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第21話
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会い続ける道は尽きぬ 第25話
若子は一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻して言った。「現在の効率計算には方法論上の問題があります。私たちはすでに、風力・太陽光・水素を一体のシステムとして評価する新たな計算方法の認証を経産省に申請中です」昭は笑みを浮かべて言った。「その申請が通るには、恐らく一年や半年では済まないでしょう。そこで、俺にとっておきの妙案があります。千葉社長、聞いてみませんか？」「ぜひお願いします」「俺と手を組み、水素エネルギーを主軸とし、リチウム電池を補助とするハイブリッドシステムを採用するのです。エネルギーの未来は、どちらか一方だけを選ぶというやり方はよくないと思います。俺は千葉社長の寧海蓄電プロジェクトを引き受けるのを全面的に支援します。利益配分は、君が八割、俺が二割という条件でどうでしょうか」会場は騒然となった。誰もが昭の行動を理解できずにいた。まるで若子のためにすべてを差し出しているかのようだった。若子も驚きのあまり言葉を失った。彼女は、昭がここまでしてくれるとは思ってもいなかった。彼は自身の利益を犠牲にしてまで、彼女の夢を支えようとしていた。それほどまでに深い愛がなければできないことだった。展示会センターの扉が再び開いた。勝郎が光の中から現れ、赤いカーペットの上を若子に向かって歩いてきた。彼は手にした書類を高く掲げて見せた。「ちょうど経産省から承認をもらってきました。若勝エネルギーの申請が通ったのです――風力、太陽光、水素エネルギーは今後、統合されたシステムとして評価されることになりました。我々の蓄電システムの効率は、なんと90.2％に達しています」若子は大きな衝撃を受けた。彼女は瞬時に悟った。勝郎が、自分の知らないところで人脈を駆使し、承認を前倒しで取得してくれたのだ。風力エネルギーに水素蓄電を組み合わせることで、電力の需給問題を解決するだけでなく、グリーン水素の生産も可能になる。勝郎が壇上に上がり、若子と並んで立った。「風力発電が過剰な時は水素を製造し、電力が逼迫した時は水素で発電する。平時は工業用水素として外販も可能です。kWh当たりのコストはリチウム電池単体より3円安く、ライフサイクル全体の排出量は47%削減、プロセス全体でゼロエミッションを実現。カーボンニュートラル政策に対応したソリューションです」
会い続ける道は尽きぬ 第24話
若子はしばらく目を凝らして見つめ、ようやくその狂った女が恵美だと気づいた。以前のふっくらとした姿とは打って変わり、今の彼女は骨と皮だけに痩せこけ、顔色は土気色で、目のくぼみが深く、遠くからでも不潔な印象が漂っていた。彼女は若子を指さして大声で笑い出した。「あんたも勝郎に利用されたのよ！私たち全員、勝郎に利用されてたの！2年前、私とのスキャンダルを流して、映画の主演にしてやるって約束したくせに、すぐに昭を誘惑しろって命じてきたの！」「あはは、やっと気づいたのね！あんたの家庭を壊したのは私じゃない、真犯人は勝郎よ！彼はあんたに昭と離婚させて、あなたを自分のものにしたの！」「彼がそんなことをしたのは、すべて自分のため。ずっと前から計画してたのよ。新エネルギー会社を使って白井グループを動かすテコにして、最終的には白井グループ全体を乗っ取るつもりなの。若子、あんたはただの道具に過ぎなかったのよ！」若子は唇を噛みしめ、勝郎を見つめた。勝郎は細めた目で車窓の外の恵美を一瞥した。その瞳は冷たく、微かに殺意が浮かんでいた。若子はぞっとし、ふと別のことが頭をよぎった。「純子の腕を傷つけたあの件、あなたが仕組んだの？」勝郎は彼女を見て、目つきが柔らかくなった。「若子、そんな心配しなくていいよ。あのような女性の扱いには慣れてるから。二度と若子の前に現れさせないよ」彼は腕時計を外し、カフスを緩め、手首を軽く回してからドアの開閉ボタンを押した。若子は彼の腕をつかんだ。「暴力はだめ！」勝郎は穏やかに笑った。「若子、どうしてそんな風に思うの？俺は女に手を上げたりしないよ。ただ、彼女を適切な場所に連れて行くだけさ」若子の胸にあった幻想は跡形もなく消え去り、恋に溺れていた頭もようやく冷静さを取り戻した――勝郎はあまりにも計算高く、これ以上彼の思惑通りに動かされるわけにはいかない。勝郎が車を降りた後、若子は窓を開けて言った。「一人で静かに過ごしたいの。しばらく距離を置こう」勝郎が返事をする間もなく、彼女は運転手に車を出すよう指示した。その後の半月間、若子はひたすら仕事に打ち込んだ。一瞬でも気を抜くと、勝郎のことが頭に浮かんでくる。だからこそ、立ち止まることができなかった。彼の魅力はまるで毒のようで、彼女を魅了し、苦しめた。そして
会い続ける道は尽きぬ 第23話
海岸のさざ波が摩天楼の影を映し、海風はほんのりと冷たく、スターフェリーの汽笛が長く遠くに響く。時計台の針は夕暮れの中でゆっくりと進んでいた。若子はまだ夢を見ているような気がしていた。勝郎は彼女の手をしっかりと握り、手を絡めながら、彼女の顔から目を離せなかった。「若子、俺を見てよ。会いたくなかったのか？」「時々思い出すわ」「違う。思い出すのと会いたいのは別だ。会いたいのは、想いがあるからだ。俺に会いたいと思ってほしい。俺は君に会いたい」路面電車が彼らのそばを通り過ぎ、レールの音や鈴の音が澄んでいて、どこか懐かしかった。若子は無意識に勝郎から離れようとした。「まだ商談があるの。こんな話している時間ないわ、私は……」若子が背を向けて立ち去ろうとしたその瞬間、勝郎が彼女のうなじを掴んで胸元に引き寄せ、次の瞬間、彼の唇が若子の唇を捉え、熱く激しいキスを交わした。鐘の音が朗々と響き渡り、対岸のセントラルの灯りが次々と灯る。ガラスのカーテンウォールにきらめく星々が反射し、揺らめく光影が若子の顔を優雅に撫でていくかのようだった。彼女の思考は停止した。頭の中が沸騰し、無数の色とりどりの泡がふわふわと浮かんでいた。「あなた……彼女たちにも、同じようにしてたの？」若子は心の奥底にある最も深い不安を口にした――彼女は勝郎の愛情が偽りではないかと恐れていた。まるで彼がかつての恋人たちを、愛を餌にして誘い、思い通りに操っていたように。「若子、俺が乗馬クラブで言った言葉を覚えてるかって聞いたとき、君は忘れたって言って、自分の口で聞かせてほしいって言ったよね」「でも、君が本当に忘れたなんて信じられない。だって、俺はあの言葉を今でもはっきり覚えてる。毎日、毎時間、毎分、毎秒……ずっと俺の頭の中でぐるぐる回ってるんだ」勝郎は若子の耳元に顔を寄せ、吐息が彼女の髪を揺らす中、一語一語を噛みしめるように囁いた。「若子、たとえ死んでも、俺はこの瞬間を絶対に忘れない――生死の境で君と寄り添ったあの瞬間を。あの記憶が、俺の人生で最も色濃く残っている。数多の人を裏切り、また数多の人に裏切られて、もはや心など持ち合わせていないのだと思い込んでいた。だが君だけが、この身をしっかりと受け止め、大地に根を下ろさせてくれた。それが愛だと、俺は確信して
会い続ける道は尽きぬ 第22話
若子は素早く考える。純子が自分に接触してきたということは、彼女はまだ自分を傷つけた真犯人を突き止められていないということだ。彼女がわざわざ現れたのは、言葉こそ曖昧だったが、かえって乗馬クラブ襲撃の黒幕が彼女自身であることを裏付けるようなものだった。若子はふと、純子が見た目ほど強くも賢くもないのではないかと感じた。「純子さんも、来月の寧海蓄電プロジェクトの入札に参加されると伺っておりますが」若子は意図的に話題を振った。純子は言った。「白井グループはこの業界では老舗ですが、今回の入札に参加するのはただの形だけですよ。昭の富岡グループに内定していることは、とっくに周知の事実です」「内定？」若子の表情は穏やかだったが、内心は激しく動揺していた。純子は悪意を含んだ笑みを浮かべながら、コーヒーのラテアートをかき混ぜ、ゆっくりと口を開いた。「昭は全固体電池で入札しているし、彼らが新エネルギー業界の最前線にいるのは誰もが知っています。あなたたち若勝エネルギーの水素蓄電システムはコストが高すぎます。水素エネルギーがリチウム電池に勝つなんて、到底ありえない話ですよ。無理に固執するのはおやめになった方がいいですよ」その夜、若子はすぐにHKへ飛び、到着すると同時に花束と数々の高級ブランドの衣服を受け渡された。相手は彼女の好みを熟知しているようで、どれも彼女の好みに合う品ばかりだった。たとえば、ラルフローレンのシャツやマノロブラニクのレザーシューズ……若子は誰が贈ったのかを思い巡らせた。一瞬、彼女の心の中にロマンチックな幻想が蘇った。それが勝郎であってほしいと願った。彼女が花束の中のカードを取り出して手がかりを探していると、昭の声が聞こえた。「気に入ったか？」若子はたちまち興味を失い、花束を置いて冷たく言った。「どうして私がここにいるって分かったの？誰が私のスケジュールを教えたの？」昭は言った。「今日は俺たちの12周年の結婚記念日だ。これまでの記念日にはバリ島やハワイ、フランスにも行ったよね……君はＨＫに行きたいって言ってたけど、それが叶う前に、俺たちは離婚してしまった」彼に言われなければ、若子は今日が何の日かまったく思い出せなかった。「ばかばかしい。私たちはもう離婚したのよ。結婚記念日なんて祝う必要ある？こんなもの、持って帰っ
会い続ける道は尽きぬ 第21話
「黙れ！」昭はすぐにボディーガードに恵美を押さえつけるよう命じた。「お前とは何の関係もない。これ以上つきまとうな」恵美は激しくもがき、ボディーガードに猥褻行為をされたと大声で罵った。「この痴漢め！私は有名な恵美よ！その腐れ目をよく見開いてみなさい！」ボディーガードもかなりのやり手で、鼻先を指さして怒鳴った。「このブタのようなデブが！俺の布団に入ってきても蹴り飛ばすぞ！」恵美は怒って彼を蹴りつけたが、逆にブロックされて地面に投げ飛ばされた。彼女は必死に叫んだ。「昭、どうしてそんなひどいことができるの！この間まであなたの子を妊娠していたのに！」昭は冷たい声で言った。「でたらめを言うな。お前が妊娠したのは俺の子じゃない。脅しならやめろ。さもないと名誉毀損で訴えるぞ」彼らの争いは高級な場では特に目立ち、皆がこちらの方を見ていた。若子は恥ずかしくてたまらなかったが、平静を装い、会議を終えるまで耐えた。その夜、家に帰り、7センチのハイヒールを脱いで一息ついたところで、勝郎から電話がかかってきた。「若子、昭と話さないって約束したのに、もうすぐキスしそうだったじゃないか！」若子は疲れてこめかみを揉んだ。「恵美が撮った写真を見たの？」「どうやら本当だったのか？」勝郎はさらに怒りをあらわにした。「見てないけど、恵美がネットで若子と昭がサミットでキスして抱き合ってたって暴露してた。偶然見ちゃってさ。まさか本当で、写真まで撮られてたなんて……」若子は言った。「してないわ。恵美は今、精神的に不安定じゃないの。昭に無視されて、私を仮想敵にしてるだけ。昭とは何もなかった」勝郎は言った。「若子を信じるよ。でも納得できない。若子、今すぐ会いたい」若子は頭痛を感じた。「忙しいの。わがまま言わないで。時間があったら、来月の寧海蓄電プロジェクトにどう対応するか考えてちょうだい」「嫌だよ。今頭の中が若子でいっぱいで、他のことなんて考えられない。俺は怒ってるんだ。酒が飲みたい……」勝郎は本当にわがままだった。若子は、妃たちに悩まされる帝の気持ちが初めて理解できた。彼女の年齢では、恋愛ごとで遊ぶ体力もなかった。「とても疲れてるの」この言葉を口にすると、勝郎は沈黙した。「わかった、若子。そういうことね」しばらくして、彼は言った。
会い続ける道は尽きぬ 第20話
翌日、新エネ業界のサミットで、若子は仕立ての良い銀灰色のスーツを身にまとって出席した。会場に入った瞬間、真っ先に昭の姿が目に入った。昭の目がぱっと輝き、シャンパングラスを手に彼女の方へ歩み寄ってきた。「千葉社長、おめでとうございます」若子は聞こえなかったふりをして、彼の横を通り過ぎた。彼女は昨日、勝郎にしつこく説得されて折れて、昭を無視することを約束していたのだ。昨晩、勝郎が鼻声で甘えてきたことを思い出すと、今でも自然と笑みがこぼれる。「若子にはあいつに会ってほしくない。会っても話しかけないで。ね、お願い……」そのとき若子は呆れたように言った。「勝郎、あんたもう何歳？どうしてそんなに子どもっぽいの？ビジネスは遊びじゃないのよ。ずっと昭と口をきかないなんて無理に決まってるでしょ」勝郎は答えた。「もう25歳の誕生日も過ぎたし、俺はもう大人だ。愛する人の感情にはきちんと責任を持てる。若子、もし俺に元カノたちともう話すなって言うなら、約束するよ。この先一生、彼女たちと一切関わらない。本当に、君がそう言ってくれさえすれば……そう言ってほしい。君にはその権利があるんだから」この暗示に満ちた愛の言葉はあまりにも熱く、若子は動揺して思わず電話を切ってしまった。頭では子どもっぽいと笑っていたが、感情的には彼を傷つけたくなくて、昭に会ったときには思わず無表情になってしまった。昭が再び若子に話しかけようとしたとき、彼女は理性を取り戻し、にっこり笑って応じた。「お久しぶりです。富岡グループもますますご発展のようですね。固体リチウム電池のエネルギー密度が450Wh/kgに達したとか。業界平均を大きく上回っているとのこと、誠におめでとうございます」若子の笑顔は非の打ちどころがなく、情熱の奥にどこかよそよそしさが漂っていた。昭は深くため息をつき、潤んだ瞳に哀しみが浮かんでいた。「若子、俺たちはもうこんなところまで来てしまったのか？君が俺に怒ってくれる方が、そんな作り笑いをされるよりずっとましだ」若子はほとんど表情が崩れそうになり、まさに白い目で睨みつけて「図々しい真似するな」と言いたかったが、長年積み重ねてきた自制心がそれを止めた。「藤原社長、お互いのことは分かっているはずです。わざわざ口に出す必要はないでしょう。感情的
