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第1415話 番外編六十二

Author: 花崎紬
「姉さん、店の前になんで白い菊ばっかり並べてるんだ?」

臨はにやっと笑って尋ねた。

「あれは人間用ではなく、幽霊に見せてるのよ」

「幽霊に?」

臨は目を丸くして驚いた。

「そう」

「だから念江兄さんと佑樹兄さんに来ないでって言ったの。命式の弱い彼らにはよくないから」

ゆみは雑巾を手に取って言った。

「じゃあ俺が来ていいってことは、命式が強いから?」

臨は舌打ちして自分を指差した。

「そうじゃないわ」

ゆみは壁の掛け軸を拭きながら背伸びした。

「あんたは純陽の体だから、幽霊を恐れる必要はないの。それに、今朝お札も渡したし、なんの問題もないわ」

「待ってよ姉さん。普段俺たち学校行ってるのに、誰が店番するの??」

臨はしばらく考え込んでから尋ねた。

「そんなに焦らなくても応募してくる人はいるでしょ。」

ゆみは嫌そうに彼を見た。

「それにこの店は人間向けの商売じゃないから、必要な時にだけ開くの」

「じゃあ仕入れた品物はどうするんだよ?」

「私が使うのよ!ここは倉庫代わりって感じ」

臨は顔を引きつらせた。

こんな繁華街の店舗を倉庫代わりに使うなんて、姉さんにしかできない!

店の片付けが終わると、ゆみは店を閉め、臨と一緒に病院へ向かった。

澈は昼過ぎに退院の予定だった。

二人が病室に着くと、看護師が既に澈の荷物を整理していた。

ゆみが澈に話しかけようとすると、念江から電話がかかってきた。

「もしもし?」

「ゆみ、紗子ちゃんと一緒か?」

念江の声には焦りが混じっていた。

「ううん」

ゆみは軽く眉をひそめた。

「どうしたの?」

「一時間前、家に帰ったら紗子ちゃんが怒って別荘から飛び出していったんだ。その時佑樹が不機嫌そうにリビングに突っ立っていたから、きっと紗子ちゃんと喧嘩したんだ。僕が紗子ちゃんに電話したんだけど、彼女、携帯を家に置きっぱなして出ていっちゃったみたいなんだ」

念江はため息をついた。

ゆみは眉間にしわを寄せた。

紗子ちゃんは佑樹兄さんのことが好きなのに、きっと何か酷いことを言われたに違いない。

「兄さん、人を出して探してくれてる?」

「ああ」

念江は言った。

「10分前に既に人を出した。今から龍介さんに連絡するところだ」

「まず連絡して」

ゆみは言った。

「私から舞桜さんに電話するわ
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