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第2話

Autor: ソフトクリーム
沙耶に声をかけられ、私ははっと我に返った。

「真琴さん、いつ帰ってきたんですか?どうして玄関に立ったまま、入ってこないんです?」

その声で、雅人たちも一斉にこちらを振り返った。

雅人の母は、私が手にしていた退職届を見るなり、露骨に顔をしかめた。

「まったく、あのときの私はどうかしてたわ。よりによって、あんたみたいな疫病神を雅人の嫁にするなんて。仕事まで辞めて、これからは働きもせず、雅人の稼ぎを当てにするつもり?」

雅人の父も、すぐさま口を挟んだ。

「せっかく医者になったくせに、その仕事さえ続けられないのか。そんなお前に何ができるっていうんだ。こんな役立たずだと知ってたら、最初から嫁になんか迎えなかった!

沙耶ちゃんは出産したばかりで、まだ体も戻ってないんだぞ。これからは子どもにも何かと金がかかる。雅人を支えるどころか、お前まで重荷になってどうする。それでも妻か!」

あまりに身勝手な言い分に、笑いがこみ上げた。

「じゃあ、雅人はどうなんですか。私が研修で家を空けている間に、別の女との間に子どもまで作った。それでも夫と言えるんですか?」

「いい加減にしろ!俺はお前のことを思って、ここまでしたんだぞ!」

雅人は眉をひそめ、冷ややかな目を私に向けた。

「お前は子どもを産めないだろ。だから沙耶に産んでもらい、その子をお前が育てればいいと思ったんだ。お前のためを思ってしたことなのに、どうしてそれが分からない?

沙耶は母親になりたいという願いを叶えて、悔いを残さずに済む。お前は自分で産まなくても母親になれる。どっちにとっても悪い話じゃないだろ。いったい何がそんなに気に入らないんだ?」

雅人はなおも続けた。

「2年前、交通事故に遭った俺を助けてくれたのは沙耶だ。あのとき沙耶がいなかったら、俺はとっくに死んでた。両親を亡くして身寄りもないのに、今度は末期がんで、もう長くないんだ。このままじゃ、沙耶のことを覚えてる人間さえいなくなる。

同じ女なら、少しくらい沙耶の気持ちが分かるだろ。どうしていつも沙耶を目の敵にするんだ?それともお前は、俺が自分の欲を満たすために、沙耶との間に子どもを作ったとでも思ってるのか?」

沙耶は雅人の手をそっと握り、私のほうを見た。

「真琴さん、もうそれ以上言わないでください。悪いのは全部私です。これからは二度とお二人の前に現れないと約束します。だから、私のことでけんかするのはやめてください」

気づけば、目の前の4人はすっかり足並みをそろえ、私一人を責めていた。あまりの滑稽さに、かえって笑えてきた。

なるほど。この人たちこそ、本当の家族というわけだ。

そこへ雅人が、さらに追い打ちをかけた。

「真琴、もう沙耶を責めるのはやめろ。今度また同じことをしたら、ただじゃおかないぞ!

これからも俺とやっていきたいなら、もう騒ぎを起こすな。来週、この子の誕生祝いに親戚や友人を招く。その席で、お前をこの子の母親としてみんなに紹介してやる」

来週?私はベビーカーの中で眠る赤ん坊をちらりと見た。私が海外へ発つのも来週だ。

それなら、その前にこの人たちに一生忘れられない思いをさせるのも悪くない。

私は顔色一つ変えずにうなずいた。

「分かった」

そう言い残すと、彼らの反応を確かめることもなく寝室へ戻り、そのまま荷造りを始めた。

ここにはもう戻らない。そう決めた以上、私のものは何一つ残したくなかった。

服をたたんでいると、リビングからドア越しに笑い声が聞こえてきた。私の手がふと止まった。

「この子、拓耶(たくや)って名前にしよう。そうすれば、名前を呼ぶたびにお前のことを思い出すだろ。たとえこの子がいつか別の誰かを母親って呼ぶようになっても、お前がこの子の実の母親だってことは、絶対に忘れない」

雅人の顔を見なくても、これ以上ないほど優しい目で沙耶に語りかけている様子が、ありありと目に浮かんだ。

そう思うだけで、雅人に何度も傷つけられ、とうにぼろぼろになっていた心がまた痛んだ。

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