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第3話

Author: ぽよちゃんいきまーす
犯人は片眉を上げた。

「親にさえ見捨てられたんだ、誰に電話できるっていうんだ?いい加減諦めろ」

かつて、養父に縛られ、見知らぬ男のベッドに運ばれていったあの時も、同じ言葉を聞かされた――「もう諦めろ」と。

でも、私は従わなかった。あの男の腕を噛みついて逃げ、村の入り口で私を探しに来てくれた父に鉢合わせた。以来、私の運命は変わった。

手首は紐で深く切られて血がにじんだが、痛みは遠く、ただ執拗に犯人を見つめる。

「三度目のチャンスをください」

三度目の電話は、翔太の父、悠也にかけた。

「悠也、私はもうすぐ死ぬの。翔太を連れて行ってくれない?彼はもう三歳、あなたに会いたがってるのよ」

悠也はため息をついた。

「由夏、今度はなんだ?

俺は仕事で忙しいんだ、悪ふざけに付き合ってる暇はない。今月の養育費もちゃんと振り込むから、金を受け取ったらおとなしく引っ込んでろ、余計な騒ぎを起こすな」

息子は父の声を聞くと、突然犯人の手を振りほどき、大声で「パパ」と叫んだ。

悠也は一瞬、息を呑み、呼吸が重くなった。私は彼が心を動かされたのかと思い、再び話しかけようとしたが、彼の冷たい声に遮られた。

「余計な騒ぎを起こすなって、さっきも言ったはずだ。養育費は一銭たりとも欠かさず払う。だが、もし春奈と張り合うために俺の息子まで巻き込んちまうなら、許さないからな!」

受話器の向こうで、春奈が甘えるように声を上げる。

「悠也さん、ケーキ切るから早く来て!」

悠也は軽く笑いを漏らし、「来週、お前と子どもを家族の食事会に連れてってやる」と一言を残して、慌ただしく電話を切った。

三度目のチャンスは、あっけなく終わってしまった。

私は叫び声を上げ、スマホに手を伸ばしてもう一度かけようとした。あと少しで届くそのとき、スマホは犯人に蹴飛ばされた。

彼は息子の片足をつかんで私の前に引きずり、唇の端を歪めて嗜虐の微笑みを浮かべた。

「ほら、言っただろ。もう諦めろって。これで懲りたか?」

息子は泣きながら私の懐に飛び込み、ほっぺは恐怖で真っ赤になっていた。

「ママ、こわいよ……ママ……」

私は彼の乱れた髪を撫で、涙が止まらなくなった。

「翔太、怖くないよ。ママが守ってあげるからね」

犯人は嘲るように鼻で笑った。

「守るってどうやって?」

私は鼻をすすり、目に決意が宿る。

「最後にもう一度だけチャンスをください。それでも駄目なら――諦めるよ」

犯人の笑みが固まる。

「いいだろう、最後のチャンスをやるよ。

今回は条件を下げてやる。お前の家族が電話に出れば、お前も子どもも助けてやる。出なければ、お前を殺すだけでなく、息子を三つに切り刻んで、お前の両親に送ってやるからな」

「わかった」

四度目の電話を、私は母にかけた。電話は七回鳴ったが、誰も出ない。犯人は得意げに唇を吊り上げる。

「見ろ、俺の言った通りだろ……」

――と、その瞬間、「もしもし?」

誰かが出た。だが、それは母ではなかった。

「どちらさまですか?奥様はお嬢様の誕生日を祝っている最中で、電話に出られませんが、どのようなご用件でしょうか?」

私は口の中の血を飲み込み、かすれた声で答えた。「もしもし、長岡さん?私、由夏だけど……」

向こうが一瞬たじろぎ、言葉に詰まる。やがて気まずそうに言った。

「お嬢様、奥様のご指示で、今日一日、あなたからの電話に出てはいけないことになっています。

それに、旦那様も仰っています……お嬢様に命の危険がない限り、電話してこないでと」

犯人は吹き出した。だが、私は笑わなかった。

「長岡さん、お願いします。どうか電話をつないで。誰でもいいから出てくれればいいの――出てくれさえすれば」

私が取り乱していたのだろう。彼女は大きく息を吐き、スマホを胸に抱えてパーティーの喧騒の中へ歩いて行った。

「奥様、由夏お嬢様からのお電話です。どうしても出てほしいと……」

母はダンスの最中のようで、耳に入った言葉に無意識に振り返った。
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