Masuk碧は数歩進んで、振り返った。暫く凪に会っていなかったせいか、この時彼女を見ると、以前会った時よりもずっと綺麗だと碧は思った。彼女が今放つオーラは自信があり、できる女という雰囲気を醸し出している。碧は自分の目を疑ってしまった。それでさっき対面した時に、少し驚いていたのだ。あまりの違いに、凪とは気づかないところだった。「もし、最初に会った時の彼女がさっきの彼女だったら、兄さんに紹介された時は断われなかったかもしれないな」碧は独り言を呟いた。もちろん今から凪を好きになっても遅いわけではない。しかし、碧は黛家が嫌いだから、凪を好きになろうとは思わなかった。黛家から凪のような人が輩出されたのは、彼女が黛家で育ったわけではないからだ。幼い頃から育ってきた環境が悪かったため、彼女は逆境の中で必死に生き、今のように強い性格が形成されたのだろう。しかも凪は、弱そうに見えて、実はしたたかな女だ。碧は心も純粋な女性が好きだ。凪のように本当の自分を隠し、上手に立ち振る舞うような女性は敬服するが、できれば近づきたくない。そのような女性は、兄にお似合いだろう。二人が手を組めば、この世に敵なし。いや、兄ではなく姉だ。柏浜人は玲が実は女だという事実にむしろ喜ぶべきだ。もし本当に男であれば、玲は凪を高く評価しているから、本気で付き合う可能性が高い。そして恋人になった時、あの二人に敵う人間などほとんど存在しなくなる。この時の凪は、さっき碧に会った後、彼がこのようなことを考えているとはまったく知らなかった。彼女が秘書を連れて社長室に入ると、玲が立ち上がって迎えてくれた。彼女の面子を立ててくれている。「黛さん、何をお飲みになりますか?秘書に持って来させます」「水か、お茶で結構です。この時間にコーヒーを飲むと寝られなくなるかもしれないので」玲は二人にソファに座るように言うと、秘書にお茶を二人分用意するように伝えた。玲はデスクに戻り、自分のコーヒーを運んできた。そしてソファに戻りながら言った。「私は午前と午後と一杯ずつ飲む習慣があるんです。慣れているせいか、夜寝られなくなるということはないんですよね」彼女は普通、夜中にやっと就寝する。その時間には、カフェインの効き目はなくなっているのだろう。だから、睡眠に何か影
「じゃ、ばあちゃんに電話して執事に伝えてもらおう。帰ったら鍋にしてって。辰巳夫婦も呼ぼうか。人が多いほうが賑やかで、食事も楽しくなるから」唯花は言った。「じゃ、あなたは仕事して。私がおばあちゃんにかけるから。それか、家族のグループに星城にいて時間がある人は、一緒に食べようって連絡したらどうかな?そのほうがもっと人も増えて賑やかでしょ」理仁は笑って言った。「あいつらはみんな忙しいからな。やっぱり辰巳夫婦だけ呼べばいいよ」「わかった、そうするね。ほらほら、早く仕事に戻って。手元にある仕事を早く終わらせれば、夜は楽でしょ」理仁はこの日に仕事に戻ったばかりだから、もちろん接待や残業をするつもりはなかった。夕方、退勤時間になったら妻と一緒に家に帰る予定でいる。妻からまた急かされると、彼はしぶしぶ仕事デスクに戻り、座って仕事を再開した。そして唯花は結城おばあさんに電話をして、今夜は鍋料理にして、辰巳夫妻も呼ぶと伝えた。当然それを聞いておばあさんはとても喜んだ。彼女は家族でわいわい賑やかにするのがとても好きな人だからだ。一方、柏浜では、凪が車で白山グループに入っていった。車をとめた後、秘書が先に車から降りて、凪が座っている座席のドアを急いで開けにいった。数分後、凪は秘書を連れて、オフィスビルに歩いていった。白山グループ本社ビルは、黛グループよりもずっと階数が高い。黛グループの本社ビルは十数階しかないが、白山グループは柏浜の大企業の中でもトップにあたり、その分ビルは高くなっている。柏浜市のオフィスエリアで中心に高くそびえ立つビルだ。凪はここへ来る前に、まず玲に時間があるか尋ねてから、秘書を連れてやって来た。玲からはプロジェクトの提携について話し合ってもいいと言われている。凪がこうやって来たのは、そもそも黛家の跡取りとして白山グループと商談するつもりで、もし商談がうまくいかなかったとしても別に構わない。その後、裏で自分名義の会社の社長として、玲と提携について話し合えばいい。凪は、自分の詳細を白山社長が全て知っているのだろうと思っている。心の中で、白山社長はとてもすごい人物だとはっきりとわかっていた。そんな彼と憎しみ合うような間柄でなくてよかった。もし白山社長と対立するような関係であれば、自分の将来
理仁がさっき最後のほうに言っていた言葉を聞いて、悟は笑った。「何回も言わないと俺がどれだけ忙しくて、へとへとになってるか知らないだろ?理仁、君が戻ってきたら数日休みをくれるって約束だっただろう?その約束を果たしてくれるかこっちはわかんないんだから、忘れてないか伝えないとダメじゃん?それから、来年明凛が出産したら、二か月産休をくれる約束だからな」理仁は彼に言った。「お前が出産するわけでもなし、何が産休だよ。奥さんが出産してから産後ケアの世話に一カ月休むので十分だろう。家にはあんなに世話ができる人がいるんだ。一カ月付き添ってあげて、お前が世話をしてあげる必要だってないじゃないか。二か月の休みをあげると言った時は長すぎると思ったのに、お前はそれでも少ないって文句言ったろ」悟は反論した。「奥さんが出産する時に、産後に付き添わずに、君が毎日会社に来て、いつも通りに仕事するって言うなら、俺は一カ月の産休をもらう。確かに俺が産むわけじゃないけど、奥さんが出産するんだ。夫として手助けが必要な時に傍にいて当然だろ?」理仁は言った。「……状況によるな。その時会社が忙しくなければ、三か月の休みをやったって構わない」理仁は考えてみると、自分も妻が出産した後、傍にいて支えてあげたいと思った。産後すぐは特に良いケアをしてあげなければいけない。悟は慌てて言った。「さっきの話しっかり聞こえましたよね?理仁が明凛の出産には三か月の休みをくれるって」唯花は笑って言った。「ええ、ちゃんと聞いてましたよ。安心してください。その時には私が証人になって、理仁には約束を守らせますから」明凛は唯花よりも早く妊娠したから、来年の五月が出産予定だ。今はもうすぐ年末になる。悟は早めに上司に来年の産休について相談しておきたかった。悟はそれを聞いて安心し、立ち上がると理仁に言った。「じゃ、俺は仕事に戻る。今手元の仕事を終わらせて、明日は休みだ」二日の休みをもらい、悟は嬉しそうにうきうきしていた。「オフィスを出たらドアをきっちり閉めといてくれ」理仁は悟に念を押しておいた。悟は笑って言った。「そんなこと言われなくても、出ていったらきっちり閉めるに決まってるだろ?二人がイチャイチャしたいなら、誰にも聞こえないから、どうぞお好きに」
「善さんと姫華たちは、遥さん一家を琴ヶ丘まで見送りに行ってます」それを聞いて、悟は言った。「こんなに早く帰ってしまいましたか。俺も蒼真さんと食事をする時間すら作れませんでしたよ」唯花は笑って言った。「時間がある時に、A市に行って食事に誘ったらいいですよ。今回はただ瀧君と陽ちゃんを遊ばせるために、来てくれたので」「はぁ、忙しくて、そんな時間はとれそうにありませんね。理仁がやっと仕事に復帰してくれたのでまだいいです。じゃないと水を飲む暇すらありませんよ」悟は唯花に自分の苦境を訴えた。「明日はちょっと会社を休まなければならないのですが、まだ理仁には伝えてません。後で、あいつが駄目だと言ったら、代わりに言ってもらえませんか?一カ月間ほぼ休んでません。明日休みたいのも、ただ休憩したいからじゃなくて、明凛の妊婦検診に付き添いたいからなんです」唯花は快く答えた。「ええ、理仁がもし同意しないなら、私から言います。本当にお疲れ様でした。必要なら、理仁に言って二日ほど休みを取らせましょうか?休みを申請しなくてもいいです。明凛についていてあげてください」唯花と理仁は結婚式が終わってから、ゆったりと一カ月休むことができた。遠出したり、他の都市に旅行に行ったりはしなかったが、誰にも邪魔されずに二人っきりの世界を堪能できた。悟たち管理職が理仁の仕事を分担してくれたおかげだった。そして今やっと理仁が仕事に戻ったから、タイミングを見て、一番忙しい悟に数日休んでもらってもいい。悟は言った。「二日連続で休めるのは最高です。最近寒くなったし、明凛がしょっちゅう鍋が食べたいって言うんですが、ずっと外食に連れて行く時間がなくて。家で鍋をしてもいいですが、従姉がいろいろ言うのでね。明凛が家で文句を言われながら食べても美味しくないから、出かけたいと言うんです。明日検診が終わってから、夜鍋料理の店に連れて行きます。明凛は妊娠してから食べたいと思ったものはすぐに食べたくなるらしくて。唯花さん、あなたもそんな感じですか?」「ええ、同じですよ。私も何か食べたいって思ったら、すぐにでも口に入れたくなります」理仁は隣の部屋から出てくると、そっとドアを閉めた。ドアを閉めておけば、彼らの話し声で陽を起こしてしまうことはないだろう。彼はその後、妻に温かい麦茶を持
陽は、もうすぐお兄さんになるのだから、いとこが生まれたら大事にしなければいけない。「おばちゃんは陽ちゃんを抱っこしたって、平気よ」唯花は笑って、甥を膝の上にのせた。「三、四歳はそんなに重くないから」陽も別に太めな子供ではない。陽は本気で眠かったらしく、唯花に抱かれると、数分と経たずに寝てしまった。それから三十分後、二台の車が結城グループに入っていった。唯花は理仁に電話をかけようかと思ったが、やはり驚かせようと思ってやめた。理仁には夕方仕事が終わる時間に迎えに行って、一緒に家に帰ろうと伝えてあった。でも、具体的な時間までは伝えていない。今は予定よりも早めに着いた。突然オフィスに来たら、理仁はきっと驚いて喜ぶだろうと唯花は思った。明凛から、夫婦はしょっちゅう相手にサプライズしてあげたほうが、仲が深まると言われたことがある。あらゆる小説を読んできた明凛は、ロマンチックな事やサプライズをするのが唯花よりもうまい。唯花が今までやったことも全部、彼女を手本として学んできたのだ。「若奥様、代わりに私が陽様を抱きかかえましょうか」ボディーガードが唯花の懐で眠る陽を受け取ろうとした。唯花は言った。「いいえ、このまま抱っこしてて大丈夫。あなた達は一階で待っていてちょうだい。何かやる事があるなら、先に片付けてきてもいいわ。理仁の仕事が終わってからじゃないと、私たちも帰らないから」それに、彼女も夫の車に乗って帰ることもできる。ボディーガードは恭しく応じた。「他にやることはございません。若奥様をお守りすることが我々の一番重要な仕事ですから」唯花はそれ以上は何も言わず、ボディーガードたちを引き連れて、オフィスビルに入っていった。ビルに入ってすれ違う社員たちは、みんな彼女に礼儀正しく挨拶をしていった。唯花は陽を抱きかかえたままエレベーターに乗った。ボディーガードたちは一階にある待合室で待機した。そしてエレベーターは二人を乗せて、最上階にあがっていった。陽はこの時、ぐっすりと寝ていた。かなりはしゃいで遊び、とても疲れているらしい。起こさなければ、このまま空が暗くなるまで寝ているだろう。理仁は唯花が予定より早く来るとは思っていなかった。唯花が到着すると、秘書が理仁のオフィスのドアを叩いて開けた。理仁はまだ
遥は言った。「本当にその通りだわ。瀧が一人で遊んでて、誰も注意を向けてない時、とても静かにしていると思って探しに行ったら、物を壊していたの。ある時、私の口紅で床にお絵描きをしていたんだから」姫華は子供の世話をしたことがない。今までで関わりが一番多い子供と言えば、陽くらいだ。彼女の中で、陽は物分かりがよく、可愛く、また頭の良い子のイメージだった。まさかいたずらをするような一面を持っているとは思ってもいなかった。姫華は、子供はみんな天使のようだと思っていたのだ。甥は生まれてすぐはあまり可愛いと思えなかったが、日々成長するにつれて、どんどん可愛いと思うようになってきた。姫華は毎日何枚も甥の写真を撮り、成長をまとめたアルバムを作るつもりらしい。ただ欠点があるとしたら、それはよく泣くことだ。お腹が空けば泣き、排泄をすれば泣く。言葉で伝えることがまだできない赤ちゃんにとって、泣くのは意思疎通の方法だから仕方ない。遥と唯花は少し子供のことでおしゃべりしていたが、悠の泣き声が聞こえてきた。双子は目を覚ましたらしく、遥は立ち上がって息子を抱き上げた。娘のほうはこの時すでに蒼真が抱き上げていた。蒼真は片手で娘を抱き、片手でスーツケースを引っ張っていた。その後ろを善がついていき、ひたすらこう言っていた。「兄さん、芽衣ちゃんは僕が抱っこするよ。そのほうが楽でしょ?」「それなら代わりにスーツケースを引いてくれ」蒼真は手を離し、スーツケースを弟に任せて言った。「外まで持ってって、車に乗せておいてくれ。後で俺たちを琴ヶ丘まで連れてってくれればいいから」彼らが乗ってきたプライベートジェットは、広大な敷地を誇る琴ヶ丘のプライベートジェット専用滑走路にとめてある。弟の家の近くには、そんなに広い場所がない。すると善は唇を尖らせて、ぶつくさ呟いた。「芽衣ちゃんを抱っこしたかったのに、スーツケースを持たせるなんて。兄さんと遥さんはもうすぐ帰っちゃうんだから、少しくらい僕に抱かせてくれたっていいじゃないか」そう文句はこぼすものの、善は兄のためにスーツケースを引いていってあげた。蒼真は娘を抱いたまま、唯花と姫華たちに会釈し、妻が息子を抱き上げて近づいてくると、言った。「遥、そろそろ帰ろうか。瀧は?」「まだ外で陽ちゃんと遊んで







