LOGIN運悪く親友の修羅場に巻き込まれて刺殺されてしまったコハクは異世界の魔女に転生する。転生後、彼女はある目的のために〔魔女の里〕へとやってきた若き公爵・クローと出会う。魔女の力を目撃したクローは、病気の弟を救うために彼女を連れ帰りたいと言う。それから二人はやむを得ず婚約を交わし〔魔女の里〕を後にする。やがてコハクの心は、黒髪の貴公子(クロー)の蒼い瞳に惹き寄せられていく。そして病の美少年(クローの弟)にも出会い、コハクの恋と運命は大きく揺れ動いていくことになるのだった。
View More【4】コンコン。コンコン。部屋のドアがノックされた。回数が多い。なんだよ煩いな、と思ったのも束の間。コハクはハッとして時計を見る。普段の起床時間を明らかに過ぎていた。理由は明白。昨夜、色々と考え事をしていて遅くまで眠れなかったせいだ。昨日の出来事だけが原因なのか、はたまた昨日の出来事がきっかけとなってこれまで溜まっていたものが爆発したのか。どちらにせよ、モヤモヤする。昨日、あれからクラリナと別れてクローと会う直前までは良かった。特に何も気にしてないと思っていた。ところが、クローと顔を合わせた瞬間、クラリナの言葉がフィードバックした。わたしも、グレーアム先生と仲良くしたいです。「コハク? どうかしたのか?」クローが顔を覗き込んできた。コハクは慌てて誤魔化した。「な、なんでもないよ」その時はとりあえず誤魔化したが、気持ちはずっとモヤモヤしたままだった。帰りの馬車の中での会話は自然と減り、屋敷に着いてからは不自然に口数が減った。さらにルーと顔を合わせると、今度はエリオット・エルガーのことが思い起こされた。以前、ルーはこう言った。魔法大学の男たちに気をつけてね、と。あの時は的外れな心配だと思っていたけど、どうやらルーの心配は当たっていたようだ。エリオット・エルガーが警戒すべき男かどうかはまだわからないが......。「コハク? どうした
反応に困る、とはまさにこのことと言わんばかりにコハクは返事に詰まってしまった。どういう意味で言ってるの? それは要望なの? それともただの希望なの? 「......あの、コハクちゃん?」クラリナが不思議そうに顔を覗き込んでくる、「わたし、変なこと言いました?」「あっ、いや」コハクはハッとする。そうだ。べつにクラリナの言っていることは、決しておかしなことじゃないんだ。赴任してきたばかりの素敵な先生と仲良くなりたい。そんなの、ごく当たり前の感情じゃないか。ましてやクローは美男子で、クラリナは十代の女の子だ。ある意味、当然とも言える。「わたし、コハクちゃんのこと、困らせちゃったかな......」クラリナが申し訳なさそうな微笑を浮かべる。コハクはマズイと思った。ちゃんと返さないと!「そ、そんなことないから! 大丈夫だから!」「本当ですか?」クラリナは不安そうにしている。友達を困らせてしまっていないか、本気で心配している顔だ。「本当だよ!」コハクは精一杯の笑顔を作って見せた。「今度、放課後かお休みかで、三人でお茶でもしようよ!」「いいんですか?」クラリナの目が輝いた。「もちろんだよ!」「すごく楽しみです」クラリナの笑顔が戻った。コハクはホッとする。ただ、胸の奥では、言い知れない不安が低気圧となって雨雲を作り始めていた。しかしコハク自身、それを自覚するまではしばしの時間を要するのだった。
「はぁー、はぁー」廊下の端までいき、コハクは立ち止まって壁に手をついた。正直、自分の行動に自分が驚かされていた。何も逃げなくてもいいのに。ボク、何をやっているんだ?「どうしよう。絶対ヘンに思われたよね。それどころか嫌われたかも。フツーに失礼だし。強引なナンパでもないのに。しかも相手はクラスメイトなのに......。クラリナも、どう思っただろ......」冷静になってくると、ますます不可解になってくる。そもそも相手に下心があるかどうかもわからない。ナンバだとも限らないんだ。純粋にクラスメイトと親睦を深めたいだけなのかもしれないんだ。ウブな乙女にもほどがあるぞ。「でも、前世で、ハヤテのナンパを散々見てきたからなぁ」それゆえに過剰反応したのだろうか。ましてや自分の場合、男から女に転生している。男側の心理もわかる分、より男に対する警戒心が強いのかもしれない。「クローは平気なのに......」そう。クローは、最初から平気だった。出会い方も関係しているだろうけど、それだけでは語れないものがある気がする。「あれ?」ここでふと、コハクはあることに気づく。そういえば、ルーのことも平気だったと。告白された時はさすがに戸惑ったけど、それでもエリオットに対して抱いたような警戒心はない。
【3】一日の授業が終わり、コハクとクラリナが会話を交わそうと目を合わせた時だった。二人の視線は同時に別の方向へ移った。「インフェスさん」数名の男子学生がコハクに近づいてきていた。皆、好意的な笑みを浮かべている。「こんにちは」その中のひとりの男子学生がコハクへ挨拶する。中々の男前に見える。「こんにちは」と返しながらコハクは思い出したように立ち上がった。そういえばクラリナ以外の学生とはまだ話したことがない。「初めまして、コハク・インフェスさん。僕はエリオット・エルガーです」エリオットは好意的な微笑みを見せる。茶色い髪の毛をオシャレに整えた彼は、いかにも女にモテそうな容貌を備えたイケメンだった。コハクは一瞬、前世での親友を思い出した。「初めまして」とコハクも挨拶を返すと、二人の会話が始まる。すると、またたく間にコハクは相手のペースに飲まれていった。「マギアヘルム出身と聞いて最初はどんな女性かと思ったけど、話してみると実に親しみやすくて可愛らしい素敵な人だなぁ」
湯浴みから戻ると、宴ではマトモな食事もできなかっただろうとコハクは食事を振る舞われた。ナイジェルが使用人に用意させていたのだ。「すごく美味しいです」コハクは異世界の食事に舌鼓を打った。ナイジェルとアンと三人で囲む食卓は、中々落ち着くことのできなかったコハクの心を和ませた。右も左もわからないこの世界に降り立ち、どこの誰ともわからない女の子に生まれ変わり、戸惑うばかりの一日。しかしナイジェルとアンの心遣いによって、コハクは心の平穏さを取り戻してきていた。(ふたりがいてくれて、本当に助かったなぁ......)夕食を済ませ、用意された部屋に入るなりコハクはばふんとベッドに倒れ込んだ。大変な一日
【3】里一番の館の、大広間の台座の上。コハクは借りてきた猫のように縮こまっていた。彼女の目の前では今、里をあげて盛大な『魔女復活祭』が繰り広げられている。宴の主役はコハク。彼女は深紅のドレスを身に纏い、玉座と言うべき豪奢な椅子に鎮座させられ、崇め奉られている。 「深焔の魔女さまの復活だぁ!」「麗しき魔女、コハク・インフェルドさまの復活に祝福を!」当のコハクは、ただ苦笑いを浮かべるだけで精一杯だった。そこへ、彼女に寄り添って立つ中年女性が様子をうかがってくる。「コハクお嬢さま。ご気分が優れませんか?」「あ、いえ、」コハクは慌てて恐縮する。「ボクは大丈夫です、領主様」頭には三角
【2】「あ、あれは!!」人々は遠くの空を見上げた。地上から空に向かって巨大な龍神の如く立ち昇る炎注の中心には、ひとりの女が浮かんでいる。この尋常ならざる光景は、この地に住む者たちにとって共通の、まごうことなき神聖な伝説を想起させた。「深焔の魔女さま......!!」人々は跪き、両手を握り合わせた。やがて甚大な炎は収束する。人里離れた地上に女がふわりと降り立った。「ぼ、ボクって、いったい......」誰よりも彼女自身が驚愕していた。まるで強大な深紅の炎の支配者にでもなった自分自身に。とてもじゃないが信じられない。そもそも、今のは自分自身がやったことなのだろうか。
第一部 【1】「ど、どうしよう、このまま閉じ込められたままだったら......」がっくりと膝をついた。もう何時間経ったのだろう。閉ざされた薄暗い部屋で目が覚めてから。時計もなければ窓もないので昼夜もわからない。ただただ途方もなく感じる。「やっぱりこれって、閉じ込められているとしか考えられないよね。でも......」中央に寝台があるのみの閑散としている部屋は、妙に広い。おまけに天井がやけに高い。牢獄というには些か様相が異なる。目立った汚れや埃も見当たらない。まるで掃除が行き届いているかのようだ。「ここはどこで、ボクはいったい何者なんだろう......」改めて確かめる