ただ親戚はともかく、俺達を一番比較していたのは……他でもない俺の父親だ。
「さ、もうすぐ時間だ。和巳君は前の方で話を聴いてくれ」 「はい。あ、鈴……」 皆に引っ張られながら、和巳さんは思い出したように俺の方を見た。「大丈夫ですよ、俺は後ろで見てますから」
「そっか……分かった、ごめんな。また後で」 「はい、また後で」軽く手を振り返し、できるだけ目立たない端の席についた。既に俺の父も祖父も、和巳さんのお父さんも席についてる。俺も帰る前に挨拶しないと。
そして始まった会議は、予想通りちんぷんかんぷんだった。だんだん眠くなってきて、ウトウトする。 うーん。寝ちゃいけない。けど……。 まぁバレないか。部外者みたいなもんだし、ちょっとぐらい寝たって。 結局、会議が終わる一時間後まで爆睡した。 「……皆さん、今日はお疲れ様でした。どうぞゆっくり寛いでください」さっきまでとは違う賑やかな人の声に、鈴鳴は自然と目を覚ました。
「ふあぁ……」 本当によく寝た。周りを見渡すと、慰労会のようなノリで皆好き好きに散らばり、運ばれてきた料理やお酒を楽しんでいる。 重苦しいムードじゃなく大盛り上がりだ。気楽だけど、やはり人の多さに戸惑う。和巳さんや伯父さん達を見つけたいけど、どこにいるのかサッパリ分からない。しばらく和巳さんは引っ張りだこだろう。
この中で彼らを見つけるのは骨が折れる。逆に父に見つかって、また小言を言われるのも嫌だし……庭の方でも行こうか。暇だから、池の鯉に餌あげたい。 そう思って立ち上がったが、誰かが目の前にやってきて俺の肩を叩いた。「鈴鳴じゃないか! 久しぶりだな、元気かい?」
「あれ……冨生叔父さん?」人の良さそうな笑顔を浮かべるひとりの男性。彼のことはよく知っている。最後に会ったのはいつだったか、正確には思い出せないが俺の母の弟だ。久しぶりに会ったからか、失礼だけど老けたように見える。
「お久しぶりです。……でも叔父さん、どうしてここにいるんですか?」 彼は母方の集まりの時しか会わない。俺の父方の集まりなんて来る義理も必要もないから不思議に思ってると、彼はこっそり事情を話してくれた。「いやそれがさ、前の会社退職して、ここの営業に入れてもらったんだよ。だから挨拶がてらここまで来たの」
母が父に頼み、紹介で入社したということらしい。
転職が難しいのは分かるけど、わざわざこんな茨の道を選ぶ必要はないだろう、と思ってしまう。母さんは何で止めなかったのか。
ウチの親族の絆は切りたいと思った時にすぐ切れるようなもんじゃない。学生の自分ですらそれを嫌というほど知っている。 「ま、そういうこと。鈴鳴ももう二十歳だろ? ほら、一杯いきな」 叔父さんは俺に空のグラスを渡すと、零れそうなほどビールを注いだ。 「あっすいません、叔父さん……俺車で来てるんで、今日は飲めないんです」 「えぇ? しょうがないなぁ、じゃあ代行呼んであげるから。今日ぐらいはいいだろ? お前の二十歳のお祝いもしてやってないし、良い機会だから飲み明かそう!」 と言ってくれるけど、多分叔父さんの転職祝いも兼ねてる。そう思うほどにテンションが高い。 「な? ほら、早く」 「で、でも……」 会が終わったら直ぐ、自分の車で帰りたい。曖昧に言葉を濁してると、彼の表情がわずかに変わった。「せっかくすすめてるのに、何で素直に受け入れないかなぁ。そんな態度じゃ社会に出てからやってけないぞ。社会人ってのは、まずは人間関係を円滑にすることから……」
「……すいません、いただきます」長々と説教が始まる予感がして、先に頭を下げた。しょうがない。確かに代行を呼ぶか、タクシーで駅まで行くんでもいいし。
飲んじゃおう。この息苦しい場所に居続けるなら、いっそ少し酔った方が楽だ。そう思い、ビールを一気飲みした。 「……っはぁ。ごちそうさまでした。美味しかったです」 「良い飲みっぷりだなぁ。よし、もう一杯いけ!」 「えっ! もう大丈夫です」 舌が痺れる。苦過ぎだし既に吐きそうなんで手を振って断ると、彼はまた不機嫌そうな顔でグラスを押し返してきた。 「歳上の言うことは聴いとけよ、鈴鳴。俺なんかは違うけど、日永さんの家はそーいうのに厳しいんだろ」 「……っ」 少しだが、胸が痛んだ。 いやだな、向こうの事つっこまれんのは……。てかこの人ガラ悪いぞ。いつもはもっと優しかったはずなのに。顔色からじゃとても窺えないけど、彼も相当酔ってると思う。
和巳さんはどこにいるんだろう。「じ、じゃあ後ちょっとだけ。頂きますね……」
絶対ダメだけど、怖くて断れない。
でも許容量を越えたらどうなるか……。自分自身も分からない。不安が波のように押し寄せる。けど促されるままジョッキのビールを飲んだ。何杯か注ぎ足されたものの、底が見えることを祈って仰ぎ続けた。意志に反して意識はどんどん曖昧になっていく。
二十歳になったばかり、正直まだ酒を美味いとも思えてない、普段なら一杯でダウンの俺が挑んだ壁。────それはもう、未知の領域だった。
「暑い……」 気付けば、ひとりで壁にもたれかかっていた。頭がボーッとしてすごく暑い。顔も身体も。 水が欲しい。 フラフラと立ち上がって、一番近くの瓶を手に取った。 少しして、誰かの叫び声が響く。 「ち、ちょっと君、何やってるんだ!?」 会場がざわめき出す。なにかあったんだろうか。 とりあえず水飲もう……。 「ちょっとちょっと! あそこの彼、花瓶の水を飲んでますよ! 止めて止めて!」 花瓶の水……? 頭の中で声だけが反響してる。花瓶の水を飲んでる奴がいんのか。それはやばいなー、とか思いながら水を飲み続ける。 その直後、頭上で雷のような怒声が聞こえた。「鈴鳴っ!! お前、何してるんだ!?」
親父の声だ。どうしたんだろう、そんな怒って。
ボーッとしながら、空になった瓶を膝の上に置いた。そして視線を下に移す。何故か周りには、鮮やかな花がいくつも落ちていた。 「……あれ?」 まさか。 背筋が凍り、段々意識がクリアになっていく。しかし状況を理解するより前に襟元を掴まれ、全身に衝撃を受けた。「きゃあぁっ!」
今度は耳を劈くような悲鳴が上がる。
「痛……っ」 背中を壁に打ち付けたみたいだ。ぼやけていた視界が鮮明になる。俺、何してたんだ……? 未だ混乱して、打った場所を撫でる。しかし前を見ると、顔を真っ赤にした父が立っていた。「一体何のつもりだ!? 何で花瓶の水なんか飲んでる!」
「……!!」彼の言葉に、鈴鳴はようやく状況を察した。
部屋に置いてあった気がする花瓶が膝の上にあり、周りは水浸し、花が無惨に周りに落ちている。俺、花瓶の水を一気飲みしてた……!?
だからちょっと変な味だったのか。納得納得……じゃない! マジかよ!!
吐きたいぐらいだったけど、とてもそんなことができる状況じゃない。 「愚息がお騒がせして大変申し訳ない。ほら、お前も謝れ!」 「うはっ!」 急に頭を押さえつけられ、土下座するような形で床に手をついた。 訳が分からない。一体何が起きてるんだ。ねぇ和巳さん。和巳さんがいなくなった日のこと、思い出したくないけどよく覚えてるよ。冬の終わり。吸い込んだら喉がカラカラになりそうな風が吹く中、一緒に空港の周りを歩いた。フライトの時間まで残りわずか、何度も時計を確認した。いつ戻って来るのか。向こうで何を学ぶのか。……俺と、これからも連絡を取り合ってくれるのか。本当は訊きたいことが山ほどあった。けど和巳さんは俺が話す隙を与えず、心配そうに色々話してたっけ。勉強のこと、進路のこと、両親のこと。「無理しちゃだめだよ」って繰り返していた。何度も肩を落としては持ち直し、そして俺を見つめていた。彼だって、一人で異国の地に飛び立つ。今も不安で仕方ないはずなのに、口から出るのはやっぱり俺のこと。俺は中学二年生で、和巳さんは高校三年生。もうそこまで心配されるような歳じゃないけど、彼は最後まで俺の心配をしていた。見てきた景色も、立っている場所も全然違う。それでも心は繋がっている。地球を覆うこの青い空のように、全ては同じところに存在している。距離なんて大した問題じゃない。俺にそう教えてくれたのは他でもない、彼だった。触れたい時に触れられない。聞きたい時に声を聞けない。辛いことだ。でも、それはさほど珍しいことじゃない。例え同じ家に住んでいたとしても、心がすれ違えば触れられない。声を聞けない。遠い国にいるのと同じなんだ。心がすれ違ってしまったら。だから誰かを想う心に勝るものはない。絶対、会える。どれだけ遠い地にいても、海に遮られても、山が隔たっていても。この想いは、時間も空間も飛び越えられる。『大丈夫だよ。必ず戻って来るから』彼が旅立つ日にそう言ってくれたから、俺は諦めずに待ち続けることができた。惨めでも滑稽でも、愚直だと蔑まれても……カレンダーの前に立ち、日付を捲ることできた。そう、「大丈夫」。必ず戻って来る。だから和巳さんは俺の心配より自分の心配をして、元気でいて。貴方がこの地球のどこかにいるって思うだけで、怖いぐらい俺は強くなれるから。六年。流されそうな時間の中で大人になっていく。傍にはいないけど、一緒に生きていた。昼と夜が正反対の場所にいるけど……やっぱり俺達は今、確かに。……一緒に生きてるんだよな。◇「あぁ~! やっぱりビールはいつどこで飲んでも美味いっ!!」宿泊先の旅館の客室で、
季節は次々に移り変わる。夏から秋、秋から冬へと。「ただいま、和巳さん」「おかえり、鈴!」肌寒い朝と夜を行き来する冬が訪れていた。大学から帰って、笑顔の恋人がいる暖かいリビングに入る。 俺達の生活は何も変わらない。忙しいのも変わらないけど、それは言い換えれば充実しているということ。大学、会社、家、その他のコミュニティを通して時間を費やす。最近は俺も和巳さんも、実家に顔を出すことが多くなった。以前はあえて避けてた親戚の集まりにも参加するようになった。会いたい人が増えたからだ。可愛い親戚の子も優しい祖父母も、気になって仕方ない。……会いたい衝動に駆られてる。そして会う度に、独りじゃないと気付かされる。たくさんの人に支えられて生きてるんだ、と改めて感じていた。「和巳さん、もうすぐ一年終わっちゃうね」「お、そうだね。俺と鈴が再会してから、もう半年も経ったんだ」リビングで寛ぐ和巳さんを尻目に、カレンダーを捲った。今でこそ何も考えずに捲れるけど、半年前は全然違ったな。和巳さんがいつ帰って来るのか。そればっかり考えて次のページを捲って、ゴミ箱に捨てていったカレンダー。あの苦い記憶すら今は懐かしい。恥ずかしいから和巳さんには絶対言わないけど。「そうだ、鈴! 俺達の輝かしい軌跡をお祝いしよう! 終わってしまうことを寂しく思うより、新しく始まる一年に乾杯するんだ!」「おぉ……さすが和巳さん、冬でも脳内は年中お花畑だね!」「鈴、その言い方だと皮肉になるから。それはさておき、冬と言えばスキー! 嘘! 俺は雪が嫌いなんだ! だから体も心も暖まる温泉に行こう! 雪見風呂なんて最高じゃない? 寒いのに暖かい所にいられる至福の時間、朝まで飲みたい!」色々と情報過多だけど、とりあえず温泉に行きたいことだけは伝わった。「温泉もいいね。せっかくだし、冬休みに入ったら行こう。和巳さんが乗りたがってた新幹線で」「おっ、分かってるねぇ鈴。じゃあさっそく計画立てていこうか」和巳さんがノリノリなので、新幹線で行く小旅行を計画した。スキーやスノボも良いと思うけど、和巳さんは「リフトが嫌なんだ」と真剣な顔で言ってきた。高い所が嫌いなんだろうか。でもすごい楽しみだ。和巳さんと初めての遠出……!その旅行は、わりとあっという間にやってきた。嬉しいことに、旅行当日は晴天。和巳さん
明るい照明。嗅ぎ慣れないシーツの香り。壁。……吐息。向き合って密着している友人に、小声で囁いた。「秋……俺もう、二度とこっち関係は協力しない。次何かあっても、ひとりで何とかして……。いいね?」「あぁ……。俺も、もうやめる……もう、何もしない……」秋は投げやりというか、もう疲れて何も考えられない、というように肩を揺らした。安易に乗っかった俺も悪いけど、本当に困った友人だ。でもある意味、問題児は秋より……矢代さんの方が。「ごめん、鈴鳴。俺のせいで、こんな……」息も絶え絶えに、秋は手を握ってきた。くっ、本当はもっとこてんぱんに怒ってやりたいんだけど。こんな風に泣きつかれたらどつけないじゃないか。「いいよ。秋が意外と世話焼けるのは前から知ってたから」「んんっ……」彼の腹を汚す白い体液を指ですくといる。すると彼も腰を擦り付けて、俺のぬれた頬を舌で舐めとった。「ん、鈴鳴……やっぱ、お前可愛いすぎ」「ちょ、秋、くすぐったいってば」俺も同じようにやり返して、濡れた部分を舐め合う。そうしてじゃれあってたんだけど……途端に、背筋に寒気を感じて我に返った。「あははは。……矢代さん、どうします? ほんとの恋人の前で堂々とイチャイチャしてる、この子達」「うーん、そうだねぇ。可愛いけど、また時間をかけて教えてあげないといけないかもね」しまった……!!後悔しても、もう遅い。振り返って謝ろうとしたけど、また前を握られてドキッとする。「鈴は俺を嫉妬させんのが上手になったね。でも、もう本当に怒った。今度は潮吹くまで許さないよ」「えっ! そ、そんなの無理だって!」青ざめて訴える鈴鳴の隣で、矢代は無邪気に笑った。「ふふふ、人の潮吹きなんて久しく見てないな。ちょっと楽しみだよ。……秋、お前も負けてらんないな。俺の前で彼と戯れたこと、イッて後悔するんだな」「待っ、やだやだ、もう無理! もうイケないって!」「俺はまだイッてないんだよ。最低でも後三回、これから付き合ってもらう。足りない頭で反省しながら、身体で俺を覚えろ。いいな?」「ち、ちょっと待っ……あぁ、俺が悪かった! もう二度と余計な心配はしない! 俺は本当に先生に愛されてるよ……!」軋むベッド、染みだらけのシーツ。そして絶え間なく響く二人の青年の悲鳴に、その夜は色濃く染まった。地獄が終わったのは朝
突然上半身を抱き起こされたと思ったら、今度は座位で貫かれた。嫌だと身を捩っても大きく脚を開かされ、挿入部分を確かめるように触られる。「ほら、中擦られるの気持ちいいでしょ?」「うっ、あっ、やっ……!」絶対、ハイとは言えない。だって目の前には矢代さんと、彼に抱かれてる秋がいる。だけど和巳さんはさらに激しく奥を突いて、俺の中を掻き回した。逃げようとすればするほど押さえ込まれる。「あっ、やだ、そんな激しいのっ……おかしくなっちゃうぅ……っ!」腰をホールドされる。彼の動きと連動して身体が震え、触ってもいない性器が跳ねてしまう。本当は触りたいけど、それはやっぱり許してもらえなかった。「……そうそう、忘れてるみたいだからおさらいしようか。鈴を世界で一番愛してるのは、誰だっけ?」「あっあぁ……か、和巳さん……っ」熱い。肉が蠢く穴の中も、剥き出しの下腹部も。どくどくと脈を打って、全身へと伝わっていく。 「じゃあ鈴が一番感じて。喘いで気持ちよくなっちゃう相手は、誰だっけ?」「ん、和巳、さんっ……和巳さん、だけ。あっ、中すごい事になってる……今も……っ!」胸の突起をぎゅっとつままれる度、口端から唾液か零れる。そしてその度に、彼の性器が高まる気がした。向きはそのまま、矢代さんと秋を盗み見みながら。恥ずかしいのに溺れた身体は快楽に逆らえなくて、むしろもっと彼を求めた。「和巳さん、もっと……もっと、強いの欲しい。おかしくして……っ!」「ふっ……もう、最高……!」後ろに押し倒され、正常位のまま激しく抜き差しされる。見上げる先の彼の顔は、快感に酔いしれてる。俺も多分、彼と同じか、……それ以上にだらしない顔をしてるんだろう。降ってくる汗が伝って、シーツに染みをつくる。肌と肌が触れ合う部分が滑って、なのに張り付いて、やらしい水音が響き渡る。和巳さんの熱で火傷しそうだ。感じ過ぎて制御できず、脚は限界まで大きく開いてしまった。「和巳さん、キスしたい……っ」「うん……いいよ」舌を出して求めると、舌ごと激しく吸い付かれる。ただでさえ熱い身体が、さらに熱く感じた。俺、今……上も下も、和巳さんと繋がってる……。もっと口を塞いで欲しい。離れたらきっと、また情けない声を出してしまうから。今は羞恥心も忘れたい。思考を溶かすほどの快感に包まれたかった。「ふふっ……和巳君と鈴鳴
瞼に当たる和巳さんの手が、段々汗ばむ。どうなってんだ。そんなにやらしい光景なのか? すごく見たい。「でも、それなら何で……最近、俺とシてくれないんだよ。前は毎日シてくれたのに」秋の悲痛な声が聞こえる。でも、……あれ、毎日? 前に俺と話した時は週二って言ってなかったっけ?「あぁ。この前は本当に、疲れてやる気が出なかっただけだよ」「じゃあ、今回は何で……」「はは、そんなの決まってるだろ? 欲求不満に悶えるお前を観察するのが楽しくてしょうがないからさ」矢代さんの、十二分に喜色を含んだ声が鼓膜に届いた。……つまり今までわざとお預けにして、秋を焦らしていたのか。軽く鳥肌が立つ。姿が見えないからこそ、ベッドの軋み具合と彼らの声を全身で感じてしまう。やばい……。矢代さんからキチクの匂いがする。こんな人を敵に回したことが間違いだ。絶対倍返しに合う。後悔しても後の祭りだけど、案の定もう秋の喘ぎ声しか聞こえなかった。「く、そっ……サイテーだよ、アンタ……っ!」「ははは、否定はしないよ。でもお前も人のことは言えないだろ。さっきは本当に鈴鳴君と危ない空気になってたじゃないか。純直な和巳君に感謝するんだな」状況がよく分からないけど、何かガンガン音が鳴ってる。秋が暴れてるんかな。「いつまで経ってもお前は本当にどうしようもない……それでいて最高だよ。俺の為にこんな楽しい趣向を凝らしてくれるなんて」「ち、違っ……あぁ!」何かがビリッと破れる音がした。ちょっと、音声のみは怖くなってきた。「和巳さん、手を離して……! さっきから何も見えないよ!」「う~ん……どうしよっかな。今の光景は、ちょっと鈴には刺激が強いかも……」「ずっとこのままでいる方が気まずくない!?」尋常じゃなく情事の気配を察知している。和巳さんは二人をバッチリ見てるわけだし、俺も彼らと同じベッドに座っているし、この状況はやばい。彼らが本番に入る前に早くここから退散しないと!そう思っていたら、矢代さんの弾んだ笑い声が聞こえてきた。「せっかくだから和巳君と鈴鳴君もここですればいい。このベッドは大きいから、四人乗っても余裕があるよ?」い、今何て……。耳を疑った。矢代さんは秋と抱き合ってるベッドで、俺と和巳さんにもエッチをすすめている。正気じゃない。そんなの和巳さんだって断るに決まってる!「え
「絶対やめた方がいい……嫉妬させるだけならともかく、このやり方は彼を傷つけることになるよ。恋人を傷つけるのは本望じゃないでしょ?」「ははは、心配ないって。先生は恋人が浮気してるぐらいで傷つくタマじゃないから」何言ってんだ、この子は。「恋人が浮気して傷つかないって、それはもう恋人じゃないよ! 矢代さんは絶対傷つくって!」「でもあの人はぬるいやり方じゃ絶対動じないし、本当の気持ちを確かめるにはこれしかないんだよ。あの人が俺のことをまだ想ってくれてんのか確かめるには、これしか」そう答える秋の目は、ガチだ。本気で切羽詰まってる。「こんな事に巻き込んでごめん……でも俺、あの人が好きなんだ」「秋……」彼も相当もがき、苦しんでいる。まぁ、それとこれとはちょっと話が違う気がするけど……。でも困った。彼の辛そうな顔を見てたら、全力で突き放せない。「矢代さんが、ショック受けて倒れないといいけど」計画に沿うことにするか。もちろん演技だから、変な所は絶対に触らない。俺は秋のシャツのボタンを外しにかかった。ところが。「うわっ、何してんだよ。攻めるのはお前じゃなくて、俺。お前はそういうの向いてないだろ」力任せにベッドに押し倒される。そしてあろうことか、彼は俺のベルトに手をかけた。瞬時に嫌な汗が溢れて、慌てて抵抗する。「ちょいちょいちょい! そんなの計画の時は決めてなかったじゃんか!」「決めてないけど、間違ってもお前はタチじゃない。つうか本来は俺がタチなんだよ。あの人にめちゃくちゃに抱かれなきゃ、そもそもこんな人生になってなかった!」よく分からない不満をぶちまけて、秋は俺のベルトを引き抜いてズボンを下ろした。以前、外の公衆トイレで彼にアナル開発を手伝ってもらったことはあるけど……今はちょっと状況が違う。ていうか、俺だけ恥ずかしい格好になるのは嫌だ!「こら! 秋も少しは脱いでよ」「はぁ? ……わ、やめろって!」ベッドが軋むほど、激しい取っ組み合いが始まった。尋常じゃなく息が上がる。互いに互いのズボンを奪い取ったとき、この争いはさらにヒートアップした。「おい、お前いつも和巳さんとする時は自分で後ろ弄るの? それとも弄ってもらうの?」「それは……あ、秋はどうなんだよ?」一瞬の不意をつかれ、ベッドに押し倒された。秋は真上に覆い被さり、俺を見下ろした。顔