Chapter: 提灯お化け──チョウチンオバケ── ひどく懐かしいものを見てしまった。 それは今や忘れ去られた提灯お化け。「けけけっ」 と鳴くと、付いて来いと飛んでいく。 祖父の言葉を思い出す。 お化け幽霊、妖怪なんぞは人間が信じちまうから生まれるんだ。 そして、使うものは年代を重ねるごとに変わっていって、古いもんは滅びゆくのよ。 もう使わねぇもの、あんだろ? ああいうのは境を隔てた向こう側に行くのさ。 境の向こう側、と祖父は行った。 時代遅れになり、人からも忘れ去られた妖怪。 それは妖怪たちにとっての天国や地獄のようなものなのか。 赤提灯お化けはフラフラと一軒の酒場に入っていき、そこで姿を消した。「いらっしゃい」 老夫婦が二人で切り盛りするような小さな酒場。 外には赤提灯が、下げられている。 少しはあのお化けも集客になっているのかもしれない。 それは、付喪神のように年月を経てこの老夫婦に、恩返しがしたかったのか……。 たまには美談も悪くない。 そう思ってから数日後。 その酒場は無くなっていた。 なんでも火の不始末で火事になったそうだ。 死者は二人。 あの老夫婦だ。「けけけっ」 またあの声を聞いた。 あれは老夫婦を守るものだったのか、それとも仇なすものだったのか。 最後までわかることはなかった。
Last Updated: 2026-09-16
Chapter: 座敷童──ザシキワラシ── 僕がまだ小さな頃の記憶。 それは横断歩道に突っ込んでくる車の姿だった。 気がついたら、見知らぬ病院の個室で沢山の管に繋がれた状態。 僕は交通事故に遭って生死をさまよっていたのだ。 なぜか僕の横には見知らぬ着物を着た女の子がちょこん、と座っていた。 他の親族には見えていないようだ。 祖父曰く。 座敷の童は子供の妖怪だ。 不幸に生まれた優しい子が死んじまって、霊魂だけになったあと、人々を幸せにしてくれるという。 基本的には無邪気だが、気まぐれも多いのさ。 奴らはなにを考えてるか、わからねぇぞ。 見舞いに来た婆ちゃんがそれは座敷童だ、幸せを運ぶ妖怪だ。だから助かったんじゃないかい?と言ってくれた。 ぼくはおばあちゃんの話を聞いて、そのザシキワラシが、助けてくれたのだと信じきっていた。 だから、この少女にはとても好感を持っていた。 時には子供ながらにお見舞いでもらったお菓子をお供えしたりもした。 容体も悪化したり振り戻したり、リハビリを懸命にしていた時も、少女はそばにいてくれた。なんとか回復したあと、退院の日に僕は初めて声をかけて見た。 一言お礼が言いたかったのだ。 それに答えて、その子が耳打ちでかえしてくれた。「なんで私と一緒に死んでくれかなったの?」
Last Updated: 2026-09-11
Chapter: 呪いの人形──ノロイノニンギョウ 奥さんと子供を事故で亡くした親戚のおじさんがいる。 おじさんはその事故があっていらい、酒に浸って、廃人のような生活を送っていた。 そして、なぜか部屋の中に、おじさんには似つかわしくない可愛いらしい人形が置いてあった。 おじさんのなくなった娘さんが持っていたものだ。 なんでも、娘さんはとてもこの人形を大事にしていて、事故当時も持っていたらしい。 酷い事故にも関わらず、人形は無傷だった。 そして、おじさんは娘が大好きだったこの人形を、棺桶に入れて焼いた、というのだ。 祖父曰く。 人の形をしたもんは、魂が入りやすい。 たとえ売ろうが焼こうが、自分の住みやすい所に行くのさ。 自分の意志で、な。 祖父のいう通り、焼いたはずの人形は次の日には家に戻って来ていた。 何度捨てても、どこで供養しても、もどってくるのだ。 ある日、おじさんの家に行くと人形はなかった。 人形はどうしたのか? と尋ねると、おじはこう答えた。「質屋にいれたよ。また帰ってくるんだ。こんないい質草はない」 そう。おじさんは何度ももどって来る人形を、質に入れてお金にして酒に溺れていたのだ。 その後、本当の怪異に合うとも知らずに。 いや、おじさんにとってはある意味幸せだったのかもしれない。
Last Updated: 2026-09-07
Chapter: 河童の木乃伊──カッパノミイラ── 実家に帰った際に、倉庫の奥底の地下から出てきた珍品を見ることとなった。 しかし、その中でも地下室から運び出せないほどのものがあっ た。 少なくとも祖父すらもその存在を知らなかった地下室。 そこにあったのは、河童のミイラ。 テレビの特番とかでも見かけたこともあるし、それが、偽物だとも判別したはずだ。 これもその類だろう。でも。 『見える性質』の僕には見えてしまった。 これは、たしかに河童じゃない。 そんな生易しいものじゃない。 これは、特別強力な呪物だ。 祖父曰く。 即身仏。それは「死んだ人間がミイラになり、自らが御本尊になること」 つまり、このミイラは僧が命をかけてその身を仏にしたものだ。 ありがてぇじゃないか。 だがな。 そうじゃねえのは恐ろしいぞ。 これは「その身をミイラにする事により、相手を呪い殺す呪物となる事」が目的だ。 個人どころか、集落一つ呪い潰してもまだあまりある呪いを放つ禍つ神。 それは、うちの倉庫で丁重に祀られていたのだ。 捨てることも出来ず、社を取り壊すことも出来ず、呪いが雲散霧消するまで奉り続けなければいけない神。 そうしなければ、この世にどんな災いをもたらすか、わかったものではない。 いつになったらその怨嗟は消えるのだろうか。
Last Updated: 2026-09-01
Chapter: ア行さん──アギョウサン── 昼休み。 オカ研の一人から話しかけられた。「ア行さん、って知ってる?」「ア行さん?聞いたことないな…」 いくら僕だって、全ての妖怪を知ってるわけでもない。 そしてこういうタイプの男は、こちらが知らないも図に乗るタイプだ。 案の定、誇らしげに話す。「ア行さんはね、暗い夜道を歩いていると、いきなり背中に飛び乗り、『アギョウサン、サギョウゴ、如何に?』と聞いてくるんだ」 そして、それに答えられない奴は殺されるんだよ」 そう言って、ぼくの肩を叩いて、立ち去ろうとする。 その間際。「3日以内に来るはずだから、気をつけてね」 と言って、今度こそ去っていった。(なんだ、その話か……) ア行さん、アイウエオの三つ目つまり『う』 サ行ゴ、さしすせその『そ』 つまり『うそ』だ。 しかしムカついたし、せっかくだからあいつに仕返ししてやるか。 そして後日、俺はそいつに声をかける。「まだ生きてたみたいだね。答えられたんだね」「おかげさまでね」 あ、ただ。と僕はそいつを呼び寄せた。「アレは、そんな簡単な妖怪じゃないぞ」 目一杯ドスを効かす。「あれは、ア行さんじゃない。『悪行斬』だよ」「え?悪行斬……?」「昔、悪行を犯した者は体に刺青を入れられたんだ。社会に出ても、こいつは犯罪を犯した奴だ、とわかるように」 俺はそいつの目をじっと見る。「悪行斬。それでもまた悪行を重ねた者は、最後には斬られるんだ」 祖父曰く── 言葉は時代とともに変化して、尾びれ背びれが付き、全く話の内容が変化するんだ。 その怪異を根本まで遡ると……。 案外危険なのさ。 そう、遡ったのだ、ア行さんを。 ア行さん、サ行ご如何に。答えはうそ。 嘘という悪行を重ねる妖怪になってしまったのだ。 そして、重ねられた嘘という悪行により、悪を斬る妖怪になり、その力を増していく。「随分たくさんの人に嘘をばらまいたみたいだな。気をつけろ、3日以内に来るぞ」「そ、そんな助かる方法は…っ!?」「そいつは悪行を斬るんだ。なら、善行を重ねるしかないのさ」 それからこの男はボランティアに参加したりするようになったらしい。いいことだ。 悪行斬。 あんなの、口から出まかせの『うそ』だったのにな
Last Updated: 2026-08-29
Chapter: 雪女──ユキオンナ──第18話 雪女──ユキオンナ──山で遭難した男は、雪女と約束をする。「私の事を誰にも言わなければ、命は助ける」その後男は、雪女のことを誰にも話さずに暮らしていた。数年後。妻帯者になった男は、もう大丈夫だろう、と妻に雪女のことを話してしまうのだ。すると妻は妖怪に変幻する。その姿はまさに雪女。そして、約束を破った男は氷漬けにされ、雪山へと連れ去られたという。祖父曰く。神や悪魔や悪霊なんてのは『約束事』が好きな連中だ。それは口約束でも、違反したら逃れられないのさ。奴らと話す時は気をつけろ。魂持っていかれるぞ。もう4月も半ばだと言うのに、ひどく寒い夜があった。ちらりと外を見ると、女が一人で雨の中立ち尽くしている。濡れ女子か?いや、違う。あれは……。僕は慌ててカーテンを閉めた。目は、合っていない。心臓が早鐘を打つように鳴り響く。そして、何の気なしに後ろを振り返る。「見たね…」先ほどの女が後ろに立っていた。「……っ!?」「死ぬか、わたしの事を未来永劫誰にも話さないか、決めなさい」それは言霊。しかし。しかし、僕も言霊は得意な方だ。「み、未来永劫話さない!そ、そのかわり……」僕は頭を回転させる。この場合、おそらく生き続けても、死ぬ間際に僕の魂を奪いに来るだろう。「僕が天寿を全うしたら、天国に行きたいんだ!でなければ…」僕はスマホを見せる。「世界中にあんたのことを、話してやる!」「……?」どうもスマホがよくわからないらしく、一から懇切丁寧教えてあげる。「人間も変わったのね……。あなたの条件飲みましょう。それと」「ま、まだ何か?」「あなた、なかなか物の怪に好かれやすいみたいだから、これを持ってなさい。天寿を全うするまで、あなたの魂はわたしのものよ」それは、氷でできた、タリスマンのネックレス。これはなんなのか聞こうとした時には、雪女はすでに消えていた。しかしこれだけはわかる。僕の口車に惑わされた雪女は、僕が約束を破るか、死ぬまでは僕の味方だ、と。
Last Updated: 2026-08-26
Chapter: 真実を写す瞳 町人たちは信じられないものを見るような目で、戦況を見守っていた。 ただ一人の人間が、万の軍隊に打ち勝つ。 さらには人間でもない、魔物でもない、それらをはるかに凌駕した、人造生命体『造魔』すら手玉に取っている。「これなら、勝てるかもしれない」 たとえ、このシスカの町の人々が手助けにいかなくても、あの男ならひとりで10万からなる最凶の軍団を全滅させることができるかもしれない。「パパ、あれは神様なの?」 幼子が錯覚するのも無理はない。 軍神。鬼神。 正にその名がふさわしい戦いぶりだった。 一撃で数十人を行動不能にし、その技が決まれば数百人を打ち倒している。 そして、大地の精霊に近しい魂を持ったドワーフだから分かること。 大地の倒れた人間の兵は誰一人として、死んではいなかった。 それはあの男が極限まで『手を抜いて』いたからである。 ……。 人間の兵はすでに全滅。 残るは異形のモンスターたちだ。 さすがにモンスター相手ではだめだろう。 しかし、あの男なら……。 入り混じる期待と不安。 町人たちは、今や希望すら抱いている。 異形の魔物が進軍を開始する。 万の絶望。 しかし、それすらも寄せ付けないあの男。 ただの力任せではない。 そこには見たこともないくらいの技があった。 この大陸のどこに、これほどの芸当ができる者いるだろうか。 いや、この大陸にこれほどの戦力はない。 もし。 町人は思い浮かべる。 もし、最強と謳われた魔法騎士が復活すれば、あのソウマと肩を並べることができるかもしれない。 そうなれば、グランベルトに太刀打ちできるのではないか。 圧制に苦しめられている町人たちは、久しぶりに希望を見出したのだ。 この10万対1の絶望的な勝負の行方は誰にも予想できるものではなかった。 (あれは、なに?!) 戦場となった平原から少し離れた森の中に、アーニャ、たたら、ティアラの三人が潜んでいた。 もちろん、ソウマの戦いを見守るためだ。 最初は絶望を感じていた三人だが、ソウマの予想以上の強さに、たたらもティアラも、今は少し表情が和らいでいる。 そんな中で、アーニャだけが、一人恐怖を覚えていた。 それは、あのサイクロプスの魂のあり方が、生き物として常軌を逸していたからだ。 アーニャの能力は、『物事の本
Last Updated: 2026-09-15
Chapter: サイクロプス・ヴィヴィアン「上等っ!」『陣形を開きなさい。左右から包み込み、全方位から仕掛ければ、一人では手が回らなくなります。数の利を活かしなさい』 矢継ぎ早に指示が出されていく。 大軍は淀みなく動き、左右へと広がろうとしている。「させるかよ。行くぞ『深淵流•鶴翼双爪』!!」 全身のバネを使い、大地から集約した力を両腕から放つ。その技はスミカの村で山崩れを止めて見せたあの技だった。 今まで腕を振るっただけで繰り出された衝撃波とは、比べることのできない程の威力を伴った烈風が、左右に広がろうとしていた造魔たちを襲う。 その破壊力は、竜巻にも劣らない。大地を抉り、屈強な造魔をまとめて数十。いや、数百匹を切り裂き、無に帰す。 これが魔法を使わずに、一人の人間が使える体術なのか。 さらに広がろうと軍を動かしていたミハエルが、一瞬躊躇する。 軍を左右に分かれさせるために、ソウマの邪魔が入らないよう、手練の造魔を数匹足止めに送り込んでいたのだ。 しかし、刹那の時間稼ぎ。それすら果たせなかった。『……。作戦を変更します。造魔、全総力を持ってソウマ君へ向かいなさい。他の者は、放っておいて』 ソウマの底のしれない強さに、ミハエルは瞬時に作戦を切り替える。 持久戦。 とにかく、ソウマに休む間を与えず攻め続け、隙をこじ開ける。 単純明快だが、戦力を分散させ無駄に犠牲をだすくらいなら、この男にはそれがいい。「素早い判断だ。だが、それは悪手だ」 空からは翼を持った造魔が。 前後左右からは、スピード、パワーに長けた造魔が。 地下にトンネルを掘れるものは下から。 まさに、全方位から襲いかかる異形の者たち。 しかし、ソウマは動ずる事なく、流れ作業のように敵を屠って行く。 真上の敵を蹴り上げた脚で貫く。 そのまま振り下ろし、その風圧だけで、前方にいた人狼数匹を切り裂き、さらに止まる事なく脚を大地に叩きつけ、地下に潜っている敵を蹴り潰す。 その蹴りの衝撃で地面が大きくえぐれ、クレーターができた。 急に足場を失い体制を崩す造魔数百匹。対してソウマは、中空へと飛び上がり、下方へ向かって蹴りを放つ。「『深淵流・空牙くうが』!」 たった今できたばかりのクレーターに嵌まった造魔たちが、ソウマの放つ技の前に、ことごとく消されていく。 その間も、ミハエルはなんとか後ろの人間兵を人
Last Updated: 2026-09-09
Chapter: ソウマVSミハエル 機動力の高い騎馬隊が、ソウマを取り囲む 馬の機動力と、頭上からのランスの攻撃。 しかし、この程度の敵は戦い慣れている。 ソウマは地面を蹴り、円を描くように蹴りを放つ。 ソウマを中心に、半径10メートル以内のものが、全て弾き飛ばされたソウマに近寄ろうとするが全てが吹き飛ばさた。 騎馬隊が全滅するまで、その暴風は止まることを知らなかった。 馬の機動力、さらにはランスで中距離、頭上から迫る攻撃。 もともと人間の持つ格闘技は、真下や上からの攻撃を苦手とするものだ。 しかし、そんなアドバンテージを物ともせず、この男はあの勇猛果敢で名を馳せる、王政グランベルトの騎馬隊を一網打尽にしてみせたのだ。 唖然とする指揮官。 他の兵士たちも言葉が出ないでいた。 その隙に。 だが、その隙など瞬きする程でしかない。 しかし、その間にソウマは指揮官の前に立っていた。「やれやれ、前の指揮官よりマシかと思ったけど、そうでもなかったかな?」「なっ?!」 指揮官が気がついた時にはもう遅く、矢より鋭く、鉄槌よりも強力な一撃が腹部に突き刺ささり、気を失う。 しかし、そこはグランベルトに仕える忠実な兵士たちである。 たとえ指揮官を失ったとしても、その志気をは下がることなく、副指揮官を中心に編隊を組みなおし、ソウマを殺すべく襲い掛かる。 スリーマンセルで攻撃を仕掛ける兵士たち。 そこに大きな隙など見られない。 そして気を配らなくてはならないのは、前面だけではない。 人間の兵士たちだけでも5万はいるのだ。 すべての方向から攻撃が来る。 しかし。「遅いっ!」 何気なく振るわれた刺突が5人の兵士を行動不能にした。 さらにソウマは止まることなく突きを、蹴りを、繰り出している。 そのたびに屈強な兵士たち数人が戦闘不能に陥っていた。 兵士たちも、渾身の斬撃を放っていはいる。 剣を使い、弓を使い、斧を使う。 さらには、その動きを封じるために、ピアノ線より細く、鋼より強い特殊な糸の両端に重りをつけたボーラまで準備して、用いている。 これは御前試合ではない。 殺し合いで戦争なのだ。 兵士たちもただ綺麗に戦っているだけではない。 剣を使いつつ、蹴りを放ち、さらには目潰しを使うものまでいる。 しかし。 その全ては交わされ、いなされ、あしらわれかすりもしな
Last Updated: 2026-09-04
Chapter: 大砲「砲台大隊、準備!」今まで布で覆われていた巨大な台車。その中身はなんと大砲であった。先の駐屯地での戦いでは、この男に弓矢が効かないとの報告がなされている。ならば、さらに強力な兵器を用いればいい。ミハエルは、人間の兵には命令は出していないようである。この戦いの指揮官は、それをミハエルはからの信頼だと受け取った。そして、万が一にも負けないために、砲台大隊まで連れてきたのだ。砲台は5基。もっと多数の兵が待ち構えていると思ったが、相手は一人である。この分なら1基でも十分だった、(ミハエル様はなにをお考えなのだ。たった一人の人間相手に、ここまでの規模での遠征をしなくとも……)司令官はそう思った。「まぁ、いい。さっさと片付けてかえるぞ! 砲台大隊、発射準備!」「砲台5基、発射準備、よし!」「……。打てっ!!」 鼓膜をぶち破らんばかりの轟音と共に、5基の砲台から、鉄塊が飛び出す。 それは砲台大隊の腕を如実に表し、吸い込まれるようにソウマに目掛けて飛んでいく。「多少はマシなもん持ってんじゃないの」 せまる大砲に、ソウマ片足を上げ一撃目目掛けて蹴りおろす。 そして地面を抉り、砂煙を撒き散らしながら鉄の塊は着弾する。「終わりましたぞ、みんな!勝鬨をあげろ!」 しかし、誰も声を発さない。 砂煙が晴れたその先に、ひとりのは男が無傷で立っていたからだ。「……はぁ?」 これはさしもの司令官も予想外だった。 この砲台を使えば、堅牢な城すら破壊できるのだ。 はっきり言って、対人兵器ではない。 それを5発、一人の人間に打ち込んだのだ。 跡形もなく吹き飛んでしまうのがオチだ。 しかし。「俺を倒したいなら、この10倍の大きさか、10倍の数を連れて来るべきだったな」ソウマを中心に、砕かれた砲弾がただの鉄の塊として転がっていた。「ば、バカな!?砲台大隊、次弾装填準備!」しかし、その隙を逃すソウマではない。風の如く駆け抜け、その拳で砲台を破壊していく。なんという攻撃力か!この砲台自体も強固な作りになっていて、人間が素手で破壊できる代物ではない。もし破壊したいなら、同じ大砲でも持ってこないと無理である。それを、この男は一撃で全ての砲台を壊して見せた?あまりの速さと攻撃力に誰一人として動けないでいた。「さぁ、小細工は無しにしようぜ
Last Updated: 2026-08-30
Chapter: 大精霊と契約へ 森を走る。ただひたすらに。 背には、出来上がったばかりの剣がある。 あらたな『大いなる精霊王の剣』を携え、エグゼは先日行った、『精霊の寝所』に急いでいた。 この先にいる、『日の精霊サニー』と再び契約をかわさなければならないのだ。 その時は2日近くかかった道のりを、今は数時間で踏破しなければならない。そうしなければ、戦が終わってしまう。「エグゼ、こっちを通ろう! 私たち妖精が使う、秘密の抜け道だよ!」 ティアラがエグゼを誘う。その先にいる7大精霊の元へ。「ここから先、私は行けないから、エグゼだけで行って。私は、先に町にもどってふたりの無事をいのってるよ」 ティアラは、下唇を噛み締め悔しそうに言うと、エグゼに背を向ける。 何もできない。何のチカラにもなれない。無力が、恨めしい。「ティアラ、ありがとう!」 そんなティアラのこころの内を見透かしたように、エグゼが微笑む。 ティアラは無力なんかじゃない。 その存在自体が、今戦っている戦士たちのチカラになるのだ、といわんばかりの笑みだった。 たったそれだけのことで、ティアラの心が軽くなる。「負けないで、エグゼ!」 小さな、でも大きな応援を背に、エグゼは『精霊の寝所』へ急ぐのだった。「待ってたよ〜、エグゼ」 森の中の開けた原っぱに、先日と同じようにサニーは佇んでいた。 しかし、その表情は、この間と違い決意に満ちていた。『日を司る大精霊』であるサニーにとって、戦さは得意なものでは、決してない。 爽やかな朝の、希望に満ちた活力を与え、1日を健やかに過ごすための加護を授ける。 生きとし生けるもの、全てに平等に降り注ぐ、まさに陽の光のように穏やかで優しい精霊なのだ。本来は。 しかし、一度その力を戦に使えば、この世の全ての水分を枯渇させ、砂漠に変えることも、強力な日差しのごとく、生物に致命的なダメージを与えることも可能なのだ。 恐らくサニーは、エグゼが再びこの地に訪れるまでに、様々な葛藤をしながらも決意したのだろう。 その力を、戦争のために使うことを。「覚悟はいい〜? 今までの契約とは、訳が違うよ? 今まではエグゼの魔法力で私を自由に呼び出して、エグゼの魔法力を使って、この世界で実体を得ていたの。 でも、今はそれができないのぉ。私たちレベルの大精霊が『聖地』でもない場所で、実体を保
Last Updated: 2026-08-28
Chapter: ソウマ、出陣 兵の行軍は順調。 予想通りのタイミングでシスカの町から程よく離れた草原に、ミハエルの軍勢は現れた。 歩兵、騎馬兵の人間の兵士たち。その後ろから、見たことの無い異形の魔物-おそらく造魔だろう-が控えていた。 そして、その一番奥。 これだけ離れていても、その存在感は圧倒的だった。 10mはあろうか。 頭に巨大な角を生やし、全てを噛み砕かんとするかの如く上下に生えた強大な牙。 一つしか無い目は大きく、視野角も広く取れることであろう。 山のように盛り上がった筋肉は、鋼でできているかのように強靭でその手に握られた武器は、武器と呼ぶのもおこがましい。 その大きさ、重さだけで、一つの町を破壊できるのではないかという、金属の塊だった。 サイクロプス。 一つ目の巨人は広く陣形をとる軍隊の最奥あってなお、一人立つソウマに、あり得ないほどの殺気を送り続けていた。『やっと着きましたよ、ソウマ君。ツクヨミの街を通してくださって、ありがとうございます。……おや、エグゼ君の姿が見えませんが、せっかくの剣が、完成しなかったのですか?』 そのサイクロプスから発せられる声は、先日聞いたミハエルと同じものだった。 ただの怪力だけではない。 天才と賞された、ミハエルの戦術をそのまま大軍に伝えることのできる、知将でもあるのだ。 なんという恐ろしい敵なのだろうか。しかし。「なに、この程度の兵力なら、俺一人で十分だから、エグゼには休んでもらってるだけさ」 不敵に笑うソウマ。 実際。 剣自体は出来上がっている。 あともう少し。 この地にいる、日の大精霊サニーとの契約をしなければならない。 果たして、この戦いが終わるまでに、間に合うのか?『さて、この大群を前にお手並み拝見と行きましょうか、ソウマ君』 10万にも届く大軍を前に、ソウマはただ一人、その孤独な戦いを開始した。
Last Updated: 2026-08-27