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第833話

作者: リンフェイ
唯月は冷ややかに元夫を睨んで言った。「唯花だって、あんたなんかに構ってるような時間はないわよ。あんたの仕事がうまくいかないのは、自分の能力の問題よ。いつもいつも何かあれば誰かに責任を押し付けるような真似をしないで、自分に原因を探しなさいよね」

妹は今、自分がいつの間にか結城家の若奥様という立場になっていたことを知ったのだ。それなのにどうやって自分のその身分を利用して俊介を懲らしめるような時間がある?

「唯花じゃないってんなら、結城の野郎の仕業だ。絶対、唯花が結城を利用して俺に何か仕掛けてきやがったんだ。俺も莉奈も仕事がうまくいかなくなるようにな」

この時の俊介の瞳は、恨みで溢れていた。

彼も馬鹿ではない。唯月と離婚してすぐに仕事がうまくいかなくなり、毎日毎日社長からは怒鳴られている。今月のボーナスも全部消えてしまった。ただ基本給だけしかもらえず、彼はもうスカイ電機には長くはいられない。

今、会社の全員が、彼がいつになったら辞めるのか待っている状態だ。

もし、裏で誰かが小細工していなければ、彼は以前と同じように順風満帆に仕事を進めていて、こんな急激に舞台から降ろされるようなことはなかったはずだ。

もしかしたら、本当に唯花の仕業ではないのかもしれない。彼女は今になってはじめて結城理仁が結城家の御曹司だという事実を知ったのだからだ。

しかし、結城理仁が黙っているとは俊介は思えなかった。

理仁が俊介に復讐をするのは、唯月の憂さを晴らすためだろう。唯月はあの頃理仁の正体について少し予感していたのではないか?それとも、彼女はある程度事実を知った上で、彼女自身は彼に仕返しなどしないと約束したのではないか?

俊介も離婚する時に、何か裏があるのではないかと疑わなかった自分を恨んだ。

「もし、結城さんがあんたに何かしたんじゃないかと思うんだったら、直接彼に尋ねてみればいいでしょう?佐々木さん、あんた本気で自分がすごい人間だとか思ってる?結城さんは一体どのような身分の人よ?彼のような人が、あんたみたいなクズで最低な小物に構ってるような時間があるとでも思ってんの?

あんたに復讐しようと考える時間だけでももったいないわ。明らかに自分の仕事能力が足りないだけじゃないの。毎日成瀬さんと仲良いことを見せつけるのに忙しくしてるもんだから、仕事でミスが出たんでしょ。はははは、そ
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