All Chapters of 人外娘さんと真面目にファンタジーしちゃう本: Chapter 1 - Chapter 10

31 Chapters

プロローグ

アカウントメッセージホームメニュー「いい気味ですね、騎士団長殿」 不気味に輝く空の下。倒れ行く仲間を目の前にして、剣を杖代わりにしてかろうじて立っている一人の騎士。 致命傷は免れたものの、その傷は深く意識を保っているのもやっとだ。「人類の守護神と謳われた貴方様も、魔法が使えなければただの人ですな」 自分の手は汚さず、本来なら王が座るべき玉座に腰をかける謀反の首謀者。 この国の大臣だった男は今はただの裏切り者だ。「王と王妃は……。姫はどうした!?」 血と共に失われていく力を繋ぎ止めるように、大声を出す。 彼らが守るべき、この命よりも尊い王族の方々。それだけではない。孤児であった自分を引き取り、血筋も関係なく騎士にまで取り立ててくれた大恩は、命を賭けても足りないほどであった。「王、王妃か。その二人なら……」 大臣は、その手に持っていた包みを騎士の前に投げ出す。 その衝撃で包みの結び目が解け、その中身があらわになる。「うわあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」 考えたくなかった。 想像したくなかった。 信じたくなかった。 しかし、現実が目の前にあった。 いつもすべての民のために慈悲の瞳を向け、より良い国にするために悩み、己が命よりも国の発展を最優先に生きたこの国の、国民たちの最愛の王が。その夫を影ながら支え、時には王以上の政策を持ってこの国をよりよく導こうとした王妃。 その首級が、目の前に、あった。「ふふふ。ははははは! いい悲鳴だよ、最高だ! エグゼ君!」 大臣は大きく笑いながら手を叩く。「もう一つ、面白いものを見せて差し上げましょう」 奥から運ばれてきた大きな檻。 その中には一人の女性と、多数の見たこともない魔物がいた。「君が会いたがっていた、もう一人の君主様ですよ」「あ、あぁ……」 それはまさに悪夢だった。 王に良く似た、絶世の美女。 女性ながら、自らも戦地に赴く美丈夫なれど、どこまでも慈悲深い女神のようで、将来この国を背負って立つにすばらしい才媛だった。 その名は、ミスティライト・フォン・エルモワ―ル。 しかし、心まで砕かれた今は長くシルクのような黒髪は汚濁にまみれ、凛とした表情は光を失いうつろな目で虚空を見つめている 屈強な魔物どもの陵辱にさらされた王女は、すでに抵抗していない。「ミハエル、貴様!!
last updateLast Updated : 2026-08-03
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元英雄

アカウントメッセージホームメニュー 人目を避けるために森を進むこと三日。一人の騎士が木にもたれ掛かり小さく息を吐いた。「もう二年か」 大臣のクーデターにより滅んだ聖エルモワール王国。 今は亡き国の騎士団長は2年の歳月をかけてエルミナ大陸を横断していた。 新しく国王に就いたミハエル・ド・カザドは彼の首に100万ローズの賞金をかけ、指名手配をした。 そのために大きな街に寄ることはできず、エグゼ・トライアドは、このように道なき道を方位磁石を頼りに移動していた。 軍神と呼ばれるほどの魔法力を失った彼は経験を積んだゴロツキにも劣る剣技しか持ち合わせていなかった。 自身の不甲斐なさに歯噛みしながら軽く目を閉じる。 怒り。焦燥。憎悪。後悔。 夜の闇に紛れて、様々な感情が心に沸き立つ。 この2年間夜に安らかな気持ちになれたことは1度としてない。 聞こえるの鳥や木の葉のざわめき。少し肌寒い風を受けてマントで体を包み込む。 エグゼが少しうとり、と意識を飛ばしかけた時、静かだった森がざわめく。たいまつの明かり。足音。男たちの声。 (追っ手か!?) エグゼは傍らにある剣を掴み立ち上がる。焚き火の明かりが見えたからだろう。数人からなる男たちはまっすぐこちらに向かってくる。 木の陰に隠れ様子を見る。少し開けたその場所に、5人の賞金稼ぎたちがやってくる。「おいっ! 誰もいねぇのか!!」  一人の男が荒っぽく声を上げる。装備はさほどでも無いが、少なくともエグゼよりは強いであろう賞金稼ぎ。それが5人もいる。(切り抜けられるか?)「もう一つの組もまだ見つけてないみたいだな」 男たちは神経を尖らせながら話し合う。 その会話の内容からして、他にも賞金稼ぎがいるらしい。「そこにいるのは誰だ!」 エグゼの力量では気配を完全に消すことはでず、エグゼが隠れていることに気づいた一人の賞金稼ぎが近づいてくる。 いつでも剣を抜けるように構えながら木陰から姿を表す。「なんだあんたは?」「おい、俺たちの追ってる男じゃねぇぞ」 しかし彼らが探してるのは、別の賞金首だったらしい。安堵のため息を心の中でついて「誰か探してるのか?」と尋ねる。「あぁ。知らないのか? この森にグランベルトに楯突くレジスタント組織のNO.1が潜んでるらしいぜ」 男が一枚のパピルスを取り
last updateLast Updated : 2026-08-03
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ソウマ・ブラッドレイ

アカウントメッセージホームメニュー 死より冷たいまなざし。 11人の強者が、たった一人の男を前にたじろいでいる。 しかし敵にもプライドがある。「一勢にかかれ! 隙を与えるな!」 剣をかざした若き騎士の怒声に、賞金稼ぎたちが我を取り戻す。 ソウマを中心に、円を描くように陣形を取る。「10人掛かりで攻撃か? 面白い」 恐怖心を押さえつけ、最後のプライドを奮い立たせて立ち向かう賞金稼ぎ。 対して不敵な笑みを崩さないソウマ。「けっ! 気取りやがって。行くぞ!」 10人が同時に攻撃を仕掛ける。 切り下ろし、袈裟、逆袈裟、切り上げ、突き、下段斬り。 一呼吸での多段攻撃。その動作は、1秒のタイムラグも無いほどに訓練され、実践で磨き上げられたものだ。 これは避けきれない。少なくとも、エグゼはそう思った。 しかし。「発想は悪くはないが、いかんせんスピードがないな」 賞金稼ぎたちの必殺の攻撃が完成する前に、ソウマは既に陣形から脱出していた。 技の起こり。後の先で動き始めてもなお早い。「こ、このやろうっ!!」 男たちがソウマの声のした方に振り向く。 ソウマの姿を確認した時には、3人の賞金稼ぎが足元に倒れていた。「まだ、やるかい?」 自身に満ちた笑み。 この場が森深く夜であることを差し引いても尋常ではないスピードだ。全員が狼狽するなか、ソウマは軽く手を振り上げる。「逃げるなら今のうちだぞ」 そういって無造作に手を振るう。「!!」 突風。大木をもなぎ倒せそうなほどの風が賞金稼ぎたちを襲い、最もソウマに近かった2人が吹き飛ばされ気を失った。「ば、馬鹿な……」 たった一振り、手を動かしただけで戦士2人がやられた。 次元が違う。そこにいる誰もが息を飲んでいた。「お、お前ら、何をしてる!」 若き騎士も完全に怯えていた。「む、無理だ!」 一人、二人と賞金稼ぎたちが逃げ出す。「気絶してる仲間くらい連れ帰ってやれよ」 めんどくさそうに、気絶した男たちを一所に集める。「どうする? あとはあんただけだぜ」 ソウマが若き騎士に向き直る。 確実に勝ち目は無い。 だからと言って戦いもせずに逃げ帰ってしまえば、騎士の名と家に傷がつく。恐怖心とプライドの狭間に立たされた騎士は。「うわあああああぁぁぁぁぁっ!!!!」 残された勇
last updateLast Updated : 2026-08-03
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1時の休息

 数間後。既に深夜になってようやく足を止めた。 成り行きで着いて来たエグゼだが、なぜか一緒に焚き火を囲いゆっくりとしていた。──誰かと一緒に野宿をするなんてどれくらいぶりだろ。「さっき、野うさぎを捕まえたんだ」 そういってソウマは手早くウサギの皮を剥ぎ血抜きをした。毛皮を受け取ったアラクネの少女はその皮をなめしている。町に着いたら多少の路銀にはなるだろう。「危ないところだったわね」 アラクネの少女が話しかけてくる。「あ、あぁ。君は?」 そういえばお互い自己紹介もしていなかった。「私は、アーニャ・クーネリア。こっちはソウマ・ブラッドレイよ」「僕はエグゼ。エグゼ・トライアドだ。よろしく」 ソウマはウサギをさばく手を止めず、話しかけてくる。「しかし、なんでエグゼはアイツ等と戦闘になってたんだ?」 ウサギはあっという間に食べやすい大きさにされ鍋で煮込まれていた。骨は出汁として使われ内臓はしっかりと処理したあとに肉の切り端をいれ、別のところで煙で炙られている。「あぁ、僕も賞金首だからね」 ソウマはそれを見ながら一枚のパピルスを取り出す。 手配書。 そこにはエグゼの人相描きなどの情報が書かれていた。「エグゼ・トライアド。亡国の魔法騎士。生死問わず100万ローズ、ねぇ」 アーニャは皮をなめし終え、お茶を入れるとエグゼにもコップを渡した。「ありがとう」 渡されたお茶を飲み、エグゼは一息ついた。「お前さんも賞金首だったか。 俺たちが入った森にいるとは、タイミングが悪いな」 肉が煮込まれ、さらに香草の類が鍋に入れられた。「臭み消しにちょうどいいんだ」 ソウマは鍋をかき混ぜながらそう言った。「手馴れたものだね」 エグゼが話しかけるが、答えたのは何故かアーニャだった。「こういうところで変にこだわるのよね。この人の鞄の中、強壮剤ポーションとか入ってなくて、全部お茶やら香草ばっかりよ」 アーニャはソウマの荷物を勝手に掴むと中をエグゼに見せてきた。「本当だ……」 他に入っているのは筆記用具とパピルスの束だけだった。「長い旅だ。うまいものでも食べなきゃ体が持たない」 山菜が入れられ、根菜類も煮崩れないタイミングで投入される。「山や森に入ると塩なんてのは高価なものだからな」 少量の塩それ以外は臭くならない程度にウサギの血液が入れ
last updateLast Updated : 2026-08-05
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魔眼と生死

「そのために、鍛冶で有名なシスカの街にいい職人がいないか探しに来たのさ」  いい職人。その言葉を聞いて、エグゼが一振りの剣を手に取る。 それはゴロツキから奪ったような粗悪な剣ではなく、華美ではないが確かに、最高レベルだと素人でもわかる意匠の剣だった。「綺麗……」 アーニャの緑色の複眼が、赤みを帯びている。「ん、アーニャの瞳が反応するほどの剣か。俺も長いこと戦場にいたが、確かにここまでの剣はお目に「かかたことがないな」 ソウマも剣を覗き込む。 よく剣を観察してみるが、それは金属でできた剣ではなかった。「精霊、石?」 アーニャが虚ろな瞳で剣を見つめる。「大精霊とエグゼをつなげる、平和のための剣」「!!」 エグゼが驚いた顔で、アーニャを見やる。「このアーニャは魔眼持ちなんだ」 魔法力が失われたこの大陸だが、魔法を使う術がいくつかある。 1つ目は、アーニャのような生まれ持った「特異体質」これは魔法力を使って発現させるものではないため、黒のカーテン下でも使える。 2つ目。鉱物などが含有している魔法力。「魔水晶」や「スクロール」と呼ばれる物が一般的だ。それ自体が魔法力を持つ。たとえば光を放つ魔法に変換すれば明かりになる。火の魔法にすれば料理ができる。そして、黒のカーテンがなければ魔法力は何回も補充できるのだ。 残念ながら、黒のカーテン発動後は使い捨てになってしまっている。 3つ目は、暗示などで無意識下に働きかける「意識魔法」と呼ばれるもの。これは特殊な模様や音を聞かせて生き物の脳に直接作用させる催眠術のようなものだ。「これがアーニャの魔眼『真実を写す瞳』だ」 クーデター組織にあって戦闘力もないアラクネの少女がこうして組織TOPのソウマと行動しているのは、この魔眼あってのことだ。「俺と一緒に行動することに慣れ、敵地でも俺の指示通りに動き自分の安全を確保しながら魔眼を使う練習だ」『真実を写す瞳』「それは、あらゆるものの『本質を見抜く力』だ」 森羅万象。この世の全ての事象にはなぜこの世に必要なのか、と言う存在理由がある。 その存在の最も根源的なものを見抜くことができるのが、彼女の魔眼だった。「ここからだとさすがに無理だが、王都に近づけば黒のカーテンが一体どういう理屈でこの大陸に展開されたのか、分かると思うんだ」 だからこそ、メリ
last updateLast Updated : 2026-08-06
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特訓!

「僕は寝ていたのか?」  今まで賞金首に追われ、野生動物に襲われるかもしれない恐怖から野宿で熟睡できたことは一度もなかった。「お前さん自が寝てたかもわからないのか?」 ソウマは朝ごはんを作り始めていた。 卵にソーセージに軽く塩胡椒をし、パンではさみ完成。簡単な朝食だ。「私としてはもう少し食いでのあるお肉がいいけどね」 そう言いながらも、アラクネの少女、アーニャは一気に朝食を平らげる。 ソウマが予め用意したお茶を飲んで一息ついたようだ。「食べるの早いね」 たいしてエグザはまだひとかじりしかしていない。「せっかく作ってんだから、味わってほしいんだけどな」 随分と所帯じみた戦士である。 野営道具をしまい、3人とも歩き始める。「エグゼ、この辺りで物資を補給できそうなところはあるか?食糧しかり、薪なんかの燃料も欲しいとこだ」 エグゼは少し考えたあと。「近くに『スミカ』という街がある。そこでは良質の炭が手に入るし、シスカの街とも交流があるから、それなりに良質な武具がそろうよ」 もっとも、エグゼは近寄りたくない町の一つでもあったが。「よし、そうと決まれば、そのスミカの街に向かうか!どれくらいかかる?」「今のペースだと3.4日かな」 ソウマは少し考えて。「5日で着くようにしよう」 思いもがけない言葉がでた。 ソウマの今までの発言からすると、一刻も早くスミカで物資補給をしたら、すぐにシスカに旅立ちそうなものだが。「そ、そんなゆっくりしてて大丈夫なの?」 さすがにアーニャも苦言を呈する。 メリクリウスにとっても、良質の武器は早く手に入れたいところだ。あまり時間もかけられない。「まぁ、軟弱者を鍛え直しながら行きゃ、ちょうどいいだろ」 その視線はエグゼに向けられている。「ぼ、僕?」「当たり前だ! 他にどこに軟弱者がいる?」 と言われると全く言い返せないエグゼ。「というわけで、全身筋トレグッズ!!」 パンパカパンパンパー! 効果音はさておいて。「単純なアイテムだよ。両手足に5キロの重り、ウエストに5キロの重り、ウェイトベストは10キロ〜50キロの重り。さらには腰を痛めず、体幹を養い、体が上下左右に無駄に動かないコルセットに、呼吸を制限し、高地トレーニングにも匹敵する能力のマスクだ!」 ソウマは得意げに語るが、エグゼとア
last updateLast Updated : 2026-08-06
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対象的な評価

「よし、到着!」 ソウマがゆっくりと足を止める。それに続いてアーニャが。最後に大きく遅れてエグゼが町に入る。「化け物か……」 エグゼですらかなりの重りを着けている。が、それ以上の重りをソウマは着けているはずだ。なのに息一つ乱さずに町をあるき始めた。「この町が石炭が有名なスミカか」 スミカでとれた良質の石炭はそのまま武具の街、シスカへとは運ばれる。その石炭がなければシスカの街も立ち居かないほど重要な拠点だ。「もしスミカの協力が得られれば、武器だけじゃなくて火力を必要とする兵器や重要拠点の守りも強化できるし、敵側の勢力も大幅に削げるはずだよ」 息を整えながら町を見渡す。炭鉱で栄えた商店街はというと。「寂れてるな」「寂れてるわね」 ソウマとアーニャの意見は一致した。「おかしいな……」 騎士の時代に何度も訪れたことのある町だが、ここまで活気がないのを見たことがない。「ちょっと情報収集した方が良さそうだね」 エグゼが手近な人に声を掛けようとしたが、それをソウマが止める。「その前に行くところがある」 エグゼもアーニャも顔を見合わせながらソウマに着いていった。 行き先は。『武器屋』「なにか必要な武器があるのか?」 そういうと、いきなりソウマに頭を叩かれた。「バカ野郎、お前の武器だ。そんな鉄の棒切れなんて持ってたってなんの役に立たないだろ」 扉を開けて中に入るソウマの背中に「僕はそんなお金はないぞ」と呼び掛ける。 中に入ると、いかにも頑固そうなドワーフが座ってこちらを値踏みするように無言で見ていた。「よう、店主!」 まるで旧知の知り合いのように気安く声をかけるソウマを見て、そのあとにエグゼの剣に目をやる。「そっちの坊やの武器か」 なにも言わずともこちらの目的を覚ってくれた。一目見ただけでエグゼの剣が安物過ぎることと、筋力に見合わない重さだということがわかったのだろう。「予算は?」 ソウマは懐から金貨を5枚取り出してカウンターに置く。「おい、ソウマ!」 エグゼはソウマに金を出させることを渋った。昨日知り合ったばかり男がよくわからない人間に金貨五枚を使って武器を買おうというのだ。正気の沙汰ではない。「まぁ、死にたくなかったらこれくらいが妥当だろう。その辺りにあるから好きなもん選びな」 気難しそうな店主はパイプをくわえて
last updateLast Updated : 2026-08-07
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ドワーフの依頼

 場を移して宿屋の一室。 ソウマ達一行は地図を広げてこの町に起こった事をビーンから聞いていた。 端的に言えば坑道に魔物が出て、退治できないから変わりに退治して欲しい、というものだった。「しかし、儂たちも無力じゃない。モンスターや野生動物を倒すことくらいできる」 魔物が出たからといっていちいち冒険者やギルドに頼っていては作業も進まず、金がいくらあっても足りない。 元からある屈強な肉体に炭鉱夫という肉体力も持ち合わせているドワーフたちだ。並みのモンスターを倒すことなど造作もない。それでも倒せないモンスターが坑道の中に現れたというのだろうか。「この町から坑道までは難しいものじゃない。トロッコの線路もあるし、休憩地点もある」 ビーンは地図を指でなぞりながら説明をする。「もしモンスターや野生動物が出るとしたらこの水飲み場だろう。ここは俺たちも使うが、水源はどんな生き物にとっても大切な場所だ」 ちょうど町と炭鉱の間にある水場は、開けた場所にあり見通しもよさそうだ。 森の茂みから奇襲を仕掛けられることもある。 炭鉱夫たちが離れて安全を確保できていない今、魔物たちのエリアになっている可能性は極めて高い。「ここは休憩地点でもあるが、同時に敵に出くわす可能性も最も高いところでもある」 ビーンはさらに地図の先に指を向ける。 指の先は炭鉱入口と書かれていた。「この炭鉱内の見取り図はあるか?」 内部の構造がわかる地図があるかどうかはかなり重要になる。もしなければマッピングをしながら進まなければならないからだ。「あるにはあるが、初期の古いものしかない。さすがに儂たちも内部構造は頭に入っているからな」 最新のマップは彼らの脳内にあるようだ。「なるほど。問題ない。アーニャにはマッパーも任せることになっているから、ちょうどいい訓練だ」 そういってソウマは羊皮紙とペンをアーニャに渡した。 アーニャはそれを緊張した面持ちで受け取る。彼女の表情を見る限りマッパーを任された緊張だけではないような気がする。 エグゼはその緊張の謎が気になっていた。「ちょっと待て、そのお嬢ちゃんも連れていくのか?」 ビーンが驚いたように眉を吊り上げた。確かにモンスターが出るとわかっている場所にアーニャのような少女を連れて行くのは危険以外の何物でもない。 しかしソウマの返事はそう
last updateLast Updated : 2026-08-07
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スノウウルフ

 卓上に広げた地図とにらめっこをしているソウマとアーニャ。二人からしてみれば特に変わったものではない。 トロッコを動かすための線路沿いに彼ら炭鉱夫の作業動線がわかるくらいだ。「エグゼはなにか気になったのか?」 生粋の武闘家であるソウマにはわからないなにかを、エグゼは先ほどの会話から得ていた。「大筋はビーンさんが言った通りなんだけど、ノームの所在がどうにも気になってね」 たとえ強力な魔物でも、山、坑道という最大の味方を付けたノームを倒すことは到底不可能に近い。それをやり遂げるような魔物といえば……。 ──造魔。 ミハエルが作り出した強力なモンスター軍団。彼のモンスターたちは個々の能力も十分化け物じみているが、集団の戦闘になればまさに最強と呼んでも過言ではないほどの魔の軍勢となる。「造魔、か」 この大陸。いや、世界全体を見渡しても存在するはずのない魔物。 数々の分野で天才と称されたミハエルが作り出した最強の生物。「それがこの山を占拠してるの?」 アーニャは少し怯えた表情でエグゼとソウマを見ている。「僕も最初そう思っていたんだけど……」 エグゼが一番気にかかっていたこと。 それは。「もしそうだとして、どうして町に進行して来ないのか」 ミハエルがこの町の良質の石炭を求めているのなら、力で町を支配して奴隷のようにドワーフたちを扱って大量の石炭を手に入れることも可能なのだ。「そこに、今回のこの事件の真相が隠されている、と?」 真剣な、魂をも射貫くようなソウマの視線。 エグゼは自分の剣。──先ほど買った剣ではなく、ずっと持ち歩いている『大いなる精霊王の剣』に向けられていた。「確実なことは言えないけど、僕が思った通りならこの事件、簡単なモンスター退治では済まないと思う」 この大陸で誰よりも精霊とともに生きてきたエグゼの言葉は何よりもソウマとアーニャの心に影を落とした。 どうあがいても明日には坑道へ向かわなくてはいけない。 一抹の不安を抱えながらも、夜は深けていく。 朝まだ霧のかかる山道を、エグゼたちはトロッコの線路沿いに歩いていた。ビーンのいう通り坑道までの道のりは難しいものではなさそうだ。 それ以上に警戒すべきはモンスターと野生動物だろう。 この二つの違いは端的に言えば「魔法力を持つまたは一定以上の知能を持つ者」をモンスター
last updateLast Updated : 2026-08-07
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精霊の寝所

「十中八九、この坑道の先には『精霊の寝所』がある」 三人は松明を手に取り、薄暗い坑道の中を歩いていた。手元にはビーンから聞いた内部の構造をできるだけ地図に興した羊皮紙がある。しかしビーンたちが知らぬうちにモンスターたちが新しく道を作ったり、自分たちの寝床を作っている可能性もあるため、今一度すべての道をたどりマッピングをしていく必要があった。 案の定、ゴブリンやオークなどのある程度の知能を持ったモンスターが住み着き住処を奪い合いながら、坑道に新しい道や部屋を作ってた。 隊列は今までと同じく。ソウマ、アーニャ、エグゼのままだったが魔物との戦闘や狭い道を引き返す時には前後が逆になり、出くわした魔物の強さによってはエグゼが足手まといになることもあった。 しかし、それなりにレベルアップもしてきたエグゼは十分に戦力になりつつあった。「ふぅ……」 何回目かもわからないモンスターの襲撃を退けてエグゼが大きくため息を吐く。「なかなか様になってきたじゃないか」 初めのうちこそ剣に振り回されたり、坑道内の狭さに苦戦していたものの、今は一端にその狭さを利用したり、足元の石や砂利を利用するといった応用も利くようになっていた。 エグゼと出会ったばかりのダメダメな姿を見ていたアーニャもその成長振りに驚いていた。「あんなに毎晩ヒーヒー言ってたのが噓みたいね」 クスクスと少し前までのエグゼを思い出して笑っている。「そんなに笑うことないだろう。こうして結果が出てるんだから」 肩をすくめてエグゼもおどけてみせる。少し前までのエグゼからは考えられないような、肩の力の抜けたやり取りだった。「さて、と」 気を取り直して、ソウマが道の先を見据える。 最後に残った坑道の行き止まり。そこは今までとは異なる雰囲気に包まれていた。 エグゼの言葉が正しいとしたらこの先に『精霊の寝所』があり、この山の守り神たるノームがいるはずだ。 坑道の入口を守っていたのもこのノームの使役する使い魔としてポピュラーなものだ。「ノームがいるのに魔物が蔓延って、炭鉱夫たちが引かなきゃならない理由がこの先にあるのか」 ソウマやアーニャには皆目見当もつかなかったが、ただ一人エグゼにはこの事件の全貌がうっすらと見えていた。──幕間── 玉座に座り、水晶玉を見つめる醜い中年男。 その先にはエグゼたち一行
last updateLast Updated : 2026-08-08
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