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#21『十四時間の仮眠』

last update publish date: 2026-11-05 18:48:57
※

「ふぇーんねるー。おはよー」

「……来るな」

「入るよー」

「出てけ」

「入ったよー」

 その後、時間を見計らって部屋に入ってきたリンデンに、布団に包まるフェンネルは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

 頭まで被り直した布団も意味をなさない程、強く甘辛いソースのような匂いを感じたフェンネルは、舌打ちをしながら布団から顔を覗かせる。

「……臭ぇ……」

「じゃじゃーん。お肉だよー」

 リンデンが嬉しそうに見せ付けてきたのは、盆に乗った唐揚げとハンバーグのプレートだった。

 ベッドの向かい側、チェストの脇にあるサイドテーブルを引き寄せた彼は、料理が乗った皿を丁寧に並べていく。

 その数、中皿が四枚。大量の料理を目にして、フェンネルは若干の気持ち悪さを感じて胸を撫でた。

「……起きてすぐ、食えってか……?」

「絶対無理だと思って、サラダとハムエッグのプレートも作って来た! ついでにバターブレッドもセットだよ!」

「っせーな……なんでそんなテンション高ぇんだよ……」

「フェンネルが起きたから!」

「あぁ……? 今、何時だ……」

 フェンネルが頭元の時計を確認すると、アナログの針は四時半過ぎを差し
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  • 僕達のマザーランド   #30『後は、自分だけ』

    ※ 一方、外では賑やかに鬼ごっこが繰り広げられていた。「きゃーっ!」「リンちゃんが鬼になったぞ!」「にげろー! リンちゃんだー!」 子供達が騒ぎ立て、リンデンはニヤリと悪い顔で口角を上げる。「俺が鬼だぞーっ!」 総勢20人程の子供達が、蜘蛛の子を散らすように一斉にリンデンから逃げ出していった。 彼の身体能力が尋常でない事は、孤児院の職員達も周知の事実ではある。 だが実際、彼の能力で最も恐ろしいのは、その驚異的な『持久力』にあった。 リンデン程のフィジカルならば、子供達の走る速さなど一瞬で追い付けてしまう。 故に、彼は絶妙な距離とスピードを保ちつつ、その持久力で皆を平等に追い掛け回していた。 休憩したそうな子を見定め、今度はまだ体力の残る子を選んで走る。 最終的に一番逃げ続けた男の子に近付き、リンデンは壁に追い詰めて躙り寄った。 少年にとっては、息も絶え絶えに逃げてきた筈。 それなのに、少しずつ近寄ってくる青年は、呼吸を乱すどころか汗一つ掻いていない。「り、リンちゃん、バケモノすぎるよ……!」「へっへっへ〜、観念して次の鬼に……」 しかしその時、リンデンは腰回りに僅かな重みを感じる。 服の裾やベルトを掴み、リンデンの動きを封じようとした一人の少年が叫んだ。「逃げろ、ホップ!」「クヌギ……!」「え、何っ? や、やだぁ、動けないぞっ?」 驚いたリンデンだったが、咄嗟に機転を利かせて身動きが取れないフリをする。 その様子に、休憩で身体を休めていた子達が『今が好機』と言わんばかりにリンデンへと飛び掛かった。「みんな、かかれー!」「きゃーっ、お助けーっ!」 腰や背中、腹に膝など、子供達は数人掛かりでリンデンを抑えつけようとする。 追い詰められていた男の子も加わると、リンデンは子供達を敷いてしまわないよう位置に気を付けながら、芝生の地面へと寝転がった。「わーっ!」「どうだ、まいったか!」「リンちゃんの負け!」「あっはっは、降参、降参! やられたーっ!」 皆で寝転がり、笑い合う。 そしてまた起き上がり、誰かが叫んだ「ダルマさんが転んだ」にリンデンは「俺、鬼ね!」と笑った。 当然、彼は疲れた子供達から「だめーっ」とブーイングを貰う。 「なんで!?」と驚くリンデンの様子を、乳幼児用のベビールームから赤子の尻をゆっ

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  • 僕達のマザーランド   #26『呪い』

    ※ バスを乗り継ぎ、一行は『マーガレット学習院』を目指して足を進める。 その間、クミンには常に誰かが声を掛け、街の風景、人々の暮らし、歴史的な建造物や文化を、彼女に教えながら移動時間を過ごしていた。 『フェンネルに礼を言いたい』という彼女の気持ちも尊重しつつ、しかしフェンネルの心も知る他の乗組員達は、ローズマリーの指示でクミンが迂闊に近寄らないよう注意を払う。 そのお陰か、リンデン曰くフェンネルは落ち着きを保ち、クミンもそわそわしたり落ち込んだ様子を見せながらも、気ままにフェンネルに近付いたりせず大人しくローズマリーの引率に従っていた。「……どいつも、妙に気を回しやがって」 途中、リンデンの剣を調整するため寄った整備店で、受付を待っていたフェンネルが呟いた。 腕を組み、休憩用のベンチに腰掛けて壁に凭れる彼の横で、立ったまま商品棚を眺めていたリンデンが微笑む。「そんな事してないよ。クミンは『人間初心者』っぽいから、暴走しないように皆で注意してるだけ」「それが『余計だ』っつってんだよ。結局テメェも店まで付いてきやがって」「元々は俺の剣だもん。フェンネルだって、いきなりクミンがこっち走ってきたらビックリするでしょ? 先住猫ちゃんと新入り猫ちゃんは、お互い慣れさせてから合わせないと喧嘩するっていうし」「誰が『先住猫』だクソゴリラが」「ゴリラは猫ちゃん達を守りたいの!」 リンデンはフェンネルの隣に座り、眉間に皺を寄せて目を伏せる彼の横顔を覗き込む。「……フェンネルもさ。実はちょっと気付いちゃってるんじゃないの?」「……何が」「クミンは『バジルさん』と同じかも、って」 『バジル』。 その名を聞いて、フェンネルは更に険しい表情を浮かべた。 最後に逢ったのは五年前、リンデンが口に出した『バジル』とは、フェンネルにとって唯一の異母妹だった。 リンデンは目を細め、「大丈夫」と囁く。「怖くなんかない。人は変われるよ、フェンネル」「………………」「バジルさんも、ちゃんと変われたじゃん」「……アイツは俺の『異母妹(いもうと)』だからな」「クミンも俺達の『妹』だよ。ローズマリーさんが決めたんだから、大丈夫」「……ふん」 相変わらず視線は床を見つめたまま、フェンネルは鼻を鳴らす。 だが、それでも彼は、確かに彼が少しずつ警戒と『恐怖心』を解

  • 僕達のマザーランド   #25『道すがら』

    ※ 準備を終え、全員が荷物を確認して船外へと集合する。 ローズマリーが最後に船を出ると、ハッチを締めて掌紋認証でロックを掛けた。 皆が船から数メートル離れたのを確認し、ユズリハが舗装されていない土の地面に長い釘のような鉄の棒を突き刺す。 登録したリストベルを持っていない者が船に近付くと感電するよう設定した、防犯機材のスイッチを最後に入れた。「みんな、忘れ物は無いな?」「マリーさん!」 リンデンが元気良く手を上げた。「どうした、リン」「行き掛けに、コリアンダー整備店へ寄ってください!」「分かった、途中で寄っていこう。出発だ」 各自の予定も確認し、ローズマリー達は船を後にした。 全員で最寄りのバス停を目指し、徒歩数分の距離を並んで歩く。 初めて船を降りたクミンは辺りをキョロキョロと見渡し、全てを不思議そうに眺めている。 時折ローズマリーに質問したり、リンデンに教えてもらったりと、数百メートルの距離でも彼女は楽しそうに過ごしているようだ。 そんな彼等を、五メートル程後ろに下がって付いて行くユズリハとフェンネルが、並んで様子を眺めていた。「……心境の変化が?」 ふと、ユズリハが隣を歩くフェンネルに声を掛けた。「……そんなんじゃねぇです」「『残る』って言い出すのかと思ったんだが」「言いましたよ。……アイツに脅されたもんで」 そう答えた視線の先には、リンデンの後ろ姿がある。 ユズリハは意外な理由に笑みを零した。「へぇ、脅されたのか?」「『逃さねぇ』って言われました」「はは、そりゃアイツは『気配』を追う事に関してはプロだからなぁ」「そういうのを『キモい』っつーんですよ」「言いたい事は分かる。だが、お陰で助かってる面もあるんだぞ」「……ふん」 ユズリハは、フェンネルが背負うリンデンの剣についても質問してみる。 すると彼は「ついでです」としか答えず、まったく正直に話さないフェンネルを微笑ましく思い目を細めた。「また絆されたか。お前も丸くなったなぁ」「失礼な、俺は元々丸いでしょうよ」「何処がだよ。今だって『表面』はサボテン並みにトゲトゲしてるぞ」「まったくユズさんは酷い人だ。サボテンに謝罪を要求します」「はっはっ、サボテンにかよ。フェンネルは俺と違って優しい男だもんな?」「白々しいにも程があるでしょ」 不機嫌そ

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