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第9話

Author: ぽよちゃんいきまーす
「六億……春奈、そんな大金をどうやって用意したの?いったい何に使うつもり?」

母は青ざめ、声を震わせた。

「昨日の電話……あれ、本当に脅されてるんじゃないの?」

父はしばらく黙り込み、やがて電話をかけ、短く命じた。

「俺だ。人を寄越してくれ」

その頃、春奈は焦りのあまり周囲に気を配る余裕もなく、尾行されていることすら気づかなかった。

人気のない廃ビルの一角。春奈の鋭い声が響き渡る。

「どういうことよ、失敗したって!現場をきれいに片づけてって言ったはずでしょ!

それに……なんであのガキを逃がしたの!使えないやつね!」

苛立ちを隠さない男の声が返ってくる。

「チッ、本当はあの女に家族へ電話させて、もっと金をふんだくるつもりだったんだ。

なのにあいつ、家族に見捨てられてさ、親も旦那も、誰も相手にしやしねぇ。

で、そろそろやっちまおうって思ったら、急に発狂して噛みついてきやがって……それでガキが逃げたんだ。

どうせ母親のいない野良ガキだ。まともに育つかどうかもわからねぇ。何をビビってんの?」

その会話を耳にした両親は、その場に崩れ落ちた。衝撃に体が言うことをきかない
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