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第128話

Auteur: 大落
未央は両腕を胸の前に組み、低い声で言った。「大したことじゃないの。私はあなたのお父さんの病気を治して、当時の真相を知りたいだけ」

聡子は目を細めていた。今までは憎しみで理性を失っていたが、今よく考えてみれば、なんだかおかしいことに気付いた。

「つまり……」

彼女は少し戸惑い、訝しげに言った。

未央は一度唇を閉じてから、またこう話し始めた。「私の父親も当時誰かの罠にはめられてしまったの。そして、長谷川晃一さんを死に至らせ、あなたのお父さんである橋尾肇さんをこうさせてしまった真犯人は他にいるの。

だから、私たちの目的は同じなのよ。当時白鳥グループを陥れた人物を暴き出すことなの」

そう言い終わると、未央はじいっと聡子の瞳を見つめた。

聡子は少し口を開いたが、驚いていて何も言葉を発することができなかった。父親がこのような状態になってからというもの、彼女はずっと白鳥家のことを憎んできた。その結果、今彼女は父親をこのようにした犯人は他にいると告げられたのだった。

「わ……私がそんな言葉を信じると思う?」

彼女の声は少し震えていた。未央の力強い瞳とぶつかり、そう言ってはいるものの、自信がなさげだった。

そして――

未央はここ最近集めた証拠を取り出し、その一つ一つを彼女の目の前に並べていった。

「これは……」

聡子は両手を細かく震わせ、それらの証拠を見た後、非常にショックを受けていた。

そして暫くしてから。

彼女はやっとのことで顔をあげて未央を複雑そうな瞳で見つめてから、下を向いて言った。

「ごめんなさい、あなたのことを誤解していたみたい」

未央は手を左右に振って、落ち着いた声で言った。「今重要なことはあなたのお父さんを治療し、当時の真相を探ることよ。あなたの協力が必要なの」

聡子は深く頷いた。

「分かったわ。私は何をすればいい?」

その時未央の瞳がキラリと光り、聡子の耳元まで顔を近づけると低い声で何かを呟いた。

聡子の顔色が変わり、少し躊躇っていた後、最終的にそれを受け入れることにした。

未央はゆっくりとホッと息を吐き出した。

肇本人から答えをもらうことはできなかったが、今日ここに来て収穫は少なからずあったのだ。

そして精神科病院を離れた後。

未央は博人のほうへ顔を向けた。彼を見つめるその眼差しは明らかに柔らかくなっていて、優しい
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