Mag-log in「ぬぅ……」 その夜のご飯はソウマ作。野宿の時ですらお店に負けない味を出せる腕前である。新鮮な食材の揃った家庭において、その味は正に高級レストランにも劣らないものだった。 長年の一人暮らしでそれなりに家事もこなせるたたらからしてみれば、こんな年下の野鼠な男に家事能力で負けるのは少々癪だった。「さっきも言った通りお前たちは少し他の奴らとは違うようだ。そこで、一つ試練をやろう」 この町の裏山。そこには大精霊の住む山がある。 聖なる山それは言葉通りの意味で、決してむやみに近づいてはならない聖域だ。 さらにこの山では『精霊石』という、精霊の力を通しやすい鉱石が採れる。この鉱石を使えば精霊魔法の威力は格段に跳ね上がるだろう。 この街に辿り着く方法は二つに限られている。 一つはこの町より北東にあるツクヨミの街を通過するか。 もう一つはツクヨミの街の背後にある『霊峰メイルストローム山脈』を越えてくるかだ。 しかし験峰として知られているあの山脈を軍隊を引き連れて越えることは不可能。「一体どうやって現れたのか。その原因も探ってほしい」 なるほど。ソウマのやることは。 エグゼの護衛。軍隊の壊滅。いきなり現れた軍隊の謎を解く。 この三つになるようだ。「軍隊の秘密を探るにはアーニャの力が必要かもな。戦闘はいつも通り俺に任せておけばいい。山登りは先のスミカの鉱山の比じゃないと思うが、一緒に行くか?」「もちろん!」 アーニャは1も2もなく答える。「それが成功したならば、お前らの要求を考えてやらないでもない」 引き受ける、とは言わないあたりがたたららしいのか。 エグゼは苦笑しながら肩をすくめた。「山の頂上付近に、スミカにあったような『精霊の寝所』があるんだけど、そこには結界が張られていて認められた人間しか入れないんだ」 エグゼの顔に陰が落ちる。「魔法力のなくなった僕も、もしかしたらその結界の中に入れないかもしれない。そうなったらそこで僕が大精霊と契約することは叶わなくなる」 それでもその顔には決意が浮かんでいた。 たとえ大精霊の力を使えなくても、エグゼは前王の仇を取るために王政グランベルトに立ち向かうことだろう。 たとえそれが叶わずに死ぬことになったとしても。「どちらにしろ全ては山に登ってみなければわからん。貴様らは今日は早く休むといい」
スミカの村を出てから5日。エグゼの鍛錬をしながら時間をかけてようやくシスカの町に辿り着いた。「やっと着いた……」 連日の修行につかれたエグゼはようやく重い荷物を下ろすことが出来た。修行で鍛えた筋肉は、十分な休養を取ることで強靭になっていく。「まだまだ! そんなに辛くないはずだぞ」「荷物持ってもらってごめんね、エグゼ」 対して元気なのはソウマとアーニャ。自分たちの荷物を鍛錬と称してエグゼに預けてゆっくりと歩いてきていた。毎日こんなやり取りを続けている気がする。「この町に腕のいい武具職人がいるのか?」 鍛冶で栄えた町をぐるりと見渡す。 どの家の煙突からも煙が上がり、鉄を叩く音や刃物を研ぐ音が聞こえてくる。 アーニャは汗を拭うと、そのタオルが真っ黒になっているのを見て悲鳴を上げた。「なにこれっ!?」 炭を燃やたその煙には粉塵が含まれていて、町中にいるだけで皮膚や服を汚していく。それはこの町いる限り仕方のないことだった。「今日はお湯に浸かれると思うから」 苦笑いして、エグゼが先頭に立って進む。この鍛冶の町においても「腕利き」と称される職人の鍛冶場は町の中でも奥の方。良質の鉱石が採れるという山の麓に建てられていた。「これでいい装備を手に入れることが出来る訳だ」 ソウマはウキウキとエグゼの後をついていく。「痛てっ!」 がらん、と音を立てて地面に落ちたのはトンカチだった。「誰が偏屈だ? 私の顔をみてもう一度行ってみろ」 建物の前に立っているのは一人の少女。 大きな一つ目に、一本しかない足。その細腕に似つかわしくない巨大なハンマーを手に持ち、エグゼを睨んでいた。「んで、この人が腕利きの職人さんかい?」「可愛い!」「なんだお前らは」 三者三様。お互いのこともわからない他人同士が自己紹介を始めた。「何が可愛いだ。これでも300年生きている一本多々良だ」 一本多々良。彼女の容姿がまさにそれで、一つ目に一本足の魔物だ。「この子が火ノ元たたら。素晴らしい鍛冶師だ」 素晴らしい、を強調してソウマたちに紹介する。「俺とこっちのアラクネのアーニャは『メリクリウス』の代表としてここまで来たんだ」 いつも通りの気さくな態度。 しかし、たたらの態度は柔らかくなる所かさらに厳しくなる。「ほう。有名な反乱軍のリーダーが私のところになんの用だ?
第12話 決着 ミハエルの気配が消える。遠隔操作を解いたのだろう。だが、目の前の脅威が過ぎ去ったわけではない。「さて、これは本気でかからないとな」 未曽有の大災害へと向かいたいところだが、目の前のノームがそれを許してはくれないだろう。「ソウマ!!」 一度は避難したエグゼとアーニャの姿があった。傷口は塞がってはいるようだがそれはあくまでも表面上に過ぎないようだ。無理をすればまた傷が開くような最低限の治療。「ノームは僕とアーニャに任せろ。もしソウマにあの山崩れを何とかすることができるなら、そっちを頼む」 逡巡したソウマ。エグゼの力量では本気を出したノーム相手に一秒も持たずに殺されることだろう。 そんな相手をエグゼと、戦闘力皆無のアーニャの二人に任せる。それこそ自殺行為だ。 なんの策もなくただ玉砕するほど愚かなエグゼではないとわかっている。なにかノームを抑える手立てがあるのだろう。「わかった」 ソウマは二人を信じて山崩れを止めに行く。「させない……」 それを阻止しようとするノームだが、それを遮りエグゼが叫ぶ。「ソウマ、アーニャ目を閉じろ!!」 エグゼが放った一つの魔水晶。その中に込められた魔法は。──閃光。 かろうじて目を閉じるのが間に合った三人は即座に次の行動に移れたが、目をかばえなかったノームはもろにその閃光を食らい、体をよじった。「アーニャ、頼む!」「うんっ!」 アーニャとともにノームの懐に飛び込む。いくら閃光を食らったと言ってもノームの隙を作れるのはほんの一瞬。 その一瞬にアーニャはノームの歪んだ魂を見る。 変わらずに醜く融合した魂だが、確かにノームと造魔の結合部分が見えた。この場所に寸分たたがわずに剣を入れることが出来れば。 失敗は許されない。造魔の魂をノームの魂に残さないように。ノームの魂を傷つけないように。『大いなる精霊王の剣』が淡く光り始める。 ノームという精霊の魂とパスを繋ぎ、違和感の正体を探る。アーニャの言葉通りに剣を進めると、そこに違和感の正体が現れた。 造魔の魂は激しく抵抗するが、今のエグゼにもアーニャにも反撃する余裕はない。大けがを負ったエグゼはさらに傷付きながら剣を振り下ろした。「やったよ、エグゼっ!!」 切り離した造魔の魂に最後の剣を振るう。(ありがとう……) 造魔の魂と同時に『大
坑道内から急ぎ脱出し、ソウマは臨戦態勢を。エグゼはアーニャを守る態勢をとっていた。「ころ……す。殺す?」 ノームが頭を抱えて倒れこむ。「エグゼ……! 僕を殺して……!!僕がこの大地を破滅させる前に!!」「ノーム?」 先ほどまでは強力な敵意を剥き出しにしていたノームは一転して自分を殺せと懇願してきた。「どういうことだ?」 なお止まないノームの攻撃をいなしながらソウマは混乱していた。ただ、エグゼに言われた「ノームを殺すな」という命令を守っているだけだ。「ノームの……、魂に気持ち悪い魔物の魂が、融合してるの……」 アーニャが振り絞るように言葉を発する。「魂に魂が融合?」 それなら、二重人格のようにノームの意識が入れ替わっていることも納得がいく。完全に融合しきれてはおらず、二人の意識が代わる代わる出てきているのだろう。「そんなんどうすればいいんだよっ!」 事ここにおいて、このレベルの戦闘になるとエグゼではなんの役にも立たなかった。 ソウマは二人をかばいながら、ノームの連撃を躱し続けている。『なかなか粘りますね、ソウマ君』「っ!!?」 ノームが今までにない声色で話し始めた。「その声は……っ!!」 聞き間違うはずもない。王を、国を乗っ取った裏切り者。そして今は新たな国を作り恐怖政治を持って民衆を支配する暴君。「ミハエルっ!!」 エグゼの怒号。それはソウマとアーニャが初めて聞く怒りの声だった。『まだ生きていてくれたのですね、エグゼ君。楽しみがまだ続くようで嬉しいですよ。そして、初めましておチビさん』 今度はアーニャの方を向き直り飄々と挨拶をする。『魔眼持ちだとは聞いていましたが、まさかこのノームの魂まで見通せるとは……。確かに、貴女なら黒のカーテンの秘密を解き明かせるかもしれませんね』 それでもミハエルは余裕を崩さない。『さて、そろそろお相手しましょうか』 言い終わると、ノームはスルリとソウマに近づく。その足運びは熟練した武闘家のそれだった。「っ!」 先ほどまでは力任せに魔法を使い、大地を操り攻撃を繰り返すだけだった。それが、今は人が変わったように流れる攻撃を仕掛けてきた。「ソウマ、気をつけろ! ノームの魂に寄生してるのは『造魔』だ! 造魔はミハエルが遠隔で操ることもできるんだ!」 そしてミハエルは格闘技だけはな
最奥に向かう三人の行く先が緑色の光が見えた。壁前面に生えた光苔が暗い坑道を、松明がなくても洞窟内を見渡せる程明るくしていた。「なんか、神秘的……」 アーニャが呟くのも無理はない。こここそが、この山。この土地を守る精霊『ノーム』がいる場所なのだ。 先は行き止まりになっているがかなりの広さがあった。その中央には。「ノームっ!!」 エグゼが語り掛けるとノームがこちらを向く。しかしその様子はおかしい。目の焦点はあっておらずこちらを認識していないかのようだが、こちらを向いていた。「っ」 ノームがこちらを見た途端、アーニャが壁際によると、胃の内容物を吐瀉する。「なに? あれ……」 更なる吐き気を我慢しつつアーニャが立ち上がる。異様なのはエグゼやソウマにも理解できたが、彼女は一体なにを見たのか。「たす……、けて……」 涙を流しながらノームは助けを求めた。意外、といっていい反応だった。問答無用で攻撃を仕掛けてきてもおかしくない雰囲気だったが。「うぐっ!」 エグゼはこれ以上アーニャがノームがを見つめないように、ノームの視線からアーニャを守るように立ちふさがる。「ノーム、どうしたんだい?」 精霊使いであったソウマの声は届くのか。ノームはエグゼを見る。「エ、ぐぜ……?」 彼らの頂点に立つ『大精霊』と契約していたエグゼを知らない精霊はいない「おね、が、い。ぼくが、ぼくでい、られ……る、うち、に……」「どういうことだ、エグゼ。敵はどこだ? ノームは一体……?」 唯一事情がよくわかっていないソウマ。それも無理なことだった。魔眼使いと精霊使い。この二人だからこそ気づいた異変。「魂が……、二つ融合してる」 吐き気を抑えてアーニャが言葉発する。その言葉を受けてノームの表情が一転する。「殺す。ここに立ち入る者は、すべて殺す」 今までの悲しみが一変。憤怒の表情を浮かべると、三人に向かって手を掲げる。「?!」 最も早く動いたのはソウマだった。坑道内の通路や壁が敵を穿つ巨大な槍のように隆起し、三人に襲い掛かる。 ソウマは拳を振るい、その巨岩を薙ぎ払う。エグゼはアーニャを庇いながら撤退をした。「くそ、何だってんだ!」 先ほどの雰囲気からはとても攻撃を仕掛けてくる感じではなかった。それがいきなり敵意を剥き出しにして襲い掛かってきたのだ。ソウマがいち
「十中八九、この坑道の先には『精霊の寝所』がある」 三人は松明を手に取り、薄暗い坑道の中を歩いていた。手元にはビーンから聞いた内部の構造をできるだけ地図に興した羊皮紙がある。しかしビーンたちが知らぬうちにモンスターたちが新しく道を作ったり、自分たちの寝床を作っている可能性もあるため、今一度すべての道をたどりマッピングをしていく必要があった。 案の定、ゴブリンやオークなどのある程度の知能を持ったモンスターが住み着き住処を奪い合いながら、坑道に新しい道や部屋を作ってた。 隊列は今までと同じく。ソウマ、アーニャ、エグゼのままだったが魔物との戦闘や狭い道を引き返す時には前後が逆になり、出くわした魔物の強さによってはエグゼが足手まといになることもあった。 しかし、それなりにレベルアップもしてきたエグゼは十分に戦力になりつつあった。「ふぅ……」 何回目かもわからないモンスターの襲撃を退けてエグゼが大きくため息を吐く。「なかなか様になってきたじゃないか」 初めのうちこそ剣に振り回されたり、坑道内の狭さに苦戦していたものの、今は一端にその狭さを利用したり、足元の石や砂利を利用するといった応用も利くようになっていた。 エグゼと出会ったばかりのダメダメな姿を見ていたアーニャもその成長振りに驚いていた。「あんなに毎晩ヒーヒー言ってたのが噓みたいね」 クスクスと少し前までのエグゼを思い出して笑っている。「そんなに笑うことないだろう。こうして結果が出てるんだから」 肩をすくめてエグゼもおどけてみせる。少し前までのエグゼからは考えられないような、肩の力の抜けたやり取りだった。「さて、と」 気を取り直して、ソウマが道の先を見据える。 最後に残った坑道の行き止まり。そこは今までとは異なる雰囲気に包まれていた。 エグゼの言葉が正しいとしたらこの先に『精霊の寝所』があり、この山の守り神たるノームがいるはずだ。 坑道の入口を守っていたのもこのノームの使役する使い魔としてポピュラーなものだ。「ノームがいるのに魔物が蔓延って、炭鉱夫たちが引かなきゃならない理由がこの先にあるのか」 ソウマやアーニャには皆目見当もつかなかったが、ただ一人エグゼにはこの事件の全貌がうっすらと見えていた。──幕間── 玉座に座り、水晶玉を見つめる醜い中年男。 その先にはエグゼたち一行







