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傍観者椎名

last update Huling Na-update: 2025-07-13 08:00:00

 67話 傍観者椎名

 久しぶりに言葉を交わした事で、テンションが上がっているタミキは雄叫びを挙げている。装置を僕の頭から引き抜くと、少し負担になっていたのか僕の額は汗で濡れている。その様子を見てタオルを取りに行っていた南は、僕の汗を拭う為に近づこうとすると、彼は獣のように威嚇をし始めた。

「俺が拭く。庵に触れていいのは俺だけだから」

 仮想空間で僕を支配しようとしていた人の言葉ではない事を二人は知っている。自分のしてきた事が全て監視されていたとは思わないタミキは、何も考えずにルンルン気分で、僕の頬に触れる。

「その前に味見」

 僕が生きている事を実感出来たタミキは、今まで以上に積極的になっていく。寝たままの僕でも彼の欲情は高まるらしい。ぬっと顔と顔が近づいていく。南は焦ったように、止めに入ろうとするが、椎名が諦めたように彼の肩を叩き、首を横に振る。ネットりと汗を舌先で味わうように舐めていくと、ピクリと動いたような気がしてタミキの欲情は暴走しそうになる。これ以上は僕にとって負担になってしまうのに、どうしても止める事が出来ない。一年以上も我慢をしていたのもあるだろう。気持ちを抑えながら生活をしている彼が、一番苦しかったのだった。

 瞼にキスを落とすと、微かだが僕の涙の味がした。こんなにより近くに感じれたのは、いつぶりだろうと、歓喜に震えながら、自分の存在を刻むように、彼なりの愛情を刻んでいった。

 その様子を我慢するように見ている南は、これ以上見て見ぬふりをする事が出来ない。止めていた椎名の手を払いのけると、二人を引き裂くように、割り込んでいく。

「いい加減にしろ、何をしているのか分かっているのか?」

 南の言葉に嫌悪を隠しながら、振り向くと邪魔された怒りが倍増して、襲ってくる。

「何って、愛してるだけじゃん」

 そこにいたのは、仮想空間で生きていたタミキの姿そのものが現れた。僕と触れる事で、彼の何かが壊れていく。その音に気づかずに、傍観していた椎名は微笑みながら、その場を後にした。

 僕達は全ての因子の存在を知らない

 人間は
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