っちゃダメよ。あいつはあの年齢だし、床に寝転がりでもされちゃったら、私たちが責任を追及されちゃうわよ」「ああ、じいさんや、私はすごくきついよ。もう息もできないくらいさ。こいつらがここで大騒ぎしたせいで私まで気分が悪くなってきたみたいだ。死にそうだよ……」病床に寝ていたおばあさんが突然、気分が悪そうな様子で胸元を押さえて荒い呼吸をし始めた。内海じいさんはすぐにナースコールを押して、医者と看護師に来るように伝えた。そして、佐々木母たち三人に向って容赦なく言った。「もしうちのばあさんがお前らのせいで体調を悪化させた

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第588話

    唯花は笑って言った。「姫華が言ってたの、九条さんって情報一家らしいわ。彼と一緒にいたら、ありとあらゆる噂話が聞けるわよ。あなたって一番こういうのに興味があるでしょ。九条さんってまさにあなたのために生まれてきたみたいな人だわ、あなた達二人とってもお似合いだと思うけど」明凛「……」彼女が彼氏を探しているのは、結婚したいからなのか、それとも噂話を聞くためなのか。「そういえば、お姉さんの元旦那のあの一家がまた来たって?」明凛は急いで話題を変えた。親友に自分の噂話など提供したくないのだ。「お姉ちゃんと佐々木のクソ野郎が離婚して、お姉ちゃんがあの家から出て行ったでしょ。あいつらは待ってましたと言わんばかりに引っ越して来ようとしてたわけ。だけど、今は部屋を借りるかホテル暮らしするか、はたまた実家に帰るしかなくなったでしょ。あの一家は絶対市内で年越ししたいと思ってるはずよ。実家には帰らないでしょうね」佐々木一家は絶対に実家のご近所たちに、年越しは市内でするんだと言いふらしていたはずだ。だから、住む家がなくとも、彼ら一家は部屋を借りるまでしてでも、市内で正月を迎えようとするに決まっている。唯花は幽体離脱でもして佐々木家に向かい、彼らの様子を見てみたいくらいだった。「あの人たち、家の内装がなくなってめちゃくちゃになった部屋を見て、きっと大喜びして失神したことでしょうね」唯花はハハハと大笑いした。「そりゃそうね」唯花が今どんな状況なのか興味を持っている佐々木家はというと、この時、すでに内海じいさんがいる病院までやって来ていた。内海ばあさんは術後回復はなかなか順調で、もう少しすれば退院して家で休養できるのだった。佐々木母は娘とその婿を連れて病室に勢いよく入っていった。佐々木父は来たくなかったので、ホテルに残って三人の孫たちを見ていた。ただ佐々木父は恥をかきたくなかったのだ。「このクソじじい」佐々木母は病室に勢いよく入って来ると、大声でそう叫んだ。内海じいさんは彼女が娘とその婿を連れて入ってきたのを見て、不機嫌そうに眉をしかめた。彼の息子や孫たちはどこに行ったのだ?誰もこの狂ったクソババアを止めに入りやしないじゃないか。「これは親戚の佐々木さんじゃないですか、うちのばあさんはまだ病気なんで、静かにしてもら

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status