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第399話

Author: リンフェイ
結城理仁は上着を脱いで振り向くと、内海唯花は興味津々で彼を見ていた。彼が自分のほうを見たので彼女は尋ねた。「もっと脱ぐの?」

彼女は彼のズボンを指していた。つまり、ズボンはまだ脱いでいないという意味だ。

結城理仁は顔色を暗くした。

彼が上着を脱いだのは、顔を洗っている時にうっかり服が濡れてしまうと思ったからだ。

彼女は彼が何のために服を脱いだと思っているのか?

体を唯花のほうへ向け、結城理仁は彼女の前に一歩踏み出した。二人の距離が近く、内海唯花は手を伸ばして逞しく鍛えあげられたその胸筋に触れようとし、おだてて言った。「いつも体を鍛えてる男性って、いいカラダしてるよね」

結城理仁は彼女のその自由気ままに動く手を掴み、触られるのを防いだ。

彼は顔を暗くし、低くかすれた声で彼女に注意した。「内海さん、触ったらどうなるかわかってる?」

彼女の返事を待たず、彼は片手で彼女の額にデコピンをした。人というのは、ある動作を何度もすると、それに慣れて何度も繰り返しやってしまうものだ。

結城理仁は今までに何度も内海唯花の額を突っついていた。こうするのが気に入ってしまったのだ。

もちろん、彼は力加減をしていたから、彼女が痛がって彼に仕返ししてくるようなことはなかった。

内海唯花はニヤニヤ笑った。「服を脱いで、そのいい身体を私に観賞させてくれるんじゃないの?ちょっとくらい触ったって、その筋肉が減るわけじゃあるまいし。それなら、一体どこのどなたが人前でいきなり服を脱ぎ始めたんでしょうね?」

「俺はただ君が顔を洗ってくれる時に、服が濡れてしまうかと思って脱いだだけだよ。一体何を考えてたんだ?なら、服を着なおすから、君が洗ってくれる時に服が少しでも濡れたら、今後は君が俺の服の洗濯を担当してもらえるかな?」

「なら、やっぱり裸でいいよ」

結城理仁は顔を暗くして彼女を見つめた。

うかつだった。

この娘、以前はよく彼をからかって面白がっていた。彼女の前で服を脱いだら、彼女は必ずからかってきていたのに。太陽は西から昇ってくることもあるのだな。

「ははは!」

彼のこの行動が面白くて彼女は無邪気に笑い出した。彼女のその様子が結城理仁の顔色をさっきよりもさらに暗くさせた。

この自由なお嬢さんを取り扱う時、何もしていなくても彼女はもっと自由気ままになっていってしまう。

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