LOGIN運悪く親友の修羅場に巻き込まれて刺殺されてしまったコハクは異世界の魔女に転生する。転生後、彼女はある目的のために〔魔女の里〕へとやってきた若き公爵・クローと出会う。魔女の力を目撃したクローは、病気の弟を救うために彼女を連れ帰りたいと言う。それから二人はやむを得ず婚約を交わし〔魔女の里〕を後にする。やがてコハクの心は、黒髪の貴公子(クロー)の蒼い瞳に惹き寄せられていく。そして病の美少年(クローの弟)にも出会い、コハクの恋と運命は大きく揺れ動いていくことになるのだった。
View More「ちゃんと綺麗にしてるじゃん」
友人の部屋を見回しながら、火野虎白は感心した。
「コハクがうるさく言うからな。ちゃんと一人でもキレイにしてんだよ」
「もう半年前だっけ? ハヤテが一人暮らしを始めた時はビックリしたよ。なんだかんだハヤテはまだしないと思ってたからさ」
「俺だって大学生の間は実家にいるつもりだったんだ」颯はテーブルに肘をついて頭を掻く。「姉貴と妹にブチ切れられたからなぁ〜」
「でも、その原因は......」
虎白は正面に座る友人に向かって、じと〜っと
「ああーそうだよそうだよ」颯は両手を上げて降参のポーズをとる。「原因は俺のせいだよ、俺の女遊びのせい。実家にも連れ込んでたからな。わかってるって」
もはや開き直ったのか、颯は明るく笑った。
そんな友人に虎白はため息を漏らすが、すでに慣れっこだった。親友はそういう男だ。
「昔からハヤテはよくモテるから、つい遊んじゃうのかもしれないけどさ......もっと女の子のことを大切にしないと、いつか自分自身に返ってくるかもよ?」
「なんだコハク、俺のこと心配してくれてんのか?」
「それは心配するよ! 実家を追い出されるくらい遊ぶって、よっぽどだよ??」
「姉貴も妹もカタイからなぁ〜」
「ハヤテが軽すぎるんだよ!」
「わかったわかった。これでも今は控えてるほうなんだから」
「でも、今度の彼女とも別れちゃったんでしょ?」
「それはあれだ、どうも合わなかったんだよな。ちょっとこう、俺には重いっていうか、真面目なんだけど思い込みが激しいタイプでさ」
「ちゃんとやさしくしてあげてた?」
「そのつもりだけど」
「ホント?」
「なんだよ、疑うのか?」
「気になっただけだよ」
虎白は腕組みして口を尖らせる。彼は本気で友人のことを心配していた。そのうち修羅場になって刺されたりするんじゃないか? そんな想像さえ働いてしまう。
「まあ、俺も反省はしてるよ」
わかっているのかいないのか、颯は頬を掻きながら一応の反省の色を表した。それからグラスを手に取り一口すすると、今度は彼のほうが虎白に意味ありげな視線を向ける。
「なに?」と虎白。
「いや〜こうやって改めて見るとさ......」颯は虎白をしげしげと見つめて言う。「コハクの女装姿もすっかり様になったなーって。完全に男の娘ってやつだよな? いや、コハクの場合は声も高くて女声だし、もはや完全に女の子だな。しかもカワイイし」
「そ、そうかな?」
虎白は少しモジモジした。嬉しかった。
「そのうえ料理も得意で裁縫まで得意って......おまえは古き良き大和撫子かっ!」
「やまとなでしこ!?」
「ぶっちゃけおまえなら抱ける、いや、結婚したいぐらいだわ」
「なっ!」
「でもさ」
「?」
「昔は色々あったけど」と颯は感慨深さを滲ませる。「今日久しぶりにコハクに会って、コハクが自分らしくやれてるみたいで良かったよ」
「ハヤテのおかげだよ」虎白は即答する。「あの時イジメられていたボクをハヤテが助けてくれたから」
「たまたまだよ、たまたま」
颯は遠慮するように手を横に振った。
「たまたまだったとしても、事実は事実だから」
「それは、まあそうだけど」
「あの頃は本当に色んなことが重なって塞ぎ込んでいたし......」
コハクはグラスを口に運ぶと、遠くを見つめた。
「ちょうど親が......」と言いかけて颯は言葉を飲み込む。「悪い。あんまり思い出したくないよな」
「ううん、全然平気だよ」コハクは微笑を浮かべる。「確かに当時は親が亡くなってショックだったけどね。そのあと親戚の家に預けられることになって、最初こそは戸惑いもあったけど、本当に良くしてもらったから」
「おじさんとおばさんがイイ人で良かったよな。それに従姉の杏奈ちゃんはコハクのこと大好きだからな」
「杏奈お姉ちゃん、本当にボクのこと可愛がってくれたからね。ボクの趣味にも理解を示してくれたし、本当に特別な人だよ。でもね?」
「ん?」
「ボクが変われた最初のきっかけは、やっぱりハヤテなんだよ」
コハクは親友に、誠実な感謝の眼差しを向けた。
「お、俺は」と颯は照れくさそうにする。「できることをやっただけだよ」
そのまま颯がソワソワしていると、虎白は悪戯っぽくニヤリとする。
「これで女癖さえ悪くなければねぇ......」
「おっとまたそこに戻るか」
「ちゃんと一途だったら、ボクもお嫁さんに立候補しようか、なーんてね」
「おいおいマジか」
「女遊び、やめられる?」
「無理だね」颯は謎のドヤ顔を決める。「それは俺の人間としての幅ってやつだからな」
「幅にも限度があるんじゃない?」
二人はじ〜っと見つめ合うと、どちらともなくプッと吹き出した。
親友二人の楽しそうな笑い声が部屋に響く。なんの変哲もない、平凡だけど幸福な時間。
彼らは平凡な幸福に満たされていた。それが間もなく見るも無惨に破壊されてしまうことも知らずに......。
【4】コンコン。コンコン。部屋のドアがノックされた。回数が多い。なんだよ煩いな、と思ったのも束の間。コハクはハッとして時計を見る。普段の起床時間を明らかに過ぎていた。理由は明白。昨夜、色々と考え事をしていて遅くまで眠れなかったせいだ。昨日の出来事だけが原因なのか、はたまた昨日の出来事がきっかけとなってこれまで溜まっていたものが爆発したのか。どちらにせよ、モヤモヤする。昨日、あれからクラリナと別れてクローと会う直前までは良かった。特に何も気にしてないと思っていた。ところが、クローと顔を合わせた瞬間、クラリナの言葉がフィードバックした。わたしも、グレーアム先生と仲良くしたいです。「コハク? どうかしたのか?」クローが顔を覗き込んできた。コハクは慌てて誤魔化した。「な、なんでもないよ」その時はとりあえず誤魔化したが、気持ちはずっとモヤモヤしたままだった。帰りの馬車の中での会話は自然と減り、屋敷に着いてからは不自然に口数が減った。さらにルーと顔を合わせると、今度はエリオット・エルガーのことが思い起こされた。以前、ルーはこう言った。魔法大学の男たちに気をつけてね、と。あの時は的外れな心配だと思っていたけど、どうやらルーの心配は当たっていたようだ。エリオット・エルガーが警戒すべき男かどうかはまだわからないが......。「コハク? どうした
反応に困る、とはまさにこのことと言わんばかりにコハクは返事に詰まってしまった。どういう意味で言ってるの? それは要望なの? それともただの希望なの? 「......あの、コハクちゃん?」クラリナが不思議そうに顔を覗き込んでくる、「わたし、変なこと言いました?」「あっ、いや」コハクはハッとする。そうだ。べつにクラリナの言っていることは、決しておかしなことじゃないんだ。赴任してきたばかりの素敵な先生と仲良くなりたい。そんなの、ごく当たり前の感情じゃないか。ましてやクローは美男子で、クラリナは十代の女の子だ。ある意味、当然とも言える。「わたし、コハクちゃんのこと、困らせちゃったかな......」クラリナが申し訳なさそうな微笑を浮かべる。コハクはマズイと思った。ちゃんと返さないと!「そ、そんなことないから! 大丈夫だから!」「本当ですか?」クラリナは不安そうにしている。友達を困らせてしまっていないか、本気で心配している顔だ。「本当だよ!」コハクは精一杯の笑顔を作って見せた。「今度、放課後かお休みかで、三人でお茶でもしようよ!」「いいんですか?」クラリナの目が輝いた。「もちろんだよ!」「すごく楽しみです」クラリナの笑顔が戻った。コハクはホッとする。ただ、胸の奥では、言い知れない不安が低気圧となって雨雲を作り始めていた。しかしコハク自身、それを自覚するまではしばしの時間を要するのだった。
「はぁー、はぁー」廊下の端までいき、コハクは立ち止まって壁に手をついた。正直、自分の行動に自分が驚かされていた。何も逃げなくてもいいのに。ボク、何をやっているんだ?「どうしよう。絶対ヘンに思われたよね。それどころか嫌われたかも。フツーに失礼だし。強引なナンパでもないのに。しかも相手はクラスメイトなのに......。クラリナも、どう思っただろ......」冷静になってくると、ますます不可解になってくる。そもそも相手に下心があるかどうかもわからない。ナンバだとも限らないんだ。純粋にクラスメイトと親睦を深めたいだけなのかもしれないんだ。ウブな乙女にもほどがあるぞ。「でも、前世で、ハヤテのナンパを散々見てきたからなぁ」それゆえに過剰反応したのだろうか。ましてや自分の場合、男から女に転生している。男側の心理もわかる分、より男に対する警戒心が強いのかもしれない。「クローは平気なのに......」そう。クローは、最初から平気だった。出会い方も関係しているだろうけど、それだけでは語れないものがある気がする。「あれ?」ここでふと、コハクはあることに気づく。そういえば、ルーのことも平気だったと。告白された時はさすがに戸惑ったけど、それでもエリオットに対して抱いたような警戒心はない。
【3】一日の授業が終わり、コハクとクラリナが会話を交わそうと目を合わせた時だった。二人の視線は同時に別の方向へ移った。「インフェスさん」数名の男子学生がコハクに近づいてきていた。皆、好意的な笑みを浮かべている。「こんにちは」その中のひとりの男子学生がコハクへ挨拶する。中々の男前に見える。「こんにちは」と返しながらコハクは思い出したように立ち上がった。そういえばクラリナ以外の学生とはまだ話したことがない。「初めまして、コハク・インフェスさん。僕はエリオット・エルガーです」エリオットは好意的な微笑みを見せる。茶色い髪の毛をオシャレに整えた彼は、いかにも女にモテそうな容貌を備えたイケメンだった。コハクは一瞬、前世での親友を思い出した。「初めまして」とコハクも挨拶を返すと、二人の会話が始まる。すると、またたく間にコハクは相手のペースに飲まれていった。「マギアヘルム出身と聞いて最初はどんな女性かと思ったけど、話してみると実に親しみやすくて可愛らしい素敵な人だなぁ」
湯浴みから戻ると、宴ではマトモな食事もできなかっただろうとコハクは食事を振る舞われた。ナイジェルが使用人に用意させていたのだ。「すごく美味しいです」コハクは異世界の食事に舌鼓を打った。ナイジェルとアンと三人で囲む食卓は、中々落ち着くことのできなかったコハクの心を和ませた。右も左もわからないこの世界に降り立ち、どこの誰ともわからない女の子に生まれ変わり、戸惑うばかりの一日。しかしナイジェルとアンの心遣いによって、コハクは心の平穏さを取り戻してきていた。(ふたりがいてくれて、本当に助かったなぁ......)夕食を済ませ、用意された部屋に入るなりコハクはばふんとベッドに倒れ込んだ。大変な一日
【4】翌朝。熟睡していたコハクの目を覚まさせたのは、表で鳴り響く警鈴の激しい音だった。眠気まなこのコハクは、まぶたを擦りながら気怠そうに上体を起こす。「コハクお嬢さま!」使用人の女が部屋に駆け込んできた。彼女の尋常じゃない雰囲気に、コハクは悟る。大きな事故か災害が発生したに違いない。「何かあったんですか?」「私と一緒にすぐに下まで降りてきてください!」寝間着のままでコハクは一階まで駆け降りていった。居間には屋敷中のほぼ全員が集まっていた。ナイジェルとアンの姿だけが見えない。「いったい何があったんですか?」コハクが再び尋ねると、使用人の顔に戦慄が浮かび上がる。「赤黒いワイバ
「コハクお嬢さま、大丈夫ですか?」アンが顔を覗き込んでくる。「だ、大丈夫です」と返答しつつも、コハクは体を背けていた。湯に浸かっているとはいえ、見るのも見られるのも恥ずかしかった。「申し訳ありません。まるで私が無理にお誘いしてしまったみたいで......」「えっ、いや、そんな、全然、ただ、ちょっと恥ずかしいというだけで......」コハクはあわあわとなる。アンに気を遣わせてしまい申し訳なくなる。それでも恥ずかしさはどうしようもない。「コハクお嬢さまは、その......」アンが目を細める。「とっても女の子らしい女の子なんですね」「へ??」コハクは顔を赤くする。ボクが女の子らしい女の
「い、いやだ......」コハクは声を震わせる。「コハクお嬢さま?」「二人とも、ボクにやさしくしてくれた。アンさんは、ボクをやさしく抱きしめてくれた......」「コハクお嬢さま......」「ボクにやさしくしてくれた人を......ボクはまた失いたくない!」転瞬、領主を守ろうと立ち塞がるナイジェルとアンに向かい、ワイバーンの炎が無情にも発射された。使用人は目を瞑って手を握り合わせた。だが、すぐにハッとしてまぶたを開く。「こ、コハクお嬢さま!?」なんとコハクが、窓から空へ向かって矢のような勢いで猛烈に飛び立っていったのだ。向かう先は彼らのもと。「えっ!?」精一杯の防