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第9話

作者: 時慢
「好きじゃない」

修司は思考を切り替え、「愛してるんだ、和田。僕は彼女を愛してる」

「愛してる?」

鈴はその答えを聞くと、抑えきれずに笑い出した。顔を上げて彼を見た。「愛してるのに、どうして私と寝られたの?」

「女と男が同じだと思うな」

彼は口元に冷たい笑みを浮かべ、上から見下ろすように冷たい目で鈴を見た。ベッドの中とはまるで別人のように冷酷に言い放った。「和田、妻は妻、代理母は代理母だ。

僕は区別がつく」

その言葉に、鈴は信じられないという目で見開いた。「修司、私たち一緒に育った仲じゃない、どうしてそんな……」

修司は微動だにしなかった。「お前が言ったことじゃないか、忘れたのか?」

鈴は数秒間呆然とした。

やっと思い出した。確かに、自分が言ったことだった。

帰国したばかりの頃、修司に大事にされる静葉に嫉妬で狂いそうだった。

母と祖母が静葉に不満を持っているのを見抜き、自分が修司の子供を産む意思があると遠回しに伝えたのだ。

母と祖母はもちろん大喜びした。

だが修司は手強かった。

あの手この手で誘惑し、ついには「代理母として扱ってくれてもいい」と言ったことで、ようやく修司の心が動いたのだった。

だが、あれほどの情熱の後で、修司がこんなに冷静にこの言葉を口にするとは……

鈴は納得できなかった。「でも、あなたの体は明らかに私を欲してたじゃない」

修司は笑った。それはもう冷酷としか言いようのない笑みだった。「AV見ても反応するが、それが女優が好きって意味か?」

「……」

鈴は完全に固まった。

修司は枕元のツバメの巣スープを指さした。「飲め。冷めるぞ」

そう言うと、傍らのソファに座り、再びスマホを取り出して静葉にメッセージを送り始めた。

鈴はベッドの上から彼を見つめた。

ふと、笑みがこぼれた。

病院からは何度も電話がかかってきているが、静葉が何か大病と診断されたかどうかはわからない。

車の中で、彼が運転している隙に、彼の電話を転送設定にしていたのだ。

すべての着信は自分のところに回ってくるように。

桐原。

どうか病院で死んでしまえ!

静葉が目を覚ました時、これは夢なのだろうと思った。

ベッドの周りに集まった老若男女を、ただ茫然と見つめた。目を開けた途端、押し寄せてきた人々だった。

70代から3歳まで様々だ。

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