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第85話

Penulis: 無敵で一番カッコいい
このあたりは、確かに少しばかり雑然としていると言わざるを得ない。

とはいえ、混雑というほどではなく、単に帝都の中心部ほど衛生環境が整っていないだけだ。

周囲の建物もどこか手つかずのままで、目に入るのは古びた団地ばかり。通り沿いには屋台がずらりと並び、どこか懐かしい空気が漂っていた。

一通り歩き回ってみて、まず驚いたのは物価の安さだった。

そして、細い路地を抜けたその先には、突然ひらけたように広大な海が姿を現す。

ここは帝都の最果てにあたり、隣町の海市までは車でおよそ一時間ほどの距離にある。

「わぁ......!」

明日香は弾かれるように砂浜へと駆け出し、目を閉じて大きく深呼吸をした。サンダルを脱ぎ捨てて素足で砂の感触を楽しむ。海水は少し冷たかったが、頭上から降り注ぐ陽射しが心地よく、それだけで心が軽くなった気がした。

裸足のまま浜辺を歩きながら、途中で色とりどりのきれいな貝殻をいくつも拾った。

そのとき、不意に頭上から荒々しい声が飛んできた。

「おい、てめぇ誰だよ?ここが誰のシマか知らねぇのか?」

体を起こして声の主を見ると、編み込みヘアにスモーキーメイクの女が、こちらに威圧的な足取りで近づいてくる。腕には大胆な刺青。どう見てもただ者ではない、手強そうな姐御だった。

明日香が戸惑って言葉を探していると、女はすぐさま距離を詰めてきて、彼女の手から持ち物を乱暴に奪い取った。

「どこの田舎もんだ?見たことねぇ顔だな。カバンの中、見せてみろ。全部出しな!」

「私......」

「『私』じゃねぇよ!」

女は明日香の布製バッグを力ずくでひったくり、中身を地面にぶちまけた。

「チッ、使えねぇもんばっかじゃねぇか。やっぱ田舎もんは田舎もんだな」

この女の名は、葉月真帆(はつき まほ)。

さっきまでトランプで負けて、男どもに海産物を拾ってこいと命じられたところだった。女ひとりにそんな雑用を押しつけるとは、まったくもって恥知らずな連中だ。

そもそも機嫌が悪かったところに、ちょうど目の前にストレス発散できそうな相手が現れた。それが明日香だった。

明日香は感情の読めない表情で地面に散らばったバッグを拾い集めると、争うつもりもなくその場を立ち去ろうとする。

だが、真帆はそれを許そうとはしなかった。

「おい、誰が行っていいっつったよ?」

この口調
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