アプリで始まった体だけの関係、その相手は職場の先輩でした~「平日夜/短時間」「感情なしの関係希望」「名前聞かないで」

アプリで始まった体だけの関係、その相手は職場の先輩でした~「平日夜/短時間」「感情なしの関係希望」「名前聞かないで」

last updateLast Updated : 2026-01-10
By:  中岡 始Completed
Language: Japanese
goodnovel16goodnovel
Not enough ratings
46Chapters
5.7Kviews
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

「平日夜/短時間」「感情なしの関係希望」「名前聞かないで」。 アプリで見つけたそのプロフィールの主が、職場で何度も助けてくれた先輩・村上だと知った夜、高橋は迷いながらも関係を受け入れる。 仕事では完璧で優秀な管理部の人間。 けれどシーツの上で村上は、「本気になるとろくなことにならない」「誰も愛せない」と、呪いのように繰り返す。 過去の誰かに、深く傷つけられたことだけは伝わるのに、その名前も経緯も教えてはくれない。 「遊びだから」「ルールだから」と境界線を引き続ける村上と、その線の向こう側に手を伸ばしてしまった高橋。 傷ごと、抱きしめたいと思ってしまったとき、ふたりの“平日夜”はゆっくりと形を変え始める。

View More

Chapter 1

1.ガラス張りの箱に息を吸う

「柚葉さんが戻ってきたんだって?奥さんはどうするんだよ?」

家の前に着くと、ドアは少しだけ開いていて、夫の谷口智也(たにぐち ともや)と、彼の親友の声がかすかに聞こえてきた。

仕事から帰ってきた谷口凛(たにぐち りん)は、思わずドアを開けようとした手を止めた。

「柚葉さん」って?自分のプロジェクトに2週間前からアドバイザーとして参加している専門家・小林柚葉(こばやし ゆずは)も、同じ名前だったはず。

なんて、偶然なんだろう。

一方で、智也はその問いただしに対して何も答えなかった。

「智也、言わせてもらうけどな。もう何年も柚葉さんのことが忘れられないんだろ?そのくせ、自分は質素な生活をして、毎月6000万円も彼女の研究費につぎ込んできたじゃないか。

向こうは今じゃ立派になって、帰国してからは国家プロジェクトの特別専門家だぜ?彼女にちょっと競合の情報を流してもらえれば、ホシゾラ・テクノロジーでの社長の座も安泰ってわけだ」

それを聞いて、凛はぱっと顔を上げた。その目には信じられないという色が浮かんでいた。

彼女は何かの聞き間違いじゃないかと思った。

6000万円?

智也が毎月くれる生活費はたったの6万円なのに。他の女には、毎月6000万円も渡しているわけ?

でも、家の中から聞こえる会話はあまりにも鮮明だった。その一語一句が耳に突き刺さり、そして、智也もその事実を否定しなかった。

その一瞬、凛はショックで息ができなくなるほどだった。

すると突然、智也が立ち上がり、腕時計に目を落とした。「もうこの話はよそう。柚葉を困らせたくないんだ。俺、今から柚葉を迎えに行かないと。テーブルはそのままでいいよ、どうせ凛が帰ってきたら片づけるだろうし」

「おいおい、智也。奥さんは、すごくいい人じゃないか。家のことちゃんとやってるし、ご両親と妹さんの面倒まで見てくれるんだぞ。それでも何とも思わないのか?」

智也の答えが知りたくて、凛は息を殺して、聞き耳を立てた。

だが智也は冷たく言い放った。「俺が好きなのは、凛みたいな家庭に縛られてる女じゃない。昔からずっと、柚葉みたいに仕事にすべてを懸けて輝く女が、俺のタイプなんだ」

その言葉は、ナイフのように凛の胸に突き刺さった。

彼女の目はみるみる赤くなり、手も震えだした。

「じゃあなんで最初、奥さんにアタックしたんだよ?しかも結婚までして」

「あの頃、柚葉が俺を置いて、どうしても海外に行くって聞かなくて」

「それじゃただ柚葉に当てつけるために結婚したっていうのか?」

それに対して、智也は何も言わず、まるで認めたようだった。

「それで、柚葉さんが帰ってきたから、彼女と離婚するってわけか?」このとき、親友はもう凛を「奥さん」とは呼ばなくなっていた。

そう聞かれ、智也はまた黙り込み、しばらくしてから、彼は口を開いた。「確かにお前の言う通りだ。凛は俺の世話をよく焼いてくれる。ここ数年、持病の胃痛も起きてないし、家族のことも全部よくしてくれてた。おかげで、家のことで困ったことは一度もない」

智也はホシゾラ・テクノロジーの跡継ぎというわけじゃない。社長の座に就けたのは、半分は無理な接待で勝ち取ったようなものだ。だから、若い頃に胃を悪くしていた。

それを心配した凛は、朝は早く起きて、夜は時間通り家に帰り、彼に体を労わる料理を用意してあげていた。

智也が残業の時は、彼の会社まで食事を届け、それから自分の研究所に戻るようにしていた。

結婚して4年間、彼女はそんな毎日を続けたのだ。

そして今日、4年がかりで秘密裏に進めてきた「マイクロチップ開発プロジェクト」が、ついに成功したのだ。

研究所はまもなく、技術の実施企業を公募する予定で、実用化されれば、社会にとっても大きな貢献となるだろう。

そしてプロジェクトの責任者である凛は、巨額の報酬と、国際的な評価が約束されていた。

だから、彼女は一刻も早く家に帰って、この良い知らせを智也と分かち合いたかった。

そして家に帰る途中、ボーナスでどんなプレゼントを買うかまで考え、ホシゾラ・テクノロジーの社長である智也にふさわしい、高価なものを選んであげようとしていたのだ。

そんな凛の耳に、智也の言葉が響く。「でも、柚葉みたいに優秀で輝いている女性を、結婚で縛りつけるなんて、俺にはできないからな」

その瞬間、彼女は愛される者とそうでない者の残酷な差を思い知った。

涙が抑えきれずに頬を伝い、そのしょっぱさが唇に広がった。

家の中から玄関に向かう足音が近づいてくるのが聞こえて、凛はとっさに廊下の角に身を隠した。

さらに足音が遠ざかってから、凛はゆっくりと家の中に入った。すると、リビングのテーブルの上がめちゃくちゃに散らかっているのが目に入った。

どうやら、智也は自分を妻としてではなく、使用人として見ているようだ。

そう思うと、家を片付ける気力もまったくなくなり、凛は全身の力が抜けて、ただ横になりたいと思った。

でも、ベッドに横になっても少しも眠れず、これまでの出来事が次々と頭に浮かんでくるのだった。

智也と初めて会った時、彼は雨に濡れていた。そのとき、自分はたまたま傘を持っていて、傘をさしてあげた。

次に会った時、自分はバスに乗り遅れそうになっていた。すると、智也がたまたま車で通り、乗せてくれた。

それからというもの、二人は頻繁に顔を合わせるようになった。

恩師の二宮史哉(にのみや ふみや)が亡くなった時、智也がそばにいてくれた。

育った児童養護施設を訪ねた時も、一緒に来てくれたのは智也だった。

プロジェクトが中断し、仕事を失った時も、智也は自分を抱きしめて、「大丈夫だよ」と言って、プロポーズしてくれた。

月給わずか18万円の平社員になった時も、智也は、「それだってすごいよ」だと笑って頭を撫でてくれた。

……

夜中になって、凛はようやくうとうとと眠りについた。

そして朝6時。智也の朝食を作る時間になると、彼女の体内時計が、いつものように彼女を目覚めさせた。

疲れきった目をこすりながら、凛は目を開けた。

手をかざしてみるとベッドのもう片側は冷たく、ゲストルームの布団も使われた形跡はなかった。

昨夜、智也は帰ってこなかったのだ。

そう思った瞬間、玄関で電子ロックの開く音が聞こえて、

凛は振り返った。

帰ってきた智也は、当たり前のように上着を彼女に渡し、抱きしめようと一歩近づいたが、何かを思い出したのか、その動きをぴたりと止めた。

「昨日は親友と集まって、タバコと酒の臭いがついちゃったから、洗ってからにするよ」

以前の智也なら、外での付き合いから帰ってくると、いつも凛をぎゅっと抱きしめて、「こうすると、帰ってきたって感じがする」と言っていた。

そうやって凛はぼんやりと思い出した。智也に最後に抱きしめられたのは、もう2週間も前のことだということに気が付いた。

この2週間、同じベッドで寝ていても、お互いに背を向けて眠るだけだった。智也は仕事で疲れているから、簡単なハグさえしてくれなくなったのだなと、彼女は思っていた。

そして、柚葉が帰国したのも、ちょうど2週間前のことだった。

なるほど、予兆はとっくにあったんだ。

そう思って凛は目を伏せ、長いまつげが、その瞳に浮かんだ悲しみをそっと隠す。

一方、ソファにどっかりと腰を下ろした智也は、散らかったテーブルを指さした。「なんで片付けてないんだ?」

「昨日は体調が悪くて、すぐ寝ちゃったの」そう言ったとき、食べ残しのにおいがした。きれい好きな彼女は、やはりテーブルを片付けずにはいられなかった。「片付けてたら朝ごはんを作る時間ないから、自分で何か頼んで食べて」

そう言われ智也は、そこで初めて凛の異変に気づいた。

結婚して4年、彼が出張でない限り、凛は必ず食事を作ってくれた。少なくともおかず数品に汁物がつき、毎週の献立が被ることはなかった。

今朝はどうしたんだ?

「もしかして、俺が昨夜帰らなかったから怒ってるのか?」智也は急に真剣な声で呼びかけた。「なあ、凛ちゃん」

だが、その呼びかけに、凛の胸はさらに苦しくなった。

智也は優しくて、話し方が上手な男だった。付き合い始めた頃、不意に耳元で、「凛ちゃん?」と囁かれ、彼女はいつも恥ずかしくて耳まで真っ赤になった。そして耳元で囁くのは人前でしないでほしいと彼によく言ったものだった。

あの頃は智也も彼女の気持ちを気遣ってくれたものだった。

それからしばらく二人は仲睦まじい生活を送り、智也も、いつも「凛ちゃん」と優しく呼びかけてくれていたのだった。

「ほら、凛ちゃん、機嫌を直せよ。お前の言うこと、ちゃんと聞いてるだろ?親友との集まりでも、酒は飲まなかったし」智也は手を伸ばし、凛の後頭部を優しく撫でた。「ご飯作らないならそれでも構わないさ。俺はシャワーを浴びてくるから」

凛は小さく、「うん」とだけ答えて、彼の方は見なかった。

それを見て智也は眉をひそめ、心の中の疑問を口にせずにはいられなかった。「凛ちゃん、今日何か変だぞ」

「寝不足なの」凛は無理に笑みを作ると、シャワーに行くように促した。すると、智也は突然シルクのスカーフを取り出した。ロゴを見て、かなり高価なものだと一目で分かった。

「昨日の帰り道にたまたま見つけて、お前に買ったんだ」彼はそう言って渡すと、バスルームに入っていった。

凛は柔らかなスカーフを握りしめてしばらく呆然としていたが、それをバッグに入れ、研究所へ向かった。

一方、「マイクロチップ開発プロジェクト」は史哉の死によって一度中断したが、再開後は凛が責任者となった。機密保持のため、史哉の妻・二宮杏(にのみや あん)が口利きをしてくれて、表向きは竹内グループの事務職員ということになっていた。

だから智也は未だに、凛のことを月給18万円の平社員だと思い込んでいるのだった。

しかし実際のところ、彼女は毎日家から竹内グループへ向かい、東門から入り、広大なテクノロジーパークを通り、西門へと抜けていた。そこには、研究所が手配した専用の運転手が待っているのだ。

その日、凛は研究室にいても一日中上の空だった。夕方近くになって、教授の佐野克哉(さの かつや)が心配そうに尋ねてきた。「今夜、小林さんと食事だから、機嫌が悪いのかい?」

「小林柚葉ですか?」凛は顔を上げた。

克哉はとても驚いた顔をした。

「覚えてたのか!君は旦那さんのこと以外、誰にも興味がないのかと思ってたよ。もうみんなは顔を合わせているんだ。君たちだけだよ、まだ会ってないのは。これ以上会わないと、和を乱してるって思われかねないぞ」

凛は眉をひそめた。

自分は智也に出会った時、彼が失恋の痛みを抱えていることには気づいていた。でも、その相手が誰なのかは知らなかった。

智也の心の傷に触れたくなくて、一度も尋ねたことはなかった。

そして、彼もこの4年間、一度もその女性の話をしなかった。まるで、そんな人はいなかったかのように。

だから、もう過去のことなのだと思っていた。誰にだって、過去の一つや二つはあるものだから。

でも昨日、知ってしまった。智也は忘れるどころか、陰でその女性のためにお金と労力をつぎ込んでいたのだ。

そう思うと、凛は何も言わなかった。

すると克哉は困ったように唇を噛んだ。彼は、凛が柚葉を快く思っていないことを知っていた。このプロジェクトは凛の恩師の、そして今では彼女自身の血と汗の結晶だ。

そこに、赤の他人が足を踏み入れられたら誰だって嫌なはず。そんな成果だけを横取りしにきた人間に、席を一つ譲ってあげるだけでも、十分すぎるほど寛大だと言えるだろう。

それなのに今、その相手と食事に行けと言われれば、それは少し、酷な要求かもしれない。

それでも克哉は、忠告せずにはいられなかった。「今回は断らない方がいい。でないと、松田さんがご機嫌を損ねかねない」

松田英樹(まつだ ひでき)は研究所の最高責任者で、柚葉の母方の祖父でもあった。

この関係は、凛もアシスタントの高木梓(たかぎ あずさ)がこっそり話しているのを聞いて知っていた。

そしてチームのメンバーも皆、柚葉が突然加わったことを快く思っていなかった。彼女の経歴が素晴らしいのは確かだ。しかし、この研究所に入れる人間で、優秀じゃない者などいるだろうか?

みんなが4年間、必死で頑張ってきて、あと数ヶ月で成果を発表できるという、まさにそのタイミングだった。

そこへ柚葉が、外部専門家という肩書きで割り込んできた。開発プロセスには一切参加していないくせに、成果だけは横取りしようというのだ。それはまるで、論文を提出する直前に、全く貢献していない第二著者の名前を加えろと言われるよりも、不快なことだ。

だからこそ、凛はずっと、外部専門家がプロジェクトの中枢エリアに入ることを許可していなかった。そして彼女は研究所での仕事が終わればすぐに家に帰っていたので、柚葉はまだ彼女に会ったことすらなかった。

凛はマジックミラー越しに、外の様子を眺めた。

すると柚葉が白衣を脱ぎ、ブラウンの本革のコートを羽織るのが見えた。彼女は栗色の髪をかきあげ、高そうな白いクロコダイルのバッグを肩にかけた。

今朝、智也がくれたスカーフと、同じブランドのものだ。

それに気が付いた凛は、思わずバッグからスカーフを取り出した。そして何かがおかしい、という不安が胸をよぎった。

ちょうどその時、アシスタントの梓がノックして部屋に入ってきた。彼女は凛が手にしているスカーフを見て、驚いたように言った。「先輩、ボーナスでそこのバッグ、買ったんですか?」

「ううん」凛は目の前の梓を見て、少し不思議そうに付け加えた。「バッグは買ってないわ」

梓は言った。「あ、スカーフが見えたから、てっきりバッグを買ったのかと思いました。普通、このブランドのスカーフって、バッグ買った人にしか出してないんですよ」

「バッグを買った人限定?」そう聞き返しながら、凛の胸がぎゅっと締め付けられた。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters
No Comments
46 Chapters
1.ガラス張りの箱に息を吸う
山手線のドアが開いた瞬間、空気が押し返してくるみたいだった。人の匂いと、朝から焙煎され続けているコーヒーの甘い匂いと、ほんの少しの汗の気配が、渦になってホームに吐き出される。新宿駅のホームは、いつもながら騒がしいのに、どこか音が平板だった。アナウンスも、足音も、キャリーケースの転がる音も、全部まとめて一枚のざわめきになっている。高橋翔希は、半歩だけタイミングをずらして電車を降りた。流れに逆らわない程度に、でも流されすぎない程度に。そういう「ちょうどいい位置取り」は、この街に出てきてから自然と身についたものだ。改札を抜けるまでの通路は、人の背中しか見えない。黒や紺やグレーで塗りつぶされた、小さな布の壁。コンクリートに響くヒールの音に混じって、誰かの笑い声が短く弾けて、すぐに飲み込まれる。「今日も人多いな…」誰に聞かせるつもりでもなく、小さく呟いた声は、自分の耳にだけ届いた。別に嫌いなわけじゃない。このざわざわした感じも、「東京っぽい」と言えばそうなのだろう。大学の友人に写真を送ったら、きっと羨ましがられる。改札を抜けると、ビル風が一気に頬を撫でた。ガラスと金属の光が混ざり合う街並みは、もうすっかり見慣れたはずなのに、時々ふと、自分がここに溶け込めているのかどうか分からなくなる。スマホの画面を親指でなぞる。時間は八時四十五分。九時の朝会には余裕で間に合う。出勤ルートを考えるまでもなく、足は自然といつもの道を選んでいた。横断歩道を渡るたびに、リグライズ・テックのビルが近づいてくる。三十階建ての、どこにでもありそうで、どこにもない、ガラス張りの箱。朝の光を受けて反射する外壁は、一瞬きれいだと思うのに、そのすぐあとで、どこか冷たいと感じてしまう。自動ドアが静かに開く。ロビーは、外の喧騒が嘘みたいに落ち着いていた。白い床、観葉植物、受付カウンター。なめらかに話す受付の女性の声と、天井近くまで伸びるガラス越しの空。冷房の風が、首元の肌をひやりと撫でた。社員証をかざしてゲートを抜けると、翔希は少しだけ背筋を伸ばした。ここから先は、「客先に出る人間」としての自分の顔を貼り付けるエリアだ。ネクタイの結び目を指で軽く確かめ、エレベーターに乗り込む。「おはようございます」鏡面仕上げの壁に映る自分の声が、狭い箱の中で跳ねた。乗り込んできた知らない部署の社員が、会釈を
Read more
2.数字の罠と仕様違い
時計の針が十一時を指す頃、営業フロアの空気は、朝とはまた違う種類の熱を帯びはじめていた。電話のコール音が少しずつ増え、キーボードを叩く音が途切れなく続く。コピー機は規則的に紙を吐き出し、誰かの笑い声が短く弾けては、すぐに数字と単語の飛び交うざわめきに溶けていく。高橋翔希は、自分の席に深く腰を沈めていた。机の上には、タブレットとノートPCと、昨日から使い回している紙資料の束。モニターには「A社向けクラウド導入提案書」のタイトルが表示され、その下にぎっしりとスライドのサムネイルが並んでいる。この案件が決まれば、今期の自分の評価はかなり上がる。ボーナスも期待できるし、部内での立ち位置も変わるかもしれない。そんなことは、わざわざ考えなくても分かっている。石田課長の「決めてこいよ」という軽い一言が、冗談半分じゃないことも。だからこそ、ミスはできない。画面に視線を近づけるようにして、翔希は細かい数字と文字を追った。クラウド利用料の月額、初期費用、オプション機能ごとの加算額。スライドの右下には、小さく「合計」の数字が並んでいる。そこまでは、昨日まで何度も確認した。資料の構成も、ストーリーも、プレゼンの流れも、頭の中に叩き込んである。あとは、午後の打ち合わせで滞りなく説明するだけ…のはずだった。違和感に気づいたのは、スクロールしていった先、十何枚目かのスライドだった。「…あれ」マウスを持つ指が止まる。画面を少し戻し、スライドのタイトルと、文中の数字をひとつひとつなぞっていく。目は表面的には文字を追っているのに、奥のほうで何かが引っかかっていた。「月額ユーザー数五百名を想定した場合…初期費用は…」小さく声に出して読み上げ、見積書のPDFを別ウィンドウで開く。二つの画面を見比べた瞬間、背中を汗が一筋、ゆっくりと落ちていく感覚がした。スライドに記載されている初期費用と、見積書に記載されている数字が、微妙に、しかし確実に違っている。スライドでは、「初期導入費:四百八十万円」。見積書では、「初期導入費:四百五十万円」。
Read more
3.管理部の影の支配者
管理部フロアに行こう、と腹をくくったのは、昼休み開始五分前だった。時計の短針と長針を見た瞬間、「今じゃない気がする」と反射的に思った。それでも、午後一でA社に持っていく資料を思い浮かべると、もう悠長なことは言っていられない、という感覚が、胃のあたりを強く押した。「行ってくる」誰に言うともなく呟いて立ち上がると、隣の席の中村が顔を上げた。「どこ行くんだよ。飯?」「いや、管理部。ちょっと確認したいことあって」「ああ…生きて帰ってこいよ」「お前さ…」軽口を返す余裕は、一応まだあった。その余裕が、虚勢なのか、本物なのかは自分でも判然としない。ノートPCだけ閉じて、社員証を首から下げ直し、翔希は営業フロアの出入り口へ向かった。自動ドアが開くと、冷房の風が一瞬強く当たる。営業フロア特有の熱気が、背中側に貼りついたまま離れず、そのまま廊下に持ち込まれたような気がした。管理部のフロアは、二つ上の階だ。同じビルの中なのに、行くのは年に何度もない。エレベーターのボタンを押すと、ちょうど下りのカゴが着いたところで、人がどっと吐き出されてきた。昼休みに出る社員たちの波をやり過ごし、翔希は空いたエレベーターに乗り込む。ドアが閉まり、数字が二十から二十二へと変わる間、狭い箱の中に静けさが満ちる。営業フロアのざわめきが遠ざかるにつれて、自分の心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。「忙しい時間帯に来るもんじゃないよな…」思わず零れた独り言は、誰にも拾われない。昼前後の管理部がどれだけ慌ただしいか、直接見たことはなくても想像はつく。経費精算、各種申請の締め切り、月次の締め。数字と書類に追われているであろう時間に、営業部の若手が「すみません、見積りの数字がちょっと…」と乗り込んでいくのだ。それでも、行かないという選択肢はなかった。今は、自分のプライドよりも、午後の失敗のほうが怖い。エレベーターが開くと、空気が変わった。同じオフィスビルの一角なのに、温度が一度くらい下がったような感覚。照明は
Read more
4.拍手の先に向く視線
会議室の空気は、湿度だけが少し高いような気がした。午後三時ちょうど。A社本社ビルの一室で、翔希はスクリーンに映し出されたスライドと、対面に座る担当者たちの顔を交互に見ていた。会議室特有の、薄いグレーの壁。窓はあるがブラインドは半分ほど下ろされていて、外の光は細い筋になってテーブルの上に落ちている。テーブルに置かれた紙コップのコーヒーからはもう湯気は出ておらず、代わりにコピー紙とインクの匂いが鼻を刺激していた。「…以上が、今回ご提案させていただくクラウド導入プランの概要となります」自分の声が少しだけ硬いことを、自分で分かっている。喉の奥が乾いているのに、コーヒーに手を伸ばす余裕はなかった。指先は、プレゼン用のリモコンを握りしめたまま、小さく汗ばむ。スクリーンの左下に映る数字。初期導入費、月額費用、オプション料金。その合計が、さっきまで頭の中でぐるぐると回っていた「違和感のある数字」とは違う、正しい値になっている。村上が作り直してくれた、修正版の資料。「ご質問やご懸念点があれば、何でもお聞かせください」視線をA社の担当者のひとりに預けると、相手は手元の資料をめくりながら、眉を少しだけ寄せた。スーツの襟元からのぞくネクタイは、濃いボルドー。こめかみ付近の白髪が、年季と責任の重さを物語っている。「そうですね…数字の部分について、一点確認させてください」来た、と心の中で身構える。「こちらの資料ですと、ユーザー数五百名を前提とした費用になっておりますが、以前のご提案の際には、三百名のケースでの試算が出ていたかと思います。今回のこの金額が、御社として最終的な見解と考えてよろしいでしょうか」担当者は、資料のページを指で軽く叩いた。目線は鋭いが、敵意があるわけではない。単に、数字に関して妥協を許さない人の目だ。翔希は、資料に視線を落とし、ページの端を指で押さえた。「はい。今回のご提案では、当初の三百名から五百名への拡張を前提に、改めて社内の管理部とも確認を取り、こちらの金額を最終とさせていただいております」自分の口
Read more
5.古い部屋と光るアイコン
新宿の夜は、仕事が終わっても終わらない。高層ビルの谷間を抜けるビル風が、熱の残ったスーツの布をわずかに冷やしていく。外に出たばかりの人間には、それがむしろ心地よかった。蛍光灯に晒され続けた目には、ネオンの光さえ一種の癒やしに見える。村上遥人は、会社の入っているビルを振り返らなかった。背後で自動ドアが閉まる音がしても、足はそのまま交差点に向かって進んでいく。背広の内ポケットに入れたスマホが、歩くたびにわずかに腿に当たった。信号待ちの人だかりに紛れながら、遥人は何とはなしに空を見上げる。ビルとビルの隙間から、細い夜空が覗いていた。星は見えない。代わりに、他社ビルのロゴや広告の巨大なスクリーンが、色とりどりの光を撒き散らしている。今日も一日、よく働いた。そう思うと、肩の力が少し抜ける。管理部のフロアから見下ろす営業部の案件の山も、月末前の経費精算の波も、とりあえず今は自分の手の届かない場所へ置いてきた。横断歩道の青信号が点滅し始め、人の流れが一斉に動き出す。革靴がアスファルトを打つ音、ヒールの高い靴が軽く鳴る音、遠くから聞こえるタクシーのクラクション。街の音が重なり合い、夜の新宿を満たしていた。会社から最寄り駅までは徒歩数分。その間にコンビニが三軒、居酒屋が五軒、チェーン店のカフェが二軒ある。そのどれにも寄らず、遥人はいつもの道を選んだ。駅に直結している地下通路に入ると、外の風とは違う、空調で均された空気が肌にまとわりつく。改札の前で、スーツ姿の人間がスマホをかざしながら流れを作っている。その一部として、自分も自然と動く。ピッという電子音とともに、ゲートのバーが開く。何百回と繰り返してきた動きだが、完全に無意識になったことはない。ホームに降りると、電車が滑り込んでくるところだった。車体の銀色に照明が反射し、車窓には自分と同じような顔がいくつも映っている。無表情な、少し疲れた大人の顔。乗り込んだ車内は、思ったほどの混雑ではなかった。吊り革はほとんど埋まっているが、押し合いになるほどではない。扉のすぐそばの位置に立ち、遥人は手すりに軽く指を添えた。電車が動き出すと、バランスを崩しかけた若いサラリーマンが、隣で小さ
Read more
6.「普通」ってなんだ
午後三時を少し回った頃、営業フロアのざわめきが一段落し始めていた。電話のコール音も先ほどまでの嵐のような鳴り方ではなく、ところどころで不規則に鳴る程度になっている。プリンターの機械音と、キーボードを叩く音が、空調の低い唸り声と一緒に、背景のノイズみたいに混ざっていた。高橋翔希は、さっきまで使っていた資料をまとめてクリアファイルに戻し、背もたれに体を預けて大きく伸びをした。肩の骨がコキ、と小さく鳴る。視界の端では、モニターの画面がスリープに入る直前の薄暗い光を放っていた。「ふー…」息を吐き出すと、コーヒーと紙と人の匂いが混ざったオフィスの空気が肺の奥まで入り込んでくる。この匂いにも、もう慣れた。嫌いではない。ここにいれば、自分は「仕事をしている」という分かりやすい役割を持てる。背後から、椅子が床を擦る音がした。「お疲れさまっす、エース」振り向く前から、誰の声か分かっていた。振り返ると、案の定、中村拓巳が缶コーヒーを片手に立っていた。ネクタイは少し緩められ、ワイシャツの袖もひと折りまくってある。そのラフさでなぜかきちんと見えるのが、彼の得なところだ。「誰がエースだよ。やめてくださいって」そう言いつつ、翔希は笑って返した。「さっきの小口案件、サクッと決めてきたって聞いたぞ。石田さん、機嫌良かったじゃん」「小口って言っても、あれ同時並行で三件回してたんでけっこう大変だったんですよ?」「はいはい、謙遜、謙遜」中村は、翔希のデスク横の空きスペースに腰を預けるようにもたれかかる。視線は翔希ではなく、フロアの奥のほうをなんとなく眺めている。午後の光が窓越しに差し込み、パーティションの上に細い影を落としていた。ガラスの向こうには、同じような高層ビルが並んでいる。そのどれにも、同じように人が詰め込まれて、似たような音を立てているのだろう。「でさ」唐突に、中村が声のトーンを変えた。「高橋、最近どうなの」「…何が」聞き返すと、彼はにやりと口角
Read more
7.寝る前のブルーライト
平日の夜、時計の針が十時を回った頃、部屋の中はほとんど音がなかった。リビング兼寝室の六畳ほどのスペースに、エアコンの送風音と、冷蔵庫の小さな唸り声だけが、一定のリズムで流れている。天井近くに取り付けた間接照明を一段階落としてあるせいで、部屋全体は柔らかいオレンジ色に沈んでいた。高橋翔希は、ベッドの上に仰向けになり、枕元に置いたスマホを片手で持ち上げていた。シャワーを浴びて、Tシャツとスウェットに着替え、コンビニのパスタとサラダで簡単な夕食を済ませたあと、特にやることもなく、この体勢に落ち着いている。画面には、さっきから同じ動画サイトの再生画面が映っている。「今日も見てくれてありがとうございます…」明るい女の声と、軽快なBGM。よくあるカップルチャンネルの一つだ。画面の中では、若い男女が並んでソファに座り、「付き合って三年記念日のお祝いをします」とか何とか言っている。翔希は、別にそのチャンネルの熱心なファンというわけではない。関連動画に出てきたものを、なんとなくタップしただけだ。ラーメンのレビュー動画を見ていたら、その次に「彼氏が作る〇〇ラーメン」みたいなタイトルが出てきて、それから芋づる式にカップル動画に流れ着いた。画面の下に表示されている「おすすめ」の欄をスクロールすると、「同棲カップルのモーニングルーティン」「遠距離恋愛あるある」「彼女にドッキリしてみた」などのサムネイルがぎっしり並んでいる。「…お前どんだけ恋愛押してくんだよ」小さくつぶやいて、苦笑する。動画サイトのアルゴリズムは、人の興味を勝手に決めつけてくる。仕事の合間にたまたま恋愛相談系の切り抜きを見たことがあったせいか、最近はやたらこの手のコンテンツが増えていた。「幸せそうで何よりです」皮肉とも本音ともつかない言葉が、喉の奥で転がる。動画の中のカップルは、画面越しにも分かるくらい仲が良さそうで、冗談を言い合っては笑っている。コメント欄には、「理想のカップル」「尊すぎる」「こんな彼氏欲しい」といった文字列が並び、その合間に、ごくたまに「リア充爆発しろ」と冗談めかしたコ
Read more
8.顔のない写真と既視感
インストール中の円形のバーが一周りして、ぱっと消えた。代わりに現れたのは、アプリのアイコンが少しだけ弾むような演出と、「はじめる」のボタン。ベッドの上に仰向けになったまま、それを見下ろしていた高橋翔希は、天井に一度だけ視線を逃がし、それから小さく息を吐いた。「…ここまで来たら、押すしかないか」声に出すと、エアコンの送風音に紛れて自分にしか聞こえない。Tシャツ一枚の胸元には、さっき浴びたシャワーの余韻がまだ少しだけ残っていた。髪はタオルドライだけで済ませたので、首筋に湿った毛先が触れるたび、ひやりとした感触が走る。部屋は、天井近くに取り付けた間接照明だけが灯っている。柔らかいオレンジ色の光に、白い壁とグレーのカーテンが溶けている。その中で、手の中のスマホの画面だけが、青白く浮かび上がっていた。親指で「はじめる」をタップする。画面が切り替わり、シンプルなロゴのあとに、チュートリアルらしき説明文が現れる。「このアプリについて」「安心してご利用いただくために」といった見出しとともに、利用規約や禁止事項が小さな文字で並んでいた。ざっと目を通しながら、スクロールを進める。出会い系とはいえ、注意書きは意外と真面目だ。「未成年利用禁止」「違法行為禁止」「個人情報の取り扱いにご注意ください」。読み飛ばして、「同意する」にチェックを入れた。次は、プロフィールの入力画面。「ニックネーム」「年齢」「エリア」「身長」「体重」「体型」「自己紹介」。項目がいくつも並んでいて、下には「顔写真を登録するとマッチング率が上がります」とご丁寧に書いてある。さすがに、そこで笑いが漏れた。「顔なんて出すわけないだろ」小さくつぶやいて、まずニックネームの欄をタップする。本名は論外だし、会社の人間に結びつきそうなものも避けたい。とはいえ、あまりにも意味不明な記号にすると、それはそれで目立ちそうな気がする。頭に浮かんだのは、高校のときにゲームで使っていたIDの断片とか、サッカー選手の名前とか、昔飼っていた犬の名前とか。どれもしっくりこない。
Read more
9.三日間の「気のせい」
翌朝の通勤電車は、いつも通りに混んでいた。吊り革はほとんど埋まっていて、ドアの近くには人が固まり、車内の空気はスーツの布と香水と汗が混ざった匂いで少しむっとしている。それでも、昨日アプリをインストールしたときに感じたあの妙な高揚感は、今のところほとんど表面に出ていなかった。高橋翔希は、片手でバーを掴み、もう片方の手に持ったスマホの画面を一度だけ点けて、すぐにスリープに戻した。通知はいくつか来ていたが、どれも仕事用のメールやグループチャットで、昨夜のアプリからのものはなかった。その事実に、わずかな安堵と、わずかな落胆が混ざる。「何期待してんだよ」心の中で自分に突っ込み、電車の窓に目を向ける。ガラスには、ぼんやりと自分の顔が映っていた。薄く隈のある目元、きちんと締めたネクタイ、無難な紺のスーツ。ごく普通の、どこにでもいるサラリーマンの顔だ。会社に着いてエレベーターを上がると、営業フロアの空気はすでに仕事モードに切り替わっていた。電話のコール音、キーボードを叩く音、誰かが上司に報告している声。いつものざわめき。翔希も、そのざわめきの一部として自分の席に座り、PCを立ち上げ、メールをチェックし、今日やるべきタスクを頭の中で並べていく。午前中は既存顧客へのフォローと、午後は小さな商談が二件。昨日に比べれば軽い一日だ。しばらく集中して仕事をしているうちに、昨夜のブルーライトの記憶は、意識の表層から少し引いていった。管理部に行く用事ができたのは、十一時少し前だった。先週提出した稟議書の承認ルートに変更が出て、決裁者の欄を書き換える必要があるというメールが届いたのだ。営業部側ではどうしようもないので、管理部に確認してくれ、と石田課長からチャットが飛んできた。「じゃあ、行ってきます」席を立ち、エレベーターで二つ上の階に上がる。管理部フロアの自動ドアが開くと、空気の温度が少し下がったように感じた。営業フロアに比べて静かで、電話の音も声も抑えたトーンで流れている。レイアウトも、もう見慣れたものだ。書類の棚が整然と並び、デスク上にはファイルとモニタ
Read more
10.親指ひとつぶんの距離
金曜の夜、新宿の空気は一週間分の疲れとアルコールと油の匂いで、いつもより少し重かった。駅から会社とは逆方向に伸びる小さな路地に、赤ちょうちんが連なっている。そのうちの一軒の引き戸を、中村が勢いよく開けた。「とりあえずビールでいいっすよね、課長」「おう、そりゃそうだろ」カウンターと小上がりだけの狭い居酒屋。油で少し曇ったガラス越しに、外のネオンがにじんで見える。串焼きの煙がうっすらと漂い、醤油とタレの甘い匂いが鼻をくすぐった。高橋翔希は、カウンターの端の席に腰を下ろしながら、緩めかけたネクタイをもう一段階だけ緩めた。上着は背もたれにかける。座面が少し硬くて、その感触が仕事モードとプライベートの境界線みたいに背中に当たる。「今週もお疲れ」中村が高く掲げたジョッキの泡が、黄色い照明に透ける。「お疲れさまです」「お疲れさまです」石田課長もジョッキを持ち上げ、三つのグラスが軽くぶつかった。耳のすぐ近くで、ガラスの澄んだ音が鳴る。冷えたビールが喉を通り過ぎるとき、今日一日の細かな緊張が、胃のあたりに流れ落ちていくのが分かる。二杯目、三杯目と進むにつれて、普段なら心の奥にしまっておくような愚痴や冗談も、少しだけ口に出しやすくなる。「でさあ、課長。あのクライアントの部長マジでクセ強くないですか」「お前が言うな。お前も大概だぞ」「え、俺素直じゃないっすか」笑い声と、焼き台の上で肉が焼けるジュウという音。狭い店内に、会話が反響している。翔希は、その輪の中にちゃんといる。課長が話す昔の営業時代の武勇伝に笑い、中村の失敗談にツッコミを入れ、自分の話も少しだけする。唐揚げの脂っこさと、キャベツのざくざくした食感と、塩辛いタレの味。それらを舌の上で確かめながら、グラスの中身をちびちびと飲む。気づけば、氷の溶けたレモンサワーが二杯目に差し掛かっていた。「お前、今日はあんま飲んでなくね?」中村が覗き込んでくる。「いや、飲んでるよ。明日も一応午前中は予定あるから、
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status